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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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テーセの憂鬱な時間 12-4

 4.役目は果たそう



 オレは肉体派で行動することが信条で、考えることは頭脳派に任せてきた。

 学生時代は同じ研究室の仲間が支えてくれたし、TDFにはフィオーレがいたから、力任せであってもオレは持てる能力を発揮すればいいだけだった。

 それなのにフィオーレはオレに考えること、今起きている事象の解決役、いわば探偵や刑事役を押しつけてきているのである。

 口下手なのが分かっているはずなのに……。

 ツイング姉妹の面倒を見ろということだろうか?

 あの笑顔を曇らせないためなら出来る限りのことをするが、苦手な役を押し付けられた感じがしてしまう。

 確かにテーセは嵌められようとしていた。

 本人の意志とは無縁なところで、である。

 専務派はTDFを取り込もうとすることを諦めていなかったのである。

 常務派を追い落とし会社全体にアピールできる材料を探していたが、ルージュ万博では常務派に後れを取り機会を逃してしまうし、トラッティンの産博でもTDFに活躍の場を持って行かれていた。さらには社内バレーボール大会でもTDFに完膚なきまでに惨敗している。

 そのTDFが社の内外で存在感を示し続けていた。

 それを知ったなんとしても専務は自分の手柄にしたいと考えていたため、その取り巻きはテーセに目を付けたのである。

 彼らはセキュリティ三課の課長にもっと能力に見合った役職を用意すると甘言を使い引き抜きを掛けていた。それにまんまと乗っかってしまった課長は、言われるままにテーセを専務派の所属している部署へと異動させようとするのである。

 その前に課長は妹を利用してディを手籠めにしようとしているが、妹の抵抗にあい果たせずにいた為、腹いせにテーセを追い詰めようと画策していた。

 さらに専務派への手土産とばかりに三課で開発中のセキュリティシステムをお土産代わりに持ち出そうとする。

 テーセにガードシステムを指示したのはそのためである。

 新人にはあり得ない。しかも教官役もいない。

 誤算はテーセが天才であったことだ。しかも通常では理解できないほどの能力を持っていたのである。

 管理者なら部下の能力は把握していろよと言いたくなる。

 テーセは見てくれは能天気な天使だが、ちゃんと見ていないとひと皮剥けば堕天するほどの凶悪な能力を示すんだぞ。

『誰もセキュリティを破ることが出来ないようにプログラムを守れ』

 課長はテーセにそう指示を出している。

 テーセは初めて一人で任された仕事である。張り切っただろう。

 監視役がいれば気付いただろうが、責任を負わせるためにテーセに終業間際に任せたのである。

 残業をよしとしない風潮がある中でテーセは短い時間で頑張った。その結果が思わぬ方向でテーセの能力を示すことになってしまう。テーセが得意とした短縮化と簡略プログラムを使用しまくっていたのだ。それが相互作用して完全無欠、プログラムした本人ですらコードを流しても解除できないモンスターを生んでしまったのである。

 ベテランAライセンス持ちはプライドをズタズタにされたはずだ。

 テーセが帰宅した後、監視役のコードマン女史は、テーセのプログラムを解除して三課の重要機密を盗む予定であったようだ。

 課長にそれを渡し、専務派の手土産にする予定であったが、テーセのプログラムはコードマン女史の能力を遥かに上回っていた。歯が立たず課長に報告が行くことになる。

 焦った課長は翌日になって課員にプログラムの解除させるようにしたが、それもうまくいかない。叱責しつつも本来の業務に支障をきたす結果になっている。

 今の状況を三課課長は部長には伝えていなかった。

 何とか通常業務に戻して、身の保身と今後のことを考えていたのだろう。課長は今回の一件をテーセの責任として、テーセを専務派の元に異動させようとしていたのでる。

 ノルディックはそれらも含めながら第二データ処理部の部長に先んじて報告を送っていた。

『気にせず、ディと好きにやってしまえよ。おまえは凄いんだからな』

『うん♪ ありがとうノルデ兄』

『ディも楽しそうだぞ』

『あたしも楽しいよ♪』

 ディはテーセの組んだプログラムをバームクーヘンの一層一層をきれいに引き剥がすように解いていく。

 ひとつでも間違えれば、プログラム自体が更に暴走してしまう可能性があった。今度は異常に短縮されたプログラムが正式なものに置き換わることで別な反応になることもあるので、それをさせないようにうまくプログラム同士を繋いでいかなければならない。

