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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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部長秘書の喜怒哀楽 7-7

 7.諦めない心に光はある



「頭打ちね」

 モニター越しのアサノ課長に向かって珍しくため息をつくフィオーレだった。

『そうだねぇ~』アサノも同様のようだ。

 トラッティン産業博覧会に向けて、フィオーレは宣伝戦略を立て打てる手を打ってきたが、ジプコTDF館の認知度、期待度は彼女が考えていたほど上がってはいない。

 どこで市場調査を読み違えていたのだろうか?

 民間の調査機関の調べでは十位以内には入ってきているが、他社もそれぞれに認知度を上げようとCMなどを打っているのだから、抜きつ抜かれずの状況に変わりがなくミネルヴァやアマデウスとの差は開く一方にも見えた。

 そもそも産業博覧会の知名度自体が上ってきていない。

「何かやり残しているのがあるのかしら?」

『他社と同じことをやっているわけではない。独自色は出しているが……どうにも出だしの遅れがね』

「それでもこの低さは納得がいきません」フィオーレは悔しさをにじませている。「誰か他にアイディアを出してくる人はないかしら?」

『珍しいね』

「視野が狭くなっている気がするのよ。情報収集が追い付かず、今まで蓄積した経験値をすべて使い切っている気さえするわ」

『どうしても一人では限界があるよね』

「それも理解しますけれど、何かしらの奇抜なアイディアでもいいから、別な視点が欲しいわ」

『奇抜ねぇ。正攻法でなくてもいいなら、いるかな』

「女性かしら?」蔑んだ目付きになる。

『当たり~』アサノは社内端末で連絡を取り始めた。『広報部門の広報企画課の娘でね。オレもアイディアに煮詰まった時には助けてもらっている』

 かなり発想が異質であるというのである。

 端末がつながるとモニターに女性が顔を見せる。

『こんにちは~♪ 呼ばれてきましたミュウリエイ・パティスです。ミリーと呼んでね』天を突き抜けていきそうなスカイブルーの髪に赤褐色の瞳はクリクリしていてアーモンドのように愛くるしい。『今をトキメクTDFのカティエスさんにお会いできてミリーは光栄です』

「時めく?」画面越しにも伝わってくる元気パワーに圧倒されそうだった。ディの妹を見ているような感覚にもさせられる。

『バレーボール大会での活躍見ました。みなさん格好よかったですよ。ミリーもファムカさんのように跳んでみたいな。ツイングさんのレシーブやトスワークも可憐で、』

 話を止めないと小一時間はしゃべりっぱなしになりそうな勢いだったので、フィオーレは慌てて用件を切り出す。

『ふむふむ。それでこのミリーの話を聞きたいと。アサノ課長もそうなのですか? なるほどなるほど』

 ミリーは可愛らしく腕組みして考え始めた。しぐさや口調からはとても二十三歳には見えなかった。幼すぎるのである。

『そうなると宣伝の目玉が欲しいですね。CMや宣伝素材を見ましたけれど、もう少しインパクトがあるものが欲しいと思っていたんですよね』

「見てくれたのは嬉しいけれど、具体的な考えはあるのかしら」

『時間もありませんし、身近なものでどうでしょう』

『身近とは?』アサノは首を傾げながら訊ねる。『何かあっただろうか?』

『わたしもファンですし、当たり前すぎますが、ユリウス・ドリスデンにテーマ曲を頼むのはどうでしょう?』

 モニターに顔を近づけながら彼女は歯を見せ笑顔で提案してきた。

 身近過ぎるが『確かにインパクトはあるけれど、無理だろう』

 相手は一京人のアイドル。奇跡のシンガーとも言われる超一流のミュージシャンだった。

「彼女、今まで一度たりともCMは歌っていないし、タイアップも断っているという噂よ」

 あまりにも無謀過ぎて話にならない。

『カティエスさん、立ち止まっていたら前には進めませんし、やらずに諦めるのはもっとダメだとミリーは思います。何事もチャレンジ。これが駄目なら次を考えましょう。ミリーもとことんお付き合いしますよ』

