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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会③相克 10-3

 3.オリエナとの初顔合わせ



「社内対応で、何であたしが?」

 そう思いながらデータ資料を詰め込んだ愛用の業務用タブレットを手にあたしは応接ルームへと入っていく。

 部長からの直々のご指名だったのも解せない。何か勘繰ってしまう。

 所属するラインオペレーターは大きく通信管理部門と営業部門に分かれている。

 あたしことオリエナ・ヒルデルナは営業部の窓口営業部署に所属していた。いわゆるお客様対応部署である。営業の他、苦情処理や個人からの問い合わせに対応するのが仕事だった。

 ジプコが銀河系レベルで提供している通信やネットシステムは契約し回線をつなげれば一般的に誰にでも利用できるものだが、会社や個人的に専用のネットワーク回線を利用したがることがある。共通ラインでは利用量やデータ量によって見た目にも分かるほど利用速度が落ちることもあり、そういったタイムラグを無くすために専用ラインを望む顧客も多くいたのです。共通ラインでは利用量やデータ量によって見た目にも分かるほど利用速度が落ちることもあり、そういったタイムラグを無くすために専用ラインを望む顧客も多くいたのである。秘匿したいこととか色々とあるものなのですよね。犯罪に使われないように監視するのも大変です。会社が犯罪に加担したと思われたくないでものね。

 いわゆる個別対応と言う奴で、我侭な話にも対応出来るレベルでジプコは専用の受付回線を用意している。通常はAIで対応しているが、そういった対応を好まない顧客もいるので、我々が出張ることになる。付け加えれば苦情などはハラスメントも含むので、かなりストレスのたまる仕事ですよ。

 どうでもいいですが、ラインオペレーターはお客様と直接又は画面越しに向かい合うため、本社所属であるが制服が存在している。

 パールホワイトのブラウスに落ち着きのある青のノースリーブのベストスーツにスカート。肩のラインには社名入りの金の縁取りがあり、スーツのボタンは緑がかった色合いで金の縁取りだった。

 スタイルは悪い方ではないはずだが、薄い栗色の長めの髪は前髪だけ下ろして後ろにシュシュでまとめただけの髪型だし、目が悪くなりがちだったので目付きが悪くなりがちで矯正用に度の入ったサイバーグラスを掛けている。個人的に着飾るような性質でもないので制服はありがたいが、身体の特に腰のラインが出やすいので着こなしが難しい。

 タバコも吸うから臭いのつかない種類を吸っていたが、それでも体臭には気を付けているし、化粧も簡単に済ませお洒落にはあまり時間をかけてはいなかったりしている。

 とりあえず室長から服装などに関しての注意は無いから現状そのまま。

 まあお客様対応に関しては、表情に乏しいからか、AIが対応しているとまで思われたこともあるし、無意識かつ反射的に余計なことも口走ってしまうことがある。直接対面であれば殴りかかれることも画面越しだから苦情程度で済んでいるだろう。それに採用半年の新人としては目標をクリアしていたし営業成績も悪くなかったので営業部門に留まれているのかもしれない。

「お待たせいたしました」

 平坦な声で応接ルームへと入っていくとドアの近くで立ち止まり頭を下げた。

「いえいえ。こちらこそ突然の申し出に対応していただき、ありがとうございます」

 顔を上げると、ソファに座っていた女性二人が立ち上がる。

 二人とも初めて会うが、見ただけですぐにどこの誰だか分かってしまう。

 今、本社内で話題沸騰中のTDFの面子だよ。

 一人はアリエー・ファムカ。金色の髪がまるで風になびいているようで、白系統の服に褐色の肌が際立つ。ティーマでは夏季に入るが、それでもそれほど暑くはないはずなのに半袖のスーツでヘソ出しに短パン姿で朗らかに微笑み挨拶してくる。その隣にはエレナ・ホナミ・ヤジマ。作業着姿でオレンジの髪が鬣のようで野性味のある鋭い視線が睨みつけてくる。

 両名とも社内裏ネットで様々な噂が流布している。

 厄介者をあてがわれたな。

 おかげで部長直々の指名だった意味が分かろうものである。この二人が来たとなればベテランでさえ尻込みするだろうな。

 もっともあたし自身何を口走るか分からないし地雷を踏み抜くこともあるから、お互い様かもしれない。

「野生児と野良犬か」

 聞こえないように呟いたつもりだったが、耳に届いたようで、野犬の目が更に鋭くなっていた。

「エレナ、落ち着きなさい」アリエーはエレナの肩に手を置く。「フィオーレに言われているでしょう。睨まないように、口角を上げなさいと」

「分かっているよ」ボソリと小声で呟いた。

「失礼しました」

 慇懃に腰を曲げて謝罪する。

「名刺交換は不要のようですね」

「はい。アリエー・ファムカさんとエレナ・ヤジマさんですよね。TDFでの噂はあまり聞こえてきませんが、バレーボール大会の活躍は見ていました。かなり個性的な部署だとか」