 神経をすり減らす高度なオペのような作業が続いていく。

 それが理解できる者なら手に汗握る展開と作業である。

 理解が及ばない課長はどよめきを面白くなさそうに見ている。TDF側に責任を押し付けようとしていたが、それもうまくいっていないのだから面白くないはずである。

 作業はランチタイムを過ぎても続いてく。

 テーセが施した簡略化してあるプログラムをディはテーセと話をしながら自分自身とテーセに解除できるように修正し、本来のガードプログラム戻していく。

 神経をすり減らす細やかなブログラム作業を難なくこなしているように見せているが、天才テーセについてくためにディは必死に頑張っている。

 ノルディックはモニターからは見えない位置から努力の天才をサポートしていた。

 いつしか固唾を飲んでモニターを注視しているものが増えていく。ノルディックもフォローしながらTDFの連中にも見せられるようにそれを保存していたくらいである。

 ただノルディックがここにいるのはフォローやサポートのためだけではなかった。もう一つやらなければならないことがある。


『ディ、テーセ』

 サイバー空間では時間の感覚が失われてしまう時がある。

 テーセとディは長時間の作業の中で二つの妖精が交わるように舞っていたはずなのに、いつしか溶けあうように一体になりつつあった。気のせいではない。

 妖精の周りでは蛍のような淡い光が浮かびだしている。

『ディ、テーセ!』

 もう一度呼び掛けてみるが、二人には届いていいないようだ。

 姿を隠し遠巻きに見ていたが、ノルディックは姿を現し、美しく再構築されていっているプログラムの間を触れないように進んで行く。

 楽しそうに舞い、近づいて来ていたノルディックに気付きもしない二人の頭部らしきところをノックする様に軽く叩いた。

『な、なに?』ディは焦り、テーセは邪魔されて少し不満そうな顔をしている。

『楽しいのは分かるが、十秒休憩』

『まだまだいけるよ♪』

『この辺りを焼け野原にするくらいに集中していたぞ』

『『あっ』』

 理解してくれたようで助かる。淡い光の乱舞も収まっている。

『よし。大丈夫そうだな。休憩終了。あと少しみたいだから頑張れよ』

 ノルディックは無邪気で幼い妖精たちの頭を撫でた。

『『は~い♪』』

 瞬きするような瞬間に止まっていた妖精の舞が再び始まった。

 ノルディックはホッと息をする。

 妖精が魔物に変化するのは阻止できたようだ。

 初めて体験するが、気を抜くと危ないと感じてしまう。TDFであの二人の幼少期のあだ名を知っているのは彼の他にパーンとフィオーレ、シュルドしかいない。

 TNTとDNTという物騒な通り名だ。

 ノルディック自身ディから聞いただけで、実際に見たわけではない。さらに言えばDNTは単体での爆発は少なく何らかの物質と交わることで威力を発揮するというものだった。デュエルナ・ネルミス・ツイングだけでは爆発は送りにくくとも、テーセ・ナルス・ツイングがいれば、それは別な話になっていくのである。状況が分からないのでノルディックはディのジュニアの頃の担当官に話を聞いてみたが、二人が暴走した結果は、ソーラフェニックス弾がさく裂したような大爆発が起こり空間が消し飛ぶか、超大型爆撃機の編隊が絨毯爆撃を行ったように辺りは焦土化し荒野が広がったという例え話をされた。

 二人が我を忘れて夢中になってしまっている時が要注意らしい。

 その兆候が現れないように祈っていたが、祈りは空しく危機が訪れる。あと数秒遅れていたら、ここでも荒野が広がったかもしれないと想うと背筋が凍り付きそうだった。


 最後のプロテクトが機密事項のプログラムファイルから外されたのは作業開始から五時間後のことだった。

 大型モニターを見ていた者達からはまばらだけれど拍手が起きた。

「お疲れ様」

 ノルディックは二人の肩を軽く叩いて称賛した。

「「よかった」」

 テーセは頷き、ディもホッとしたように額の汗を拭った。

「お兄ちゃんのおかげだよ」

「オレは何もしていないぞ」

「後ろにいてくれただけで頑張れたよ」

 妹の言葉にディも頷いていた。

「ノルディックは終始、私達をフォローしてくれていたと信じています」

 胸に手を当て祈るようにディは言っていた。

「二人が解決したんだよ。オレは物理的に守るためにここにいるんだからな」遠巻きに見ている課員を睨みながら言う。「テーセは誇れよ。これだけのシステムを組んだことに。エリート連中が寄ってたかって挑んでも歯が立たなかったんだからな」

 まあ、やりすぎではあるが、ノルディックは眼を細める。

「いいの? 怒られたんだけれど」

「オレが認めているんだ。他に何か必要か?」

「そ、そうだよね。嬉しいな」

「さて報告に行こうか」

 机の端末から優先コードを慎重に外しながら、ノルディックは二人を促した。

 大型モニターはなぜかそのままにしている。プロテクトの外されたファイルに入り、作業が始まったことが見て取れる。

 最終決戦の開始である。



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