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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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FREE MIND 9-2

 2.彼は惑星ワドスに降り立つ



 これは今から八年程前、宇宙歴三百五十二年の出来後であります。

 この時、シュルド・アルベイラーが、惑星ワドスでペリシア・マリーと出会ったのでした。


 シュルド・アルベイラーは不機嫌な顔で眉間にしわを寄せ惑星ワドスの宇宙港に降り立っていた。

 強面な表情と鋭い目付きは、これが常である。

 太陽系アルケリのワドス宇宙港はこの星のメイン宙港ではあるはずだが、ロビーに活気は全くなかった。人は閑散としており星を出発する人は少ない。天井の灯りが節電で半分ほど消されているのではと思えるほどロビー全体が薄暗く感じてしまう。

 閑散としているのは、太陽系アルケリが三年前の銀河宇宙歴三百四十八年まで内戦状態にあったことだ。二十年以上にわたって続いたクーデターによって樹立した軍事政権と反政府側の泥沼の対立によって太陽系全体が疲弊しきっていたのである。

 今でこそ停戦協定が結ばれ新政権が樹立されたが、今度はそれに異を唱える過激な者達が反政府ゲリラを組織、抵抗勢力となりテロ行為を繰り返していた。

「民意は我らにあると彼らは声高に行っているようだが、民衆を苦しめている輩に正当性がある訳もないし、それに気づかない連中は余程の考え無しかバカなのだろう」

 そうとしか思えない行為だ。自らの権力欲や主義主張でさらに民衆を苦しめているのに気づかないのである。

 平和や復興への道程とは程遠い状況だった。

 停戦が成ったのも銀河連邦の介入があったからで、銀河連邦軍が投入されていなかったら泥沼の戦いは今も続いていたはずだ。基本的に仲介はするが太陽系国家の内政には不干渉な立場だった銀河連邦政府が軍を投入したのは、アルケリの国民が本当に困窮に喘いでいたためである。どちらの政権側も救援物資を国民に与えず戦争のためにしか使わず、それを相手のせいにして非難を繰り返すのである。人々の窮状を顧みない両政権に見切りをつけた銀河連邦はようやく重い腰を上げたのだった。

 遅すぎる判断だったとも言える。

 二十年に渡って与え続けられた苦痛はトラウマ以上のレベルで人々の心に刻みつけられているだろう。もっと早くに介入があればここまで疲弊と困窮はなかったはずだ。

 銀河連邦政府は超ド級移動要塞ボルテックⅡを投入し二日で太陽系アルケリを制圧し、無力化した彼らを武装解除させたのである。

 現在も平和維持軍として銀河連邦軍が常駐し監視にあたっている。

 そこで平和が訪れ、復興への道標が付けられればよかったのだが、新政権が樹立され公正な選挙も行われているにもかかわらず、それをよしとしない勢力が存在しているのである。平和維持軍へのテロ行為以外にも民間組織や施設への爆破などやりたい放題だった。

 呆れるほど愚かで馬鹿な行為としか言いようがない。

「誰も支持する者もいないのに、面子や主義主張にこだわり、ただ悦に入っただけの行為は人民をないがしろにし過ぎなんだよ」シュルドは呆れるしかなかった。「どれほどの人が死のうと関係ないと思っているそんな連中が為政者になれるわけがない。破壊行為ばかりではなく、人のためになる創造的ことをやってみろというのだ」

 シュルドは鼻を鳴らす。

「私腹を肥やすことに走り、一部の富裕層にしか利益が行き渡らないのではない。もっと国民に還元されるべきはずなのに、それを破壊することしか使わず考えていない、自らの主張、それもあって無きが越しの理論で通そうとして、うまくいかなければ力で頭ごなしに抑え込もうとしている行為はただのバカな子供だ」

 話し合いにすら応じてこない。

 銀河連邦政府はアルケリの再軍備化を許してはいないし、連邦軍も武器の輸入にまで取り締まっていたが、それでも裏ルートは存在し、それで財を成そうとする輩もいるのだろう。どこのコングロマリットかマフィアかは知らないが、厄介な連中は存在し続けている。もしくはどこかの太陽系国家が関わっているのかもしれないが、テロ行為は続いていたのだ。

「そんな金があるのなら、それを民衆に食料や生活必需品としてあえてやれば支持も得られるだろうに。それにそんなことで私腹を肥やす連中は因果応報という言葉を知らないハゲタカなのだろう。自分が安全だと信じ切っている。自分の身の回りで今みたいな事態がおとずれ無ければ、自分の愚かな行為が分からないときている」

 アルケリに投入された復興資金に群がる企業も多い。

 すべてが復興のために使われているとはいいがたいのはこの現状を見れば一目瞭然だろう。

「うちの会社がそうでないことを望むよ」

 人々は覇気を失い大きな音に敏感になり怯えている。街自体に活気がないのは、周囲に漂う空気からも読み取れるくらいだ。

 道路を走るエアカーは少なく、通りを歩く人々も同様だった。少し奥まった通りに入れば座り込んだ人々や立ち尽くす子供達の姿すら簡単に見つかるのである。

 晴れているはずなのに灰色の雲が広がっているようにさえ見えてくる。

「どうしてここまで放置されてしまっただろうな」

 この星に投資するにはリスクが大きすぎる。

 独占すれば相当な利益が得られる可能性もあるが、標的にされるリスクもある。新政府は企業誘致だけでなく、多くの融資を募っていたが、企業はまだ政情不安の続くこの星には寄り付かないし、融資は受けられたとしてもそれは多くの資金を必要とし、国民が以前の生活レベルを取り戻すには多くの時間を費やすことになるだろう。

