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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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ノルディックの休日 6-4

 4.状況を打破する方法



 のちにノルディックが知ったことではあったが、彼らを襲ったマフィアは半年程前からテーセ・ナルスを誘拐しようと試みていたらしい。活動資金を得るためだったのだろうが。ただのお嬢様と思い込み、彼女自身のことを知らなすぎたのはマフィアの不幸とも言えた。

 彼女の実の父親は実業家であり資産家でもあったようだ。

 それはまずテーセ・ナルスが家を飛び出したところから始まり、デーロンの宇宙港でさらおうとしていたところを、護衛やノルディックに邪魔された結果、このような強硬手段を取ったようである。

 都市の監視網や銀河保安局の目を欺き無効にするために、惑星デーロンへの電力送電をストップさせるところから始まり、一時的な停電によって都市機能を混乱させていた。そのことはノルディックが端末を注視し、公園の噴水が不意に止まったことから気付けたのかもしれない。

 マフィアは大胆な戦略でテーセを誘拐しようとしていく。惑星の電力供給には概ね二つのパターンがありそのひとつがデーロンで用いられている宇宙衛星のソーラーシステムからの電力供給で、マフィアは一時的に過剰かつ大量の電力を地上の送電システムに供給をさせることによってシステムのダウンを引き起こさせ、一時的に都市機能をマヒさせることに成功していた。

 過剰供給によって安全を確保できないと判断したシステムは電力の受け入れをストッブしてしまっことから、都市の管理システムや監視システムが非常電源から再起動するまでの数分間使用不可能になっている。その間にテーセとノルディックを拉致し宇宙港に停泊していた彼らの母船へと連れ込んだというのが一連の流れであった。


「お前、ずいぶん落ち着いているな」

 突然誘拐されていても、泣きもしなければ沈んだ様子でもない。むしろ嬉々としているようにすら見える。

「お兄ちゃんだって」

「まあ慌てても仕方がないよな」

 脱出手段でも考えていた方が気が楽だ。

 二人が押し込められたのは三メートル四方の何もない部屋だった。

 椅子もなければトイレもない。ただの白い壁や天井をテーセは興味深げに見まわしている。ただ状況を楽しんでいるのかもしれない。

 端末やバイザーは荷物事もっていかれてしまっている。データはすべて抜き取られてしまっているだろうか。バックアップは大丈夫だったかと頭を巡らせてしまう。

 心配するところが違うなとノルディックは苦笑してしまった。

「マフィアかなぁ。それとも宇宙海賊かな」

「その両方かもな」

 これほど強硬手段でさらっていくのだ。戦力も規模もそれなりかもしれない。本来、誘拐して身代金要求なんて割に合わないものなのだが、余程自信があるのだろうかと思ってしまう。

「テーセは本当にお嬢様だったのか?」

 ノルディックはボソッと訊ねた。

 エアカーの中で目隠しされたので正確なところは分からなかったが、肌で感じる空気とエアカーを出たあとの音から、連れてこられたのは宇宙港だろう。この部屋は宇宙船の中では違いないとノルディック考えていた。

 ノルディックは後ろ手にされ手錠をはめられていたが、それ以外は自由だ。テーセに至っては手足を縛られてすらいない。それに二人一緒の部屋に入れられていたのでテーセが心細くならなくてよかった。

「違うよ。パパがお金を持っているだけ。わたしじゃないもの」少しむくれた口調だった。「本当はお姉ちゃんと暮らすつもりだったのに……」

「だから逃げ出したのか?」

「ぜいたくな暮らしなんかつまらないもの。大学以外どこにも行かせてもらえないし、不自由だらけ。ママと暮らしていた頃はこんなことなかったのに」

「ママはどうしたんだ?」もしかして……。

「仕事が忙しくて、私の面倒を見られなくなっちゃったの」長期の出張で家に戻れないらしい。

「それも親としてはどうかと思うが」

「ママは偉いのよ。わたしたち姉妹の誇り。悪く言わないでね」

「分かった、分かった。パパさんとはどうして?」

「一人暮らし出来るってママに言ったのに認めてくれないの」

「そりゃそうだろうな」あの様子では誰も認めないだろう。

 ゴミ屋敷以下になるかもしれない。

「え~っ、どうしてよ。お姉ちゃんは新社会人になったばかりで負担かけられないってママが言うからよ。パパのところのなら多少わたしがやらかしても大丈夫だろうって、ひどくない?」

「なるほどな」

「納得しないでよ。いじわる。わたしだって来年には卒業して社会人になるんだから」

「面接で落ちそうな気がするが」

「レディに失礼よ」怒り出したので、ノルディックはからかいすぎも良くないと慌てて謝った。「パパとは十数年ぶりかな。わたしが二歳の時に契約が終わったから、別れたはずなんだけど、面倒見たって言って来たらしいの。ママが了承したからだけど、そうじゃなかったら暮らすことはなかった」

