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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会④軋轢 11-2

 2.噛み合うように



 何だろうな?

 オリエナ・ヒルデルナはこの状況に違和感を覚えていた。

 なんかの揶揄いネタになればとサイバーグラスは人の心拍数や体温などを見るアプリを作動させ色で事務室内の状況を見ていた。トラッティンにいる二人も色ではなくラインで送られてくるデータで見ることが出来て一風変わった風景は面白かった。

 データだけを見るのなら、そこにロイスとキャスティ・カインズは存在している。

 キャスティはトモカネの隣に並ぶ。ラインはトラッティンからその動きをトレースして事務室にいるように見せている。触れられこそしないが声はそのまま聞こえるし話しかけることが出来ていた。

 当然のことの様にTDFのメンバー見ているだろうし、自分が調整したこととはいえ、データを見ると発汗から目線の動きまですべて手に取るように分かるから、してやったりのような気がしてくる。

 時差を見れば向こうは夜の八時とティーマとトラッティンでは半日程ズレているのだけれど、その事実でさえ顧みられることなく新人を含め極端に緊張しているものはいなかったのでデータ的にはつまらないものになってしまうと諦めかけていた。

 その空気が一瞬だけ変わる。

 隣にいた新人ミズウラがディと目が合ったのだろう。一歩二歩と前に踏み出していく。

 魅入られたかと思ったが、心拍数は上がっていたが体温の極端な上昇はない。フラフラとした足取りではなくしっかりしていた。

 何が起きるかと期待していると、その瞬間を目撃することになるのである。

「目の前でプロポーズを見るのなんて初めてだわ」

 オリエナは臆面もなく全員に聞こえるように呟いた。誰もが思っていても口にしなかった言葉を彼女は図々しく言うのだった。

 誰もが数値的な上昇や体温の変化を見せている中、さすがにフィオーレやノルディックは多少冷静だが、何よりもおかしいのはプロポーズされたデュエルナ本人だ。

 実際の表情にも変化がない。平然とした顔付きで、慈しむような視線とともに体温も心拍数にも変わる様子はない。なぜそこまで冷静でいられる?

 不可思議すぎた。彼女は何者だ?

 デュエルナの回答も模範解答と言えるのではないか。

 トモカネの発言は場を硬直させはしたが、ディの言葉とともに雰囲気は悪くなっていないのである。

 固まりかけた空気の中でフィオーレが手を叩く。

「はいはい。時間が無いわ。私はフィオーレ・カティエス」その言葉にディもトモカネも何事もなかったように定位置に戻る。「プログラム班のまとめ役をしています。クルス・バートン・フルクスとトモカネ・ミズウラは私の班になりますから、これが終了次第来てください」

 その瞬間、クルスは鼻の下を伸ばしていた。美女二人が居る班であるのが余程嬉しいのだろう。

「次、エレナ」

 肘で小突かれ、不承不承エレナはトモカネを睨みながら何とか挨拶している。

 その後つつがなく紹介と挨拶が終わり、それぞれの仕事へと就くことになる。

 オリエナはディの姿を追ったが、つまらないほど数値的な変化はついに見ることが出来なかった。


 キャスティ・カインズは誂えたスーツを脱ぎながら言う。

「オリエナは凄いですね」

 TDFの事務室に実際にいるような感覚を味わっていた。

 映像での参加と言われた時、モニター越しかプロジェクターによる映像のみでの参加だと思っていたが、ラインを使った参加はバーチャル空間で感じた疑似的感覚をも再現していて驚きの連続だった。

