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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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FREE MIND 9-6

 6.どこまで踏み込むか



 将来って何だろう?

 おじさんに言われてペリシア・マリーは考えたが、頭がぼんやりしていたのですぐに思考を諦めてしまう。今は気持ち良い。この温かな雰囲気を味わっていたかった。

 本当に明日のことさえ分からないのである。もっと先のことなんて見えるはずがない。

 どうして考えろというのだろう?

 分からない。

 怖い顔に怒ったような話し方は、嫌な思い出しかないけれど、おじさんは悪い人ではなかった。身内にさえ見捨てられたのに見ず知らずのペリシアに施しをしてくれるのである。

 ハンバーガーは初めて食べた。と思う。温かったしお肉も柔らかい。チキンだとおじさんは言っていた。チーズも入っていたしレタスも萎びていなかった。美味しかったし嬉しい。お肉をこんなに食べたのはいつ以来だろう? 思い出せないくらい前なのかな。一緒に誰かと食べるのも久しぶりだった。

 お母さんが居なくなってからはペリシアがお料理をしていたこともあった。お父さんは調子がいいとよく笑って美味しいと言ってくれた。今のペリシアもあのように笑えているだろうか? 感謝できているかな?

 おじさんは別の世界から来たという。茶髪で瞳は濃い青だった。父さんとは似ていないし、怖いけれど他の大人たちと違ってなぜか温かい。

 神様かな?

 今はシャッターが下りているから外は見えないけれど、空の向こう側には別の世界がある。想像できないけれどペリシア自身も隣の星からワドスに来ていた。あそこに残っていたらどうなっていたのだろう?

 イフでしかない。

 どんな暮らしをしているのか、やっぱり想像できない。

 今のペリシアではない他のペリシアが居るのかな?

 ペリシアは他の世界のことを知らな過ぎた。知るすべがなかったということがあるし、広大な大学の敷地であっても宇宙に比べは砂粒以下だという。

 分からないことが多すぎた。

 それでもペリシアは今幸せを感じている。ハンバーガーは温かくて美味しかったし、身体がポカポカする。食べるとこんなに幸せになれるんだね。

 いいなぁ。ありがとうおじちゃん。

 ペリシアは思考を停止し夢見心地になっていた。


 シュルドはカフェテリアでサンドイッチを食べるとひと仕事終えてからようやく動き始める。

 メインコンピューターのバージョンアップが済み、再起動も終わったとタロが報告してきた。

 ペリシアも連れていくことにする。このまま置いていって事務員らに見つかったとしたら後味も悪い。残り数時間であってもここでの面倒は見ようとする。ただの自己満足であろうが。

 これで誤魔化せるわけではないが、シュルドは着ていた作業服をペリシアに着せる。ボサボサの髪は後ろで纏めてひっつめポニーテイルにした。少しはまともに見えるかもしれないと、隣に立たせると身長が百六十センチくらいはあるが、幼い言動も目立つし痩せ細っていても年齢相応には胸以外は成長しているようだ。

 今の仕事が済んだ後はどうするかだ。

 シュルドは彼女のことにも考えを巡らせしていた。

 お金を与える? これは一時的な解決にしかならないだろう。

 ペリシアはほんの少しであるが非常事態のためのお金を持っていたが、それはパンが幾ばくか買えるだけのものでしかない。いくら節約が出来たとしてもシュルドの手持ちではたかが知れている。

 ただIDカードを肌身離さず持っていてくれたのはペリシアにとって幸いであったはずだ。これにお金を入れ管理することが出来たし買い物できるだけではなく、彼女がペリシア・マリー・モルファトだと証明できるのである。記録されている写真は七年以上前のもので見る影もないが、記録されている網膜や声紋、指紋認証からペリシアはワドスでの戸籍があり幽霊ではなかったのだ。成人もしているのだから義務もこれから発生するが銀河連邦市民としての恩恵を受けることが出来るのである。

 これは大きい。

 一方、ワドスでこれまでの生活は難しくなっていくだろう。

 今回のバージョンアップで、メインコンピューターの性能は確実に向上する。接続されている警備システムもカメラ本体の故障以外は、センサー類などかなりの機能が復旧するはずだ。ペリシアはそうなること今までの様に大学に住み続けることは難しくなるのではないか?

