天使と完璧令嬢 2-3
3.出張が終わった後で
ノルディックはシューティングゲームを作った後のことも考えて企画していた。
RPGで、シミュレーションゲームで、様々な展開を考えていて、最終的にシミュレーションの中で史実モードという最難関のイベントステージを考えていたのである。
熱く語る彼の姿に、ディは資料集めにとことん協力しようと決めていた。
そこから思いついたのが今回の願いである。
交信記録はジャーナリストでありノンフィクション作家だったジャスティン・オキノに公開された以外には、クルーからの要望もあり保存はされていたが、非公開とされてきた。ダンは悩んだが、根気よく話をするディとノルディックの熱意に根負けし承諾するのだった。
録音は一切できず聞くだけではあったが、貴重な体験ができたのは今後の展開に良い影響を及ぼす。
グランランドと名付けられたテーマパークの隣に併設されている歴史資料館にサーリエスと移動すると重要機密室に案内された。聞かせてもらえたのは一番保存状態が良いという二号機レトーの音声データで、それが流される。
ヘッドホンを耳に当て、目を閉じ二人は記録に耳を傾ける。
何かの機械の信号音が静寂の中から聞こえてくる。若い女性の声が淡々と索敵状況をクルー達に知らせていた。静かだが緊迫した空気が突然の爆発音で破られ戦闘が始まる。コックピット内の振動が音声からも伝わってくるようだった。激しい戦闘の中で音声が途切れたりノイズ交じりなっていくが、絶望的な状況であっても彼女も他の二人のパイロットも諦めていない。必殺の攻撃が幾度となく放たれた。
機体の損害状況。エネルギー残量と残弾数、敵艦の接近など様々なやり取りがなされていた。手に汗握る攻防だった。
一時間弱に渡る戦闘の記録がそこにはあり、目の前でそれらのシーンが見えるようだとノルディックもディも感じていた。
拳を握り締めノルディックは部屋を出る。
出たとたん「グランダー3!」と拳を振り上げ飛び上がってポーズをとる。
ヒーローショーやヒーロー映画を見終わった後の子供の反応が、そこにはあった
余程嬉しいのだろう。はしゃぎっぱなしだった。
その勢いでノルディックに手を引かれるままディは資料館を見て回ることになる。無意識に握られた手を嬉しそうに彼女は見つめ、展示物を早口になりながらひとつひとつ熱弁をふるうノルディックの声に耳を傾ける。
圧巻は全長百メートルを超す実際に使用されていた実機のグランダー3だった。
一世紀前に引退し、ここに展示され余生を送っていた。
頭部から足元までエレベーターに乗せられながら間近で見ることが出来るのである。高所恐怖症も何のそのノルディックは身を乗り出し強化ガラスに顔を擦りつけながら嬉々として見つめていた。
コックピットに入ることもできた。感動し楽しそうに操縦桿を握るその姿は子供のようであり、売店ではそれらのモデルを持っているにもかかわらずすべて買い込み、瞳を輝かせディに見せてくるのだった。
慈しむようにノルディックを見つめ、役に立ててよかったとディは思っていた。
「あとはセリフとか覚えているところを忘れないようにメモしておかないとな」
「それなら大丈夫です。私がしっかり記憶していますから」
「本当に?」
「はい。説明しましたよね。成績優秀だったと」
そんな都合のいいことがと思ってしまうが、ディが噓をつくわけがないので、彼女の言葉を信じてしまう。実際にディから手渡された時間軸と経過表、台詞のデータは秒に至るまで事細かに交信を再現してくれていたのである。
史実モードがよりリアルに完成することが出来たのは、ディのおかげであるとノルディックは最後まで感謝し続けた。
資料館の建物を出るとディは立ち止まり、遊園地を見つめていた。
「行こうか?」
「いいのですか?」
「行きたいんだろう? 遠慮はいらない。もう仕事は終わりでいいだろうし、ディには契約でもお世話になったから、そのお礼も兼ねてかな」少し照れたようにノルディックは言う。「ああ、でもオレとでいいのか?」
「テーマパークは初めてではありませんよ」
「それならいいが」ノルディックも納得したようである。「でも、オレと乗る乗り物には注意してな。本当に好きな人が出来て二人できたときの楽しみにとっておいた方が良い乗り物もあるだろうからな」
「そ、そうですね」
ちゃんと考えてくれているのかは分からない。ディは本当に嬉しいのだろう気持ちが遊園地に向いてしまっているようだ。
ゲートの入口で午後のフリーパスを買うとテーマパークを楽しむのだった。
ノルディックは最終日までの時間を最大限使い精力的に過去を知る古老や関係あるログナーにインタビューを試みていた。帰りの旅客宇宙船では集まった資料を見ながらノルディックは気持ち悪いほど嬉々とした笑みを浮かべながらデータや資料を眺めるのだった。
ディはというと時折自由行動をとっていた。
滞在中サーリエスに誘われたらしく、彼女とは個人的にも親交を深めていた。そのきっかけがノルディックであると彼女は感謝するのである。
「どうです、似合いますか?」
ホテルに戻ってきたディはノルディックにそういってしなやかにポーズをとったあとにクルリと身体を回転させ髪をなびかせる。
「そ、その髪……」
「先だってのバスケで、髪をまとめていましたが、やはり邪魔だったと思い短くしてみました。どうでしょう?」
腰まであった髪が肩のあたりにかかるくらいまでバッサリと短くカットされていた。
体力もつけようと毎日ジョギングをすると宣言していて、余程、コートに座り込んでしまったのが悔しかったらしい。
「似合っているけど、もったいないな」
天真爛漫に快活に笑みを向けてくるディに感想を素直に述べた。
「ハイスクールの時はこれくらいの長さでしたのよ」
TDFに戻ったらオガワさんに色々と詰問されそうだとノルディックは思った。
ただディは楽しそうにしているので、これでいいのだとノルディックは楽天的に思うことに決めた。
様々なことがあったが、終わり良ければ総てよしとしながらノルディックはディと仲良く宇宙港でTDFへのお土産を選ぶのだった。




