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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会③相克 10-5

 5.トラッティンの風景



 アミキ・クレイオーは長距離輸送班の営業課長から待機中に呼び出しを受けた。

 前回の輸送任務で何か苦情が入ったのだろうかと戦線恐々としながら営業課長室に入っていった。

「何かありましたか?」挨拶もそこそこに訊ねてしまっている。

 銀河通信局に転職して四年。内務職から大型特殊免許を取り長距離輸送部門に配属されるまで二年あまり時間が掛かり、まだベテラン輸送局員と比べれば若葉マークが取れていない新人だった。それなりに仕事をこなしていたが自分の気付かぬうちに失態をやらかしているのかもしれない。

 先日ローカルネットではあるが、ニュースに出てしまったことは先輩パイロットから余計なことは言わない方がいいと忠告されていたこともあった。

「身構えなくてもいい」

 先日叱責を受けていたので、それもあるのだろう。身をこわばらせていた。

「では?」

「緊急で特別輸送の依頼が入ったのでクレイオー君に頼みたい」

「自分がですか?」

 通常の輸送ルートの仕事以外にも企業などから個別の輸送依頼が入ることがあったが、やりたいなと思いながらもそれらはベテランパイロットに回されることが多いので自分にそれが回って来るとは思わなかった。

 ようやく任せられるのかと舞い上がりそうになっていたが。

「みんな出払っていてね。待機は君しかいなかったんだよ」

 その言葉にガッカリしながらも、それでも巡ってきたチャンスはものにしたかった。

「分かりました」

 平常心を保ちながら営業課長に応えた。

「それで、どこへ?」

「ジプコからの依頼だ。行き先はトラッティンへの機材搬入となる。まずは惑星ティーマに飛んでくれ。そこで機材を受け取りトラッティンへ輸送して欲しい」

「ドラウディを使うんですか?」

 銀河系全図を思い出しながら位置関係を脳内整理していく。

「人員輸送ではないし、ジプコ側の注文もあって、積載容量に余裕がありすぎるが、特殊輸送も可能なバップを使うことになる」

「分かりました。整備中の自機を使ってという事ですよね?」

「整備班には伝えている。準備してすぐに出発して欲しい」

 アミキはよく通る声で答えると営業課を後にする。

 初めての個別輸送任務だったからジプコとティーマの名前は彼の中に刻み込まれることになる。


 キャスティ・カインズは結婚を所属する部署や関係者から祝ってもらった翌日からTDFで仕事を始める。部長秘書ナーブ・クリスタル・リクスフェンからTDF総務と経理の仕事を教わることになった。

 部長秘書なのに総務と経理を担当していることにキャスティは驚いた。そこからTDFの人員構成の歪さを思い知らされてしまう。この規模で人が少ないのは分かるのだが……異常だ。

 役割分担としては、得意な分野から総務をクリスが、経理をキャスティが請け負うことになる。部の予算管理を始め、給与に関しても見ていかなければならない。特に残業代などはホーカル・ジェイスキンと協力しながら給与を支給し、購入物品などを如何にして必要経費として落とし込めるかを考えていくことになった。

 新人なのに重要なポジションを任されることになってしまう……。

 キャスティはその全体像が想像出来たので尻込みしそうになったし、最初に総務全般を担当していたクリスから話を聞かされて、恐れ戦いた。

 クリスやホーカルが手伝ってくれるとはいえ、部長代理であるオガワさんの『大丈夫』『フォローする』という言葉がなければ大事なことから逃げ出していたかもしれない。

 以前のロイスの様に。

 初日から頭はパンクしそうだった。いや、頭から煙が吹いているのでは思った程だ。

 新人研修期間を終えてキャスティはロイスとともに太陽系マイルズの惑星トラッティンへと赴くことになる。正式な辞令は銀河標準歴三百六十年四月一日からだったが、トラッティン産業博覧会開催日まで惑星トラッティンに常駐して支社や地元企業と連携しながら設営などの作業を行うことになる。

 キャスティにとってプログラムや機器設計と設置は専門外で手伝うことすらできないだろうが、それでも夫の健康なども考えトラッティンでロイスを支えることを躊躇なく選んだ。

