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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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天使と完璧令嬢 2-2

 2.契約のこと



 惑星グランダーは、この星を得て惑星改造してきた創設者達にとっては『楽園』という意味を持っていたという。

 揉め事解決から宇宙での輸送、護衛まで何でも屋である『ログナー』の基礎を築き、まとめ上げてきた開祖と言われる者達が開拓してきた星がグランダーだった。

 首都は商業都市としても発展し、太陽系ワルナーの観光資源ともなっていた。ここには二百万の人が住み、惑星全体が山河に恵まれた自然豊かな星である。ログナー評議会があり、荒事に優れたログナーの聖地であるとは思えないほどだった。

 開闢から二百年近くなるグランダーには多くの人々が訪れていた。

 ノルディックとディは並び立つと従者とご主人(お嬢様)に見えなくもないが、互いにスーツ姿でビジネスに訪れたのだという出で立ちで宇宙港に下りたった。

 宙港の駐車場でレンタルエアカーを借りると、二人はログナー評議会のあるビルを目指す。

「素敵な星ですね」

 流れゆく光景を眺めながらディは素直に呟く。

 どちらかというとティーマは開発途上で都市部を出ると殺風景な風景が続くのでそう感じるのかもしれない。

「少し緊張してきた」

「私も、です」彼女の本心からの言葉なのかは分からないが、破顔していた。

 向かう先はログナー評議会ビルで、その上層部と会見する予定である。

 宇宙港から近く、そびえ立つ建物は巨大で防衛拠点でもあるためか、他を圧倒するものでもある。

 ビルの中に入るとロビーに人は少なかった。

 ノルディックは受付で礼儀正しく名乗るとクロイツ・ダン・シンザキとの面会を求めるのだった。

 話はすでに通っているのだろう。受付嬢がすぐに対応してくれてロビーの窓際にある応接コーナーに案内された。

「ノルディックの挨拶は丁寧ですね」

「ああ礼節は大事だと物心ついたころから爺さんに教え込まれてきたからな」

「お爺様ですか?」

 ノルディックは簡単に道場のことや祖父と姉の三人暮らしであったことをディに話す。

「家族であるが、オレの武術の師匠だから礼節も武も徹底的に叩き込まれた」

「お強いのですか?」

「興味あるのか?」

「母が柔術を習っていたことがあります。その時に強い方は型もですが礼も美しいものなのだと知りました」

「なるほど、オレは弱くはないと思うが、直情径行型でやらかすことの方が多いから、まだまだだよ、精神的には」

「その言葉からも私は安心できます」

「どこがだ?」

「己を誇示しないところでしょうか」

 ふんわりとした言葉でディは言うので、真意は測りかねた。

「ノルディック・ドリスデン様でしょうか?」

 質問しようとしていたところで後ろから声が掛かりノルディックは顔を向けると、スペースジャケットをスーツ風にアレンジし着こなしているベリーショートな髪型の白髪の女性が立っていた。年齢は二十代後半から三十代前半見えた。

「お待たせしました。クロイツ・ダン副議長の秘書官を務めておりますサーリエスと申します。お二人をご案内するよう仰せつかりましたので、こちらにどうぞ」

 彼女が手で奥にあるエレベーターを指し示すとノルディックとディは立ち上がりサーリエスの後に続いた。

 なかなか隙がない女性だとノルディックは思った。


 副議長の執務室は最上階ではなかったが、高層に位置する五十階にある。

 風景が丸見えなエレベーターに乗りながら高層階へと昇っていく。眺めがよく宇宙港や都市が一望出来たが、高いところが苦手なノルディックは早くついてほしいと願うのだった。

 エレベーターを降りると部屋の扉はひとつしか見当たらない。

 相当広く執務室をとっているのだろうかと思いながら、室内に入ると部屋の広さはTDFの部長室とさほど変わらないものだった。

 他は何があるフロアなんだろうか?

 正面の執務机にはクロイツ・ダン・シンザキが座っている。その背にはホログラムのシティの光景が浮かび上がっていた。

 左右の壁には豪奢な本棚が並び、扉がそれぞれある。右手には応接用のソファとテーブルがあり、四十代くらいの見た目の眼鏡をかけた神経質そうな男がぶしつけな視線を送ってきた。サーリエスはその人物に軽く会釈すると右側の扉の向こうに消えていった。

