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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会③相克 10-1

 1.雷鳴



「首回り+1、肩は-1、手首は+2。手のホクロ位置の角度を一度修正」

 パーン・ロス・ヘルメナスは淡々と隣にいるシンシマに数値を告げていく。サイバーグラスだけでなく直接、ペリシア・マリー・アルベイラーを観察していたのである。彼の特技であるが、見ただけで骨格のみならず筋肉や身体数値を言い当てるのは異常だった。

 シンシマが入力しているシステムはトラッティン産業博覧会でも目玉になる展示のひとつになる。

 人の体全体をスキャンして数値を弾き出し、衣装やスーツを投影し着せることはこれまでの技術でも可能だったが、あくまでそれは停止した状態の身体に投影すことであった。人の動きに合わせて衣装を投影することは難しいとされている分野である。TDFはそれを可能なかぎり人の動きに合わせて服を動かし続けられるようにしている。意図的な動きの変更、突拍子の無い動きでさえ予測して人の動きに衣装を合わせようとしていた。映像作品の様に後付けで処理するのではなくリアルタイムで人の動きをトレースしていこうというのである。

 キャスティ・カインズがウェディングドレス衣装を投影されて驚愕した技術がここに結実していた。

 産業博覧会で用意している大樹の聖域や宇宙船のコックピットに対応できるように衣装を用意し体感してもらえるようにとレイストとノルディックが提案してきた。最初は物語のヒーローやヒロインになれるように訪れてくれた子供が楽しめるものとして考えられたが、企画会議を続けていくうちに、レトロな風景に合わせたドレスだけでなく、軍令服やアストロスーツ、キャビンアテンダントなど多種多様な服をコスプレ出来るようにして行くことになり、即興で子供が描いた服にも対応できるようにとプログラムが組まれていく。白雪姫やシンデレラ、といった物語のヒロインやネットのウルトラマンや変身ヒーローになれる夢のある空間にしたいと彼らは願った結果がここに結実しつつある。

 かなり高額になり、現段階では量産には不向きだったが、TDFの面々はその技術を可能にし、産業博覧会に間に合わせられるようにプロジェクトチームを組んで、フィオーレはそれを総括している。

 人の筋肉の動きを観察し、目線などから未来予測しながら人の動きをトレースしていくのである。メインプロクラムを請け負ったシュルド・アルベイラーはとんでもない要請に頭を抱えながらもその要求に応えていくことになる。

 まだ投影機から半径十メート程が限界で、トレースできるのは三人までだったため、この投影機専用の部屋を準備することになるかもしれない。

「さすがパーン、変態的な目だ」シンシマは呆れていた。

「普通でしょう?」

「いやいやいや、パーン基準で言うなよ。他の人類には出来ない」

「僕も人類ですが」パーンはニヤリと笑った。

「普通は見ただけで女性のスリーサイズを言い当てる奴はいない」

「ここにいるじゃないですか」

「だから変態なんだよ」シンシマは突っ込みを緩めない。

「心外ですね」

「全然そう思っているようには見えないな。まあおかげでスキャンシステムが無くてもここまで正確に数値を弾き出せたのは助かる」

 すでにスキャンシステム自体は梱包されてトラッティンへ輸送する手はずになっている。今日使った投影機もこの後、梱包しロイスが出張の際に向こうで設置してもらいテストする予定になっていた。

