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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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FREE MIND 9-4

 4.不可解な仕事になって来た



 ワドス総合大学は太陽系アルケリが建国と同時に設立された由緒ある大学で敷地も広大だった。ワドスシティ上空から見ると行政府などの重要施設にも近いが、広大な森の中に様々な学部が点在しているようにも見えた。内戦でも標的になることがなかったため避難施設としても使われていたこともあった。それでも壁の一部が崩れていたりして、修理するための資金が回ってこないのか放置されている場所もありセキュリティ上も安全と言えない面も見受けられた。

 シュルドはワドス総合大学の正門から構内に入り用件を伝えると本部事務室がある建物の中に入っていく。

 事務室内に入ると若い事務員がシュルドを迎える。

 彼以外事務員はいなかった。

 ワドスの惑星時間では、今日は休日で出ている事務員は彼の他は二人しかいないらしい。彼らは学内の保守点検で動き回っているという。休日でも研究棟には学生や教授達がいるため何らかのトラブルがあったための対応のため仕方なく彼らの一部も出勤しているという話だった。

 シュルドは名刺交換し挨拶を済ませると、すぐに仕事の話に入った。

「要請があって伺いましたが、メンテナンスをするにしても十年以上も放置というのは如何なものでしょうね」

 当時も内戦は続いていたが、それでもジプコは大学側の申し出に応えるように大学全体で研究用に使える大型のコンピューターメインシステムを設置していた。

「すいません。どうしても予算が下りなかったようで……」しどろもどろになりながら若い事務員は応えた。

「不調になってからメンテナンスを始めても直らない場合もあるし、システム全体を交換しなければならなくなり、多額な金額が掛かることもあります。最低でも銀河標準時間で一年に一回はメンテナンスを受けられた方がいいです」

 シュルドは鋭い視線を事務員に向ける。

 まあこんな政情不安を抱えた太陽系に来たがるASCもいないとは思うが。

「は、はい。上司に伝えておきます」

「当社のコンピューターシステムが不調ということですが、具体的にはどのようなことが起きているのでしょう?」

 処理ミスがあるという話は聞いていたが、具体的な話はなかった。

「防火扉が勝手に開いたりするのと、防火シャッターが落ちて通路を閉じてしまい往来を妨げます」

「は?」シュルドは耳を疑った。

「ですからシャッターが勝手に下りたり、防犯カメラが使えなくなったりしているのです」

「警備システムにうちのシステムをつなげているのですか?」

「はい。処理能力的には問題ないと人工知能専門の教授も言っておりましたので、事務処理にも使っています」

「なぜそのようなことを?」

「五年ほど前ですが、セキュリティや事務処理、学生や教授等の職員の仕事や授業を管理していたシステムが破壊されてしまい急遽、無事だった研究用のメインシステムに接続させて授業を再開させたということでした」

「用途外使用もいいところだな」シュルドは頭を抱える。

 ワドス総合大学のコンピューターは旧式になりつつあるが、処理能力には優れていて演算能力も高く他の管理システムをバックアップすることも可能だが、負荷をかけすぎだろう。人でいうのならこの広大な大学の面倒を一人で見ているようなものだった。

