FREE MIND 9-3
3.生きること
お腹が空きました。
恥ずかしいですが、今も思いっきりお腹が鳴っています。
ごめんなさい。ペリシア・マリー・モルファトが私の名前です。
ただモルファトという父方の姓は名乗る気にはなれません。嫌いですので、ペリシア・マリーと呼んでもらっています。
先日、銀河標準時十二月で十五歳になり成人を迎えていますけれど誰にも祝われていませんし、気が付いたら成人していたという感覚です。
一日一日をなんとなく生き、その日をやり過ごすのがやっとだったから。
またお腹が盛大に鳴っています。
お腹が空きました。本当に。空腹すぎて眠むれなくなり、ベンチから身体を持ち上げましたが身動きが取れません。力が入らないし動き回るだけで空腹感が増すことは経験上分かっていることですから。
昨日はクズ野菜があまり手に入らなかったのと、大学構内の森林で自生している食べられそうな草は食べつくしたのも原因です。あとは苦みのあるものや毒があるものしか残っていません。小さなショルダーバックには半分にしたパンが一切れ入っていますが、それは非常用です。それだけで私は月曜日までもたせなければならなかったからです。今日はお腹が空いて目が覚めてしまったので時間的には朝方です。日曜日の。
時間が分からないのは私が端末を持っていないせいでもあります。
そんなお金はありません。戦災孤児が端末を持つゆとりなどあるわけがないでしょう。通信料もですが連絡を取り合う相手もいないし、私には帰る場所すらないのですから。買えるはずもありません。
わずかですがアルバイト代が入るのは六日も先です。それすらパンを買えば三日でなくなるほど微々たるものだった。教会の炊き出しも三日後になるし、救援物資の支給もその時になるでしょう。服がもらえればいいのですが……。今着ている服は何度も洗っているせいで擦り切れてボロボロになり薄汚れていますので、身寄りのない私には死活問題です。
私は元々、ワドスの隣にある惑星モルドゴスの出身です。私が生まれた頃にはモルドゴスでも争いは続いていました。母は私が十歳のころに空爆による爆発に巻き込まれ帰らぬ人になり、兵士だった父はPTSDを患っていたそうでその後自ら命を絶ちました。父にはよく殴られた記憶しかありませんでしたが。
両親が亡くなった後、私はワドスの父方の親戚に引き取られましたが、そこに私の居場所はありません。
親戚夫婦も子供が多く難民地区に身を寄せていたのですからあたりまえです。
ワドスシティの市街戦では難民地区が戦場となり、私達は散り散りなっています。お互いに消息を求めていませんでしたので、生きているのかすら分かりません。
生きていたとしても私の顔も見たくはないはずです。
私はその後施設に入れられましたが、その難民施設も糞みたいな場所で、人身売買の温床となっていました。あてはありませんでしたが、私はその場から逃げました。戦場になんて出たくありませんし人の盾にもなりたくないから。
死ぬかもしれないと思いながら、残骸だらけの市街地を彷徨い、気が付くと私はワドス総合大学の敷地に逃げ込んでいました。
生き延びた時、神はいるのかと思いましたが、地獄を見せるのも神なのかと思ったほどであります。
あの爆撃の中よく私は生き残れたと今でも思います。その爆撃音は今でも私の耳に焼き付いていて離れません。
そして現在に至ります。
浮浪者の様に食べ物を求めて大学施設を歩いていた私は運よくここで仕事を得ました。仕事といっても学生食堂の片隅で野菜の皮むきや皿洗いに荷運びなどの雑用を三時間くらいですが。それでも飢えだけはしのぐことが出来ました。
内戦前の食堂はオートメーション化されたキッチンシステムが行っていたようですが、壊れてしまったシステムが修理も補充もされなかったため人の手による作業に切り替えたそうでした。
私にはありがたい話でしたが。
おかげで平日はランチタイムの後に賄いを食べることが出来たしクズ野菜をもらうことで飢えをしのげました。寝る場所は不夜城になっている研究棟を見つけるとそこに忍び込み運が良ければ段ボールの上で寝ることも出来ました。それ以外の時は警備に見つからないように大学敷地内にある山林の奥で野宿しています。
私の秘密基地です。
雨の日は大変でした。よく病気にならなかったと思うほどでした。
私は難民申請をすればよかったのかもしれませんが、施設で受けた仕打ちがトラウマとなっているのでしょう。行政府へ行くことが出来ずにいました。
これからのことを考えれば割の良い仕事を探すべきなのでしょうが、街には私のような子供がまだまだ溢れています。求人センターに足を運びましたがその行列を見て諦めました。歩くだけでもお腹が空くからです。
神に祈りましたが、私はなぜこうまで苦労しながら生きているのか分かりません。
本能的に生きていたのかもしれませんよね。私はベンチから立ち上がると空のペットボトルを持ち、構内を歩く人の姿を求めました。
水を求めて学舎に忍び込もうとしていたのです。扉が開きさえすればその隙をついて忍び込むことが出来たので、警備システムが作動するまで身を寄せることが出来る場所を探して歩き始めるのです。
重い身体を引きずりながら。