 シュルドは思考を三つに分けて作業を続け、考え続ける。これはいつものことでもある。それくらい出来なければ、誇りを持ってSランクプログラマーは名乗れない。

 ペリシアの将来を考えながら、コンピューターのメンテナンスと誤作動の検証を続けていた。

 メインコンピューターの演算能力に問題はない。プログラムの構築もこれまでよりも余裕とゆとりがサイバー空間にも生まれている。接続がおかしかったところは今、タロを向かわせ改修させ、先ほどまでの雑然としたものは奇麗に無くしていく。

 このコンピューターの大学側の依存度は想像以上で、網の目のようにシステム網が大学の構内だけでなく敷地にまで張り巡らされている。

 設置当時は工学系と理学部系のみの接続で主に研究や実験用に使われていたはずだが、本部棟が警備や事務用のシステムを失ってからは、後先考えない急場しのぎの接続がなされてしまっている。現在は全ての学部や研究施設とつながっているし、雑然としすぎていてまとまりが無さ過ぎる。

 システム工学や理論プログラムのプロフェッサーだっているだろう。これで学位ある者がやっているというのだから呆れるしかない。問題がないから良いとかいうというレベルの話ではないのである。

 キャパシティに余裕があったからいいようなもののワドス総合大学はあまりにも、このコンピューターに頼り過ぎだ。

「依存しすぎだ」

 こいつが今の様に不調をきたせば立ち行かなくなる。システムに接続を考えた連中はバックアップのための予備システムを作っていない。

 予算がないなど言うなかれ、だ!

 メインシステムが壊れてしまった時は破滅が待っていると気が付かないのか? これが唯一無二の頼るべき存在であると忘れてしまっている。何らかの方法で失われてしまったとたら、どうするつもりなのだろうな。

「依存?」

 膝を抱えメンテナンス空間の片隅で座り込んでいたペリシアはその言葉に反応していた。どうしてなのかは分からないが。

「誰か頼れる人とかはいないのか?」

 シュルドはペリシアに訊ねる。

「頼る? 誰に?」不思議そうな顔で彼女はシュルドを見る。「私の代わりは一杯いるよ。私は一人だし家族もいない」

「すまない。いたらこんなところにはいないよな」

「ううん」彼女は首を横に振る。「ずっと一人だもん」

「縁者はいるだろう? 探す気はないのか?」

「父方の親戚は私を無視したし、母方は全員内戦で死んでしまっているの」ペリシアは顔をゆがめる。「施設の人はもっと嫌い」

「話さなくていい」

 体罰すら常態化していたのであれば、そんな施設に行くのは尻込みするだろう。トラウマになっていてもおかしくない。思い出させたくはなかったし、これ以上怯えるペリシアは見たくはなかった。

 シュルドはもう一方でメインシステムを見ていた。

 精査結果に問題はない。

 誤作動を引き起こすかもしれない接続は修正し続けているし、誤作動を起こすプログラムも要因も見当たらなかった。

 バージョンが向上したため、キャパシティにも余裕が出来ているはずであるが、その原因は特定できない。

 もう一方の思考は誤作動の件を調べていた。

 思わぬ偶然から幽霊は見つかり解決していたが、これに関してはそのまま報告するわけにもいかない。

 メインシステムに残っていた記録を見ながら事務員が見せてくれたデータを纏め現場のマップを示す。誤作動が起きた場所は多岐にわたっている。

 幽霊の目撃情報も大学内のネットワークで拾ってみたが、誤作動と被るところがあるような気がする。

「スプリンクラーの誤作動もあるのか」

 それで薬品や電子機器が使用不能になっている。

 時系列ごとに整理すると、最近は事務本棟とこの周辺が多かった。法則性はあるだろうか? シュルドはさらに情報を整理していくと、防火シャッターや防火扉が閉まり閉じ込められてしまう事象は他の学部では起きていない。

 では人に起因するものはあるのか?

