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【BL】俺の事好きだと思うんだけど

作者: キトー
掲載日:2026/10/29

 

「兄貴聞いてくれ! クラスメイトがどう考えても俺の事が好きなんだけどっ!」


「気のせいだからク〇して寝ろ」


「ちったぁ聞けよ!」


 俺、笹(ささ) 翔次郎(しょうじろう)は、高校から帰ってくるなりリビングでコーラを飲む兄に叫んだ。

 そして即座に否定される。

 いやいやお前可愛い弟にそれはないだろとぷりぷり怒り訴えれば、兄はやれやれと言いたそうにしながらも聞く体勢に入った。


「まぁ、とりあえず言ってみろよ」


「クラスメイトと毎回目が合うんだ!」


「気のせいだから宿題しろ」


「宿題は今日は出てない! ……たぶん」


 しかしやはり兄は翔次郎を冷たくあしらう。しかしそれには兄なりに理由があるのだ。

 幼い頃から翔次郎は、すぐに「俺を好きに違いない!」と勘違いしてしまう性格なのである。


「中学の時の黒歴史を忘れたか」


「そんなもの無いし」


「忘れたどころか消そうとしてんじゃねーよ」


 翔次郎の中では無かった事になっている黒歴史とは、笑顔で挨拶されたとか、居眠りしてたら「移動教室だよ」と起こしてもらったとか、体育祭でノリ良くハイタッチしてくれたとか、それこそ今回のように目が合った、などなど……。

 そんな些細な事で「もしかして俺の事……!」と舞い上がる勘違い男子だったのである。

 もちろん勘違いなので告白したところで「は?」と困惑されるだけだし、酷いときは「笹に告られたんだけどー(笑)」と言いふらされた。


「それでも懲りずに毎度毎度勘違いして浮かれるお前のメンタルの強さは評価している」


「それ褒めてる?」


 兄の言うとおり、赤っ恥をかいたり落ち込んだりしても、また性懲りもなく勘違いできるのが翔次郎である。

 だが、翔次郎ももう高校生。

 あまりにも勘違いを続ける翔次郎に、兄は警鐘を鳴らす。


「末っ子でおバカなお前を『可愛い可愛い』と甘やかした俺たちにも責任はある」


「まったくだ」


「調子に乗んな」


 もう察しているかと思うが、翔次郎はちょっとおバカだった。だからこそへこたれないし、そんな翔次郎を家族は可愛がっていたのだ。

 だが兄はこの時、翔次郎のために心を鬼にすると決めたのである。


「よく聞け。お前は家族からしたら可愛い可愛い末っ子で魅力たっぷりのパーフェクトボーイだ」


「知ってる」


「だがな……それはあくまで壮大な家族愛に包まれたフィルター越しのお前の評価であってだな、世間一般からしたらお前は平々凡々のどこにでも居るモブでしかないんだ」


「そんなバカな──っ、薄々感じてたけど……」


 だからお前に気があると感じるのは全部勘違いだから、誰彼かまわず好かれていると思うのはやめなさい。

 そう兄が諭せば絶望的な顔をした翔次郎だったが、まぁなんとなくそんな気はしてたわとすぐ立て直すのがこれまた翔次郎という男である。


「あとやっぱ宿題思い出したから手伝ってお兄ちゃん」


「テメェ……お兄ちゃんに任せなさい」


 そうして脱・勘違い男子を目指し翔次郎の高校生ライフが始まった。


 * * *


「ショウ」


「あ、おはよーマサ」


 登校早々に声をかけてきた友人に返事を返せば、彼はそのまま翔次郎の隣に並ぶ。

 この友人、一之宮(いちのみや) 正人(まさと)は、いつもとても距離が近い。

 肩の触れる距離から離れないし、髪をいじってくるし、じっと目を見つめてくるし、なんならふざけて抱きしめてくることも多い。

 同性でもここまでスキンシップをされたのは初めてで、もしかして俺の事……と思っていた。そう、昨日の翔次郎までは。


 俺はもう昨日までの俺じゃない。脱・勘違い男子を果たして生まれ変わった俺なんだ!


