ノルディックの休日 6-8
8.告白する過去
「テーセは私が嫉妬するくらい才能の塊です」
「ディだって天才だろう。こうしてフィオーレやシュルドさんについて来ているんだから」
彼女のことは少しだけれど理解できてきている。
「私はなんとか食らいつくことしかできていません」ディは懺悔するように告白した。「テーセは本当に才能に恵まれています。嫉妬する程です」
「そうは思えないがな」努力型の天才を見てノルディックは思う。
「私は付いてくことがやっとでした。テーセは日々進化し続けているのです」珍しいほどディは悔しそうな口調でもある。「私が並ぼうとするとすぐに置いていかれます」
「テーセはディの背中を追いかけていたって言ってるんだがな」
「そうありたいとは思いましたが、現実には……。確かにあの子は構築すること積み上げていくことは苦手です。でもそれを補うほど簡素化がうまい」
「結論や結果を急ぎ過ぎているんじゃないか?」
「そうとられますよね。集中力が持続しないというか、結果を先に知って先を急ぎ過ぎてしまいます」
例えば炎を生み出す呪文があったとすると、十も二十もの単語を組み合わせ正確に唱えたうえで炎は生み出されるものである。テーセはそれを生み出すための必要な単語を省き簡略的に発生させることに成功させてしまうのである。それは正式なものではなかったし、不格好でバランスの悪い術式となってしまう。それに何かの拍子に本当にバランスを崩せば暴発する可能性すら秘めていたのである。
ディはそれをさせないためにテーセの隣で監視をしてフォローを入れながらプログラムを完成させるのを得意とするようになってしまっていた。
ちょっとのことでは動じない笑顔でやり過ごしてしまう性格がここから生まれたのだろうと思われた。
「そうすることでボムを生み出すというのも才能だろうな」何に活かせるかは問題だが。
「そうやって褒めないでくださいね」
「呆れているんだぞ?」
「テーセは喜んでいましたよ。ノルディックに褒められたと」その表情からすると拗ねているのだろうか?「それでも私は嫌ではありません。むしろテーセとともにプログラムをするのは大好きです」
ピアノで言うところの連弾みたいな感じなのだろうか。
二人がキーボードを叩きながら並んで座る姿はきっとそう見えたことだろう。それに二人で同時にプログラムを構築していくのは息が合わないと絶対に出来ない。
「テーセのあだ名をご存じですか?」
「トリニトロトルエン(TNT)だろう」名前の頭文字を取ってうまく語呂合わせしたものだとノルディックは思った。
「実は私にも同じようなあだ名があります」
「ディにか、意外過ぎるな」
「そうでしょうか?」苦笑しているというよりは嬉しそうでもある。「私の異名は、ジニトロトルエンです」
あまり聞き慣れないものだった。それでもトルエンの一種であり、調べてみると自ら爆発することは少ないが、それでも刺激を受ければ爆発する危険物だ。
「あまりの楽しさにテーセとプログラミングしていた時に私もボムを作ってしまったことが何度かありました」
「ディがか?」意外過ぎたて目を見張るノルディックだった。
「はい」ディは目を細めてはにかむように笑う。「他にもありましたが、最初は教材システムをダメにしてしまいました。私が十歳の頃です」
「凄いな。それにしてもそこからジニトロトルエンを連想するなんて、それを付けたやつは天才だな」
「そう思います。本当は私も怒られなければいけないのですが、叱られたのはテーセだけでした」
「まあ、テーセは前科がありすぎるからな。履歴とかが分からなければそうなってしまうだろう」
「あの子は気にしていなかったと思います。私が謝罪すると、私を守れてよかったと笑い、あれくらい平気だと言ってくるのです」
「いつもかばってくれるから、テーセも何かしたかったんだろう」
「テーセの気持ちは嬉しいのですが、私も一緒に叱られたかったです」
「姉として?」
「それもありますが、私は一度も叱られたことがないのです」
「一度も? それはぜいたくな悩みだな」
天使ならではだとノルディックは苦笑いするのだった。