「プロクラムを構築したフィオーレやシュルドさんにも脱帽するよ」ロイスは頷く。

「そうですね。そんなプログラムに私も参画しているというのが驚きです」キャスティは苦笑する。「知識も経験もないのに門外漢を参加させるなんてありえませんよ」

「そうだね。でもフィオーレは能力的に問題が無いと判断したのだろう」

「おかげで私もプログラムについて覚えなくてはならなくなってしまいました」

 キャスティは仕事の合間にテキストなどを読み漁る日々が続いる。

 少しでも役に立てるように。

「事務室内だけとはいえ、動き回れるし、全員を感じることが出来たのも凄いことだ」

「いずれはバーチャル空間以上のことが出来てしまうのでは?」

「そうかもしれないね」

「ディの息遣いが感じられるようでした」

「そうだね。あれでディがトモカネの手を取っていたら、歴史的瞬間に立ち合っていたことになるだろうね」

「他の方のプロポーズを初めて見ました」

 キャスティはロイスに言う。興奮しているようでもあった。

「僕もだし、普通であれば衆人環視の元では言うことは出来ないだろうからな」

「尊敬に値するメンタリティですね」キャスティはロイスを見つめる。「何がそうさせたのでしょう?」

「誰かに取られてしまうとかという脅迫概念ではないだろうし……、何かしらの天啓があったという感じだろうか?」

「お話を伺ってみないと分かりませんが、初恋のような衝撃があったのかもしれませんね」

「キャスにもあったのかい?」

「そうですね」キャスティは目を細め笑う。「その感覚は人それぞれのようなものかもしれませんが、恋焦がれたことはありますよ」

「なるほど」理解は出来ていないがロイスは頷いてみる。

「気になりますか?」

「それはねぇ……」

「あなたにですよ」桃色の髪が肩のあたりで揺れ、キャスティは微笑んでいた。「衝撃とは程遠いかもしれませんが、私はロイスを見てあの時本当に安心していたのです」

 それがどれほどのものだったか、説明するのは今では難しいと思っていた。

「そ、そうか……」

「そうなんですよ」ソファに座るロイスの隣に腰を下ろすと身体を預ける。「度を越しているように見えますが、トモカネ・ミズウラには行動を起こす瞬間だったのでしょうね」

「会って間もないのに、あまりにも早すぎるのではないかな?」

「それだけ彼にとってディとの出会いは衝撃的だったのでしょう」

「ディはあのように応えていたけれど、うまくいくと思うかい?」

「友達以上にはならないかと」

 アリエーにはその後の進捗を教えてくれるようにしてほしいとメールで頼んでいたけれど、今以上の進展はないと思えてくる。

 どれだけトモカネがアピールしようとも。

「ディはノルディックを見ています。それが恋愛によるものなのかは分かりませんが、今のところ依存しきっているのではないかと私は見ています。現時点でトモカネ君がどれだけディを想おうとも、それは彼女に届くことはないでしょう」

「毎日囁き続けても?」

「トモカネ君には運命的であってもディにとっての運命ではないように見えました」

 あの受け答えからはディから恋愛感情は一切見ることは出来なかった。

「それでも彼は諦めていないだろうね」

 誰の目にもそう見えた。

「彼女の情報を知れば希望はあると感じてしまうでしょう」

 キャスティはロイスに指摘する。

「あ~、ディは基本的に付き合っている人がいないんだったっけか? ノルディックと二人でいる姿を見ればディの気持ちも分かりそうなものだけれどね」

「恋は盲目ですよ」都合よく考えがちである。

「そうかもしれない」

「トモカネ君は、今、夢の中にいるのかもしれません」

 キャスティは遥か彼方を見つめながら言うのだった。


「ミラクルだ。お前、勇者だな」

 トモカネはクルスに後ろから羽交い絞めにされるように首に腕を巻き付けられた。

 クルスとは同じブログラム班に配属されていて、ディと同じ仕事をこなせることになったのはラッキーだった。

 もっとも仕事中は話しかける余裕すらなかったが、何度か盗み見た彼女の姿はこの世のものとも思えないくらい美しすぎた。

 天使。いや電子の妖精か?

 フィオーレ・カティエスはリーダーというだけあっては仕事には厳しい。

 ディの席からはクルスとともに離されたし、仕事として渡されたプログラムはかなり複雑で、そのデバック作業は怪奇現象の領域で最低限のプログラムライセンスは持っていたが難解を極めていた。これって本当に人が組んだのか?