 そう謎に胸を張った翔次郎は「ちけーってのー」と笑って正人をいなす。

 見よ、このスマートな対応。もう昨日のようにドギマギしたり変に顔を赤らめたりする勘違い行動はしないのさ!

 正人の隣で勝手に自信満々の翔次郎に、正人はキョトンとした顔をするが、すぐにまたいつものように翔次郎へ距離を詰める。

 それにまたドギマギしかけた翔次郎だったが、元々距離感が近いヤツなんだなと納得してまたへらへら笑った。


 そんな距離感のまま放課後になり、部活もない翔次郎は正人とダラダラ教室で過ごす。

 そしていつの間にか正人と二人っきりになっていた。


「なぁ、ショウ」


「何?」


 趣味の話で盛り上がっていた二人だが、不意に正人が静かに翔次郎を呼ぶ。

 何だろうかと改めて正人を見ると、なんだか真剣な目を向けられていて翔次郎は驚く。

 そしてさらに頬に触れられたものだから、もっと驚いて体が固まった。


「ショウの肌って柔らかいな」


 優しい手つきで頬を包み、宝物のように触れる手に意識が持っていかれる。

 それから何をされたわけではない。だがずっと見つめる瞳は、何かを訴えるように外されなかった──。


 * * *


「──あにきーっ!!」


「勘違いだ」


「まだなんも言ってねぇ!」


「じゃあ言ってみろ」


「絶対あいつ俺の事好きだって!」


「今日の宿題はどれだ?」


「聞けよ! プリント三枚目出た」


  いそいそと宿題のプリンを出した翔次郎に、兄はため息を吐きながら受け取り翔次郎を座らせた。


「よし宿題をしながらお兄ちゃんの話を聞きなさい。まずなぜ自分を好きだと思ったんだ?」


「すっごい見つめてくるし顔にも触られた。これ絶対俺の事が好きだって」


「じゃあ昔話をしよう。中一の時に同じ話を俺はお前から聞いた」


「そんな思い出はない」


「あるよ、無かった事にするな。見つめてたのはお前の後ろの男子だったし、顔に触られたのだって虫を払ってくれただけだったろ」


「で、でもさぁ……」


「そんで勘違いして告白して泣いて帰ってきたよな」


「泣いてねぇもん」


「よーく思い出せ。本当にお前を見てたか? 触られた理由は他にあったんじゃないか?」


「……」


 確かに、俺を見ていたんじゃなくて俺の真後ろにトイレの花子さんが居た可能性もあるし、頬を触れられたのだって俺のふわふわプリティほっぺが水饅頭に見えて触りたくなっただけかもしれない。

 なるほど、こうして俺はいつも勘違いしてしまうんだな。と、翔次郎は一人で深くうなずく。


「おっけー理解した!」


「よし、それでこそ聞き分けだけはいい俺の弟だ」


「聞き分けだけはって何だよ」


 兄の説得に納得した翔次郎は、今回はかろうじて勘違いを回避できたぞ! とすっきりした気持ちになった。

 しかしどこかで残念な気持ちも抱えながら、その気持ちには気づかないまま兄に宿題を手伝ってもらったのだった。


 * * *


「おはよ」


「おう、おはよー」


 翌日、今日も登校中に会った正人と一緒に翔次郎は歩く。


「ショウ、これあげる」


「あっ! これ俺の好きなプリン!」


「そうだと思った。昼に一緒に食おうな」


「もちろーん! 一生ついていきます!」


「……本当に?」


「ホントホント! プリンがあったら一生ついていく」


「俺よりプリンかぁ」


 良し、とても自然に会話ができた、これも兄貴から勘違いを訂正してもらったおかげだな、と内心で翔次郎はガッツポーズを決める。いや実際にガッツポーズを決めていた。

 しかしプリンをもらった嬉しさだと思われたようで、正人からのツッコミはなかった。


「ところでさ、マッ〇が今ポテト安くなってるの知ってる?」


「マジで?」


「マジで。放課後行こうよ」


「いいね! みんな誘って──」


「俺はショウと二人がいいんだけど」


「へ?」


 袋に入ったプリンを見ていた翔次郎は、正人の言葉に顔を上げる。そこには、また真剣そうな目で見つめてくる正人が居た?