 彼女はトラッティン支社とTDFを繋ぐラインでクリスと連携を取りながら経理をこなしていくことになる。


 太陽系マイルズへの航行ルートは豪華旅客船を使い銀河系の星団や星雲を観光しながらの旅となった。客室もエコノミークラスではなく一等船室で、その豪華さにキャスティは目を見張った。

 通常より半日ほどトラッティンへの到着は遅れるが、フェリウスは宣言した通り新婚旅行になるように宇宙旅客船とルートを選んでいた。

 ロイスとキャスティは改めて手配してくれたクリスと彼女に感謝した程である。

 本来は直接、トラッティン宇宙港に降り立つところであったが、反対側の半球にある宇宙港に下りると、チャターしたヘリコプターを使ってトラッティンで住むことになる住居を直接目指すことになる。それまではトラッティン観光遊覧飛行だった。

 本来の入国審査は、今回の場合長期滞在になるのでかなり時間が掛かるものなのである。長期(半年以上)に渡る滞在となり住人に近い扱いになってしまうのだが、フェリウスは事前に行政府に働きかけ審査が早く済むように手続きを取っていた。ロイスとキャスティはすんなりとゲートを通ることが出来た。

「いつの間に免許を取ったの?」

 操縦する夫を見ながらキャスティは訊ねる。

「就職してからだよ。必要になると思ってね」

 トラッティンへの常駐を見越してだろうけれど、簡単ではない免許取得とその行動力に呆れるしかなかった。

「緑豊かな星なのね」

 眼下の森と緑に覆われた大陸を眺めながらキャスティが言うとロイスも頷いた。

「ここに住んでもいいのではと思えるくらい自然にあふれている」

「海はないのね」端末で惑星情報を見ながら、惑星上の位置を確認していた。

「陸地が八割だし、海に見えるところは淡水で漁業も行われているけれど、開拓惑星だけあって、開拓地がほとんどだよ」

 耳にしたワイヤレスイヤホンからは、近くにも開拓者が築いた村落があると説明していた。広大な湖を低空で飛行し、雪を抱いた山脈を越えていく。

「あの山なんて登ってみたいんじゃないの?」

 惑星の最高峰があるとアナウンスされた。

 山々の山頂付近の氷河を見ながらキャスティは自分も登ってみたいと感じていた。

「将来的にはこういった星への定住をお望みかしら?」

「定住だなんて、そんなのはまだまだ先の話だよ」

 ロイスはキャスティの頭に手を乗せながら微笑んだ。

「休日にはあの山に登ってみるつもりでしょう?」

 最高峰の頂を指さしながら彼女は笑う。

「いまは無理だけど、そうだな産業博覧会が終わったら二人で登ってみようか」

 一万二千メートル級のトラッティン最高峰の山を見つめながらロイスは頷いた。

「大変な時期だものね」真摯なロイスを見て、キャスティは喜んだ。「まだ半年以上先だから分からないけれど、まとまった休みが取れたら行ってみましょう。まだ最高峰目指しは続けているのでしょう?」

「当然だよ」

「牧歌的だし、ハイ&ロー・ドナンよりも自然にあふれているわ。ロイスが好きそうな惑星よね」

「トラッティンは両ドナンよりも開拓の歴史があるけれど、開拓惑星から先進的な太陽系へと脱却を図ろうとしている」

「でも、それはトラッティンを開拓してきた祖先を否定することにならないかしら?」

「キャスは、どうしてそう思うんだい?」

「だって開拓民よ。農業や畜産を糧としてこの星を切り開いてきたのよ」

「確かに始まりはそうであっても、僕はそう思わない。開拓者が道なき道切り開き未開の地を開拓していったのは生き抜くためであり、この星に根付くためであった。子供達がこの星で生きて行けるように次世代に繋ぐ意味がある。いわばファースト世代は土台を築いていった」

 どれだけ開拓者は苦労を重ねながら未開の地を進んで行ったのだろう。

「その結果、惑星トラッティンは穀物や農産物の加工品がこの星の輸出産業の主力となった」

「この宙域の穀物を支えているのですものね」

 キャスティはガイドを聞きながら頷く。

「それを基盤としながらも、その子らは、それをさらに発展しようとしている。この星に眠るポテンシャルを解放しようと考えた」

「潜在能力?」

「資源であり鉱業だけでなく人の潜在的能力を活かそうとしている」

「たしかに技術や技能は、眠っているものも多いとされているわ」

「そういう事なんじゃないかな。祖先は土地を切り開いたが、その子らには未来を託した。トラッティンの子供達はその期待に応えるように、新たなる産業を興そうとしているんだと、彼らはトラッティンで産業博覧会を開催しようとしている」