 かわいらしくウィンクするミリーだった。


「ちょっとノルディック、ここへ来なさい」フィオーレは文面が出来上がると対面にいたノルディックを呼ぶ。

「何だよ。何かヘマしたか?」

「そうではありません。願掛けです」

「願? 珍しいな。フィオーレが」

「私でもままならないことはあります。 計算できないことはあるのです」完璧主義者から聞く初めての愚痴のような気がする。「同姓のあなたに運を託すのです」

「何をしようとしているんだよ」

 ノルディックはメールの宛先を見て納得した。

「おい、ディ来てくれよ」

 デュエルナを彼は呼ぶ。

「何でしょうか?」

「フィオーレの願いが叶うように一緒に送信ボタンを押そうぜ」

「そこまでは望んでいません」

「いいじゃないか神頼みでも。ディはオレの契約も結んでくれた幸運の女神、ラッキースターだからな」

「そんなことはありません。あれはノルディックの努力です」ディははにかむ。

「やることをやったのだから、天命を待つにせよ天使にすがれば状況も好転するさ」

 ノルディックにそう言われディは微笑みながらフィオに手の上に手をかぶせていたノルディックの大きな手の上に優しく手を添える。フィオーレは暖かいものを感じながら送信ボタンを押した。

「うまくいくと良いでね」

 ラッキースターは微笑んだ。

 フィオーレが依頼メールを送信して三時間後には返信が返ってきている。

 あまりのレスポンスの良さに驚くフィオーレだった。しかも彼女は返信されたメールに目を見張る。あのユリウス・ドリスデン本人が自ら返信をくれたのである。

 やってくれるという返信に小躍りしたくなるフィオーレだった。

 すぐさまデータ量の多いコンセプトレポートを事務所宛てに送る。その半日後にはメロディが贈られてきたのである。TDFは奇跡が起きたと湧きたった。


「ヤマネ副社長。休日なのにご足労頂いてすいません」

 ロイスは待ち合わせの場所でエアカーに乗せてもらいながら声を掛けた。

「今日の私は仕事休みの身です。役職は抜きに行きましょう。個人的にもあなた方とはパイプを築いておきたい」

「こちらこそ。都度都度の設計変更を、嫌な顔をもせずに引き受けてくれてもらっています。感謝以上のものを感じています」

「いやいや、その度に我々は驚かされていますよ。ここまでリアルを求められているとは思いませんでした」

「所員一丸となって頑張っていますから。私もその期待には応えないと」

「何を他人事のように言っていらっしゃる。あなたもその一員でしょう?」

「いやあ、とてもとても彼らには追いつけません。ほんのちょっと、こうして出張しながら彼らの希望を叶えようとしているだけです」

 謙虚な人だとヤマネ副社長は思った。あのカティエスさんの希望をデータだけではなく設計を基に寸分たがわずこうして現場に伝えてくるのである。そうそう出来ることではない。

 ステージの基礎部分は出来つつあるし、世界樹たる中央の支柱もメインシステムの到着待ちとなっていた。内壁もTDFの注文に合わせいかなる変更が来ようと対応できるように音響設備を整えている。社員もやる気に満ちていた。

 これほど充実した仕事を得られることは滅多にあることではない。

 ヤマネのエアカーは街の中心部から郊外に向けて進んでいる。家や建物も少なくなり、しばらくすると草原や田畑が広がり始めていたところで大きな屋敷が見えた。

「ここは?」

「私が両親のために建てたものです」

 高齢になった両親を呼び寄せようと建てたものだったが、両親は都会暮らしを嫌がり、まだ土地を開墾するのだと残っているのだという。

「畑を耕すことも出来るし、孫やひ孫、玄孫とも暮らすことが出来るようにと、ここに土地を買って家を建てたのですが」

「未使用なのですか?」ロイスは驚く。

「私の家族の家は他にあります。両親は倒れるまで開墾を止めないでしょうね」深くため息交じりにヤマネは呟いた。「十分な広さもありますし、二十人は楽に泊まれるでしょう。役立てて下さい」

「よろしいのですか? ここまで良くしていただいても」

「あなた方とのおつきあいは、社のみならず私にも益のあることだと思っています。これからもお付き合い願いたいという私のちょっとした企みでもあります」まるで秘密を話すように彼は言う。

「分かりました」キーカードを受け取りながら、ロイスは頷く。「TDFの希望を叶えるのは並大抵ではないでしょうが、お付き合いよろしくお願いします」


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