「……ダメ?」


「……いや全然! そんじゃ二人で行こうな!」


 あっぶね! また勘違いするところだった。と翔次郎は息を吐いて自分自身を笑い飛ばす。

 元々正人は大人数が得意ではない。だからいつも自分とばかりつるむのだ。

 そう言い聞かせ、まったく、もしかして俺を独占したいとか? なんて思っちゃっただろ、と正人の脇腹を肘でどつく。

 どつかれた正人は驚いたような顔をしていたが、驚いたのはこっちだと翔次郎はさらにどつく。

 プリンをもらった時点で勘違いしかけたのに、危険だよこいつ、と。


「だが安心しろマサ。俺は生まれ変わったんだ」


「うん?」


「マサの事はいい友達だって分かってるからな!」


「………………へぇ」


 てっきり笑ってくれると思っていた。しかし急にスン……っと表情をなくした正人に、翔次郎は焦る。

 あれ、もしかしていい友達でもなかった?

 もしかしてもしかして、友達と思ってたのも勘違い?


「あの──」


「ねぇショウ」


「は、はい!」


 真剣な目で詰め寄られ、翔次郎は息を呑む。

 翔次郎は、自分の言動が何か正人の癇に障ったらしい事は分かった。

 しかしこんなところで正人と仲違いしたくないのにな、と身構えていた翔次郎に対して、正人はゆっくりと、教え込むように言葉を紡いだ。


「俺が人の好きな物を覚えてるのも、二人で過ごしたいと思うのも、全部ショウだけだから」


「……へ?」


 思考が停止する翔次郎に、正人はにっこりと微笑んだ。


「ショウには知ってて欲しくてさ」


「……おぅ……」


 翔次郎はプリンの袋を落としそうになって、慌てて強く握り直した。


 * * *


「あにきーっっ!!!!!!」


「うるせぇ勘違いだっ!!!!」


「今度はマジだって! 本気でマジで本当で真実はたぶん一つだから!」


 あれは絶対に勘違いじゃない! と叫ぶ翔次郎だったが、兄はいたって冷静に翔次郎へ告げる。


「ではショウちゃん、お前に問おう」


「おう」


「『好き』と言われたのか」


 ふんふんと鼻息荒く興奮していた翔次郎は、兄の言葉でとたんに大人しくなる。


「……言われてない」


「そうだろうそうだろう。好きと言われない限りは可能性は限りなくゼロに近いと心に刻め」


「……ゼロではないって事?」


「ホントにポジティブだなお前は。中三の悲劇を忘れたか?」


「なんだっけ?」


「いつも笑いかけたり話しかけてくれる女子が絶対に自分を好きだとこれまでにない自信をもって告白したら『ちょっと優しくしただけで勘違いされたんですけどー(笑)』と言いふらされ女子全員から笑い者にされただろ」