 否。人が人為的に起こしている形跡は見当たらなかった。

 では閉じ込められた人に共通性は?

 面白いことに何人かは被っている。スプリンクラーの誤作動もこの教授の実験室での出来事だ。そのことに大学側は気付かないのか?

 スプリンクラー事故の研究室で何が行われていたかの記録がないが、使用していた薬品やその後追加で入手したものからも目的が類推することは出来る。

 端的に言えば爆弾である。しかも時限式の。

 このコンピューターへ爆弾を仕掛けようとしているのか?

 学生はそのプロフェッサーの研究室が主なのだが、横のつながりもいろいろとあって法則性を調べるのに時間が掛かっているが、教授だけは五回も閉じ込められていることから、こいつが要因であることは間違いなさそうだ。

 このプロフェッサーを調べていくと、インバスタルという自然回帰主義者集団が背後にいることがみえてくる。インバスタル主義は地球回帰を掲げ現在の宇宙開発は人類を破滅に導くとしている。

 教授はインバスタル主義の集会への参加など、その行動を隠そうとしていない。そんなのを野放しにしていいわけがなかった。さらにこの教授の資金の流れなどを見てみると反政府ゲリラともつながっている可能性が出てきた。

 なぜ大学側は気付かない?

 シュルドが短時間で調べただけでもこれだけの情報が出てくるのである。通報手段は後で考えるとして、シュルドは確固たる証拠集めを始める。

 仕事が増えてしまっている。

 こいつは学生を先導して破壊工作を仕掛けているのだろう。このコンピューターがシステムダウンしてしまえば大学はパニックどころか完全な機能不全に陥るだろう。

 このことと誤作動は関係しているか?

 肯定する証拠しか出てこない。ワドス総合大学がテロ標的にならないはずはないのである。彼らを放置すれば、この大学の行き着く先は誰にとってもろくでもない未来になるはすだ。


 なぜこのようなことが起きているか。検証すべき事象は多くあるが、調べれば調べるほどシュルドは深みにはまっているということだった。ろくでもないと見過ごすのは後味が悪いし、捨て置くには主義主張が許さない。正義感からではないと言っておこう。幽霊事件もすべて解決しているわけではないし、この件は誤作動と関係している可能性が出てくる。

 では何者が誤作動に関係しているのか?

