あなたのそばに10
先日、秋吉が豊に依頼をした企画の撮影の日がやってきた。撮影するアクセサリーについて、赤や青など色が鮮やかなものは、その鮮やかさを目立たせるために、白い石や陶器の上に載せて撮影し、ゴールドやシルバーのものは、モデルに身につけて撮影することになっていた。先日、秋吉と豊で打ち合わせた方針だった。
スタジオでの撮影では、秋吉も同席をした。アクセサリーのセッティング、ライティング、カメラアングル、シャッタースピード、絞りについては、豊の独壇場であり、祐希が感心するぐらい、素晴らしい写真が取れた。
秋吉は写真をパソコン上で見て、相沢のテクニックに感服した。
「さすが相沢さんですね。編集部全員一致で相沢さんに依頼をすることになった理由が、この目でわかりました。この写真なんて素敵。アクセサリーをデザインしたデザイナーさんには悪いけど、本物より素敵に見えるわ」
「いや、長年同じ仕事をしていると、どうやったら美しく取れるか、大体のことはわかりますから」
豊はパソコンに入ったデータをUSBに落として、はい、と秋吉に渡した。
「どれを誌面に載せるかはこちらで決めますので、決まりましたら連絡をいたします」と秋吉は豊に伝えた。
「それと、別件なのですが、Stylishでは新たな記事の企画を考えておりまして。働く女性をクローズアップした記事を書きたいんです」
秋吉はちらっと企画書を豊に見せた。タイトルは「カッコいい女性の生き方」とあった。豊は企画書を秋吉から受け取ろうとすると、
「でも、まだ、これは編集部内でも、企画は通っていません。まだ誰にも見せていないので」と企画書をバックの中に押し込んだ。
「Stylishって、働く女性をターゲットにした雑誌ですから。読者の方には精神的にステップアップ出来る記事が受けると思ったんです」
文芸誌出身の秋吉らしい考え方だと豊は思った。
「へえ、素敵な企画ですね」と豊は微笑んで答えた。
「それで、第一回目はカメラマン・矢野祐希さんの特集を組みたいんです」と秋吉は目を輝かせて言った。
「祐希…、矢野先生ですか」と豊は少し驚いた様子だった。
「そうです。矢野祐希さんは、働く女性としてはピカイチですからね」と秋吉は言ってから「惜しい方を亡くしました」と少し声のトーンを落とした。
「この企画、絶対通しますから、そのときは相沢さんにも取材させていただくと思いますし、矢野さんの写真も提供いただきたいと思っております」と秋吉は豊に告げた。
続く