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あなたのそばに1

 十一月十三日。秋晴れで暖かい日だった。街路樹の枝の葉は少しずつ、秋の色に染まり始めていた。

新進の女性カメラマンの矢野祐希は都内のあるスタジオで最近ブレークした新人女優・美緒の姿を撮っていた。人気女性ファッション誌の表紙撮りの仕事だった。

 美緒は昨年、純愛映画でデビューしたばかりで、あどけなさを残した二十一歳で、美女というよりは美少女というのがふさわしい女性だった。

 しかし、祐希は美緒が売りとしている清楚さではなく、女の体温と匂いを感じさせる写真を撮りたいと思っていた。二十一歳の彼女は世間が思っているより、艶めかしさを持った女性ではないか?彼女を一目見たときからそう感じ、その魅力を引き出したいと思ったからだ。

 祐希は、企画の段階で彼女の衣装に背中の大きく開いたセクシーなニットを提案した。そして、撮影では美緒を後ろ向きに立たせ、長い髪をかき上げて振り返らせるというポーズを取らせた。

髪が空気に流れるような動きを写真の中に出させるために、美緒は長い髪をかきあげ、シャッターを切り続けている間、祐希のカメラに向かって、何度も何度も振り返るよう指示した。

 「今の笑顔とってもいいわよ、美緒さん、もう一度」と祐希は美緒を励ましながら、シャッターを何度も切った。フラッシュの光が美緒に嵐のように降り注いでいる。

撮影が終わりパソコンの中の写真の映像をチーフアシスタントの相沢豊と一緒に見ていた。

 「これ、いいわね。この背中の曲線と美緒さんの横顔の色気のある流し目」と祐希は写真を採用するにあたり、気に入った一枚の写真を指差した。

 「僕もこれがいいと思いますよ」と豊も同感していた。

 「やっぱり、そう思う?」

 「でも、さすが、先生だ。美緒さんの良い意味での女性的な色気がでていますよ」

 「そうでしょ!それをねらったんだから。じゃあ、これで決まり!」

 祐希はその写真と、他にも目ぼしい写真を何枚かをピックアップしてクライアントに見せた。クライアントは思った通り、祐希が選んだ写真を選択した。

 「それでは、お疲れさまです。失礼します」とスタッフに挨拶をして、祐希は手ぶらでスタジオを出ていく。

 チーフアシスタントの豊と一ヶ月前に入ってきたばかりの新米アシスタント北原悠介にはまだ仕事が残っている。祐希の使用した機材をそれぞれのケースに収め、祐希の事務所に戻り、機材に故障がないかチェックをする仕事が残っている。二人は自動車に機材を積み、事務所に向かった。豊の腕時計は午後四時を指していた。今日は豊の三十五歳の誕生日。七時に恋人のマンションで誕生日を祝ってもらうことになっているのだ。


続く

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