「久しぶりだな。ノルディック」

「こうして顔を合わせるのは十五年ぶりですからね」

 クロイツ・ダンは厳つい体格なのは変わっていないが、白髪が増えて目尻の皺が目立つようになってきていた。また現役ログナーではあったが、もう六十を超えていたのである。

「そんなになるか」

 立ち上がると二メートルはある巨体でノルディックに向かってくる。

 差し出された手を握ると互いに力を込めていた。技量を探り合うように。

「副議長になったんですね。おめでとうございます」

「ただの使い走りだよ。長老どもにはいいように使われている。妹がファミリーを継いでくれていたら、こんなところにいないで宇宙を飛び回っていたのにな」

「ニケさんはお元気ですか?」

 会ったのはノルディックも十五年前に一度きりだったが、それでも印象深い女性だった。今は結婚して一児の母でもあるという。

「嫁入り先で元気に飛び回っているよ」声を上げて笑うとノルディックの背中を叩く。「お前さんも相変わらずのようじゃないか」

 色々と測られているのは分かっているが、ノルディックは気にしていないようだった。

「まあボチボチです。それでこちらが同僚のツイングです」

「デュエルナ・ネルミス・ツイングと申します。よろしくお見知りおきをお願いいたします、閣下」

 見事なまでのカーテシーだったので、クロイツ・ダンは居住まいを正すと、ログナー式の作法で挨拶を返す。

「閣下はやめてほしいがな」

「私も一介のプログラマーですので、普通に接していただけると助かります」

「おいおい。ずいぶんな美人さんじゃないか。ノルディックお前の恋人か?」

「違います! ディに失礼でしょう。彼女にはオレだけじゃ心許ないから、一緒に来てもらったんです」

「優秀なんだな。なるほどねぇ。ずいぶん変わったオーラのお嬢さんだ」

 しげしげとクロイツ・ダンはディを不仕付けに見つめていたので、立ちはだかるように移動する。

「話はメールした通りです。約束は忘れていませんよね?」

「忘れていないが、まさか、本当に実現させるとはね」

「オレの夢ですから」

「確かに夢だったな」当時を思い出しながらダンは言う。「良い目だ。契約書は明日にはできる。また来てもらうことになるが、かまわないな」

「ありがたいです」「よろしくお願いします」

 二人はそういいながら、頭を下げる。

「そういう訳だから、イエガー、頼んだぞ」

「……分かりました」

 侮蔑した態度でノルディックに鋭い視線を送ってくると、イエガーは二人に挨拶すらすることなく部屋を出ていった。

 社会人としてどうなんだとノルディックは自分のことを棚に上げつつ思うのだった。

「すまない」ダンは肩を竦める。「法務担当としては優秀なんだが、頭が固くてな」

「気にしませんよ。物理的に何かされたならやり返しますけれど」

「まったくログナー向きな性格と闘志だな」

「そうですかね?」

「スカウトしただろう」八歳の頃に。

「ノルディックをログナーにですか?」

 それを聞いてディは驚いて訊き返していた。

「こいつは八歳にして、俺を負かすほどの怪物だったんだぞ」

「オレは子供ながらにとんでもないことやらかしていますよね」

「ようやくこうして会えたんだ。あの時のリベンジをさせろよ」

「本気ですか? いいですけれど、ダンは年だし、オレも十年近く修行していませんよ」

「お互いにハンデだろう」

「負けるつもりはありませんよ」

「そう来なくちゃな。ついてこい」

 クロイツ・ダンがそういうと左の扉が開いた。

 会談すらしないまま、急な展開だった。ただでは済まないとは思っていたけれど、ディは完全に置いてきぼりだった。楽しげにダンは中に入っていくと、ノルディックは両手を合わせすまないとディに謝罪する。

 サーリエスは隣室から紅茶と茶菓子が乗ったトレーを運んできたが、それに気づき隣室に戻るとスポーツドリンクと救急箱を持って現れ、ディを伴い隣室へと入っていくのだった。


 隣室はトレーニングルームになっていて、所狭しにトレーニングマシンが並んでいる。

 どれだけ鍛えているんだろうとノルディックは思った。

 さらに奥にある扉を抜けると高い天井に広々とした空間が広がっている。外周は四百メートルトラックが八レーン作れる広さがあると説明された。

 壁にある操作盤のボタンをサーリエスが押すと競技仕様の広さの畳が現れる。

 ノルディックは用意されていた白い道着に着替え、銀の髪を後ろでまとめていた。待ち構えていたスペースジャケット姿のままのダンを見据えると、畳に上がる前に一礼して中央に進み出た。

 ディは畳に正座しそれを見つめている。

 サーリエスは審判役として二人にルールの説明をしているが、急所狙いこそ禁じているが、ケンカに近いどちらかが気絶するか参ったというまで続くなんでもありの戦いである。

 試合のすべてを見逃すまいとディは背筋を伸ばし、戦いの行方を見守っていた。

 他流試合はかなり緊張感を強いられる難しい戦いであると聞いている。有段者であり強い二人の試合は一瞬で決着が着くと思われ、そのやり取りを見逃すまいとディは二人の姿を追うのである。

