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あなたのそばに9

 その日、豊は仕事を終えるとまっすぐ自分のマンションに戻った。豊のマンションの部屋の中は全く変わっていないように見えた。ベッドサイドのテーブルには先ほどの祐希が猫を抱いた写真と、豊と祐希が桜をバックに並んで写っている写真がフォトフレームに入って飾られていた。

 豊は帰りがけにコンビニで買ってきた弁当を食べると、祐希がプレゼントしたクロムハーツのネックレスを外し、シャワーを浴びた。シャワーから出ると、豊は冷蔵庫を開けて、缶ビールを取り出し、飲み始めた。祐希が生きている頃は、豊には寝る前に飲酒をするという習慣はなかったはずなのだが。

 豊はビールを2缶程飲み終えると、少し酔ってきたのだろうか、写真に向かって独り言を言い始めた。

 「祐希、今日も頑張ったよ。あれから十ヶ月も経つんだね。祐希がいなくなって、もう仕事でも私生活でも祐希に甘えられなくなった」

 豊は更に続ける。

 「俺は祐希を本当に愛していた。まさかプロポーズをした翌日に君がいなくなるなんて、思ってもいなかったよ。返事はいつでも良かった。でも、一生、君の返事が聞けなくなるなんて思ってもみなかったよ」

 豊は少し泣いているようだった。

 「いつまでも、くよくよしていても仕方ないと思っているんだけど、どうしても君が忘れられないんだ」

 祐希は泣いている豊に向かって話しかけた。

 (豊、突然死んでしまってごめんなさい。私もあなたを愛していたわ。プロポーズの返事、すぐに出来なかったけど、あなたと結婚出来ればすごく楽しい生活が出来ると思っていたの。でも、今となってはもう叶わぬことだけれど)

 祐希は豊の髪を触りながら、言葉をかけたのだけれども、豊は一向に気づかない様子だった。豊は洗面所で歯を磨くと、ベッドに倒れこむように、眠ってしまった。

 (豊のために私が出来ることは無いのかしら)

 祐希はへたへたと床に座り込んで考えた。しかし、死んだ人間は無力であることを思い知らされ、ただ呆然とするだけだった。


続く

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