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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会②思惑 4-5

 5.エレナの想いと信念



 採用や面接では必ず目と目とを合わせ直接話をすることが大事である。

 数値や資料からは分からないことを知るために大切であり、それがオガワの流儀でもあった。

 TDFへの転属を希望してきたエレナ・ホナミ・ヤジマともオガワは人事部から話を聞いて資料を見ながら熟考したのち、直接会っている。

「勤務時間中に時間を取らせて済まないね」

 オガワが手を差し出してくるとエレナも歯を見せ笑顔で手を握り返してくる。

 身長はオガワよりも高く、握った指先は細く柔らかかった。

「大丈夫です。あたしは重要な仕事は割り振られていないので、こうして抜けさてもらうことも出来るので」

 釣りあがった目じりと濃いブラウンの瞳はぎらついている。オレンジの髪はライオンの鬣のような荒々しさで彼女のワイルドさを強調している。

「それにTDFは忙しいはずなのに時間を取ってくれて、オガワ部長に会ってもらえるなんて思いませんでした」

「忙しいことは確かだけれど、これもやっておくべき大切なことだからね」

「ありがとうございます」

 体育会系なのだろう強い声で目上を敬うように挨拶してくる。

 実直さが伺える。

「まあ立ち話もなんだから、ランチをしながら話をしよう。時間は大丈夫だよね」

「課長にはさらに一時間抜けられるようお願いしています。少々遅れても問題ありません」

「じゃあ、いこうか」

 オガワはエアカーにエレナを乗せると中心街にあるレストランを目指す。エレナが委縮しないように大衆的な店を選んでいた。

 オガワは日替わりのランチを頼む。今日はフライ定食だった。少し悩んでからエレナはトンテキを選んでいた。

「好きなんです」エレナは歯を見せニコリと笑った。

 彼女から見たオガワは人の良さそうなご近所で見かけるごくごく普通なおじさんに見えてくる。整えられきっちり分けた黒髪と黒縁の眼鏡はそう見えるように計算されたものなのかもしれない。現代において眼鏡はファッションでありネットなどの通信と情報を得るアイテムであった。過去に目に起きていた病気はバイオチェンジ技術の向上により寿命とともにほぼ克服されている。身長はともかく体形は変えられるようになり、人は職業や地位をイメージさせるような姿を取ることが可能になりつつあった。

「喜んでもらえたなら何よりだ」フィオーレに教えてもらった甲斐もある。

「言い訳がましくなりますが、あたしから自己紹介させてください」水を一気に飲み干すと彼女は話し出した。「エレナ・ホナミ・ヤジマです。名前が示しますとおり、オガワ部長と同じ二ホン出身者が祖先です。出身は太陽系ハイ・ドナンで田舎育ちです。親は農家で自然の中で育っています。ガサツで野性的だと自分でも自覚しています。兄弟は九人いまして、末っ子で上は全員兄です。母さん以外は男性の中で育ったため、甘やかされもしましたが、こんな感じになりました。すぐに手が出るのはいけないことだとは思いますが、自分なりの正義感からだと理解していただけるとありがたいです」