 些細な仕草でもあまりにも早すぎて本来であれば追いつけない動きもディはカメラも無しに見ることが出来ていた。驚くべ動体視力だった。

「ちゃんと鍛えているようで安心したよ」

「ダンさんこそ、毎日鍛えていたんだろう」

「そりゃあ負けたくないからね」

 サーリエスの「はじめ」という言葉とともに二人はかまえた。

 ダンはボクサーのようなファイティングポーズをとっている。

 ノルディックの様子を窺うように軽く上下にステップして、間合いを計っていた。片やノルディックは半身になりながらも根を張るように足を広げてダンを待ち構えている。

 先に動いたのはダンだった。

 少し前かがみになりながら腕を盾のようにして突進してくると、左右の腕を伸ばしてノルディックの顔面をとらえようとする。

 彼はただ左右に顔をほんの少しだけずらすだけで、その拳をかわしていこうとするが、それを見越していたかのように、腕の軌道をずらしてくる。

 厄介な動きだ。頬を掠め銀髪がいくらか持って行かれるが、さらに右足で踏み込み、ダン氏の伸びた腕をとらえ肘を折ろうと掴みかかるが、それを寸でのところで腕を引っ込めてダンはやり過ごすと間合いを取った。

 数秒間の攻防にディは手が汗ばむのを感じる。

「まったく末恐ろしいな」

「捕まえたと思っていたんですけどね。流石です」

 二人はニヤリと笑い合う。

 今度はノルディックから仕掛けた。

 ローキックで足を蹴りに行きながら、さらに踏み込んで打撃を加えようとする。

 ダンの足は根が生えたように動かず、胸元への打撃も踏み込みが甘く決定打にはならない。まるで鉄板を殴ったような感覚だった。

 攻撃を受けながらも上から両手でノルディックの道着を掴みかかろうとする。骨身を削ってでもノルディックをねじ伏せようとしていたが、ノルディックはダンのアストロスーツの襟首と袖口の隙間にそれぞれ左右の親指を突っ込むとがっしりと掴み、軽々と百キロはあろう巨体を投げて地に這わせる。背中から落ちることは防いだようだが、うつぶせになったその延髄のあたりに手刀を入れる。