 類推は出来るが、それは仮説の域を出ないし、今は言うべきではないだろう。

 シュルドはすべてを解決すればすっきりすると思っていたが、面倒ばかり湧いてきているとしか思えなかった。

「どんどん話か突飛なものになっていくな」

「突飛? そうなの? 神様が現れるとか?」

「信心深いのか? 信じているのか、ペリシア・マリー?」

「どうなのだろう。でもいるかもと思いたい。おじさんと会えたし、私ね、構内で逃げていた時、誰かがシャッターを下ろしてくれたのか、それで逃げられたことがあったの」

「本当か?」

 ペリシアは頷くと。「ありがとうって、私はお祈りしたよ」

「それが神様だというのか」

 シュルドはため息をつく。否定する気はなかったが、それでも頼りすぎるのは良くない。

「誰か分からないもの」輝きのない瞳で彼女は言う。

「たとえそうであっても、奇跡なんか期待するよりも、自分の力で何とかしないとな」

「何とかなるのかな?」ペリシアは自分の手を見る。「出来るの?」

「それを自分で考えるんだよ」

「分からないよ」小さく首を横に振った。

「考えたのか? 今のペリシア・マリーは何も考えていない。見えないなんて言い訳にしか過ぎない。諦めたら、お前さんは死んだと同じだ」

「死ぬの? それなら死んだほうがましなのかも」

「ここで終わらせていいのか? ペリシア・マリーは何のために生きてきた?」

「そんなこと私には分からないよ。いいことなんて何も無いし」

「それでも考えろ。道が見えてくるはずだ。何もかも投げ捨ててしまってはその先はない」

「本当に? 何かあるの?」

「それはペリシア・マリー次第だ」期待は持たせたくないから突き放すように言う。「幸せになるのか不幸になるかは、このあとお前がどう行動するかにかかっている」

「じゃあ、どうすればいいの?」

 ペリシアは泣きそうな顔をしていた。

「それを考えるんだよ。こんな生活を続けていてもいいわけがないよな?」

「こんな生き方しか私は出来ないんだよ。良いわけがないのは分かるけれど……何をすればいいの?」

 拗ねたような口調であると感じる。少しは感情が見え隠れし始めているのだろうか? 悪く無い兆候だった。

 ただ独りで生きてきたため、頼る者もなく導いてくれる両親もいないため、ペリシアは状況に流され続けている。

「成人しているのなら、ちゃんとした仕事が見つかるだろう」

「競争が激しいよ」

 一日斡旋所に並んだとしても日雇いの仕事があればいいときもあるし、それすら見つからないことの方が多いはずだ。

 復興事業なども行われているが、特に建設関係は政情不安もあり機械化が推し進められていて人手が入るところは少なくなっていたし、そこで人を雇うような対策を行政府はとっていないのだろう。雇用を生み出すことを失念しているのは目に見えている。

 行政府はそれが格差をさらに推し進めていることに気付かずに。

「諦めてしまっては、今のままだ」

「それでダメなの?」

「立ち行かなくなるのは目に見えている。お前自身、気付いているだろう?」

「なんとなく分かるけれど……、こんなところから抜け出せるのなら、今のままで、そのままこの世界からいなくなってしまった方がいいんじゃないのかな」

 諦めたようにペリシアが言うと、シュルドの眉間に皺がよる。それが怖いとペリシアを思うのか身を震わせていたので、彼は自分の行いに頭を抱える。

 怯えさせてどうすると。

「そういうことは、あがいてあがき切って、やることをすべてやりつくした後で言うべきものだな。絶望して諦めるよりも動け、考えろ。今を変えようとしない限り先へは進めない。人には力がある。ペリシア・マリー、お前にもだ。一人だとしてもここまで生き抜いたのなら、先へ進める」

 具体的なことが、他の星から来た今のシュルドに言えるわけもないが、それでも地に根っこが張り付いて身動きが取れなくなる前に、自分の力でペリシアが動けるようにしなければならなかった。

 気持ちの問題でもあるのだ。絶望からは何も生まれない。

「そうなのかな」

「考えろ、やりたいことを」

「じゃあ、おじちゃんについていくのは?」

 膝を抱えたペリシアはボソッと呟いた。

「おい!」思わず声を上げていた。

 そのことを考えなかったわけではないが、今、太陽系アルケリ外への住民の渡航は制限されている。余程の理由がない限り出国が不可能なのは、アルケリの人口を減らしたくなかったからだ。人を失えば国力が弱まるし税収という財源さえも失ってしまうのである。国の未来を狭める結果になる。

 銀河連邦への難民申請も政治的な理由等余程の迫害を受けていない限り受理されていないのが実情である。

「……迷惑だよね」乾いた笑い声がする。

「……やりたいことはないのか?」

 シュルドの言葉にペリシアは沈黙する。考えてはくれないかとシュルドが諦めかけた時、ペリシアは呟いた。

「……お料理してみたい。美味しいものが食べたい……」

「そうか」

 シュルドは職業訓練的な制度がないかを調べ始める。

 難民を優先したものがないか、制度を調べていくがそういった学校はまだ少なく狭き門だった。すでに申請が終わっているものも多く今すぐ何かできるものは見当たらない。

 前途多難である。

 シュルドが再びペリシアに話しかけようとしたときに、メインコンピューターを介して通信が入った。

『助けて欲しい』

 チャットのようであり、短文過ぎて意味不明だった。


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