バレンタイン・パニック 8-1
1.彼女は高らかに宣言する
ティーマの季節は一月(雨柳)から二月(芽生月)へと移ろうとしている。
雪が雨交じりになり、季節は春に向かいつつあった。そんなある一日の終わりのことである。
「バレンタインデーを執り行います」
壇上でフィオーレ・カティエスはそう宣言した。
凛とした声が小会議室に響き渡る。
この会議に集まったのはTDFの女性陣のみで、アリエー・ファムカ、デュエルナ・ネルミス・ツイング、エレナ・ホナミ・ヤジマとナーブ・クリスタル・リクスフェンの五名だけだった。
「バレンタイン?」
耳慣れない言葉の響きにアリエーは小首を傾げ、意味を知っているディとクリスは楽しそうな顔をしている。エレナはというと頬杖をついてフィオーレを睨んでいた。
「バレンタインデーはご存じかしら、アリエー?」
「お菓子の日だったかしら?」
「菓子メーカーの戦略もあったようですが、そのイメージはかなり違っていますね」
フィオーレがそう言うので、アリエーは端末で検索してみる。
「なるほど聖人を偲ぶ厳かな日から、その人が恋人たちの守護聖人になって、恋人たちがカードやプレゼントをやりとする日になったのね。でもさフィオ、バレンタインデーとは言っても、この面子だと誰も該当しないんじゃない?」
誰もが目を疑うようにアリエーの発言を聞いていた。
「あれ? 私何か変なこと言った?」
「気付いていないのならいいです」呆れたようにフィオーレは言う。
「え~っ、なんでよ。ディ教えてよ」
ディの肩を掴み揺さぶるので、フィオーレが改めて訊ねる。
「ホーカルとはどういう関係なのかしら?」
「ともだち」ひどく悔しそうだった。「だってだって、友達としか言ってくれないのよ。ひどいよね」
きっとプレゼントを用意しても一方通行に終わるだろう。
「何の話かと思ったら、あたしは関係なさそうなので一抜け」
「お待ちなさい。これは重要な話です」
ぴしゃりとフィオーレに言われて素直に席に戻る。
「どう重要なんですか?」エレナは語尾に気を付けてフィオーレに問いかけた。
「ここはティーマです。二ホン方式で行きます」
「つまりは?」
「エレナ、あなたにも友チョコを渡したい相手、親密になりたい相手はいますでしょう?」
「そっ、そうですね……」気恥ずかしさからうつむいてしまう。
「感謝の気持ちを込めて贈ることも出来ますし、気軽な気持ちで、相手に渡すことも出来ます。これは活用すべきではと私は思うのです。どう思いますかディ?」
「私はパーンとノルディックに感謝を込めて贈りたいです。もちろんエレナにもですよ」
パアッっとディの言葉に顔を輝かせるエレナだった。
「私もホーカルとパーンには贈りたいかな。もちろんフィオにも」
アリエーも頷いた。
「私はフェリウス先輩に贈りたいです」クリスは手を上げた。
「よろしい。ではバレンタイン作戦を決行いたします」
「チョコレートを買いにいくの、ですか?」エレナは訊ねる。
「私達の手作りですよ。男どもは泣いて喜ぶはずですわ」高らかにフィオーレは笑う。「チョコ作りの講師にはペリシアを招いています」
すでに了承はとっている。
「フィオ」
「なにかしらディ」
「テーセも呼んでいいかしら? この話を聞いたら絶対駈けつけてくると思うの。ノルディックに渡したいと」
「かまいませんよ」
「フィオーレさん」それを聞いたクリスは訊ねる。「フェリシア先輩にも声を掛けてもいいですか?」
「ペリシアが居るのですから、話を聞けば駆けつけてくるでしょうね。呼びなさい」
「ありがとうございます」
「決行日は二月の初めの休日とします。各自作りたいチョコがあるのなら、考えておきなさい」
全員が「はい」と答えているのだった。
部長と同様奇行の目立つフィオーレだったが、彼女なりに考えてのことだった。
設計が追い込みに入りトラッティン産業博覧会に向けて女性陣全員が休日返上で仕事をしているのである。息抜きも必要であると考えて、この企画を考えたのだ。
「フィオには渡したい相手はいないの?」
「もちろんいます。彼に贈るためにチョコを作るのです」
宣言するとその場の全員が相手を知りたかったが、ディ相手であってもその名を明かすことがなかったフィオーレだった。