 寸でのところで止めた手刀をうなじに感じながら、ダンは「参った」と両手を上げる。

 攻防もすさまじいものであったが、力と技のぶつかり合いに、ディは惜しみない拍手を送っていた。

 立ち上がるとノルディックに駆け寄り「大丈夫ですか?」と声を掛ける。

「ちょっとくらったけれど問題ない」

「まったくとんでもない野郎だな。本当に修練を積んでいなかったのかよ」

「ダンさんだって、年齢を感じさせない動きでしたよ。本当に鍛えていたんですね」

 サーリエスに手当てを受けながら差し出された手をダンは握り返していた。


「デュエルナ嬢も何かやってみないかい?」

 ダンは思惑もあって、ディに声を掛けてきていた。

「おい!」

 気色ばむノルディックを無視しダンはディに話しかける。

「見ているだけではつまらなそうだからな、君も何かやってみないかい?」

 二人の戦いに触発されていると気付かされたのがディは恥ずかしく、顔を少し赤らめていた。

「格闘技ではなかろうが、何かしらスポーツをやっていたのだろう?」

 姿勢が良かったし、ぶれない体感の良さを感じていたのである。

「身体を本格的に動かしていたのはハイスクールまででした」

「ブランクがあると言いたいのだろうが、君の得意でいいから対戦してみないかい」

「得意ですか」

「何かしらあるだろう?」

「無視していいぞ」

 ダンは負けず嫌いから、ノルディックを巻き込んでリベンジをしたいだけだと思い込んでいた。

「バスケットボールでよろしければ」

「ならばノルディックとサーリエスを交えてやろうじゃないか」

「試合したばかりで大丈夫なのかよ」

「お前だって問題ないだろう」

「いいのか、ディ?」

「ノルディックがいれば大丈夫です」

 全幅の信頼を寄せる笑顔だった。

 サーリエスのこともちゃんと理解したうえでのことだと分かってしまう。

 ディはサーリアスに案内されてスポーツウェアに着替えてくる。

「本当に大丈夫か?」

「十分間とはいえ体力がもつとは思えませんが、ノルディックを信じていますので、お願いします」

 それだけ期待と信頼を寄せてくれるのなら、応えなければ男が廃るとノルディックは頷いた。

 ツーオンツーでスリーオンスリーのルールで対戦しようとしていた。

「ひとつお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「何だ?」

 ルールかハンデのことだろうと思っていたダンだったが、ディの話は違っていた。

「私たちが勝ちましたら、一つお願いを叶えて欲しいのですが、よろしいでしょうか?」

「無茶なことでなければ」

「はい」満面の笑みをディは浮かべる。「お願いいたします」

「何をやろうとしているか知らないが、大丈夫なのか?」

 ノルディックはディに耳打ちする。

「はい。私はルディックのお役に立ちたいのです」

「無理はするなよ」そうでないとオレがオガワさんに怒られる。

「ノルディックを信頼していますから」

 準備運動代わりにストレッチをしたディは笑みを浮かべてくる。

 ディはバスケットボールを受け取ると床からせりあがってきたゴールとコートラインを確かめながら、二度三度と感触を確かめるようにシュートをしていた。

 ジャンプする姿はこの場に居合わせた三人が見惚れるほど優雅で華麗だった。


 ただのお嬢様ではないと感じさせるには、それだけで十分だった。

「ディ、指示は任せたぞ」

「えっ?」驚いていたし、唇が一瞬強く結ばれたことをノルディックは見逃さなかった。

「どうした? オレは学科でしかバスケをやったことがない素人だ。戦術なんて分からないからな。経験者の指示に従った方が得策だろう」

「そ、そうですが、よろしいのでしょうか?」

「年上とかそういのは関係ない。それに勝つんだろう?」

 ノルディックは拳を前に出す。ディの身長に合わせ少し下におろしている。それに気づいたディは恐る恐る手を合わせ、俯いていた顔を上げで嬉しそうに微笑んだ。

「ついて来て下さいね」

「任せろ」

 ディとノルディックが攻撃側で試合はスタートする。

 攻守を入れ替えながら、どちらかが先に二十一点取るか、十分間で多く点数を取った方が勝ちだった。

 天井付近では審判用のドローンが飛んでいる。

 ディは何度もボールを床に叩いて間合いを取ると、スタートの合図とともにドリブルしながらゴールに突進する。ノルディックにはゴールポストのやや左いるサーリエスの右を指さして走るように言う。

 ディはパスを出すと思っていたのだろうが、ステップを踏むとダンの腕をかいくぐりゴール下へと迫る。その動きの素早さは油断していたダンも追いつけないほどだった。

 サーリエスの手をかいくぐりディはループシュートを決める。

 鮮やか過ぎた。その瞬発力とジャンプは異常ともいえる。

 身長が無いから競技生活を諦めたと言っていたディではあったが、諦めるには惜しいセンスを彼女は持っていた。

 ノルディックはディとパチンと手を合わせると彼女を褒めたたえる。

 攻守が切り替わり、サーリエスを使いながらダンは体を張ってオフェンスを務めていた。ディが何度も弾き飛ばされるほどだった。サーリエスもただものではないと思っていたが、ログナー組の信頼関係は強固なものである。

「まったくあのおじさんは年甲斐無く弱点を攻めてくるな」

「すいません。思った以上にブランクがあるようです」肩で息をつきながらディは汗をぬぐう。

 点差は拮抗し予断を許さぬ展開が続く。

「オレの方も申し訳ない。せっかくいいパスを出してくれるのに決め切れていない」

 手に吸い付くようなパスを彼女は何度も出してくる。

「すぐに慣れますよ」

 ディの空間把握能力は素晴らしく、ノルディックの位置を目線で追うこともなく把握して、パスを出して指示を飛ばしてくるのだった。

 頼もしい限りであるが、たかが十分、されど十分。ディは体力を消耗していた。発汗が異常に多く息が荒くなり苦しそうだった。

「大丈夫か?」

「私の体力が無さ過ぎてご迷惑をおかけしますが問題ありません。あと二点です。逆転しましょう。ついてきてくださいね」

 輝きを失っていない瞳がノルディックを突き動かす。

「よし、勝とう」

 その背中を優しくノルディックは押した。

 その大きな手の温もりと力を感じながらディはドリブルで仕掛けに行く。先にドリブル突進していくディの背中を追っていると、ダンとサーリエスに覆いかぶさられるようにディの進路をふさいでくるが、それも計算のうちなのだろう。

 ノールックでノルディックに素早いパスを出してくる。

 その期待に応えるかのようにノルディックはアークの外からシュートを放ちゴールを決める。同点だ。本当にディは視野が広いのだろう。身長が無くても司令塔として大成できたのではと思わせる動きだった。

 攻守が切り替わるとノルディックに指示を出して、ダン達からボールを奪いディは得点させなかった。

 次にゴールを決めれば、ノルティック達の逆転勝ちだったが、ディの疲弊も明らかだった。立っているのがやっとのように見えた。ノルディックが自ら決めようとするが、二重のディフェンスでノルディックのボールを奪いにかかってくる。

 その時、背後からディの声が聞こえてきたかと思うと、彼女がゴールポストへと走り込んでいくのが見えたのである。そこにダン達の視線が行った隙にノルディックは無理矢理シュートを打つがボールはリングにあたり上へとバウンドする。それを見越していたのだろうかディは驚異的なジャンプを見せリバウンドボールを掴むと鮮やかにダンクシュートを決めたのである。