「貴女も情報通のようですね」アリエーは微笑んでいた。

 雰囲気からエレナのような好戦的な性格ではないようだ。

「どうでしょう」完全に営業モードに入っている。笑顔を張り付けているが油断なく対面の二人を見据えていた。一挙一動も見逃すまいと観察してしまう。「今回担当させていただきますのは、ラインオペレーター営業部のオリエナ・ヒルデルナです」

 一応会釈だけはしておく。

「貴女が」アリエー・ファムカは意味ありげにあたしを見てくる。

「お会いするのは初めてだと思いますが?」

「まだ内示が出ていないか」アリエーは苦笑する。「まさかこんなところで出会うとは思っていませんしたが、オリエナさんは来月四月の人事異動でTDFに配属されることになっています」

 はあ! 声を上げそうになってしまった。

 聞いてないぞ。来月の異動の話なんてまだ欠片も出ていない。

「あたしがTDFに?」

「驚かないのですか?」

「驚いていますよ」表情に出ないだけで。生贄だけでなく顔合わせも兼ねていたのかと理解した。「まあ苦情の数も多いのでいつか他に出されると予測していましたから」

「口さがない」エレナはボソリと言った。

「正直に思ったことを口にしてしまうんですよね。気を付けてはいますがどうしても」

「分かっているのなら直した方がいいのでは」

「まあ性分ですかね」肩を竦める。「それが結果的に精神の安定につながっていますから」

「ため込むのは良くないと?」

「ストレスは良くないですよ」

「それでもストレスだけでなく余計なハラスメントを生み出してしまうのでは?」

「新たなストレスをため込んでも、ストレスのひとつを減らしたいんでしょうね」

「あけすけな性格は嫌いではありませんが、これからは同僚になるので、ある程度加減してもらえると助かりますね」

 エレナを押さえつけながらアリエーは言う。

「決定事項のようですね」

「オガワさんが明言していましたから、決定でしょう」

 拒否権はないか。まあ噂通りの魔窟でなければ何とかなるだろう。

「それであたしの偵察ですか?」

「担当してくれる方を指定していません。偶然かそれともそちらの上の方が異動のことをご存じだったのでしょう。私達も暇ではありませんから」

「野犬は睨んでばかりですが?」

 話ならアリエーさんだけでいいのでは?

