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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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部長秘書の喜怒哀楽 7-5

 5.友達になる方法?


 フィオーレが休憩室のテーブルで一人お茶を飲んでいるのをエレナは見つける。

「なあ」エレナはフィオーレにざっくばらんに聞こえるように声を掛けていたが、フィオーレの凍てつくような視線に言葉を改める。「えっと……少しお時間いいでしょうか?」

 フィオーレは視線だけ向けた後にエレナに席に座るよう手で示した。

「あ、あのさ。今は仕事中じゃないんだ。砕けた喋り方でも、……分かりました。教えて欲しいというか、アドバイスして欲しいことがあるん、あります」

「フェリウスのことかしら」

 ディのことやバンドのこともあるだろうが、差し当たって緊急を要するのはこれだろう。

 野生の勘なのかと思ってしまうフィオーレだった。先月のオガワの秘書面談の話は極一部しか知らない。ただ早ければクリスマス前、遅くとも年明け早々にはフェリウスは秘書課に戻ることになるはずだ。その前に関係改善を図っておきたいところなのだろう。

「な、なんで分かる?」

「不思議でも何でもないわ。あなた最近、話しかけたそうにフェリウスを見ていますものね」フェリウスが怯えているのも分かるほどに。

「うぅ~う」頭を掻きむしるエレナ。

「エレナ。相手の目を見て話しかけるのはいいことですが、睨むのはダメです。それから言葉遣い。丁寧に優しく話しかけなさい。声を荒げる口調ではいけません」

「もう体中に染みこんでいるんだよ」

「それにしてもなぜ私のところに?」

「あたしも嫌だったけれど、ディにこれ以上辛いこと言わせたくないし、ディがもっといいアドバイスをくれるっていうから仕方なく。あ~あもう言葉遣いって面倒だよな」

「あなた、良く面接に通ったわね」

「なんとか猫を被り通した」

「ディと話をしている時もかしら」

「野蛮な言葉とか口にしないように気を付けてはいる」

「それを四六時中集中してやりなさい」

「無理、無理、無理」何度も強く首を振り切った。「あたしの気が持たねぇ。持ちません」

「それでしたらフェリウスとは一生話をすることも仲良くすることも出来ませんね。誰もがあなたを離れていき、相手にすらされなくなるわね」

「なん、どうしてですか?」

「フェリウスはお嬢様よ。あなたみたいな子と接したことすらないでしょう。それにあの子は怖がりだし泣き虫よ。シュルドさんとだって最初は距離を取っていたもの」

「でも今は普通に話をしてんだ、でしょう。ノルディックなんてあたし以上の狂犬だぞ! アリエーだって自分のこと野生児だって言っているぞ」

 強い声で話しかけてくるエレナにフィオーレはため息をつく。

「狂犬などと言っているのはもうあなただけよ。ノルディックはあなたと同類ではない。見た目こそ圧迫感がありますが、しばらく接していればちゃんと気遣いが出来る子だと分かります。彼の気遣いは相手に伝わっています」

「気遣い? んなもん、そんなのあたしにはないんだけど?」

「あなたが勝負、勝負と付きまとうからでしょう。アリエーもうんざりしていたわね」

「だって、負けっ放しは悔しいだ、でしょう?」

「子供の言い訳ね。あなたの自己満足でしょう。他人なんてお構いなし」さらに冷ややかに見つめる。「あなたこのままだと孤立するわよ。ディも庇いきれなくなるでしょうね」

「どうして? なんで?」

「ずいぶんお優しい方々に恵まれて育っていたのね。そのような振る舞いだからこそ、フェリウスも近寄らないのよ」

「シュルドさんやノルディックが大丈夫ならあたしだって」

「見てくれの問題ではなくてよ。相手の気持ちも微塵も理解できないあなたには無理すぎるわ。乙女な心も持っているのにね」

「な、なんだ、なんですか? それは」

「ロイスに懸想していたことに気付かないと思っていたの?」

「なっ!」耳まで真っ赤になって沸騰しているような表情になる。

「それに目よ。そのギラギラして睨みつける様な視線。仏門にでも入って修行していらっしゃい」

「それじゃ、間に合わねぇ、あいません」

「言葉遣いも丁寧な言い回しにしようとしていても、喧嘩腰で早口な強い口調は、マフィアの言い掛かりみたいで、気の弱い子なら逃げていくでしょうね」

「どうしろって」

「子供みたいなことは言わないように」ため息が漏れてくる。「私はあなたをバレーボール大会ではほぼ使ってこなかったわ」

「ハブられていると思った」

「何故そうなったか分かるかしら?」

「フィオーレはあたしが嫌いなんでしょう」

「その理由は?」

「知らない」

「そういうところよ。相手のことを一切考えない。ディさえいればなんて言っていると、彼女にも嫌われるわ。それとも本当に愛想つかされたいの? どうしてこうなったのか、その理由も分からなければ。考えてみなさい」

 宿題を出されて考え込んでしまっている子供のように唸り声を上げるが、いくら待ってもエレナからは言葉が出てこなかった。

「お、教えて下さい」

「理解できるのかしらね」肩を竦めてエレナを見つめた。「でも理解出来なければ、あなたの傍には誰もいなくなるでしょうから、嫌でも現実を理解しなさいね。分かったかしら? ひとつでも言葉使いを間違えたら、訂正したりしたら話を打ち切りますからね」