 おかしな点が多すぎる。

 監督役としてシュルドさんからの監視を受けていたし、ちょっとでもミスをすると雷が飛んでくるので、その根本を探る余裕はなかった程である。

 頭から湯気が出ていそうなくらい脳を使った気がして、少しボーっとしながら事務室を出たとたんクルスに絡まれた。

「どこがですか?」

 そっけなく答えるが、クルスは人懐っこい笑みを崩さない。それが本人の興味からなのか元々の人格故なのかは分からないが嫌いではなかった。

「相手はディだぞ」少し興奮気味に言ってくる。「本社ネットワークのミスコンで一位を獲ったことがあるんだ。人格、人気共にフィオーレと双璧といわれる美の化身だ」

「ディの知性や美しさからなら当然じゃないですか」

「確かに当然だけどな」呆れたようにクルスはトモカネに言う。「でもまあ仕方がないか、新採だもな。出社したてじゃ知らない情報も多いか」

「だから勇者ですか?」

「突撃以前に彼女の前にたどり着くことは不可能と言われているんだぞ」

「なんですか、それは? 競争率が激しいことは認めますが」

「競争にすらならないんだよ」クルスはトモカネの隣に並び二人して食堂を目指す。「ディの眼前に立つ前に番犬とボディガードに阻まれるんだよ。たった数歩が難しいとされるのに眼前で膝ま付けるなんて奇跡だ。ミラクルだよ」

「番犬? ボディガード?」

「本社では有名なんだよ」

 総務にいた為なのか、それともただ単に女好きというだけなのかもしれないが、情報がないトモカネにとってありがたい話である。

「エレナに睨まれていたのに気づいていないのか?」

「気づかない訳が無いじゃないですか、あれだけあからさまだったのに」恨まれるだろうとは思っていたけれど、まさか女性からだとは思わなかった。「それにいちいち気にしていたらディに近づけませんよ」

「根性あるよ。俺だったらしっぽ撒いて逃げるがな。まあ隣のディやフィオーレが押さえつけていたようだ」

「頭が上がらないとか?」

「フィオーレに逆らうと精神的に大ダメージを食らうと言われているよ」

「関わらないようにします」

「それがいい。それとノルディックだな」

「あの人ですか?」

 確かに巨体で得体が知れなかったけれど。

「以前は『狂犬』と言われていたよ」

 クルスは端末を操作すると、とある記事を見せてくれた。

「狂犬て……、宇宙海賊から人質を救う? 凄いですね」

「今は英雄だよ。一人で海賊船を制圧したっていう噂もある」

「そんなに強いんですか?」

「何とかって流派の有段者だっていう噂もあるな。本人はひけらかさないが、本社でもトップクラスの強さだと言われているよ」

「盛りすぎでは?」

「それが冗談じゃないんだな。社内のバレーボール大会でブロックに来たプロ相手に腕をへし折っているのを俺は見た」

「冗談じゃなくて?」真顔で頷かれると信じるしかなかった。「人は見かけによらないですね」人畜無害そうに見えていた。

「お前さんもな。目が合った瞬間にプロポーズなんてありえん。手を出す人はいてもな」

「それ、セクハラにならないですか?」

「あのフィオーレの尻に手を出している人もいるんだよ」クルスは笑う。「宣伝部門のアサノ課長だけどな」

「はあ」

「歓迎会で会えるだろうし、その現場が見れるんじゃないかな」

「他課の人なのに?」

「TDFの宣伝部門を引き受けている人だから、結構出席率もいいらしいぞ。あのシュルドさんの友人らしいし」

「僕はディの隣にいることにしますよ」

「まあ成功を祈るよ。なにせディはノルディックにぞっこんという噂もあるからな」

「付き合っているのですか?」

 彼氏持ちがあんな断り方をするだろうか?

「当人達は否定しているけれど、二人が一緒に居るところを見るといい雰囲気なんだよな」

「なら関係ありません。チャンスありですよ」

「よくまあポジティブになれるもんだ」

「チャレンジするのみですよ」トモカネは拳を握りしめる。「知っていること何でもいいから教えて下さい」

「本当にトモカネは凄いわ」

 情報通なら他にもいるが、トモカネも面白い後輩だからいいかとクルスは思いこのままランチに付き合いことにするのであった。



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