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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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バレンタイン・パニック 8-2

 2.チョコを作りますよ?



 バレンタイン直前の休日に女性陣はTDF社員食堂に集まっていた。

 勿論呼ばれてテーセとフェリウスも顔を見せている。フェリウスは材料とエプロンも持参していた。

 シンシマには前日の土曜日にお料理教室を開くと言って大きめの流し台とキッチン台を取り寄せさせると設置させ、フィオーレは社食キッチンの拡張工事をしていた。

 駆り出されたシンシマはいい迷惑だったことだろう。

「あれ、何やってんだ?」とノルディックは一緒に朝飯を食べていたシンシマに訊ねている。

「バレンタインのチョコレート作りだってさ」

「バレンタイン?」さらに隣にいたレイストも訊ねていた。聞き慣れない言葉だったのだろう。「チョコ?」

「知らないのかよ」シンシマはデータを送信する。

「うちの太陽系では、あまりメジャーではないイベントでしたよ」

「まあ知らない人から見れば二ホン式のバレンタインなんて奇祭にしか見えないのかもな」

「愛の告白だけじゃなくて、友達や家族にも贈るんだろう。付き合いが広いと大変そうだよな」とノルディック。

「もらった翌月に三倍返し?」驚くレイストにノルディックは呆れる。

「何の罰ゲームだよ、それ」

「まあ、そんなことも言われたりしたっていうことだろう。加熱しすぎると大変だってこと」

「ぼくらにもおこぼれありますかね?」

 こっそりレイストは訊ねてくる。

「その他大勢には含まれているんじゃないか」

 ノルディックをシンシマはジッと見つめニヤついた。最近、ディがノルディックを見つめる視線が熱いように感じる。テーセ誘拐事件からしばらくしてからだろうか、それまでにもディに表情がなかったわけではないが、今の彼女は喜怒哀楽が更にハッキリとしているような気がして、何らかの進展があったのでは思えてくるのである。

「もらったとしてもやらんぞ」

「倍返しするくらのものは考えておけよ」軽くノルディックの腕を肘で小突いた。

「まあ、その時考えるさ」

「余裕ですね」レイストが苦笑する。

「現物でなくともディナーでもありなんだろう?」

「最高級のレストラン用意しておけよ。臨時収入もあったんだろう?」

「格式の高いレストランなら正装したディには似合いそうだが、オレとテーセはどうなんだ?」

「テーセはギリ行けるかもしれないが、お前さんはもっと庶民的な方がよさそうだな」シンシマは笑った。


「ねぇ、アリエー」

 和気藹々と話をしていると、クリスがアリエーに話しかけてきた。

「何かしらクリス?」彼女は背中に何か隠し持っているようだった。

「受け取って欲しいものがあるんだけど」

 隠し持っていた包みをアリエーに彼女は差し出した。

「私に? バレンタインじゃなくて?」

「もっと早めに用意したかったんだけど時間が取れなくて」

「なんだろう?」包みの中から出てきたものを見てアリエーは固まってしまう。「こ、これを私に?」

「んだ。アリエーを見ていると、いつも薄着過ぎないか、寒くないかなと思ってしまうのと、見ている私達も窓の外が吹雪いていたりすると、寒く感じてしまうの。いつもシルクとか薄い生地だし光沢もある寒色系が多いから、そのね」

「そう感じているの? みんなも?」

 アリエーの問いかけにその場の全員が頷いている。

「おへそ出していてお腹壊さないかなとか、思うの」とクリスが素直な意見を言う。

「い、いや大丈夫だけれど」

「アリエーが着易いように、透かし編みのトップスにして、毛糸の量は減らしてみたしどうかしら?」

 黄色みのかかった毛糸をベースに緑の模様が入っている。

「着てみればいいじゃない」出来に感心しながらフィオーレはアリエーを促す。

「う~」確かに手触りは悪くないが……。「すぐに脱いじゃうかもよ」

「着てみて駄目だったら、次を考えます。だから着てみて下さい」

 両手を握りしめ期待の眼差しをクリスは向けてくる。

「わ、分かった」

 アリエーは服の上からトップスを恐る恐る着てみる。今日もへそ出しで肌は露出している部分も多い。首を通してみると肩とか毛糸が触れる部分にもチクチクした嫌な感じはないし、香りも良かった。

