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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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FREE MIND 9-9

 9.スタートラインへ



 心から願っても一人では叶えられないこともある。

 どうしてもやりたいことがあっても、逃げ出せない理由があったとしたならここは地獄であり牢獄だ。

 だが、そこから逃げ出せる手段と可能性があるとしたら?

 シュルドにその手助けができる力と知恵があるとしたら、男として、成すべきことをするべきだろう。

 死んだ目をした女の子がそこにいて、助けを求める気持ちがあるのなら応えるのも大人としての義務だろう。

 シュルドはベンチでタロを抱えうつむき座っているペリシアに声を掛けた。

「ペリシア・マリー、いいかな?」

「なに?」

「君がこの現状から抜け出したいと願うか?」

 シュルドの問い掛けにペリシアは頷く。

「それでは私は君の力に成ろう」

「出来るのですか?」

「一人で無理なのだと思うなら、二人でやろう。その手助けなら私にもできる」

「二人で?」ペリシアは意味が分からないのだろう。キョトンとしている。

 遠回し過ぎただろうか。

「あとは君次第だ」シュルドはそう言って右手を差し出した。「結婚して欲しい。ペリシア・マリー」

 ペリシアは両手で口を押えるが、驚きの声が思いっきり漏れ出してしまっている。撤収準備をしていた保安局の隊員たちが一斉に二人を見ていた。

「け、結婚?」

 そうそれこそが、一番簡単にペリシアをこの星から連れ出す方法だった。シュルドと同じ星の籍を取らせることで、他の星系へと連れ出すことが出来る。ペリシアが成人年齢に達していてくれたことも幸いだった。

「わ、私達知り合ったばかりですよね」

 女の子として魅力など放棄して久しい。

「発端がどうであれ、これからも時間はある。理解はこれから深めていけばいい。愛は育むものでもあるからな」

「いいのですか? 私には何もないですよ」

「これから作っていくのだろう? それでいい。私も強面であり言葉遣いも荒いからな。怖かったんじゃないかな? そうだろう。私には問題はない。これがこの星の呪縛からペリシア・マリーの解き放つ方法でもあるんだ。どうだろう?」

 最善かどうかは分からないが、ひとつの手であるとシュルドは思っていた。

 お互いの理解はこれからとることも可能なのだ。

 ペリシアはシュルドの顔と差し出された右手を何度も交互に見つめ困惑していた。

 しばらくしておずおずとその手をペリシアは取るのだった。

 その瞬間、まばらだったが、二人の様子を見ていた銀河保安局局員から祝福の拍手が贈られるのだった。

「さて、行こうか?」

「どこへ、ですか?」

「行政府へだよ。最終便が出る前までには手続きを済ませたいからね」シュルドはペリシアを立たせるとその手を離さずにともに歩き始めた。

「すまないが、リングは少し待ってくれないかな」本当にすまなそうにシュルドは言った。

「格好いいなと思っていたのに台無しです」

「それはすまなかった。慣れていないものでね」

 照れたようにシュルドは笑うのだった。



 エピローグ~彼女の想い



 シュルドはワドスの行政府を訪れ婚姻届けを出した。

 その前に緊急事態に大学事務局に現れた局長にメンテナンス終了の報告とサインをもらうことも忘れていなかった。

 行政府では人身売買も疑われたが、シュルドは立会人として銀河保安局の局員を伴っていたこともあり、シュルドの身分が確認されると届は受理され二人は無事惑星ワドスを出国することが出来た。

「仕事をしに来たら嫁を迎えに来ることになったと」ペリシアは思い出し笑いをする。「そう言っていましたよね。何かのついでみたいに」

「お前は意味も分からず目を白黒させてついて来ていたな」

「みすぼらしい姿の私は花嫁にはとても見えませんでしたから」

「すまないな。着飾らせることも出来ずに」シュルドは苦笑する。

 ティーマに戻るとオガワとアサノに連絡して二人に立ち合いを頼むと、ここでも婚姻届けを提出しティーマの星籍を取らせる。その手続きが終わるとティーマの職業訓練制度を使い、ペリシアを専門の学校に編入させた。