「何で兄貴が知ってんだよ!」


「お前が泣きながら話してきたんじゃん」


「そうだっけ?」


 翔次郎は納得できないところはあるが、確かにその通りだった。

 あんなに気のある素振りを見せた女子でさえ翔次郎の勘違いだったのだ。

 ましてや今回の相手は男子生徒である。同性に対して恋愛感情を持たれてるんじゃないかと考える自分がおかしいのかと翔次郎は落ち込む。


「でもなぁ……めっちゃ好かれてると思うんだけどなぁ」


「まぁお前がそこまで言うなら好きなんだろうよ」


「っ! やっ、やっぱり!」


「ただしそれは友達としてだ。なんでもかんでも恋愛にもっていこうとするのはお前の悪いクセだぞ」


「……なるほど」


 こうしてまたもや諭された翔次郎は、なんとなく釈然としないながらも納得するしかなかったのだった。


 * * *


「……なぁショウ」


「んー?」


 昼休み、翔次郎は正人と空き教室に忍び込み、売店で購入したパンを食べていた。

 正人がスマホでゲームの実況を観ているので、翔次郎も隣に座り画面を覗き込んで一緒に観ている。


「最近ショウの雰囲気変わったよな」


「そーかー?」


 ゲーム実況の配信に夢中の翔次郎は、正人の言葉に適当な返事をする。


「……前はさ、ちょっとぎこちなかったって言うか……」


「ん? なに、何のこと?」


 正人がなにやら意味深な事を言っているのに気づいた翔次郎は、画面から顔を上げる。するとそこには、至近距離に正人の顔があった。

 めっちゃ近いじゃん。べったりくっついちゃってるじゃん。と焦りかける翔次郎だったが、こっそり深呼吸をして平静を装った。

 俺はもうこの程度では勘違いしない男なのさ、と一人笑って胸を張る。その様子を見たからなのか、正人は少し悲しそうな顔をした。


「……前、ショウにあんな事言ったのにさ、ぜんぜん普通に接するよな」


「だーから、何の事だってばー」


 へらへら笑えば、正人もちょっと笑った。しかし、やはりどこか悲しそうな笑い方だった。

 なんだどうした正人。腹が痛いのか。と翔次郎は心配する。

 もしかして意識して欲しくて俺が特別みたいなこと言ったのにぜんぜん意識してくれないからヘコんでるんじゃ……なーんて勘違いは今の俺はしないから大丈夫だ。


「前はもっと……俺の事意識してただろ……っ」


「やっべバレて……いやいや気のせいだって!」


 マジかよ、前に変に意識してたのバレてんじゃんか。だってあんときはあまりにもマサが思わせぶりな事してくるから俺の事好きなのかと思い込んじゃって……いや勘違いって分かってるけどね!

 頭の中が忙しない翔次郎は焦りから声が大きくなる。そんな翔次郎の様子に、正人はまた悲しそうに笑った。


「……そうやって誤魔化すって事は、やっぱりそういう事なんだよな……」


「ご、誤魔化すってなんだよ」


「つまり、俺の事そういうふうに見れないから気づかないふりして友達のままでいようとしてんだろ? 俺が、ショウを好きなの知ってるくせにさ……」


「いやいやそんな事っ! そんなっ! そんな、そっ、え……?」


 今なんか言われた? なんか、好きって……いやこれも俺の勘違いなんかな。

 いやでも今『俺がショウを好き』って、いやでも……あれ?


「好きな事アピールしたらわりとすぐ俺の事意識してくれたじゃん。それが嬉しくてどんどん好きだってアピールしちゃったけどさ……最初はショウもわりと受け入れてくれてたじゃんか」


 ほらまた好きって言った!

 言ったよな間違いなく! え、これもかんちが──。


「俺がショウを好きなのはけっこう早い段階で気付いてたよな? でもやっぱり俺の気持ちを受け入れられないって気付いて、俺の気持ちに気づかないふりをするようになったんだろ……」


 ──いや、やっぱり、これは、勘違いなんかじゃなくて……──。


「それもショウの優しさだって分かってるけど、もし俺の気持ちが迷惑だったならさ、きっぱり振ってほしいんだ。なぁなぁにされると苦しいんだよ。そう簡単には諦められないかもしれないけど俺は…………──ショウ、聞いてる?」


「…………り……」


「ショウ?」


 ふるふると震えている翔次郎に、正人が言葉を切って呼びかける。まるで爆発寸前のような翔次郎の姿に戸惑っていた正人だったが、その読みは間違いではなかった。


「──やっぱり俺の事が好きなんじゃねえかぁっっ!!!!」


「どうしたショウッ!?」


「俺の事好きなんだよなっ!?」


「あ、あぁ」


「よしじゃあ今日俺んち来いっ!」


「え……手土産何がいい?」


 こうして翔次郎は、放課後早々に正人の手を引き帰宅したのだった。


 * * *


「──兄貴聞いてくれっ!」


「だから勘違いだと何回言えばあれお友達? いらっしゃーい」


 手土産もなくすみませんと頭を下げる正人の腕に翔次郎は腕を絡ませ兄に見せる。

『ほらみろ勘違いじゃなかっただろ!』とドヤ顔で胸を張る翔次郎まであと、十秒。




【おわり】


↓ちょっとおまけ



兄「ところで、ショウちゃんももちろん正人くんの事が好きなんだよな?」


ショウ「……え?」


マサ「……え?」


兄「……おい」


 大丈夫。ちゃんと恋してる。


【今度こそ終わり】


最後までお読みいただきありがとうございました!

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