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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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風に抱かれて 5-6

 6.疾風は迅速に



 アリエーとパーンは公衆トイレで手を洗うとランドリーショップを探した。

 パーンの汚れてしまった背広とコートをクリーニングするためだった。

 血を検知したランドリーの管理システムに事件性がないことを証明するのに少し手間取ってしまう。

 クリーニングは三十分ほどで乾燥からプレスまで終わる予定だった。

「これハンドクリーム。指先に塗っておくわね」

 腰のポーチの中から小さな容器を取り出すとふたを開けてパーンの手を取り指に塗り始める。

「ありがとうございます」

「私達の商売道具なのだから大切にしないとね」愛おしむように塗る。「クルーティンって言っていたけれど、あれはエアカーと衝突したした後だったんだよね?」

「そうですね」

「ありえないわ!」アリエーは声を上げる。「そのエアカーは欠陥車よ。通報すべきだわ」

「クルーティンは特殊なんです」

 パーンは検索し端末の画面を見せた。それを読んだアリエーの顔が青白くなる。

「そ、そんな……そんなに瞬発力があるの?」

 信じられない面持ちでもある。

 クルーティンは六十年ほど前に偶然冬眠状態から発見されたティーマで唯一の固有種である。猫に似た姿をしていてフワフワの毛並みとアーモンドのような大きい瞳が愛くるしい小動物だった。ただひとつ問題があるとしたらウサギのような後ろ足は考えられないほどの瞬発力を生み衝突すれば両者ケガでは済まないことになってしまうのである。

「個体差があっても二百五十キロというのは……」

「プロテニスプレイヤーのサーブ速度に匹敵します。センサーが反応できないほど至近距離で飛び跳ねられるとエアカーは避けられないのです」

「政府やメーカーは対応していないの?」

「センサーを過敏にし過ぎると、逆に小さなそれこそ枯れ葉でも反応してしまいエアカーが制御不能になることになってしまいました」

「確かに数メートル以内で目の前に飛び出されたら難しいけれど、だったら車道脇に小動物用のガードを設けるのは?」

「人の横断も阻害してしまいますし、ガードの高さを超えてジャンプするクルーティンもいます。何より保護団体から犬や猫の移動まで阻害するとクレームが付きます」

「エアカーの制限速度内でセンサーが働き、制動できるようにしなければならないの?」

 アリエーは頭を抱える。

 コンマ数秒の差だがそれを埋めるが難しかった。

「何とかできないのかしら、メーカーは何をやっているのよ?」

「政府からの依頼で対応してくれようとしてくれてはいますが、今言った内容から解決策は見出されていません」

「ねぇエアカーのセンサーは基本的には対人だよね?」

「小動物にも対応していますが」

「そうだよね。私は今まで起きた事故の詳細を知らない。どう対応していいのか分からないわ」

「何かしらの対応策はあるのですか?」

「思いついたことは二つ三つあるけれど……うまくいくのか分からないわ」首を横に何度も振るアリエーだった。「うまくいくかも分からないわ。基本はテニスをした後にパーンに言ったことだけれど、タイムラグをなくすこと。メインセンサーは車体に埋め込まれているから百八十度監視しているわけではないわ。横からの異物に反応できるようにサブシステムがあるだけで、それは予備でしかない。どうしてもタイムラグは起きてしまう。それをなくして制動するしかないと思うの」

「できると思いますか?」

「検証できるか、実証実験を繰り返してみないと分からないわ」

「でしたらアリエー、TDFに行きましょう」

「えっ?」顔を上げ、アリエーは驚いてパーンを見る。「今日は休みよ?」

「TDFに時間は関係ありませんよ。実証実験だってすぐにお見せ出来ます。アリエーにはセンサーの調整とプログラミングをお願いします」

「TDFにクルーティンのデータはあるの?」

「すぐに集められますよ。うちのスタッフは優秀ですから」

「休みなのに招集をかけるの?」

「皆自由ですから」牧神パーンは笑う。「TDFには寮もあって残っている人もいますから、声を掛けて手伝ってもらいます」

「いいのかしら?」

「分かってくれますから、大丈夫です」パーンはアリエーの手を取る。

 その熱意の風にほだされてアリエーは頷くことになる。どうせこの後はやることもない。

 半日で出来るとは思えなかったが、やってみる価値はあると彼女は思うのである。

 パーンはアリエーの手を引きすぐにランドリーショップを出ようとしたが、アリエーが力ずくで抑える。

「最低でもクリーニングだけでも済ませましょうね」

 二人が外に出ると空はまだ重苦しかった。それでもアリエーはナディスからの風が大丈夫だと言っているように感じるのだった。



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