 そこまで綺麗ごとではないかもしれない。

 それでもロイスは思った。

 TDFが持てる力を発揮している姿と被っているのである。さながらサナギが羽化するように、トラッティンもパビリオンで自前の産業を誇示しようと目論んでいる。その手助けが出来るのであれば、この場にいる意味もあるし、幸せなことであるとロイスは思うのであった。

 ただそれは相当なプッシャーになることではあった。

「私達は彼らの力になれればいいのよね」

 キャスティが微笑みかけてくれる。

 あの時見た笑みと被ってしまうのがロイスには分かる。

 地平線にはトラッティンの首都が見えていきた。日は傾き始めている。高い木も多いのかビル群の間から緑がよく見えた。

 産業博覧会会場上空もキャスティに規模が分かるように説明しながら飛んだ。

 各企業パビリオンの外観はほとんど出来上がっているように見える。全業種百社余りが共同又は単独で参加している。敷地面積は小さな都市に匹敵し、一日では回り切ることが不可能なほどの展示がされている。

「じっくり見るのなら一週間は必要じゃないかな」

 それぞれの企業がパビリオンに力を入れていて、人気で双璧とされているのがミネルヴァ財団系重工とコングロマリットアマデウスのパビリオンが人気と注目を集めている。トラッティン行政府もその二つの企業をメインに銀河系全域に宣伝活動を行っていた。

 そこへ注目度がアップしているのがジプコTDFパビリオンだった。

 見た目の派手さはないが、その驚異的な自然再現技術を活かし、『奇跡のシンガー』ユリウス・ドリスデンが提供してくれた曲を前面に出して人々の興味を引き始めている。リサーチ企業のランキングでは三月時点で五位にランキングされているとされていた。

 ユリウスのCM宣伝効果は大きいとロイスも言っていたほどである。

「万博ではなく、産業博覧会の開催を行政府の太陽系国家発展の呼び水にしようとしているのよね。それがどう進んでいくのかしら?」

「結果的にその手助けになればと僕らも動いているんだよ」ロイスは言う。「総括責任者のフィオーレは、地元企業と連携することでその後押しが出来ることを望んでいると思う」

「それぞれの企業に思惑があるものね。TDFならではの出展や企業アピールが出来ればいいのよね」

「僕とキャスティはその先兵として、トラッティンにこれから常駐することになるんだよ」

「責任重大よね」

 与えられた仕事量は半端なものではなかった。

 新人だからという甘えは許されそうにないくらいだ。だからこそ、キャスティは願い出るような形で辞令が出るよりも前に仕事を覚えようと出社を申し出ている。

 責任感の強いキャスティらしいとロイスは思ったし、潰れないように見守る気でいた。ロイス自身、残業三昧なプログラマー班の様にならないようにしなければならないのだが、流れで休日が潰れないようにしなければならないと感じてしまう。

 それだけ仕事量が多すぎた。

 TDFの面々も開催が近くなれば順次常駐してくれるようになるが、そうなるまではハード面を含め、ロイスが支社や地元企業と連携していかなければならない。

 責任は大きかった。

 キャスティがいてくれるという事が本当にありがたいと感じるのである。

「私も出来る限り手伝いますから、頑張りましょう」

「キャスも色々とクリスから任せられたんだろう」

「あなた方の給与や予算を管理するのよ。責任重大だわ」

 少しだけ顔を引きつらせるようにしながらも妻は笑っていた。

「産業博覧会が終わればまとまった休日も取れるようだから、その日までは我慢だね」

「ハードな出張になりそうね」

「休日に山で迷子を見つけてしまったら大変だろう?」

 ロイスの言葉にキャスティは目を見張り、すぐに笑みを浮かべ彼の手を取る。

 二人はヘリを降りると、館へと入っていった。

 荷物はすでに届いていたので、荷ほどきをして明日からの仕事に備えるのだった。パビリオンにTDF披露宴で使った機材が明日には届き、その通信ラインを設定し運用状況を確認するという重要な仕事が待っている。



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