「この子耐性が無いから、あまり煽らないでくれるかな」

「善処します」

「あんた、営業職なんだろう。もう少し言葉遣い何とかしろよ」

「あんたもな」反射的に言い返す。「お客様でしたら敬語も使いますが、社内の人間は客じゃないわ。それに来月には同僚でしょう」

「素でいいと?」

「そういう事です。別に問題ないでしょう?」

 腹の探り合いをするつもりはなかった。

「何でオガワさんもこんなやつ引き抜いてきたんだか」

「あなたに言われたくないな。まあ『仏』や『人徳』と言われる方に気に入ってもらえたのなら悪い気はしませんが」

「オガワさんはTDFでならもっとオリエナさんが活かせると思っていますよ」

「高評価ですね」

「採用試験の頃から目を付けていたとオガワさんは言っていました」

「直接会ったことがありませんから分かりませんが、この性格までは分からなかったと思いますよ」

「大丈夫ですよ。TDFには貴女以上に毒舌な方もいますし、個性的ですから」

「そうですね」頷いてしまう。「狂犬に野犬、毒舌家のつま弾き者に秘書殺しの部長と個性には事欠かない」

「貴女もこのエレナの様に自分の居場所が見つけられますよ」

「なるほど。良い口説き文句ですね」

「本心ですよ」アリエーは笑みを崩さない。

 野生児だとは聞いていたけれど、ずいぶんと理知的に対応してくる。だったらアリエー・ファムカとは友好的にやっていた方がよさそうだと判断する。

 あたしが鼻で笑うと、エレナが苛立たし気に話に割って入ってくる。

「そんな話はいいから、仕事をしよう」

「そんなにせっかちだから嫌われるのですよ」

「余計なお世話だ」

 頭を撫でようとするアリエーの手を払いながらエレナは言うのだった。

 野犬も思った程クレイジーではないようだ。煽り甲斐はあるが。


 アリエーとエレナの対面に腰を下ろしながらあたしは訊ねる。

「それで天下のTDFが当部署に何をお望みでしょう?」

「その言い方」エレナは睨みつけてくるがやめる気もない。

 部長から対応は求められていたが、TDF側の要望は聞かされていないのである。

「新たな回線が必要になり、その相談に来ました」

「前の年に必要回線はお渡ししていたはずだと記憶していますが?」

 新人だったあたしも手伝わされた案件なので覚えている。

「私達がトラッティンの産業博覧会に参加するのはご存じですよね?」

「知っていますよ。トラッティンの支社とやり取りをしていることも」

 ラインオペレーターの間では有名な話だった。

「パビリオンの管理に関してはそちらで問題はないのですが、新たに開発された展示物に関して、新たに回線を用意した方がいいという話になったのです」

「あれだけ大容量をやり取りできるラインを持っているのに?」

「新しい展示物も容量が多いし複雑なので混線は避けた方がいいという話になりました」アリエーは隣のエレナを促す。「オリエナさんに説明してあげてエレナ」

「え~っ、やっぱりやるの?」エレナは眉間にしわを寄せている。「苦手なんだけど」

「知ってるわ。でもシュルドさんのご指名ですからね。私もある程度説明できるしやれるけれど、それが知れたら怒られるわよ」

 アリエーにそう言われてエレナは渋々、タブレットを取り出しオリエナの前に新システムのデータを展開し始めた。

 説明は「ああ」とか「まあ」とか余計な言葉や呼吸音などの雑音が何度も入るし、下手くそすぎて呆れたが、アリエーがフォローしてくれていたので理解することが出来ていた。アリエーはASCをやっていただけあってプレゼンは堂に入ったものがあると感心してしまう。

「また無謀なことを」そのデータ量とプログラムに呆れるしかなかった。「向こうで新たに、というのは無理か」

 支社であれだけのラインを構築したのは凄いが、それをもう一つ新しく作るのは無理だろうし……。

 それに今から大容量の大型コンピューターを向こうに設置するのは無理だろう。場所もない。

「とんでもないな」呆れてしまう。

「うちのSランクプログラマーは凄いですから」

「開いた口が塞がらないのよ。褒めてはいないわ」

「これを理解できるオリエナさんも凄いですよ」アリエーは微笑む。「それでこれらのデータ量を維持管理できるラインはありますか?」

「無いね」反射的に口にしていた。

 それを聞いてエレナが立ち上がろうとする。これ以上話をしていても無駄だと思ったかな?

 パビリオンのシステム全てをティーマから制御するという話だけでも呆れるが、それをもうひとつ増やそうというのである。

 とんでもねぇな。

「かなり繊細なシステムになりますし、これまでのパビリオンに使っていたラインとは別なものがあった方がいいという見解になり、相談に来ています」アリエーは重ねて言ってくる。切実なんだろう。「時間がなく機材は向こうに持ち込めても制御はティーマからやるしかなくなっています。トラッティン側の支社でもライン強化はしてもらっていますが、この展示は同一回線の混線も避けるように新たなラインを作った方がいいという結論に達しました」

「うちの主力はK三八と五二になりますが、それらの許容量を軽く超えていて、ランク上の六八でもこのスペックに対応するのは無理~」お手上げである。「何か?」

 睨みつけてくるエレナに問う。そんな目で睨んでも解決しないって分かんないかな。

「K五二をいくつか合わせて使うのは?」

 アリエーはデータを分散させれば使えるのではと提案してきているのは分かるが。

「下駄を履かせることは出来ても付け焼刃で、それを開催期間中維持するのはお勧めできないわ」

「そうか」アリエーは考え込んでいる。

「こいつらが無理なら、他を考えよう」

 エレナはタブレットをしまうと帰り支度を始めていた。

 せっかちな奴だ。

 無理だけど出来ないとは言っていないんだけどな。

「あんたら予算は?」

「えっ?」エレナは声を上げた。

「何驚いてんのよ。同じ会社だからってただ働きさせようって言うんじゃないでしょう?」

「当然です。契約するつもりで来ましたから」アリエーは額を明言してこないが、おおよそは説明してくる。「K五二を十は買えるくらいは」

「それじゃ足りない。その倍は必要だわ」

「何言ってんだよ!」

「何か方法があるの、オリエナさん?」

「予算次第だから、あまり表には出していないけれど、プレミアムコースがあるわ」

 事細かに数値を指定してくる顧客に対応するために作られた。裏技的コースである。

 ほとんどが苦情対応で出すものなので、こういったスペックに対応はほとんどしていなかったはずである。それ故に眠っている高性能ラインがあることをあたしは知っていた。

 それをカスタマイズすれば、何とかなるはずである。

 よもやそのセールスをできるとはね。よだれが出そう。

 そう言えばプミアムではないが、上質の回線を要求してきた会社があったなと思い出し笑いをしてしまう。先輩が泣きそうになりながら後輩で新人のあたしに助けを求めてきたのはどうだろうと思ったが、話を聞くと無茶振りもいいところだし、爺の遺言だとか拝火教を信じていて宗教上の理由からだとか人を煙に巻きながら交渉してきた。面白いからと顧客の要望に合う回線を用意してやったことがあったと思い出してしまう。