 エレナは一気にまくしたてると頭を下げた。

「ありがとう。それから私は部長ではなくて、部長代理ね」

「し、失礼しました」

「ちゃんと自己分析出来ているようで、安心したよ」オガワの言葉からエレナはホッと胸をなでおろしていた。「TDFを希望する理由を聞いても良いかな?」

「ディ、いえデュエルナがいるからです」

「仲が良いようだね」彼女からも推薦を受けていた。

「はい!」

「データ処理部が嫌だとかそういう訳ではないのだよね」

「はい。そちらの部長の良からぬ噂を耳にしました。ディは大丈夫、心配いらないと言ってくれていますが、あたしはそれだけでは信じられないからです」

「あ~ぁ噂ね。そういうことはあまり鵜呑みにしないでほしいかな」

「そうしたいのは山々ですが、『秘書潰し』、オガワ人事部長を我がままから引き込んだ。美女を侍らしている。といったうわさが出てくると気が気ではありません」

 悪い方に受け取られている噂に頭を抱えつつも、エレナの言葉を聞くかぎりディを心配するあまりだということも分かるオガワだった。

 それにしてもストレートすぎる。

「秘書は確かに辞めているが」七人もだが。「彼女らは能力的について来られなかっただけなんだよ」そう思いたい。「私は自分の意志でTDFに参加している」

 言い訳がましくなってしまうオガワだった。

「例えそうだとしても、自分の目で確かめたいです。ディのそばにいてやりたい、一緒にあたしは仕事がしたいです」ディがそうであった通り、エレナもディの助けになりたかった。

 そうであり続けたいというが、エレナの信念だった。ディには精神的にきつかったころに支えてもらった恩義もある。

 その気持ちがオガワにも伝わるほどに強い視線だった。

「あたしとしてはすぐでも構いません。何時でもTDFに行ける準備があります」

「そうはいかないんだよ」

「なぜです? ディは異動時期前にTDFに出向扱いになっていましたよね?」

 すぐに戻ってくると思っていたのに長期出向になっていき、ついにはTDFに異動の辞令まで発令されてしまったのである。

 異動を聞いた時、エレナは動揺したし慌てて人事部に駆け込んだ。

「今のすう勢がね。すまないが納得してもらうしかないんだよ」

 オガワはすまなそうに頭を下げる。

「すっぱりいかないのは……納得いきかねますが、オガワ部長の立場上仕方がないのですね?」

「理解してくれよかったよ。異動は出来るよう取り計らっておくから安心して欲しい。それから部長代理ね」

「すいません。でもその言葉が聞けただけでも、今日お会いできて良かったです」

「あの頃は私の力でそうできたが、今の情勢が、そうさせてくれないのだよ」

「ぶん殴ってきましょうか?」

「行動には移さないでほしい。君の立場も悪くすることになるだろう?」

「解雇にならないのであればあたし的にディの傍にいられるのなら問題ありません」

「TDFの立場的には問題なのだよ。君も異動できなくなるかもしれない」

「分かりました自重します」

 素直に頷いてくれたのでオガワはホッとする。フィオーレの言った通りノルディックに通じるものがある。自分の価値観のためなら信念を曲げないという心構えが根底にはある。

 その辺りを見極めながらコントロールする必要があるが、TDFのメンバーなら問題はないように思えてくるから不思議だ。

「あたしはオガワさんのお眼鏡に叶いますか?」

「エレナ君は能力的にも問題ないと私は見ている。ディの推薦もあるしね」彼女はディが推薦してくれていることを聞くと嬉しそうだった。「私から見ても少し行きすぎな所はあると思うが、ディが見てくれるのなら大丈夫だと感じている」