「悲しんだり泣き言を言う暇もなかったくらい忙しくて大変でした」ペリシアは当時を懐かしむ。

 個人端末を買い与えると、操作方法やネットワークの検索方法などを叩き込み、情報社会に馴染ませていき、空白だった五年分の知識を埋めさせていく。もちろんそれらと並行しながらハイスクール卒業資格を得るための通信教育も受けさせられていた。

 目まぐるしい時間の流れだった。

 ペリシアには料理の才があったのだろう。専門学校在学中に甲月亭という料亭にスカウトされ修行に出ることになったのである。

 シュルドは厳しかったが、それ以外では良き夫であり家族でいてくれる。

 定時には会社を上がり、すぐに帰宅して寂しくないようにしてくれていた。それでもトラブルにも見舞われたし、問題も発生したが、それでも乗り越えられたのは、優しい夫が傍らにいてくれたからだ。

 タロは今、アルベイラー家で家事ロボットとして稼働している。ペリシアがティーマ籍を得るとすぐにジプコから譲渡してもらいシステムを新たにインストールし直して改良も加えているという事で社会に不慣れだったペリシアの生活をサポートしてくれる心強い友達となった。

 年に一回か二回、シュルドはワドスに出張する。

 担当部署でもないのにワドス総合大学からシステムメンテナンスの指名を受けるのだという。彼はぼやいていたが、機嫌は悪くないようにも見える。

 ペリシアは「一緒に行くか?」と何度か訊ねられたが、首を縦には振らなかった。

 今も航空機のエンジン音を聞くと気持ちが悪くなる時がある。あそこに戻ると自分がまた何かに囚われて動けなくなってしまう気がしてしまい足がすくむ。このモヤモヤとした気持ちが薄れたらアルケリに戻り両親の墓に手を合わせ報告したい。ワドスの親戚を探してもいいかもしれないと思うペリシアである。

 今はまだここで安らぎを得ていたい。傷を癒し、愛を育みたい。


「こうして私が笑っていられるのは貴方が私を連れだしてくれたからですよ」

 ペリシアはシュルドに微笑む。

 あの頃の面影はどこにもなかった。

「愛は育むものだと言ってみたが、どこかで愛想をつかされてもおかしくはなかったし、ペリシアが自立することもあり得ると思っていたから、こうして一緒にいられることは奇跡かもしれないな」

「神様に祈りますか?」ペリシアはクスリと笑う。「貴方は手を取ってくれました。背中を押してくれました。身寄りのない私を育ててくれました」

「本当に素敵に育ってくれたよ」

「私は貴方が望む限りその手を離さず、共にあり続けますよ。今も愛を育てている途中ですからね」

 ペリシアはシュルドに寄り添い彼の肩に頭を預けるのだった。

「ずいぶんとお熱いね」

 二人の話を聞いていたのかアサノが声を掛けてくる。雰囲気が台無しだった。

「年を追うごとに親密度が上がっているようにも見えるね」隣にいたオガワも頷く。

「愛を育てていますから」ペリシアは微笑んだ。

「君達も彼らの様に挙式を上げたらどうだい?」オガワはロイスたちを指差す。「書類にサインしただけで、何もしていないのだろうから」

「本当に」アサノも同意する。「立ち合いも僕とオガワさんしかなかったしね」

「あの頃は私も着の身着のままで、こちらの生活に馴染むだけでも大変でしたからそのような余裕もありませんでした」

「本当に驚いたよ。結婚するから立ち会って欲しいと言われた時にはね」とオガワ。

「しかも十五歳。成人したてときたもんだ。どこからかどわかしてきたんだと思ったよ。このロリコン野郎が」

「それは言うなと何度も言っているだろうが」

 掴みかかってくるシュルドの手をアサノは何とか交わした。

「そうだ。シンシマに言って、シュルドとペリシア用にウェディングを調整できないか聞いてみますか」アサノは逃げながらオガワに言った。

「それは面白いね」オガワは同意する。「ペリシア君のドレス姿を見てみたいものだよ」

「見世物じゃありません」

 シュルドは怒るが、ペリシアは反対していないので、様子を見ることにした。

「それに君たちの馴れ初めも聞きたいな。どうだろう」

「私は話しませんよ」シュルドはそっぽを向く。

「ではペリシア君に頼もうか」

「確かにドラマはありましたが、どうしましょう?」

 ペリシアはシュルドに微笑みかけるのだった。



  〈九話了 第十話へ続く〉


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