「プレミアム?」

「特上の顧客に提供している回線ですよ」営業スマイルで答えていた。「審査にさえ通れば大丈夫でしょう。そちらに問題がなければね」

 エレナを見ながら言ってしまう。

 サイバーグラス越しからでもあたしの視線に気付いたのだろうエレナが睨んできた。「あたしが審査基準に入るのかよ」

「まあ、あたしの目から見れば問題があると申し上げますよ」性格的に。

「エレナは座っていなさい」エレナを黙らせるとアリエーはこちらを睨む。「オリエナさんも煽らないでくれませんか。まったく二人とも話を拗らせようとしないで」

 アリエーは獣を射殺すような視線で睨みつけてきた。背筋が凍り付いたのはエレナも同じなようで、さすがは野生児だ。瞳が濁った客の比ではなかったと言っておく。

 あたしはというと、痛い目を見てもこういった輩をからかいたくなってしまう。病的なものかもしれない。沸点がどの辺りかを探ってしまうのである。

「それでオリエナ、出来るのね?」

「この金額に乗ってくれるのなら、可能」

 あたしはタブレットを新たに開き、金額を提示する。ついでにラインスペックも見せておいた。

「ぼったくりじゃん」エレナは呟いた。

 もっともだ。賃貸料だけで最高級のリムジンが軽く買える金額である。

「なにエレナさんは、タダで借りようっていうの? こちとら慈善事業で営業しているんじゃないよ。技術料や開発費用が掛かっているんだから」

 そんなことも分かんないかと、お子様を目細め見る。

「ラインスペックは保証しますよ」

「エレナ、数値的はどうなの?」

「師匠の希望する最低限のスペックは満たしている」悔しそうに彼女は呟くとあたしを睨んだ。「社員割引とか無いの!」

 何か負けた気になっているようだから面白い。さらに揶揄いたくなってきた。

「ある訳ないでしょう。こっちも商売なのよ。会社に損失を与えるわけにいかないでしょうが。あたし達も道楽や慈善事業でやっているわけじゃ無いのよ。それとも何、あんたはあたし達に媚びを売ってくれるのかしら」

「うっ」

 詰まるエレナは放って置くようにアリエーはあたしを見る。「これでデータ管理が可能なのね?」

「このスペックはノーマル状態よ。カスタマイズすればもう一つくらい別データを混ぜても大丈夫な状態にまで仕上げて見せますよ」

「分かったわ」アリエーは納得してくれたようだ。「私は全権委任されてきたけれど、この額になるからプロジェクトリーダーに確認してみます」

「苦情ならあたしに任せた部長にお願いしますよ」

「このカスタマイズを、オリエナがやってくれるのなら問題にはしないわ」

「ええと」その言葉にあたしの方が焦る番だった。「あたしは管理部門ではないんだけれど?」

「出来るからそのスペックを提示してくれたのでしょう?」

 やられた。アリエーはあたしが数値をいじるのを見ていたのだ。

 目ざと過ぎないかい?

「まあやれるけど、あたしは管理部門じゃないので部長に確認してみるわ」

「よろしくね」

 アリエーは端末で連絡を取り合っているようだ。エレナは不満のようだが、アリエーの様子を見る限り、契約に問題はないだろう。あたしも仕方なく部長に一報を入れ、TDF側の要望を伝えるのだった。

 プレミアムコースにはどのみち部長の決済が必要だったから連絡はしておかなければならない。部長の決済は契約内容データを送るとあっさりと承認されてしまう。あたしが管理部門に出向いてカスタマイズすることも含めてだ。

 まあこれで上半期の営業目標の八割が達成できるのだから、もろ手を挙げて承諾するだろうな。

「それでいつできますか?」

「そちらも急ぎでしょう?」切羽詰まっていなければラインオペレーターのところになんて出向いてこないだろう。「五日あれば」

「五日? 休日に?」

「正確には一週間後になりますね」ワザとらしくあたしは言う。

「休日出勤にならないようにしないとね」軽く吐息を漏らしていたのが分かる。「よろしくお願いするわ。それでTDFもスケジュールを組むから」

「ご期待にそえるようにしますよ」

 楽しそうだからいいか。

 あたしはほくそ笑んでいた。

 もし異動が本当なら、これからも今回出す予定のプレミアムラインの他にも触らせてもらえることになるのなら、やり甲斐もあるということである。

 楽しい。面白く無くない?


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