ノルディックの休日 6-3
3.警告と襲撃
アーケード街を歩いた先にちょっとした公園があった。
ちょうどいいかと、そこでひと休みすることにした。テーセは移動店舗から飲み物を買ってきて、ノルディックの隣にちょこんと座る。
クレープも一緒に買ってきていて、大きめのサイズの苺クレープを小さな口で一生懸命に食べている。その姿はリスのように小動物が餌を頬張っているようにも見えてしまい。癒されてしまう。
テーセを見た通行人も同じことを感じているのか、微笑ましそうに彼女を見ている。
鼻にクリームをつけたテーセをこのまま見守っていると、何か別の世界に引き込まれそうになり、ノルディックは自分はノーマルだと慌てて首を振ることになる。
シュルドさんやロイスのことを笑えなくなってしまう……いや、テーセは十七歳だから違うか?
天候制御が成されているのか空は青く雲ひとつない。ベンチの背もたれに寄り掛かるとぼんやりと目の前の噴水を見ている。この星にやって来て初めてのんびりできた気がする。
「いいなあ。お姉ちゃんは」
「何がだよ?」ノルディックは訊ねた。
仕事や、鍛錬をしている時以上に疲れが襲ってくるノルディックだった。体力にも精神力にも自信があったが、半日も経たないうちにゴリゴリ削られた気分である。
テーセ以上に手のかかる子を見たことがない。
「お兄ちゃんは優しいし、一緒にいると楽しい」
「どこがだよ」気の利かない朴念仁とか言われているんだぞ。
噴水の水が一斉に花開くように展開していく。水の祭典を子供達は楽しそうに見ていた。
「そうかなぁ。わたしは楽しいよ。お姉ちゃんが嬉しそうに話すのが分かったよ」
苺のスムージーを元気いっぱいに吸い込みながらテーセは微笑んだ。
「お兄ちゃんといると楽しい♪」テーセはご満悦のようだった。
「いいかげん、そのお姉ちゃんとやらの名前を教えてくれないかな」
「秘密よ。サプライズの意味がなくなるわ」
幾度となく繰り返されているやり取りは平行線のままだった。どこまで行っても秘密は明かさないつもりのテーセである。
もやもやした気持ちをすっきりさせるには最後まで付き合うのしかないのかと思うノルディックだった。
「本当にわたしを見ても分からないの?」かわいらしく小首を傾げる。「ママにはよく似た姉妹だって言われるに」
「お前によく似た女性にオレは全く心当たりがないんだが」
「お姉ちゃんはね、すごく優しいし、とびっきりの美人なの」
両手をいっぱいに広げ、表現するテーセだった。
美人?
テーセは美人というよりはかわいらしさの方が目立つ。それに美人で優しいと言ったら、自分の彼女か姉しか連想できないノルディックだった。
まったく手掛かりにならない。
「ねえねえ、次はどこへ行くの?」
「まあ、お客さん次第かな」
「お客さん?」
テーセが首を傾げていると、護衛さん達の登場だった。
テーセとノルディックの座るベンチを挟むように両側から一人ずつやって来た。
これまでの支払いはノルディックが済ませていたが、クレープとスヌージーの代金は本人に出させている。
彼らも有能なのだろうカード決済からすぐにたどってきたのだろう。
「え~っ、なんでぇ~」
不満そうなテーセだった。
ノルディックが立ち上がり一歩前に出ると、彼女はノルディックの背中に隠れながらしがみついてくる。
後ろからは気配が無いから大丈夫だろう。とりあえず彼らの言い分を聞いてみることにする。
「テーセの話だけでは埒があかないし。いつまでもこのままという訳にもいかない」
宇宙港にも網を張っていることだろう。
「うぅ~ぅ、お兄ちゃん意地悪だ」
「悪いようにはしないって。ちゃんと送っていくから」
「嘘ついちゃいやだよ」
背中に顔をうずめながらテーセは言った。
「なあ、あんたら虐待なんてしてないよな。こいつこんなに怯えているぞ」線も細いし、体重も軽すぎた。
「そのようなことはしておりません」リーダーらしき男が答えた。
厳ついが言葉遣いは丁寧だった。
「さあお嬢様こちらにいらしてください。帰りますよ」
「い~やっ! つまらないんだもん」
「わがままを言わないでください。こちらとしても手荒なことはしたくありません」
「お兄ちゃんは、強いんだぞ~」
舌を出して拒否するテーセだった。いちいち可愛らしくてあざとい。
ノルディックとしてはこの二人を跳ね除けるのは簡単だった。ただ数が分からないのと、街中や宇宙港で乱闘騒ぎは起こしたくなかったし、銀河保安局のお世話にもなりたくなかった。それは最終手段として、とりあえず話し合いを試みてみる。
「なあ、あんたらも一緒に来ないか? テーセも姉に会いたいだけのようだし、気が済めば帰るだろう」
「それを許すことは出来ません。連れ戻せとの命令です」
「そこまでこだわらないでさ、戻れば問題ないだろう?」
「テーセ様が姉君に会われて、戻らないと言い出す可能性もあります」
「そうなのか?」
「パパ嫌いっ! ママのところへ行く」
「それは困ります」
「なあ、本当に虐待していないよな。十七歳でこの体重と線の細さはおかしくないか?」
「発育不良だと言いたいのか」
いや、そこまでは言っていない。後ろでテーセがむくれているのが分かる。本人も気にしているようだ。
「ちゃんと遊ばせているのか? テーセはストレスためまくっていたぞ。友達もいないんじゃないのか?」
「こちらの事情です。さあお嬢様戻りますよ」
強制的に動き出した。本当に白昼堂々とことを起こしてくるとは……。ノルディックは軽くため息をつきながらも相手の動きを見ていた。
一人はテーセを確保しようと、もう一人はノルディックを押さえつけようとする。
ノルディックは一歩踏み出すと掌底で男の顎を下から突き上げる。
きれいに決まったのか、彼は膝から崩れ落ちた。もう一人はフィオーレの真似をしてみた。腕をつかむと反動を利用して投げている。意外とうまくいった。
そのまま肘なり膝を落とせば黙らせることも可能だが、あくまで話し合いで解決したかったノルディックである。
「さすがお兄ちゃん。強いし頼りになる」
嬉しそうに腕に頬擦りするテーセだった。
あおむけに倒れている男を不敵に笑ながらノルディックは見下ろした。
「聞き分けがないのはそっちも同じだろう。オレを倒したいのなら一個小隊くらい連れてこないと止められないぞ」
軽く警告したつもりだったが、まさかそれが現実になるとは思わなかった。
大型のエアカーが五台も公園に飛び込んできたかと思ったら、ノルディックとテーセに銃を突き付けてくるのである。
急展開過ぎて現実味が無さすぎる。