 パーンにもついていけそうな根性もありそうだった。

「じゃあ」

「九月末のTDFへの異動は問題ないと思う」

「一日千秋の思いで、その日を待ちます」

 運ばれてきた料理を前にエレナは嬉しそうに笑った。

 オガワも箸を手に食べ始める。

「オガワ部長にひとつお願いがあります」

 何気ない会話の中でエレナは懇願してくる。

「部長代理ね」苦笑しながらオガワは言う。「何かあるのかな?」

「ノルディック・ドリスデンと合わせて下さい!」

 瞳の中に炎が見えてくる気がした。

「彼に何かあるのかな?」

「ぶん殴ってやりたいんです」

「なぜ!」

「美女と野獣とか、ディを貶めるような行動があたしには気に食わないし、ディを守れるのか、隣にいて良いのか私が知りたいんです」

 彼女の正義感と強い意思が伝わってくる。

「……分かった。ノルディックに伝えてみるよ」

 止めたら止めたで、エレナ自身の方からリアクションを起こしてきそうだった。オガワはため息をつきながら、エレナとアドレスを交換するのである。


 ノルディックは休日にバナスシティでも一番の緑地帯を誇る中央公園へと足を運ぶ。

 頭を掻き深いため息つき彼は公園に入っていくと、中心部のベンチ前で腕組みし待ち構えている女性がいるのを確認した。

 オガワから教えられた通り特徴的なオレンジの髪型だった。

 向こうはノルディックの事を知っているのだろう。彼の姿を認めると一気に間合いを詰めてくるとともに拳が飛んできた。名乗ることもなく問答無用だった。

 我流の拳撃だったので難なくかわすことは出来たが、ノルディック自身面白くはなかった。ストレートやフックから繰り出される拳をやり過ごし、足払いを掛けた。

 タイミングの問題もあったが、エレナは尻餅をついてしまう。

「くぞっ、勝負しろ、ノルディック・ドリスデン!」

 人差し指を突き付けてきてエレナは叫ぶ。

「ディにも言われたが、オレはお前とやり合う気がないんだよ」

「うるさい。あたしはお前を認めないんだ!」

「面倒くさいな」ノルディックはため息をつく。「認めてもらうとかはどうでもいいが、どうしたら納得してくれるんだ? ケンカはお断りだぞ」

「それならあたしとスポーツで勝負しろ」

「……分かったよ。それで気が済むなら、付き合うよ」

 面倒だが、通過儀礼であるような気がしたノルディックだった。

 エレナはスポーツジムを指定しノルディックを引っ張っていく。


 ノルディックとエレナの勝負はノルディックの圧勝だった。

 ラケットボール、持久走からベンチプレス、テニスにバスケ、どれをとってもノルディックにエレナはかなわなかったのである。

「なんでそんなに強いんだよ!」

 床を叩いて悔しがるエレナだった。身体を動かすことに掛けては男子であろうがプロにも負けないと自負していたつもりである。

「すまない。オレも負けるのは嫌いだから」

 挑まれたら正面から立ち向かうのが信条だった。

「手を抜かれたら、もっと腹が立つからやめてくれ」

 ノルディックを睨みながらも差し出されたスポーツドリンクを受け取る。

 悔しさのあまりジムのありとあらゆる器具やスポーツで勝負を挑む。その根性たるや鬼気迫るものがあった。

「勝つまでやる」

「付き合うよ。最近身体を動かしていなかったからいい運動にもなるしな」

「くそ、余裕見せやがって、次行くぞ」

 初めはどの程度出来るか試してやる、という感覚だったが、あまりの強さと万能さに負けん気が前面に出てしまい、いつしか勝つことが至上命題になっていく。勝てるまで勝負を挑むことになり、ノルディックはエレナに永遠のライバルとして認定されることになったのである。はっきり言って迷惑だった。

「くそっ、勝てねぇ」

「納得してくれたか?」

「今日はこれで勘弁してやる」悔しさがにじみ出ている。

「永久に勘弁してくれ、飯でも食いに行くか?」

「お前とか?」すごく嫌そうな顔をする。

「ディも呼ぶぞ」

「お前、良い奴だな」

 ディの名前を持ちだしたらすぐに機嫌が良くなった。分かりやすい奴だった。

「よし、すぐ行こう。着替えてくる」

「シャワーくらい浴びて来いよ」

 ノルディックも汗だくだった。丸一日身体を動かし続けたのだから当たり前である。

 ディといることでウザがらみやケンカを売られたことはあったが、これだけしつこいのは初めてだった。深いため息をつくと、ノルディックはディに連絡を入れ、待ち合わせを決める。


「なあ、ディと付き合っているのか?」

 待ち合わせをしている時、エレナは訊ねてくる。少し寂しそうな声だった。

「友達だよ。妙に懐かれていることは確かだけれど、それ以上でもそれ以下でもない。ディからは何も聞いていないのか?」

「初めて男の友達が出来たって聞いた。それって恋人ってことじゃないのか? どこの馬の骨なのかも分からない奴になんか、ディを渡せるかって怒りがわいた」

「お前はディの親父かよ」

「あたしはディのこと親友だと思っている。ディは人気はあるけれど、一人でポツンといることも多いんだ。ディと触れ合って親しげに話しができるだけでも凄いことなんだぞ。あの笑顔ためなら何だってあたしは出来るし、してやりたい!」