 無茶苦茶だった。

 当時の教授や学生がシステムの一部を変更している可能性すらあった。

「破壊は軍がやったのか?」

「い、いえ」威圧するようシュルドの視線と声に事務員は腰が引けていた。「過激思考の学生だったと聞きます」

「内戦の影響か。いまも大学全体をカバーしているのか?」

「はい。新しい事務用のシステムを導入する予算もなくて。申請はしているのですが、政府も復興にばかり目が行ってこちらを見てくれないのです」

 研究費すら賄えていない学部も出ているという話だった。

 研究成果は簡単出せるものではない。こういったことに予算を回さないと先細りになるのは目に見えているはずだ。

「そうであればなおさらメンテナンスを受けるべきだったでしょう」

「すいません」若い事務員は頭を下げる。

「あなたに言ってもしたがないことですが、それらの事象の報告は受けているのでしょう? すべてのデータを見せて下さい」

 慌てて記録に残っているものを事務員は端末を操作してシュルドのタブレットに転送してくる。それにシュルドは目を通していくのだった。

「人が閉じ込められる事象もあるのか。進行方向を塞がれた? 火災が起きていたという事例はないんだな?」

「目的地に向かおとするとシャッターが下りてきて迂回することすらさせてもらえなかったという話ですね。オカルトじみているので誰も信じていませんでしたが」

「まったくだ」シュルドはため息を漏らす。「だが、これが事実だとしたら何かしらの理由があるはずだ。いまのところ法則性は見当たらないが、誤作動してはおかしい」

「システムに障害が出ているのでしょうか?」

「あなた方が勝手に調整していたというところがどうなっているかだな」

「そ、そうですか。それと、そこには記載されていませんが、別な目撃情報も出ていまして……」

「目撃情報?」

「幽霊が出るというのです。お恥ずかしい話ですが」小さな声で事務員は話すのである。

「幽霊?」また胡散臭い話が出てきたものだ。

「数年前から話題になっていましたが、最近、目撃情報が増えています」

 目撃される場所も広範囲にわたっていて小さな女の子であったり髪の長い女だったりと共通しているのは女の霊であるということだけのようだ。ただの怪談話であるようにも思えてくる。

「君は見ているのか? それを信じているのかな? セキュリティの穴もあるようだし、侵入者だったする可能性はあるのでは?」

「研究棟など出入口の警備はしっかりしています。それにそういった者の出入りも確認されていません」事務員は言う。「それに先輩が見たというのです」

 霊を追いかけていたら防火シャッターが下りてきたという嘘みたいな事例もあったというのである。

「それは私の仕事には含まれてはいないが、映像によるいたずらの可能性もある。そう言ったことにシステムが使われていないかはチェックしてみますよ」

「ありがとうございます」事務員は胸をなでおろす。「よろしくお願いします」

「それでは大学のシステムがどのようにメインコンピューターとつながっているのかそれのライン図を見せて下さい。無い? 当時勝手につなぎ合わせただ?」

 シュルドはジプコで設置時に行った初期のライン図は持って来ているが、大学側がそれに手を加えた時のライン図は残っていないというのである。呆れるしかなかった。

 メインコンピューターで確認するしかないのか?

「大学の配線図は残っているでしょう? そう言ったものすべて出してください」

「お見せできないものもありますが」

「それらが分からなければ直せないかもしれないのですよ」

 シュルドは威圧するように事務員の顔を見る。

「分かりました。上司に確認してみます」

「それからセキュリティの解除コードもお願いします。あなたが私に付き添って立ち会ってくれるのでしたらかまいませんが、無理でしょう?」

 もともと一人で作業をするつもりだったから、これは脅しに近かったのだが。

「お、お任せします」

 信頼されるのはいいことだが、セキュリティ上問題があると思いつつもメインシステムに入るための解除コードをもらうとシュルドは事務室を出て学内を歩きだすのだった。


「やっぱり神様はいるのかな」

 ペリシア・マリーは両膝をつくと手を合わせ祈った。

 学生が研究棟に向かって歩いているのを見つけた彼女は距離を置きながらついていく。セキュリティの半分くらいは使えなくなっていると聞いたけれど、出入口の監視カメラは厳しいと教えられている。ペリシアは工学部の学食へ入ることが許されていたが、それは平日に限ってのことだった。休日それを使ってはいれば本部事務室へ警報がいき構内の外へと締め出されたことが何度もあった。