 背に羽が付いているかのような鮮やかなジャンプと、力強いダンクだった。

 審判ドローンのホイッスルが鳴る。


 見事な勝利だが、ディは力尽きコートにへたり込んでしまう。手を付き息も荒く、汗がコートに流れ落ちていく。最後の力を振り絞ってのゴールだったのだろう。足が小刻みに痙攣していた。

 それでも心配かけまいと笑みを向けてくるディに近寄ると、無言で彼女をノルディックは抱え上げる。

 いわゆるお姫様抱っこだった。

 茫然とするディを壁近くにあったべンチまで運ぶと優しく座らせたのである。

「やりましたよ」

 照れ隠しにディは小さくガッツポーズをとる。

 無言で頷くとノルディックは両膝をつくとディのシューズを脱がせ足を掴む。

「な、なにを?」

「マッサージだよ。それくらい受けたことがあるだろう?」

「医療用マシンでは……。こうして直接触れてしていただいたのは、初めてです」

 サーリエスがディにスポーツタオルをかけ、スポーツドリンクを手渡す。言葉数は少なかったが、気配りのできる人だと感じる。

「手慣れているな。プロのマッサージ師にでもなるつもりかよ」

 ふくらはぎを上下にマッサージしたり足の裏のツボを押したりしているノルディックにダンは感心したように茶々を入れる。

「オレはプログラマーです。それに資格は持って無いですよ。姉に教えられただけですから」

 ノルディックはディの両脇に手を差し込むと軽々と抱え上げて立たせてみた。

 痙攣は無くなっていて歩くだけなら問題なさそうだった。

「失業して食えなくなったらここで雇ってやるよ」

「勘弁してください」ノルディックは苦笑する。

「良かったな嬢ちゃん」

「ら、楽になってきました……ノルディックでよかったです」

 ディは顔を上気させていた。

「なあ、デュエルナさん」ダンが声を掛けてくる。「あんたログナーにならないか?」

「何を言い出す!」

「その判断力と周囲への配慮や状況を把握出来る能力は眼を見張るものがある。さらに身体能力も優れている。体力なんてものはこれからつければいい。君の持つ能力は秀でたもので、ログナーに必要な資質がある」

「だからってここでスカウトなんてするなよ」

「サラリーマンにしておくにはもったいないからな」

「お誘いありがとうございます。私のことを認めていただけたのは嬉しいです」驚きに目を見張りながらディはダンに答える。「今までの職場は少し物足りなさを感じていましたが、私は先日の異動で得た今の場所がすごく大切であり素晴らしい仕事であると感じています。そこで頑張り自分を磨いてみようと思っています」ですので、申し訳ありませんとディは礼儀正しく頭を下げた。

「残念だな。だが生涯そのまま続けられることもないだろうから、飽きたり新しいことが始めたくなったら連絡してくれよ」

 ダンはディに名刺を渡すのだった。

「一考してみますね」

「楽しみに待っているよ」

 見るとダンはお手上げだというポーズをとり、ディを称賛してくるのだった。彼女は照れ笑いをノルディックに浮かべている。

「ノルディック、本当にありがとうございます」

「ディが凄すぎるだけだろう」

「貴方は私を奇異な目で見ないのですね」

「なんでそんなことする必要がある? 誇るべき技だろう」

「人は認められないと感じると排除してしまうのです」

「それでも理解すべきだろうしディだって説明したんだろう?」

「説明しましたが……難しいものなのかもしれません」

 ディには視野の広さだけでなく、コート内の選手すべてのスピードや能力を見極め、足音や空気の振動から位置を把握して指示とパスを出していたのである。瞬時にできる計算能力の高さも驚異的であったが、それらは普通の人には理解できないものもであったのである。

「気にするな。誇れ。胸を張れ。誰に理解されずともオレが受け入れる」

「ありがとうございます」本当に嬉しそうに晴れやかな笑みを漏らす。「さりげない言葉と仕草に感謝したいのです。私はこれまでこのように同年代で近しい方を得ることがありませんでした」

「冗談だろう?」

 ノルディックは驚いたが、伏し目がちな視線は事実を物語っているようだった。

「ノルディックの言葉と距離感が私に安心と勇気をくれるのです」

「大げさだろう」

「とんでもありません。私はこの能力ゆえにチームメイトから距離を取られてきていました」

「素晴らしい能力だろう。空間把握能力はマルチタスク操作法に通じるものがあり、サイバー空間は宇宙空間にそのものだから、必須事項だろうが」

「そうなのですか?」

「もっと己を信じてほしいな」ノルディックはディの両肩を勢い込んで掴みかかる。「誇るべきだ」

「ありがとうございます。とても嬉しいです。私の心は空虚でした。何もない空虚でしたが、貴方は心の暗闇に光をくれました。貴方のくれた言葉に私は今まで感じていた恐れが消えていくようです」