「曇らせたくはないよな」

「「そんなディに彼氏が出来た。喜びたいところだけれど、お前は美女と野獣って言われてんだぞ! キングコングってなんだよ? しかもお前は狂犬だぞ」

 人差し指を突き付けてくるエレナも狂犬と呼ばれていないか、とはさすがに火に油を注ぎそうなのでノルディックは口にしなかったが。

「あ~、やっぱり腹が立ってきた。やっぱり殴らせろ!」

「断る」突き付けられた拳を大きな手で受け止める。「見てくれはすまないが、オレはただ彼女が言ったことが無いという場所や体験したことが無かったことを教えているだけだ」

「そ、それってデートって言わないか?」

「ディはそう思っているかどうかは知らない。ただなぁお前だって親友だろう。普通の居酒屋にすら行ったことが無いって、どういうことだ?」

「だ、だって、そういうところに連れていくと、寄ってくるだろう。湧いてくるんだよ」

「蹴散らせよ」

「やったよ!」

「そうだったな」その結果がやりすぎて保安局の独房入りだった。

「くそ~余裕かましやがって!」

「お前、ディの前でもそんな喋り方なのか?」

「口調がうつると悪いから、男言葉は使わない」

「そうか。いい奴だな」

「今頃分かったのかよ」鼻を鳴らすエレナだった。

 二人が話をしていると、ディが見つけて駆け寄ってくる。

「お待たせしました」

「「待っていない」」

 同時に二人は振り向き、返事をしてきたのでディは微笑んでしまう。

「二人は仲良しさん?」

「あたしはディ一筋だよ~♪」

 エレナはディに抱きつくと頬を摺り寄せじゃれ合う。

 それが二人の間では日常的なものなのだろうディは嬉しそうだった。

「ゼロ距離だな」

「いいだろう。どうだうらやましいか」

 やらないぞと言いながら勝ち誇ったようにエレナは笑顔だった。

「いつから友達なんだ?」

「同期なの」ディは答える。「採用も研修も配属も一緒よ」

 ジプコでの唯一の友達だとは聞いていた。近さからもそれが良く分かる。

「あたしは研修でへまをして、心が折れかけていた時に救ってくれたのがディだった」

「そうだったの?」

「ディにはなんてことない普通に話しかけてくれたのかもしれないけれど、あたしにとっては救いだったし、嬉しいことだったよ」

 差し出された手のぬくもりとともにあの時の言葉は生涯忘れることはないだろう。

「ディは恩人だよ」

「私もエレナがいてくれて良かった」

 フニャリとディは顔を崩した。

 再びじゃれ合う二人を見ながら、見た目は違うのにいいコンビなのだなと思うのだった。

「じゃあノルディックもエレナも二人は友達よね」

「「えっ?」」

「二人とも私の友達なのですもの、そうでしょう?」

「だそうだ」嫌そうな顔をするエレナを彼は見た。

「まあ、ディが言うのなら仕方がないか」

 サバサバした表情で肩を竦めるとエレナは手を差し出してくる。

 ノルディックが手を握ってくると全力で握りしめ始め。握力勝負を挑んできているようであったが、エレナはきつそうである。

 それに気付いたのか「はい、引き分け」そう言ってディは二人の握手する手を優しく覆い離すようにした。

「今日は大丈夫だったのかしら?」

「オレは問題なかったよ」

「いつか負かす」エレナは心底悔しそうだった。「よしノルディック、大食い競争しようぜ」

「早食いも遠慮するぞ。味わった方が良いよな、ディ?」

 ディは頷くと二人を見て楽しそうに笑った。

 コンビネーションよくディを真ん中にしてノルディックとエレナはアーケード街へと繰り出していくのだった。



読んでくれて本当にありがとうございます。

感想、評価いただけると本人的にもモチベーションが上がりますので、よろしくお願いします。

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