「血縁なんだろう。大切にしないと」

 子供が欲しいだけの契約結婚はよくある話だ。親権はその時の契約で決まりテーセの親権は彼女の母親にあるのだろう。どれほど裁判を起こそうとも銀河憲法からもその太陽系の条例からも親権は同意がない限り移譲されることはない。

 テーセの母親はそれを踏まえたうえで、彼女を父親に預けのだろう。テーセが成人しても大学を卒業するまでの間に。

「分かっているけれど、過保護すぎるのよ。わたしゴスロリ好きじゃないし」

「かわいいし似合っているぞ」

 ノルディックの言葉にテーセは一瞬驚く。

「本当にそう思う? 褒められて嬉しい。でもわたしはもっと動きやすい格好の方が良い」

「だったら何でそんな恰好をしているんだよ」

「この方が便利だからよ」

 テーセはそういうとノルディックの後ろに回り彼を拘束している手錠に触れていた。カチカチと小さな音がする。

「何をしている?」

「もう少しだけジッとしていてね。それから肩を貸して」

 前かがみになったノルディックの背中によじ登ると、テーセは彼に立ち上がるように言う。

「これから私の特技を見せてあげるわね」

 肩車をしている状態でノルディックが立ち上がると、二歩右に移動させ、テーセは肩の上に立ち上がり、天井に手を伸ばす。

「何をやっているんだ?」

「もう少し待ってね。それから上を見ないでよ」

「そんなことで欲情したりしねぇよ」

「ノルディックは失礼」

「デリカシーがないとは言われているよ」

「彼女様大切にしないとだめだよ、お兄ちゃん」

「もしかしてお前!」

 その言い方で気が付いた。

 ただそれで動揺もする。全然、ディとは似てないじゃないか!

「あはは、バレちゃった」

 テーセがそういうとプラスチックの割れる音がする。足元にカメラを隠していたカバーが落ちてくる。

「お前何やってんだ?」

 上を見上げるがかぼちゃパンツとフリルのスカートが邪魔して彼女の手元は見えない。

「今監視カメラをダメにしたわ。音声もこれでオフと」

『おまえら…な』監視していたマフィアの声が途切れる。

「すぐにやって来るからあとはお兄ちゃんにお願い」

「お願いってこの状況で簡単に言うな」

 後ろ手に縛られているのだ。体当たりと多少の蹴り技くらいだぞ。

 そう言いかけたノルディックの電子錠にテーセが触れるとノルディックをしめ付けていた科せがあっさりとはずれる。

 驚きながらもノルディックは出入口の前に瞬時に移動し、待ち構えた。

 反撃の始まりである。

 マフィアは想定外の出来事に混乱するのであった。


 ノルディックは慌てふためいて部屋に入ってきた男の脇腹に手刀を入れる。

 手加減なしにである。反撃を食らわないように彼は確実に仕留めていく。その攻撃力は防護服を着ていても耐えられるものではなかった。

「さすがお兄ちゃん」

「それ止めてくれないか。オレはお前の兄でも何でもない」

「ディ姉が信頼して認めた人なら、ノルディックは私のお兄ちゃんも同然だよ」

 強引な理屈付けをしてくる。絶対に引かないつもりらしい。

「勝手にしろ。それにしても全然似ていないな」

「そうかな?」

 部屋に飛び込んできた二名を拘束し部屋に閉じ込めるとノルディックはテーセとともに通路に出た。部屋のキーロックは変更したテーセだった。

 的確だったが、手慣れすぎていて眩暈がする。

 非常事態を示す艦内警報が鳴り響く。

「どうするつもりだ?」

「通信システムかメインコンピーターに接続できるシステムがある部屋が良いな」

 テーセは笑った。無垢な笑いである。

 信頼できるものには全幅の信頼を寄せてくる。こうしてみると二人には共通点があると思えてくるノルディックだった。

「ここがどこかも分からないのに無茶言うな」

 端末もタブレットもない時点で、システムへの侵入は難しい。

「マフィアさんの端末は拝借してきました」

「ちゃっかりしているな」

 ノルディックはテーセを片手で抱え上げる。

「どっちに行けばいい?」

「ちょっと待ってね~♪」

 行き先が分からないまま動くわけにもいかないが、通路の両側から二名ずつ銃やナイフを手にした者達がやって来る。

 力づくででも二人を逃がさないつもりである。

 両側から挟み撃ちで来ているので、この状況で銃を撃つことはないだろうが、ノルディックは銃を手にした奴がいる方にダッシュする素早くテーセを下ろすと向けられた銃の射線から身体をずらして相手の懐に飛び込むと肘を思いっきり叩き込んだ。容赦はない。後ろの奴はそれでつまずいてくれたので首筋に踵を落として眠ってもらった。

 テーセを引き寄せると、彼女に掴みかかってきた男の腕を掴みひねり上げながら腹に重い蹴りを入れて後ろの奴目掛けて投げつける。二人が倒れたところに全体重を乗せた両膝を落としたのだった。