 これだけ天使のような愛されキャラが、孤独だったなんて信じられない。

「ノルディ」

 そんな愛称で呼ばれたのは初めてだった。目が点になり、変な声が出てしまう。

「へっ?」

「すいません二人の時は親しみを込めてそう呼ばせてください。彼女様には申し訳ありませんが、その手を取らせてください。恨まれてしまうかもしれませんが、このような私を見ても手を取り褒めたたえてくれる貴方の手を離すことは出来ません」

 うっとりするような目で見つめてくるディに戸惑うばかりだった。

「私の友達になってください」

 そばで聞いていたダンが大声を上げて笑った。

「そこは愛の告白だろうが」

「ノルディには彼女様がいらっしゃいますので、私としましては彼女様を大事にして欲しいのです。ぜひとも彼女様を優先してください」

「二番目でもいいというのか、愛人にしてくれとでも言っているか?」

 普通ならそう思うし、勘違いしてしまいそうだ。

「あくまで友人です」

 ディは譲るつもりはないらしい。

「どこまで踏み込んでいいのか分からないが、それでいいのであれば、オレはディの言葉を否定することは出来ないな」

 実際にこれまでディの手を率先して取り身を案じてくれるほどの男は皆無に等しく、彼ほど親身になって接してくれる人は現れていなかった。

 ノルディックは進んでディの手を取る。

「お前ら本当に付き合っていないのか?」

「友達ですよ。ノルディは結婚したい方がいらっしゃるのですから」

「だったら紹介しろよ」

「今は無理です。時期が決まったら紹介しますので、待っていてください」

「結婚式には必ず呼べよ。楽しみにしている」

「分かりましたよ」盛大にため息をつく。「ディ、あとでゆっくり話をしよう」

 疲れているディに配慮してこの日はゲームのデータをダンに手渡すと会談はお開きになる。

 ディを抱えてホテルに向かおうとしていたノルディックを彼女は何とか止めながら、ビルを出てホテルにチェックインするのであった。

 ノルディックは不思議に感じながらディを見ていた。

 付き合っている彼女は箱入り娘で世間知らずでもあったが、頭脳明晰で成績もトップクラスだった。子供っぽかったけれど、それらすべてが愛らしくノルディックは彼女を悲しませないように扱ってきていた。

 それを察しながらもディはノルディックを求めてきたのである。

 なんと奇妙な関係であろうかと考えてしまう。ノルディックは、次に会う時に彼女にどう説明したらいいのだろうかと頭を悩ますのであった。


 ホテルのレストランでのディナーはディの方から誘って来た。

 ダンから紹介されたホテルは超高級で、あてがわれた部屋もスイートルームだった。あまりにも高級すぎてノルディックは落ち着かなかった。

 先にレストランに入りディを待つのだが、ドレスコードでもあるのかと思わせるほど席に着いている客は皆フォーマルな服装であるような気がして、ラフな出で立ちのノルディックは浮いてしまっているように感じていた。

 一端部屋に戻って着替えた方が良いのかと考えていると、周囲の視線が入口に集まっていく。

 ドレス姿のディが入ってきたのである。青いドレスは胸元や袖口に刺繍が施されていて似合っていた。

「着替えてくる」

 彼女が席に着くと同時にノルディックは立ち上がろうとするが、それをディは止めた。

「一人にしないでください」

「ああ」虫がよって来るか……。

 周囲からは好奇の眼差しが向けられているのが誰の目にも明らかだった。

「ディに恥をかかすような格好で済まない」

「ドレスコードは存在していませんが?」

「誘われたときに、服装を確認しておけばよかった」さらに言えばこの高級ホテルレストランである。もう少し考えて着替えてくればよかったと思うのだった。

 注文はディに任せることにした。

 メニューを見ても名前から想像できそうな料理がなかったからだ。

 ディが注文してくれたワインがワイングラスとともに運ばれてくる。何年物のどこの産地だとか言われても理解できるものではなかった。

 向かいの席に座るディとグラスを合わせる。座る席は窓際で眺めも良かったが、とても雰囲気を味わえる状況ではなかった。

 礼儀作法にはかなっていないだろうと思いながらもワインを一気に飲み干した。

「お気に召しませんでしたか?」

 不機嫌そうに見えたのかもしれない。ディはそう訊ねてきた。

「違う、違う。一度、こういった高級レストランに入ったことがあったんだが、マナーが分からなくて困ったし、彼女に不愉快な思いをさせてしまったことがあってな」

「彼女様はノルディをもてなしたかったのです。それに貴方が普段使っていらっしゃるお店を知らなかったのではありませんか?」

「良く分かるな。店を出た後、あいつは涙目になって謝ってきた」どうなだめればいいのか分からない頃だった。「大衆食堂や、肩肘張らないところが良い」

「そういったところもあるようですから、明日はそこで祝宴を行いましょう」

「いいのか?」

「行ってみたいです。連れて行ってくださいね」

「本当に大事にされていたんだな」

「触れるのも憚られるように」ニコリと彼女は笑う。「愛は感じましたが、触れ合えるぬくもりも感じてみたかったです。ハグ出来たのも母と妹くらいでしたから」

「父親は?」

「契約結婚で私が生まれてすぐに関係はなくなってしまったそうです。妹ですか? もちろん違う男性の方ですよ。妹とは三つ違いですが、その方と暮らしていた間に抱きかかえられたとしても覚えていません」

