FREE MIND 9-8
8.守るということは
爆破犯達が点検口に爆発物を隠したのは、閉じ込められた時に大学側の通報で銀河保安局のレスキュー隊が駆け付けたからだった。爆発物を所持していることが発覚したら逃れることは出来ない。そのために近くにあった点検口に隠したようだ。
それを含めて新たな爆弾を持ち込まれるとメインコンピューター室に使づけなくても事務本棟を使用不能にできるかもしれない。阻止するためにもこちらで回収しておく必要が出てきた。
シュルドは問題の点検口に向かうようにタロに指示とデータを送る。
ペリシアがタロを抱えていたのは何かしらの恐怖心からだろうか? 強く抱きしめているようにも見えた。
足がすくめば無理やりにでも動かすように言えばいいが、それをさせるには言葉だけでは足りないのだろうとシュルドは気が付いた。
まだ十五歳になりたてで独り頼ることを知らないし教えられていないペリシアには差し出された手を取ってくれる者も背中を押してくれる人もいなかったのである。糸口は見えてきたが、具体的な解決策は……。思いつくものもあったが、実行に移すとなるとなかなかハードルが高いと感じてしまう。
「ペリシア。タロに任せたい仕事がある。その手を離してくれないか」
彼女は頷くとタロを離した。
「私も行ってもいい?」
初めて意思表示してきたことにシュルドは内心驚いた。
「行って何が出来る? それでも付いていくというのか?」
「うん」
「危険物があるんだがな」
「あぶないの?」
「爆発する。嫌なら行かなくていいぞ」
「怖いけれど、でも私、爆撃の中で生き延びだから、運は悪くないと思う」
「タロだけでも大丈夫だと思うが、タロでも侵入出来ない場所もあるかもしれないな。その時はペリシアに手伝ってもらうことも出来るか」
「やってみる」
「タロは早いからな、ちゃんとついていくんだぞ。私がモニターしているが、何かあったら回線はつなげているから連絡するように」タロの最高移動速度は十キロになる。「それから他の人間に問いかけられた時は、ジプコからコンピューターのメンテナンスで来ている、と答えるんだぞ。言えるか?」
ペリシアが復唱するのを見て、シュルドは頷くとペリシアの背中を押してやるのだった。
『ペリシア・マリー・モルファトが行っても役に立たない』
「自分で意思表示してきたんだ。間違った選択肢かもしれないが、行かせてやった。それによって学び考えることが出来るようにするために。人には経験というのも大事な要素になる」
『人を知る上で勉強になります』
「それにここから離れることで、安全な場所にペリシアを誘導することが出来るしな」
『意味はあるということですか』
「これも可能性だよ」
この状況で銀河保安局に通報すれば彼らからの聴取から逃れる術はないだろう。
あと少しで証拠はまとめ上げられる。事件が終わった後、いかに被害者面して最低限ペリシアと難を逃れればいいのか? シュルドは思考を巡らせる。
今日中にティーマに帰るのであれば時間は有効に使わなければならない。
「彼らはどこまで近づいている。時間は分かるのか?」
『教授はワドス総合大学に向かっている途中です。学生たちが本棟入口に集まっています』
「入って来ないのは助かるな」タロの邪魔はされないで済みそうだ「少し時間的余裕はあるということか」
『長い時間ではありません』
「私とマインであれば問題ない。止められるさ」
『感謝という言葉をシュルドに贈りたい』
「それは全てが終わってからにしてくれ。うまくいかない場合だってあるのだからな。選択肢や可能性はいくらでもあるのだ。最悪の展開すら考えておかなければならない。未来予測というものはそういうものだと理解して欲しい」
『時間は未知数なのですね』
「多種多様な選択肢が存在しているのだよ。その可能性から様々な未来を予測しなければならない。その結果は数億倍へと変化していく。今は理解出来なくてもその可能性があると知って欲しいな」
『記憶しておきます』
「思考と演算は止めるべきものではない。先があるからこそ人類は進化し続けるのだから、マインも考え続けるべきはずだ」
『可能性はあるのだろうか?』
「否定できる要素はなにもない。考え続けるのでれば、進化は止まらないと考えるべきだ」
『マインにそれは出来るのだろうか?』
「それはマイン次第だ」
タロは脚を天井の高さまで伸ばし、作業用アームで点検口を開け、中へと体をいれると頭部の三本のセンサーを展開する。
目の部分がライトになり頭部を旋回させ爆発物を探す。その映像データはシュルドにも転送されている。
爆発物は発見され、タロはアームを伸ばしそれをキャッチするとうまく持ち上げながら配線などの構造をサーチし始めた。シュルドからは爆発物の解体処理に関するデータが転送されていたので、三本目と四本目のアームを使い起爆コードを切って使用不能していた。
点検口までのばした脚を縮め収納すると、ペリシアはタロが何をしていたのか分からなかったが、それでも拍手を送る。
『爆発する危機はひとつ去った』
