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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会③相克 10-6

 6.追憶~二人の出会い



 この時のキャスティは夫の言葉から、彼との出会いを思い返していた。

 それは天文学的な偶然から出会ったと思う。お互いに違う太陽系で生まれ育ち、それぞれの理由からたまたま立ち寄った星で邂逅することになったのである。

 偶然とはいえ、何か導きがあったとしか思えない出来事だった。


「ねぇ、やっぱりどこかで道を間違えたんじゃない?」

 キャスティは小声で友人アンナ・トーデに言う。

「だって案内通りに来たのよ」

「だけど本当は下りているはずなのに私達登っていない?」

「アップダウンはあるから気のせいよ」

 道の先は緩やかだけど上り坂になっているし、高い頂も見えている。

 キャスティとアンナは大学の夏季長期休暇を利用して旅行を計画し、地元太陽系から遠く離れた風光明媚とされた観光惑星モードリンゲにやって来ていた。トレッキングが趣味のキャスティは滞在期間の一日を使いアンナとともにドラーゲン地方の峡谷と海を眺めることが出来る山頂の展望台を目指して歩いた。

 ホテルから二時間ほど宝石のような川や翡翠やルビーに例えられる沼を見て山頂に着き眺望を堪能すると、その裏側の景勝地を見ようと来た時とは反対側のルートを使い下山する。一本道だとホテルの人から教えられていたので簡単に考えていたが、一時間かからず着くはずの湖にたどり着くことが出来ず三時間余りが過ぎていたのである。

 端末で位置情報を確認するが、途中であるとしか示されていない。

 不安になっていた時である。

 道の端に寄りながらアンナと話をしていると上の方から下りてくる人がいる。

「あの人に訊いてみようよ」

 アンナが言ってくれたので、キャスティは緊張しながらその人が近づいてくるのを待つ。

 黄土色の髪と同じくらい伸びた髭が目立つ長身の男だった。

 見た目から年齢は判別がつかなかったが、背には腹は代えられない。挨拶をしなが声を掛ける。

「何だろう?」

 彼は足を止めてこちらを見る。声は優しかったし、目も微笑んでいるようだった。

「ここはどこでしょう?」

 少し安心してキャスティは訊ねる。

「トウラデン山への登山道ですが?」

「トウラデン山?」

 アンナが検索をかけていたが、表示されないようだ。

「どちらを目指していたのでしょう?」

「マデスクの展望台から湖を見てホテルに戻る予定でした」

「マデスク? ミドーラ湖でしょうか?」男性は少し考え込むように訊ねてくる。「ミドーラ湖からかなり離れていますし、だいぶ奥まで来てしまっていますよ」

「本当ですか?」

 歩きづくめだったし心細さから気が張っていのもあり、疲れが押し寄せてくるようだった。

「地図は、ああアナログな紙の地図は持っていますか? それともルートをインストールしたりは?」

 その問い掛けに二人は首を横に振った。

「ホテルの人は一本道ですから、間違えないと言っていましたので」

「ミドウ山の山頂からの往復であればそうですが、湖を経由したルートは何本か分岐があったと思いますよ?」

「き、気付きませんでした……」

「ああ、今の時期だとドナー山の山岳ルートがメインになっているから、湖へのルートは側道になりがちなので見落としたのかもしれませんね。案内板もありませんから」

 責めるような口調ではなかった。逆にゆっくり安心できるように話しかけてくれていたのにキャスティはホッと胸をなでおろす。

 笑みを絶やさず優しい口調で彼は、紙の地図を出して今の位置を説明してくれた。それによると湖からさらに奥に入り、ドナー山山頂を目指すルートに入っていた。

「ずいぶん遠くまで来てしまったのね」

「この辺りはここからは見えませんが露出した鉱石の影響でGPS機能を調整していないと迷いやすいのですよ。あなた方と出会えてよかったです」

 彼はこの辺りの山岳ガイドもしているという。

「遭難することもあるという事ですか?」アンナは目を見張る。

「もしかしてこのまま道が分からず迷っていたことになっていたんでしょうか?」キャスティも驚いた。軽いトレッキングのはずだったのに……。

「山道から外れて行方不明になった方もいたと聞きます。登山申告はされていますか? なるほど。最悪、ホテルから遭難申告が出されるかもしれませんね。連絡は……」

 彼は端末を見て顔をしかめた。電波状況は良くないらしい。それでもしばらく歩くとホテルには連絡が付いた。

「とりあえず下山コースを取りましょうか」

 彼は親切に案内役を申し出てくれた。

「失礼ですが、あなたもご予定があったのでは?」

「放って置ける状況ではありません。本来であれば山脈を縦走する予定でしたが、街へ戻ることにしましょう」

 申し訳ないことをしたと思いながらも、彼の申し出にキャスティは安堵するのだった。

「よかった~。ちゃんと戻れますよね?」

「大丈夫ですよ。今からだと日が暮れてしまいますが、戻れるように案内します」彼は細い目をさらに細めて笑いかけてくる。「それよりも歩き通しだったでしょう? 休憩した方がいいですね」

「私達、道具なんて持っていませんよ? 救難要請した方が早いんじゃないですか」

「私のがあります。それにケガをしたわけでもないのに救難ヘリを要請したりすると、それはあなた方の負担になってしまいます。学生さんでしょう? 請求額を見たら目が飛び出ますよ。日は暮れますが、食料もありますし、ライトなどの装備も持っていますから無理せず下山いたしましょう」


 友人は彼の申し出に少し困惑していたが、私は出会った直後から彼に好感を抱いていたし、その話し方や態度から信頼できる人だと感じていた。

 確かに男性と共に下山するのは勇気がいることだったが、言葉通り安心できた。

 運が良かったのだろうと思う。

 話が合ったし、休憩中も下山している時も楽しかった。

 その場で連絡先を交換すると、旅行中毎日彼のアルバイト先に会いに行った。自分がこんなにも積極的になれるのだと、アンナにも呆れられたし、自分自身驚いていた。

 大学に行っている時はアルバイトをしたりして、貯めたそのお金で長期休暇には彼のところに会いに行くという事を繰り返す。決して平たんな道のりではなかったけれど、付き合って三年以上が経ち、ようやくこうして一緒になることが出来た。

 彼、ロイスと歩く人生、ここでも様々なことが思い出となり続いていくのだろう。


「良い眺めね」

 借り受けた家は、ちょっとした高台にある。

 トラッティン行政府のある首都エインも産業博覧会会場も良く見えた。

 広くて見晴らしも良かったが、エインから少し遠いことが難点といえば難点である。まあヘリを使えばすぐだし、エアカーを飛ばせば一時間くらいだから問題はないだろう。

 キャスティにとってはここが職場にもなる。

「ここに菜園を作ってもいいかしら?」

 キャスティはロイスに訊ねる。

「もともと敷地は農場にすると言っていたから、問題ないだろうが、ヤマネさんに確認してみるよ」

「何を育てようかしら」キャスティは菜園を想像してみる。「トラッティンでは何が育つのかしら?」

「それも確認してみよう」

 ロイスは早速、ミタグラ社のヤマネ副社長に連絡を入れてくれていた。

 すると次の日にはトラクターが来て庭の一部を耕してくれたし、種や苗木を持って来てくれるのだった。

 キャスティは喜び、仕事の合間を縫って菜園作りに励むことになるのだった。


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