「ディが近寄りがたかったわけではないだろう?」

「私にそのようなつもりはありませんでしたが、ジュニアの頃から成績もトップクラスでしたし、ハイスクールに上がる頃には私のあのような能力も開花していました。私は皆様とバスケットボールを楽しめればよかったのです。強豪校でもなんでもありませんでしたし、楽しく出来たならと思っていたのですが、私のプレイにも問題があったのでしょう。辞めていく方も多くいました」

 最上級生に上がったころにはチームは解散状態であったらしい。

「身体にサイバネティックス技術が使われていたり、部位に機械が埋め込まれていたりする訳じゃないんだろう? 問題があるというよりはディについていけなかったんじゃないのかな。プロを目指しているとでも思われたんだろう。ディに迷惑かけたくないから辞めたんじゃないのかな」

「そうなのでしょうか?」

「嫌われたり問題があったわけじゃないはずだ。チームメイトも良かれと考えての行動だったとしか思えないな。優しさのすれ違いってやつだ」

「その気持ちに気付けなかったのであれば、それも辛いですね」

 因みに先ほどのバスケの試合でノルディックがディにしていたハイタッチもやったことが無かったらしいし、お姫様抱っこもマッサージも初体験だったというから驚きである。身体を張ったガードや何気なく掛けていた言葉も新鮮なものであったようだ。

 それらが余程嬉しかったのか、ディの『お友達』発言が飛び出した訳である。

「でも、そのおかげでこうしてディと出会えた。そのまま続けていたら、こうして飯を食う機会すら無かっただろうしな。良い方向に考えよう」

「自然にそう言ってもらえる彼女様がうらやましいです」

「まだまだ分からないことだらけだし至らなさすぎるがな」

「少しでかまいませんので、その気持ちを分けていただけると嬉しいです」

「オレでいいのか? 恋人がいるんだぞ? 優先順位はあいつが一番になるんだぞ。もっといい奴がいるはずだろうしな」

「まだノルディだけです。ですから私は貴方に教えていただきたいのです。これまで経験し得なかったことすべてを、お友達として」

「まあ友達だなんて今更な気もするが、経験上、口にしないと伝わらない、分からないこともあるからなぁ。オレでいいのなら、青春っていうやつを今更になるが、色々と体験し、謳歌してほしい」

 ノルディックはディから差し出された手を自然につかんでいた。

「彼女様には弁えるつもりです。どうか友達としてお願いしますね」

 花の咲いたような笑顔でディは応えるのだった。

 世にも奇妙に見える関係は、ノルディックが結婚するまで続くのであった。


 翌朝、二人はビュッフェモーニングを済ませると、連れだって評議会ビルに向かう。

 クロイツ・ダンの執務室ではなく小さめの会議室に二人は通される。

 入るのと同時にネットワークから完全に隔離された空間であるとノルディックもディも認識させられた。

 すでに席に着いていたダンとイエガーが待ち構えている。

 二人が対面の席に着くとイエガーがタブレットを二人の前に差し出してくる。

「サインを」

 そういわれてノルディックがペンに手を伸ばすのをディが止めた。

「何か問題でも?」

 寒々とした声でイエガーが問いかけてくるが、ディは無言でタブレットの文言を見つめる。

 おもむろに端子を引っ張り出すとタブレットに取り出した端末に直接接続させた。

 デーブルの上に幾重にも折り重なった文書が展開し表示されていく。ディはそれらを必死で読み解いていると、次第にイエガーの表情に焦りの色が浮かんできていた。

「サインをして下さい」

 務めて冷静にイエガーはサインを促していたが、ディは眼を細めていき、表情から笑みが消えていく。怒りなのか? ノルディックは始めて見るディの表情に驚きを禁じ得なかった。