「痛くない?」アリエーが軽く身体を動かしてみたが問題はなさそうだった。

「どうでしょう?」

「うん。チクチクしないし、いつもの毛糸の感覚とも違うような?」

「よかった~」クリスはホッとする。「毛糸も草花で染めたものを使ってみたの。それが良かったのかしら」

「あ、ありがとう。クリスはいろいろと気を遣ってくれていたのね」

 アリエーはクリスの思いやりに感激していたし、自分が毛糸の服を着ていられるとは思わなかった。この日は一日毛糸のトップスを着ていてホーカルを驚かせることになる。

「いやぁ、私の自己満足もあったけれど、ちゃんと着られているようで安心しただ。それにアリエーにはこういった服も絶対に似合うと思って」

「今回の配色とかセンスは悪くないし嬉しいけれど、クリスの服のセンスは……」

「私だってシンプルなのが好きですよ」クリスが力説する。「でも私の体形がこうだから、隠そうとフリルやレースを縫い込んだりしているから、そのねぇ」

「隠すことはないのよ」フィオーレは突っ込む。「それでもクリスはもう少し肉を付けた方がいいわ」

 彼女はペリシアに同意を求める。

「パーンには安産型だって言われましたよ?」

「あの子は貴女にそのようなことを言ったの? いい、クリスは手足も細いしウェストが括れ過ぎなのよ。太りなさい」

「そうですよ」ペリシアも同意する。「見ていてすぐ骨が折れてしまいそうですから、クリスには食事量を少し増やしますね。クリス用にもう少し料理を考えてみましょう」

「適度に運動をすれば改善されるはずです。いいですね」

「は~い」クリスは朗らかにのん気に応えていた。

「良かったですわね。ペリシアさんの特別メニューよ」フェリウスがクリスの背を軽く叩く。

 エレナはその様子を輪の外から見ていた。

 首を軽く横に振り、ため息をつくのだった。


「テーセは誰に上げるの?」デュエルナは妹に訊ねる。

 着て来た服が汚れないように白衣を着せ、その上からエプロンを付けさせるつもりだった。

「ノルデ兄とママ」外の寒さを吹き飛ばすほどの明るさでテーセは姉に応えていた。

「パパは?」

「パパ嫌い」

「家に持って帰ったら期待されてしまうわよ」TDFに来る理由は話してあるはずだった。

「自分の分はここで食べちゃうし、ディ姉とノルデ兄には十四日に来れないから今日渡してしまうもの。ママの分は宇宙港で発送してしまうから、戻るときは手ぶらだよ~」

「あらあら」テーセのパパさんは泣くかもとディは思った。

「ディ姉は? あげる人がたくさんいるから大変そう」材料の量を見てテーセは言う。

「頑張って作るわ♪ 手伝ってね」

「ノルデ兄の分は手伝わないよ。特別だもんね」

「ありがとう」

 ディは肩の布地にフリルのついたエプロンを着せて後ろに回ると腰ひもを蝶結び結んであげ、白衣の上からだけどかわいらしさをアピールする。

「ありがとう。お姉ちゃん。何を作るの?」

「やっぱりチョコトリュフかしら」

「テーセはねえ、泥団子のようにピカピカにコーティングしたチョコボールの中に炭酸とアーモンドを入れたいな」

 その言葉を耳にした者達はギョッとする。何を作ろうというのだ?

「アーモンドがふやけないかしら」食感が悪そうだ。

「じゃあ圧縮空気にした方がいいかな。はじけるような感覚を残したいから」

 いやいや食べた瞬間、口の中が大変なことになるだろうと誰もが思った。

「でも、持ち運んでいる時の衝撃で壊れてしまわないかしら?」

「爆発しちゃうと元も子もないものね」

 頼むから普通に作って欲しいと誰もが願う。

「じゃあ、中心にバーボン入れて、そこから色々なものをコーティングしていこう」

「何をコーティングするのかしら?」

「味に強弱付けたいしクリームだけじゃなくて辛子に蜂蜜、生姜。クリームは苺や檸檬にメロン、ピーナッツに生ハムで歯ごたえある食感をだして、あと明太子も良いかな。粘り気のあるものも入れたい」

「そんなに色々なものを重ねていくの? どれくらいの大きさにするつもりなのかしら?」

「サッカーボールくらい?」

 花火の尺玉でも作る気だろうか?

「大きいし、食べづらくない?」

「そっかあ。そうだね。テーセじゃ歯を立てても難しいかも」

 誰もがホッと胸をなでおろすが、次のディの言葉に耳を疑うことになる。

「それだったら、お団子や小さなお結びにしてみない? その中に二つか三つ具のようにテーセが言った材料を入れてみるの」

 止めないの? 姉妹で爆弾お結びチョコを作る気だろうか?

「餃子みたいにできるかな?」テーセは顔を輝かせる。

「ホワイトチョコもあるからできるかもしれないわね。ペリシアに聞いてみようかしら」ディも色々と考えていてアイディアが加速していく。

「こら」そんなディの頭にフィオーレは手刀を振り下ろす。「あなたたちは食べ物で遊ぶつもりですか? もらう方の身にもなってごらんなさい。口の中をボロボロにするつもりですか。それとも味覚障害にするつもり。ディも止めなさい。このニトロトルエン姉妹は」

「え~、なんでそれをフィオーレお姉ちゃんが知ってるの?」

「ノルディックに聞きました。『混ぜるな危険』と」

「酷いよねぇ、ディ姉」

 テーセは口をとがらせるが、頭を押さえながらもなぜかディは嬉しそうにフィオーレの叱責を聞いていた。

「ロシアンルーレットを作るのも許しません。ペリシアもそのような材料や刺激物は仕舞っていて下さいね」

 慌ててペリシアはキッチンの上の材料を見直し、危なそうなものは仕舞っていくのだった。

「「は~い」」二人は声を合わせて可愛らしく頷いていた。



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