 カエルが潰れたような音が聞こえてきた。

「お兄ちゃんだけでこの船を制圧できちゃうんじゃないかな」

「無茶を言うな。こっちは素手だぞ。武装している奴らもいるんだ」

 電磁警棒やスタンガンを持っている奴らに出会ったとしたら、いくらノルディックでも耐えられないかもしれない。

 倒れている奴らを武装解除して、手近な部屋へと放り込むノルディックだった。

 スタンガンを持っている男がいたので二個拝借することは忘れなかった。電子戦を仕掛けるのだったら必要になるかもしれない。

「それで分かったのか?」

「三ブロック先にサブシステムの部屋があるわ」

 カメラを破壊し、電子錠を解除したのである。相当の腕前ではあるとみていたが、想像以上だったし、さすがディの妹だと思った。

「出口じゃないのかよ」

「すぐに逃げられるわけじゃないでしょう。銀河保安局に連絡もしないといけないし」

「ここは宇宙船なのか?」

「マフィアさんの偽装宇宙船みたい」

 テーセは腰に手をあて、何かを取り出している。

「何やってんだ? それバッテリーか?」

 テーセは手品のように腰のあたりから小さな板チョコ状のバッテリーを二個取り出すと髪に結んであったリボンを外し、リード線を引っ張り出して器用につないだ。

 テーセは歯を見せ笑うとソフトボールのピッチャーよろしく三メートル先に山なりに投げた。

 一瞬で火柱があがる。あり得ない勢いだった。

 天井から消火剤が散布されるが、それでも消えないので隔壁が下りてくる。

「これで時間は稼げるわ」

 ひと仕事終わったように額をぬぐうテーセだった。

 ノルディックはテーセを抱えると彼女の指示に従って進み始める。

「お前、さっきみたいなことやって家を抜け出したのか?」

「あれは非常手段よ。もっと穏やかな方法で抜け出しているわ」

「無茶苦茶だな。家のセキュリティが役に立たなくなるだろう」

「お金持ちだもん。それくらい大丈夫でしょう。それよりあと五つ作りたいから、よろしくね」

「一体、幾つ持ってきているんだよ?」

「ゴスロリ服は隠すところが色々とあって便利なの。とにかく隠せるだけ持ってきているわ」

「よく税関とか通れたな」

「金属探知には引っかからないものを選んでいるわ」

「確信犯かよ」

 いつも身に着けているとしたら、狂っているとしか言いようがない。爆弾を身に着けているようなものだったからだ。ディ、お前の妹はとんでもなさ過ぎるぞ。ノルディックは頭を抱えそうになりながら進んでいく。

 ディの妹だけあって優秀なのだろう。すでに通路は頭に入っているのか道案内にぶれはない。十字路やТ磁路に来るたびに作った発火爆弾を進行方向とは逆に投げていき、隔壁が落ちていく。

 ノルディックは進行方向から現れる者を細い配管をへし折り、こん棒代わりに使うと相手を薙ぎ払っていった。

「もう少し棒術もやっておけばよかったかな」


 サブシステムが収められている部屋のガードは少しきつかった。

 テーセに解除を任せると、ノルディックは相手の銃撃を身を隠しながら避けて、発火爆弾を手榴弾代わりにして向かってくる奴らを迎撃する。

 かなりマフィアには被害が出ているのではと思ってしまう。

 テーセは二つの端末を器用に使いながら、パスワードを探っていた。十七歳で電子戦の知識があるのだから、相当だろうな。それで納得していいのか分からなかったが、さすがディの妹といったところか。

「開いたよ」

「ご苦労さん」そう言って最後の一個を遠くに放り投げだ。

「これもお願い」テーセは先程まで使っていた端末をノルディックに預けてくる。

「捨てなくてもいいだろう」

「十秒後に発火するから、遠くへ投げてね」

 サラリと言ってくれたが、確かに端末が熱を帯びている。ノルディックは慌てて遠投するのだった。

 床に転がる前に通路を覆うほどの炎が上がる。それを見届けるとノルディックは部屋へと転がり込む。

 テーセはすでにコンソールにつき、システムのスリープ状態を解除していた。

 踊るように指先が動いている。

 テーセの指を見てノルディックは違和感を覚えた。爪の色が変わっているのである。

 薄いピンクではなく、今は銀色っぽかった。

「テーセ、あれはなんだ? ふつうあそこまで発火は起きないぞ。確かに壊れた端末から発火することはあるが、ほとんどは火傷程度であそこまで火が上がることはない」

「そういわれても出来ちゃうの。わたしは機械を分解するのが好きなんだけど、戻す時に効率よくつなげようと思ったりして実行するとさっきみたいなものが出来ちゃうのよ」テーセは可愛らしく肩を済める。「ディ姉には危険だからやってはいけないって言われているけれどね」

「当たり前だ。しかし端末は専用の工具が無ければ中をのぞくなんてことが出来ないだろう。どうやったんだ。あの短時間の間に」

「あとで見せてあげるから、先に銀河保安局に連絡しようよ」

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