「ち、ちゃんと考えます」

「どんなに能力が高くてもあなたはチームプレーが出来ないから最終メンバーからは外しました。チームプレーの意味は分かるかしら?」

「仲良くすること?」

「それもあるかしらね」フィオーレは口角を上げる。「連携が取れていなければ相手を取りこぼすことになります。今回の相手は特にね。そうならないように意思疎通を図りました。そのために私達は勝利しました」

「アリエーは勝手に動いているようにしか見えませんでした」

「足技のことを言っているのかしら? あれは彼女が出来ると言ったので任せました。信頼しているからこそ、任せられたのです。勝手にやらせているわけではありませんよ。あなたにはそうは見えなかったのかもしれませんでしょうけれど、ディもホーカルもノルディックもいつでもフォローに回れるようにしていたのですからね」

 エレナのそれは悔しそうな顔つきだった。

「信頼は互いを理解しあわなければ連携は生まれません。あなたは相手のことを考えたことがありますか。ただ役に立ちたいというだけではディにも伝わりませんよ。ディがノルディックに信頼を寄せているのは彼がディに何が必要なのかを分かって行動しているからです。あなたはそう言ったことを他人に対して考えたことはないでしょう。自分の我を押し付け、我を通そうとしていただけですよね?」

 エレナは腕組みし深く考え込む。フィオーレもどうすれば自身の言葉が伝わるのか悩んでしまう。言葉を尽くせどオガワのように心に響くようになっているのかは分からないからだ。

「先日のバンド練習もそうよね」

「見てたのかよ!」

「見なくても分かるわ。ディにも拒絶されたのでしょう」


 ステージ上で曲を練習していたが、シンシマが演奏を止めた。

「エレナ。ステージから外れてくれ」

「何でだよ?」

「アリエーもディも歌いづらそうだ。それに俺もホーカルも合わせるのには限界だ」

「合わせるって、あたしは、ちゃんと演奏しているだろう?」

 エレナはシンシマに食って掛かる。

「譜面通りに引けても、だがエレナは誰とも合わせていないだろう」とホーカル。「合わせる気もないみたいだしな」

「ちゃんと弾けているだろう?」

 それを聞いてアリエーは肩を竦める。いつでもシンシマとエレナの間に割って入れるようにしていた。

「初心者とは思えないほど進歩したしテクニックも悪くない。それでもお前の演奏はソロとしての弾き方だ。それではバンドは成り立たないんだよ。ちゃんと他の音も聞け、そして合わせろ」

「教えろよ!」

「そんなの自分で理解するしかないだろう。エレナの感性にまで入り込むことなんて出来るはずがない」

「なんでだよ」

「お前は俺の感性まで理解できるのか?」

「分かる訳がないだろう」

「エレナ、シンシマから手を放して」ディが悲しそうな目で見ていた。

 バツが悪そうにエレナは手を離したが、居心地が悪かった。

「ディ。ちゃんと言ってやらないと、このままだよ。苦しいのは分かるけれど、それも友達のためなんだからね」アリエーにそう言われてディは小さく頷く。泣きそうな目だった。

「エレナは私の歌を演奏中聞いてくれている? そうだよね演奏に夢中だものね。私ね……」言葉にするのが辛そうだった。「私、私、歌うのが辛くなってくるの。エレナがどんどん違う方向に行ってしまうから……」

 後の言葉は耳に入ってこない。茫然としながらその場を離れ寮に戻っているのだった。


「ノルディックやアリエーがなぜ嫌がっているのか考えたことはありますか? 先日、あなたの演奏を聴かせてもらいました。初心者としては素晴らしいものですが、単体での演奏ではとしてです。バンドとしてのあなたの演奏が先走り過ぎてまとまって聞けるレベルではありませんでした。相手を見て合わせようとして演奏していますか? していませんよね? 周囲のことが見えない。相手を慮れない。孤立したいのですか? そうではありませんよね? でしたらエレナに何か足りていないのか、フェリウスに何が必要なのか考えて行動を起こしなさい。私はフェリウスに口添えいたしませんよ。あなた自身でそれは考えてください。私はそこまで優しくはありませんからね」

 エレナは唇を真一文字にしてフィオーレの話を聞いてくれているようだ。とりあえず考えてはくれているようでフィオーレは安堵した。

「私達は大人です。時にはなあなあで済ませてしまうこともあるでしょう。それでも人は譲れないものがあります。フェリウスは私達のことを想って涙を流しくれたのです。その気持ちが分かるからこそ、あの時、あの場にいた全員がフェリウスのために動いたのです。あなたが彼女に何かをしたという気持ちは分かりますが、相手のことも考えなさい。一方的な気持ちでは伝わりません。自分を見つめ直しなさい。分かりましたか?」

 半分程度は伝わったでしょうか。エレナは考えてくれているようだった。

「それから話し方ね。早口にならならないように。語気を強めない。ゆっくりと相手に話しかけなさい」

「ゆっくり?」嫌そうな顔をする。

「ディにもこれ以上嫌われたくないのでしょう? フェリウスと普通に話をしたいのでしょう? 努力しなさい。それなくしてはあなたの将来がないと思いなさい」フィオーレは言葉を続ける。「毎日鏡の前で、睨みつけるのではなく笑う練習をしなさい。フェリウスに染みついた印象を見た目から変えることから始めなさい」

 そう言うとフィオーレはエレナを退席させるのだった。

 休憩室から出て行ったエレナにため息をつくフィオーレの前にハーブティが置かれた。彼女はペリシアに感謝するのだった。

「こういう気遣いですよ」


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