「お訊ねいたします」

 ディはダンを見て発言の許可を取る。

「言ってみたまえ」

「ありがとうございます」イエガーの顔を見つめる。「イエガー様、この二次使用の項目はどのような意図があってのことでしょうか?」

「グッズなどのマーチャンダイジングのことに関してでございます」

「それならば十三項aと十五項は必要ないと思われます」

「いえ、絶対に必要です」

「使用を制限するためにですか?」

「どういうことだい、ディ?」ノルディックは訊ねてくる。

「これは今回に限りネーミング使用を認めるもので、その後の使用は認めないものです」

「何を言い出すのかと思えば」言いがかりだと言わんばかりであった。

「弊社が考えているその後の展開を阻止するための項目であります」

「ダンさん、どういうことだ?」

 ノルディックがダンを睨みつける。

「分かってはいたが、イエガー、そこまであからさまな行為に出るとはね」

「おかしいだろう!」顔を真っ赤にしながらイエガーは激高のあまり立ち上がってディを指さす。「一介のプログラマーに読み解けるはずがないんだ」

 この部屋はネットワークから遮断され孤立している。巧妙に隠した文言を支援も無しにただの営業風情が読み解けるはずがないと自信を持っていたのだろう。

 看破されて怒りの形相をあらわにしていた。

「私は一社員しかすぎません。営業もしたことがございませんし、ライセンスこそA級は持っていますがただのプロクラマーにしかすぎません。ですが、文書は読み解くことが出来ます。難しい言葉を使い言い回していますが、シンプルに翻訳することが出来れば簡単になります」

 なんか凄いことをさらりとディは言っていることにノルディックは気付いた。

「それらを必要な項目ごとに並び替え、考えますと、名称の許諾と使用に関しての項目におかしなところが出てきました。私が秘書課に研修に出ていたころに弁護士資格を持つ方と法務担当の先達から教えられていたことがございます。

 一に隅々まで契約書に目を通せ。些細なことでも見逃すな。

 一に項目ごとに筋道をつけるように。関係性のないことでも繋がりはある。

 一に不利益と思えたのなら、とことん問い詰めよ。

そう教えられました。二次使用に関しての項はそれぞれ独立しているように見えますが繋がっていて使用を制限し、今回限りのものであると言っています。これはグッズなどの使用制限ではなく今後一切の使用をさせないという意思の表れであることは明白です」

 それを破ると相当額の違約金を請求できるという項目もさらに付け加えられていて、TDF側がサインすると隠されていた項目も現れるように仕掛けられていた。

 ディは部屋が寒々とするほどの冷淡な言葉をイエガーに投げつけている。

 肩を小刻みに震わせ何も言えないでいるイエガーに代わってダンが豪快に笑う。

「さすがだな」何度も膝を叩いていた。「思った以上にすごい嬢ちゃんだったようだな。イエガーこれで納得したか?」

「これらの名はこんなちゃちな物に貸し出せるものではありません。一度きりでも譲歩したつもりです」

 絞り出すようにイエガーは言う。

「諦めろ。俺もサインする気はなかったぞ、こんな契約書は俺が指示したものと違うからな」

 驚きの表情でイエガーはダンを見ている。

「大叔父!」

「どこがちゃちだ? キャラ表や設定資料に愛が溢れまくっているだろうが」

「当然です。当社の担当が全身全霊を掛けて取り組んでいますもの」

 大声を上げるイエガーにディは誇らしげに言うのだった。

「すまないなノルディック。こいつは初代を敬愛しすぎているのだ」

「それは分かります。オレだって好きなものを汚されたくないですからね」ノルディックはイエガーに向き直る。「イエガーさん、貴方のお眼鏡にかなうようオレは精一杯頑張って良い作品を作り上げてみせます」

 精神誠意ノルディックは頭を下げたが、それでもイエガーは納得していないようだった。彼を納得させるのには時間が掛かりそうである。

「オレはこいつがガキの頃から変わらず情熱を傾けて向き合ってくれているのが嬉しいんだよ」

「ダンさん」

 その言葉にノルディックの目にはすでに涙が浮かんでいる。

「ほれ、さっさと俺が用意した契約書を出せ」

 渋々ではあったがイエガーはデータを入れなおしたタブレットを差し出してくる。

 本来の契約書はかなりシンプルなものだった。

 ディはそれを読み終えると、花が咲いたような笑顔を見せ、ノルディックにサインを促した。

 ここにネーミング使用に関する許諾は得られたのである。

 ダンとノルディックはがっちりと握手を交わす。


 イエガーが退出していった後、ダンはディに声を掛ける。

「なあデュエルナ嬢。やっぱりあんたログナーにならないか?」

「おい、ダンさん!」

 突然のさらなる申し出にノルディックは口にした珈琲を吹き出しかけ、何とか飲み込むと声を上げた。ディは口元に手を当てながらも驚いた表情でクロイツ・ダンを見ていた。

「その気風の良さと豪胆さは、ログナー向きだろう」

 体力の無さはこれからいくらでもカバーできる。

「私はこれから過ごすであろうあの場所を楽しみにしています。あそこは私に必要な居場所になるでしょうから。これから出会う方々を支えられるプログラマーでありたいと思うのです」信念とともにディは言う。

「残念だ」

「それと昨日のお願いをかなえていただきたいと思います」

「何だろう?」

「ワルナー太陽系事件での最終決戦の交信記録をお聞かせ願えませんか」

 とんでもない要求をディは口にするのだった。


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