バレンタイン・パニック 8-9
エピローグ~彼女の笑み
ランチタイムにアリエーは左手の薬指のリングを見つめ続けている。
「いつまで続くのかしらね。そのふやけた笑い顔は」
右隣のフィオーレが呆れている。
「だって嬉しいんだもの」
キリリとした顔をしようとしても自然と顔がにやけてしまうのだという。
「婚約しただけでしょうに」フィオーレはため息をつく。「あのヘタレは」
「ねえフィオ。ヘタレとはどんな意味かしら?」
アリエーの左隣のディが訊ねてくる。
「軟弱な、弱虫な心を持ったホーカルのような輩を言うのよ」
「弱虫なの?」ディはアリエーに訊ねる。
「私と同じで弱虫かもね。でもね、でもね、ディ、出会った頃の様に毎晩優しいんだよ」
アリエーののろけ話はディには理解できないようだった。質問を繰り返すけれど同じ答えが返ってくるのである。
「はいはい。ごちそうさま」
「お幸せにね、アリエー」それでも心から応援し祈るディだった。
「ディ。もっと言って」嬉しすぎるから。「ようやくここまでたどりつけたんだよ」
「そんなに結婚願望があったのかしら?」
「私自身よくは分からないけれど、スクルでは普通、十五歳くらいまでには結婚するのが当たり前だったから」早い子は十歳で相手が決まり十一、二歳で結婚する人もいたそうである。「子供のころは普通に結婚するものだと思っていたからさ」親が決めてくるとさえ思っていた。
「その話からすると、すでに行き遅れかしら?」
「故郷に帰ると女友達は全員、お嫁に行っているからね」子供も多くいた。
「両親には何も言われなかったの?」
「好きな人がいるからって言って、全部断っていた」
「ホーカルが貴女の家族や親戚から力勝負を挑まれていたと聞くし、飲み比べもしたと言っていたけれど」
「うん。私に相応しいか見ていたはず。本人、そんな意味があるとは思っていなかったでしょうけれど」クスリとアリエーは笑った。
「認めてもらえたの?」ディが訊ねてくる。
「私、人気あったようだから、男友達や子分達からはかなり恨みも買っていたようだけれどね。ほぼほぼ勝っていたから問題なさそう」
「よかった。祝福してもらえるわね」
「そうであって欲しいな。精霊様にも認めてもらいたいし」アリエーは微笑む。「私ね。装飾品もあまり好きではなかったの。あまりゴテゴテするのも嫌だし、繊細過ぎるとなおさらね。壊してしまいそうで」
「服と同じでなんてわがままな子だこと」フィオは笑う。
「それでシンプルなものに?」とディ。
「指輪って、何でもらうとみんな嬉しいんだろうって思っていたけれど、いざこうして自分がもらうと嬉しいものですね」
幸せそうにアリエーは微笑むのだった。
〈八話了 第九話へ〉