「ペリシアさんのドレスデザインは?」シンシマは訊ねる。

「フィオが今やっています。十五分待てと言われたから、もう少しで出来上がるんじゃないかな」時計も見ずにパーンは言った。

「了解。こちらの入力も終わるし、これもテストだと思えば楽しいもんだ」

 シンシマは笑いながらノルディックとディに合図を送る。

 ディはペリシアに声を掛けると食堂入口へと案内し始める。ノルディックはシュルドが逃げようとすると手首が痛くなるようにホールドして対面の窓際に立たせている。

「シュルドさんの驚く顔も見れそうですしね」

 パーンのほくそ笑む目は子供のそれではない。暗躍するような目付だった。

 フィオーレのデザインしたドレスデータが転送されてきた。食堂入口付近からチャペルの結婚式用の会堂へと映像は変化していく。出来上がったのはバージンロードだ。

 二人の衣装はタキシードとウェディングドレスに変化する。

 シュルドとペリシアがそれぞれ両端に立つとオガワに手を引かれたペリシアが拍手の中祭壇で待つシュルドの元へと進んでいく。

 シュルドはドレスアップした妻の姿に呆然としていた

 シンプルなデザインだったが、胸元や袖口に真珠などの小さな宝石が散りばめられている。凛とした立ち姿のペリシアは十年前の姿を想うと感動的ですらあった。

 実際に口をぽかんと開け唖然とするシュルドの顔も見れたが、それ以上にTDFの面々は彼の妻への熱愛ぶりを見せつけられることになる。

 濃厚でディープなキスシーンを延々と見せつけられてしまったのである。


 オガワはシュルドとテーブルに落ち着くと、軽くグラスを合わせる。

「これでは誰が主役か分からないね」

「あくまでロイスとキャスティですよ」憮然とした表情のシュルドだった。

「そうは言ってもインパクトがありすぎたよ」

「そういうのが見たかったんでしょう」シュルドは開き直っていた。

「そうだけど、あれは目に焼き付くよ」

「アサノとフェリウスが五月蠅かったので、黙らせただけです」

「そういうことにしておこうか」オガワは苦笑する。今日はまだ酒は控えめだった。「皆も喜んでいる」

「フィオーレには感謝していますよ。ペリシアのあんな嬉しそうな表情と姿を見ることが出来るとは思っていませんでしたから」

 その言葉にオガワは微笑みながら頷いた。

 今もペリシアは顔をほころばせ、フェリウスやクリスと話し込んでいる。

 そんな妻をシュルドはぼんやりと見つめる。

「ところで」シュルドは話題を変えた。「来月、何人TDFに配属になるんですか?」

「キャスティ君も入れて五人だよ」

「もう決まっているんですか?」

 シュルドの言葉を肯定するように頷く。「因みにテーセ君は含まれていない」

「そうだったんですか? 今日も来ているし、ジプコに採用になっているから、てっきり新採でうちに来るとばかり思っていましたよ」

「それも考えていたが、デュエルナ君からの要望でね。一年くらい他の部署を経験させたいとのことだったんだよ」

「なるほどTDFは会社の一般常識からは外れていますからね」シュルドは頷いてしまうが、ふと気づき。「それを言ってしまうと、キャスティはどうなるんですかね。人生を狂わせていませんか?」

「誰にだい?」

「そんなのうちの部長に決まっているじゃないですか」

「まあ影響を受けていない所員はいないよね。それにテーセ君も感覚的に独特な子だから、余所でも経験を積ませたいという事なのではなかろうか」

「そういうことにしておきましょうか」

「まあ今回も色々とあったよ」

「お疲れ様です」グラスにビールを注ぎながらシュルドは労いの言葉を掛ける。「相変わらず面倒なことがあったんですか?」

「新採ではパーンから注文が付いた」

「珍しいですね」シュルドはオガワの言葉を待った。

「作曲が出来る人材が欲しいと言ってきたよ」

「はあ?」変な声が出た。

「能力とか人柄とかでなくて、作曲だよ」深いため息をオガワはついた。「どうやって探そうかと思ったよ」

「音大に求人を出せば?」

「本当にそうしようかと思ったけれど、畑違いもいいところだからね」

「パーンの意図は分かりませんが、本来の仕事は情報通信分野ですからね。最低限のプログラミングとかできませんと採用は無理でしょうから」シュルドも苦笑いする。「それにオガワさんの身体はひとつだ。全ての人材を面談できるわけじゃありませんから一人一人に訊く訳にもいきませんものね」

「相手も質問の意図が分からないだろうからねぇ。仕方がないので趣味などの自己申告欄を徹底的に洗ったよ」

「そういうところはオガワさん、マメですよね。でも音楽が好きとか書くのはいても作曲なんて馬鹿正直に記載する奴はいるんですか?」

 後でホーカルに訊いてみると、彼は趣味欄にはちゃんとドラムと書いていたようである。

「作曲と明言している子は確かにいなかったけれど、楽器名を書いていた子はいたしネットに曲を上げていた子は結構見つけたよ」

「もしかして全員追跡したんですか?」

「頑張ったよ」

「残業しすぎです」どうやらオガワは家に仕事を持ち込んでやっていたようである。「それでパーンに合うような奴がいたんですか?」

「私の判断になったけれど候補を絞ってネット上に上がっていた曲をパーンに訊いてもらって判断したよ」

「面接をしなくて済んだようですね」

「結局することになったがね。やはり直接会ってみないと分からないことが多い」

 オガワの答えにシュルドはパーンの投げっ放しぶりに呆れるしかなかった。

「お疲れ様です。オガワさんのお眼鏡に叶う子はいましたか?」

「まあパーンが好みそうな子はいたよ」

 最終面談でオガワが会った子の曲を聞かせて、パーンの表情を見て彼のTDFで採用を決めたのだった。

 トモカネ・ミズウラは変わった面白い思考の持ち主だとオガワは感じていた。


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