 壊すのは一瞬だが、新たに信用を積み上げるのは容易なことではない。

 国の威信や面子にこだわっていた連中が、今更それに気づいても遅すぎるのである。

 それに心の傷は生涯ぬぐえない。この星の人々は誇りも自信も失っていた。

 いつの日か街は奇麗に生まれ変わるかもしれないが、それでも深く深層に刻まれた傷跡は残り続ける。

「後方で安全なところでのうのう暮らしていたこの星の政治家や上層部には分からないだろうな。死の恐怖に震えていた人々の心など」

 星自体が大きな傷を負い。世代が変わろうと呪いの様に刻み込まれてしまうかもしれない。

 それでもこの星で生きていくしかないのは残酷な話である。

 シュルド自身、口で何と言おうと無力すぎた。

 変えるほどの力はなく財もない。微かな跡くらい残せればいい方だろう。

「さて、行くか」

 彼は抱えていた補助システムロボットを起動させ足元に置いた。

 大きさは五十センチほどで、直径は三十センチ位だ。

「TARO。行くぞ」

 シュルドが声を掛けると起動した釣鐘型のコンピューターメンテナンス用サポートロボQ型『TARO』はセンサーを煌めかせシュルドの後についてきた。

 タロはシュルドが最も信頼する相棒でもあった。


「体のいい厄介払いだよな」

 シュルドは呟く。

 仕事は二日間の予定で組んであったが、彼は日帰りのつもりで、この星での宿はとっていない。

 Sランクのプログラマーの能力を課長も同僚達も理解していなかった。というよりはいつシュルドが仕事をして一日の作業を終わらせているのかすら分かっていなかったというのが現状であろう。

 仕事を終わらせのんびりしているのはさぼっているとしか見られない場合があることは知っているが、他人の仕事を手伝うことはしない。余計な仕事が増えるのも面倒だし、シュルドは課全体の仕事を自分任せにされるのは御免だった。他人を楽にさせるためにいるわけではないのだ。

 強面で、相手の行いが理にかなっていなければ噛みついてしまう性格は直すべきだとは感じているが、自分の心情にそぐわないものをそのまま放置するべきではないと、あとから降りかかってくる問題を回避するためにも必要なことだと思っている。

 シュルドは現在、商品管理課に所属している。

 ジプコに転職して以来三ヶ所目の部署だった。

 今回回ってきた仕事はワドス総合大学のメインコンピューターが奇妙な反応を示したという報告を受けた大学側が、開発元であるジプコにメンテナンスと調査を依頼してきたことに端を発している。

 本来なら開発元の部署や担当者が向かうべき仕事だったはずだが、この星の政情不安である。誰もが尻込みした挙句、シュルドにお鉢が回ってきたのであった。

 彼が断わらず仕事を受けたのは、暇つぶし程度にはなると思ったからだった。商品管理課は日影部署でろくな仕事が回ってこないからだ。

 仕事がないのも飽きたのである。


 シュルドはUC三百五十年にジプコに転職して二年近く経つが、よく解雇されないものだと思ったことがある。

 スカウトしてくれた人事部長オガワのおかげもあるのかもしれない。対人関係では不器用過ぎるシュルドにとって、オガワはおせっかいすぎるほど彼のことを気に掛けてくれていると言ってもいい。

 能力は高かったが、性格の悪さと強面から、疎んじられことが多く転職を繰り返していた彼がまだ二年そこそこであるがここまで長続きして離職を考えもしなかったのは珍しいことなのである。

 オガワには感謝するしかない。何かにつけて気に掛けてもらっていた。一匹狼でしかないと思っていたし、フリーのプログラマーとしてやっていくしかないかと思っていた頃に、能力を認めてくれてジプコにスカウトしてもらっていた。

 ただ彼の意にそぐわないこともあったと思う。最初の要員訓練課では同僚や新人達からも不評を買う。教育方針が合わないのである。次の課では課長や同僚の不正を暴いたが、それが原因で今の課へと左遷させられることになった。オガワの苦肉の策であったと聞く。オガワはもっと能力を活かせる部署への転属を考えてくれているようでありがたい話である。部長クラスの人間がここまで平社員を気に掛けてくれるとは思わなかったのである。

 友人も出来た。

 同期にスカウトされていたアサノである。課も違っていたが、研修では意気投合しオガワとともに何度も飲みに行き、親交を深めることになる。

 Sランクプログラマーだと知ると、部署の垣根を越えてヘルプの要請が入る。

 片手間に片づけていたが、アサノへの貸しは増え続ける一方で今日至るのだから、この出会いは面白いものであったと思うシュルドだった。

 シュルドは宇宙港の待合でエアタクシーを捕まえると、ワドス総合大学へとエアカーのシステムに指示し、仕事先へと向かう。



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