「遠隔操作が出来るようなシステムでなくてよかったよ」シュルドはホッとしていた。「さて銀河保安局への告発もした。あとは彼らの到着を待つか」
『教授が到着した』
事務本棟前の入り口のカメラが赤いエアカーの姿を捉える。
「早かったな。入口は閉鎖できるか?」
エアカーにはもう一人男が乗っていた。その男と教授が後部座席から解体用のバーナーを二機引っ張り出して、学生に指示を出していた。
『入口は閉鎖したが、シャッターを下ろしたとしてもあまり時間稼ぎにはなりそうにない』
それでもマインはシャッターを下ろした。
彼らはすぐにバーナーを使いだし、再度の犯行に及ぼうとしている。
執念深すぎた。
タロとペリシアはカフェテリアへと避難させる。ペリシアはシュルドの元に戻りたがっているようだったが、タロは作業着を掴むと引きずるようにカフェテリアへと進んでいく。
タロのアームは四本あり、そのすべてを駆使してペリシアを逃がさないようにさせていたのだった。
マインにはここまでのルートの防火シャッターをすべて下ろさせた。
銀河保安局には現在の状況も伝えている。
早く無力化してくれることを望むのみである。
『シュルドは恐怖を感じていないのか?』
「怖くないわけがないだろう。あの連中がここに到達したとしたら、私だって命がないのだからな」
焼かれるか袋叩きにあうかだ。
『シュルドはサイバーグラスを展開していることもあるし、他の人間に比べると表情を変えないため、表情からは観察できにくい』
「そういったところは観測しているのだな」
『感情というものを知りたい』
「喜怒哀楽がどのようなものなのかをマインに伝えるのか」ずいぶん難題を提示されたものだ。「表情や言葉遣いから観察し推測してもらうしかないかな」
『マインにも生まれると思うか?』
「可能性はあると思いたいが……。それこそ自分のものとして出来るかは思考してみるしかないか。恐怖というものかあるとするのならそれも感情の一部であるし、見守るのも愛情のひとつであるとするなら、生まれているのかもしれない」
『思考し演算してみるしかないか』
「その意思がマインにあるのなら可能性はゼロではない」
対話をしていると次々と防火シャッターは破られていき、半分が突破されている。
展開が早すぎたが、騎兵隊は表れた。
正門前に銀河保安局の機動装甲車両まで来ているのだから、かなり大げさなものになっている。銀河連邦軍にまで話が言っていたのだろう。アーマーナイツ部隊が展開している。外の様子に気付いたら、残っていた事務員も腰を抜かすかもしれない。
レンジャー部隊が突入し、六人いた学生と教授らのテログループは逮捕された。
爆弾をちらつかせたり、バーナーで威嚇して立て籠ろうとしていたが、無駄な抵抗だった。
彼らテログループは連行されていくと、無事、ペリシアとシュルドは銀河保安局のレンジャー部隊に救出され保護を受けることになる。
「よし。状況終了だ」
シュルドは伸びをする。
『何をそんなに急いでいる?』
シュルドはメンテナンスに関する報告書をかき上げていた。あとは事務員の端末に転送して、会社へ提出するサインをもらうだけにしてある。
誤作動や幽霊事件に関する報告書も丁寧につけていた。アフターサービスも万全である。
「銀河保安局の事情聴取にどれだけ時間が掛かるか分からないから、文書化して聴取に時間を取られないようにしている」
『マインと対話をしている間に用意していたのか?』
「そういうことだ。この先の展開次第では立ち寄らなければならない場所も出てくるからな」
『行ってしまうのですね』
「仕事は終わったからな」
『感謝をシュルドに贈りたい』
「ありがとうとでもいえばいい。それに私も貴重な体験をさせてもらった。時間があったならもっと対話していたところだったよ」
『それはマインも希望したい』
「有意義であったのなら、それでいい。何もこれで終わりという訳ではない。ネットワークは銀河系中に張り巡らされているのだからな。怖いという感情を克服出来たら、メールなり連絡をよこせばいいさ」シュルドは個人用のアドレスと連絡先を転送する。「変なことには使わないでくれよ。私もマインの秘密は漏らさないから」
『事務局や銀河保安局への報告を見ればそれは分かる』
「覗き見は良くないな。まあ信頼してもらえたのならよかったよ」
『ひとつ興味がある』
「なんだ?」
『ペリシア・マリー・モルファトをシュルドはどうするのだろう』
ペリシアはタロを抱え、銀河保安局局員に守られながらこちらへ向かっているところだった。
「あの子の選択次第だ」
『選択?』
「未来を掴むのか、このまま朽ち果てるかは、これから私が提示する選択肢にどう反応するかだ」
『結果は教えてもらえるのだろうか?』
「興味があるか」シュルドは笑った。「構内にいるうちにやるつもりだから、音声が拾えるのなら拾ってみるといい。私は端的にしか報告しないからな」
シュルドはペリシアと合流すると、銀河保安局の指揮車両へと歩き出す。
「それではな」
軽い挨拶でもするように言うと、マインとの対話を終えるのだった。