 カメラの位置は固定されているのでそれに写らないようにすれば大丈夫と気付くのに時間が掛かったが、それさえクリアすれば研究棟への侵入することが出来るのだと分かった。

 学生達が研究棟に入った後にカメラの死角に入りながら侵入することが出来るようになっている。

 ペリシアは女性用のトイレを見つけると中に入る。

「もうお湯は出ないかな」

 ワドスの気候は夏に向かいつつあり、森でも夜は過ごしやすくなっている。蛇口を操作すると少しして熱くなってくるのが分かると彼女は喜び、鏡に向かいながら神に祈りを捧げる。

 髪の毛はぼさぼさで枝毛だらけで、着ていたぶかぶかのブラウスは裾が長めだったこともありワンピースにも見えてくる。

 薄汚れてきたのでこれも洗いたかったが、まずは髪の毛だった。

 トイレの手洗い用の洗浄剤を集めてきて髪の毛を洗う。泡立ちはいまいちだけどいつものことだった。洗える時に洗っておかないとかゆくなってしまう。

 それから服を脱ぐとブラウスを洗い始める。

 着替えはもう一着あるけれど裸だった。誰にも見られる心配はなかったので鼻歌交じりに汚れを落としている。あまりにも臭い不衛生だと学食の裏にも入れさせてもらえないのであるから必死だった。

 このチャンスを逃したくなかったペリシアは懸命に洗う。

 最後に自分の身体を洗っていた。

 残った石鹸水は少ない。一年程前から身体が大きくなったのか洗面台に乗るのも窮屈になって来た。少年らしさはなくなってきている。胸元と腰の括れは女性であることを隠せなくなってきていたのである。

 ペリシアはお湯の感触を味わいながら身綺麗にしようとしているのだった。

「お腹空いたな~」

 別のことを考えようとしても腹の虫は鳴りやんでくれない。水を飲んでも焼け石に水のようだった。


「タロ。システムを検証」

 メンテナンス用のアームを伸ばすとQ型「TARO」はメインコンピューターへとアクセスし潜り込んでいく。その様子を見ながらシュルドもモニターを三重に展開しながらメンテナンス作業を行っていく。

「自浄作用による自己管理システムがうまく作動しているようにも見えるな。これは珍しい」

 うまくリソースを振り分けオーバーキャパしないようにしていたのである。

 ただ自己メンテナンス故なのだろうか、プログラムの構築や積み上げがうまくいっていないようにも見える。例えるならふわりと余裕を持って積み上げられ並列に並んでいなければならないところが、ミルフィーユやバームクーヘンの様にがっしりと絡みついて層をなしているようにも見えてくる。それで味が良ければいいのだが、どうにも苦く美味しくなく出来上がっているようにしかシュルドには見えない。

 今のところプログラムには問題がないが、それだけに違和感もあった。

 何事もなかったように見せている不自然さを感じているのである。

「精査は終了。タロ、バージョンアップ用のプログラムインストール」

 十年の間に技術革新は進んでいる。いま新しい力と知識を注入しているのである。

 ワドスのコンピューターは本当に大学全体に網の目のようにシステムを独自に構築しているように見えた。これは驚異的なことである。発端は大学側による人為的な行為からであったが、その後は安定的にそれらを自らが管理できるようにしているように見えて来るのである。

「自我の目覚めか?」

 結論など出るわけもなく、いまだに解決の糸口すら見えないが、AIは独自の進化を遂げ人類のような思考を得ることが出来るのか、という命題がある。

 人類同様の進化が得られるのか議論は続いている。

 ただ『バーサーカーシステム』と呼ばれる人類を滅ぼしうるプログラム因子も発生していると近年では囁かれ、それに類する事件も起きていた。ワドス総合大学のこれがそれらに類推するのかは分からないが、慎重に進める必要があるのかもしれないとシュルドは思うのだった。

「まさかな」

 事務や警備にリソースを振り分けている部分はいったん独立させて切り離し、メインシステムを再起動させる。

 シュルドは立ち上がると、コーヒーでも飲もうと休憩コーナーへと移動することにした。


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