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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会②思惑 4-4

 4.ロイスのこと



 新規採用者の争奪戦は内定者が決まると囲い込みが始まり苛烈を極めてくる。

 オガワも情報を集めつつ確保にあたっていた。これまでは採用し割り振る側だったが、今は引き受ける側になり苦労も味わっている。

 悔しいし残念ではあるがオリエナ・ヒルデルナはラインオペレーター部門に譲ることにした。その代わりロイス・カインズだけは他には渡さないようにするつもりだった。

 どうしてもトラッティンとTDFをつなぐ柱となってもらいたいからである。

 実際に彼と会ってみて、オガワの勘は間違っていなかったと感じる。

「わざわざ出向いてもらってすまないね。カインズ君」

 ビジネスホテルのロビーで待ち合わせをすると、移動してオガワは商店街の飲食店で、採用内定者であるロイス・カインズと会席の場を設けていた。

「私も家探しがあったので、問題ありません」

 内定を受けていたので、ロイスはティーマの不動産状況を調査して不動産屋巡りも始めていたのである。希望としては戸建てだった。郊外で有ればローンを組むことにはなるが、手が出る価格だったのがうれしい。

「うちなら家探しも手伝えると思うよ」

「そこまでしてもらうのも……」

 恐縮するロイスだった。

 身長はノルディックと同じくらいだったが、線は細い。それでも山登りのために鍛えているという。細長でたれ目。茶色の瞳は人当たりの良さを感じさせ、黄土色の髪は申請された書類の写真の頃よりも長くなっている。

 今日は背広姿ではなくラフな格好で、トレードマークのバンダナが巻かれていた。

「TDFには寮もあるが?」

「それはありがたい申し出ですが」ロイスは少し言葉を濁す。「この先もここに定住するつもりでいるので……」

「なるほど地に根を張ろうとしているのかな?」

「そういうところです」頭を搔きながら細い目をさらに細めた。

 彼ロイス・カインズは太陽系ハイ・ドナンの出身で首惑星の総合大学を卒業している。その後大学に残り通信工学を修士課程で収めていたが、准教授の道は捨てて銀河系を八年にわたって放浪していたという異色の経歴の持ち主だった。

「大学に残ろうとはしなかったの?」

「少々疲れまして」修士課程で人間関係にあきれつが生じたという。「自分を見つめ直そうかと思いました」

「まあ人間関係は難しいからね」

「でも放浪生活でいい出会いもありました」

 ロイス・カインズは大学院で修士課程を収めたのちに、放浪生活を送ってきていた。それがネックとなっているのか、成績は優秀であるがどこの課も手をあげていないのが実情だった。それがオガワが調査し獲得に乗り出していると知ると、興味を示す部署も出てきたのである。

「山登りが趣味だと聞いているけれど、やめてしまったのかな?」

「止めてはいませんが、いつまでもこのような生活を続けているわけにもいかなくなったので、就職と定住することに決めました」

 ロイス・カインズは根無し草でその惑星の最高峰を極めるのを目的として生きてきた。 八年に渡る放浪生活の中で好きだった山登りに目覚め、一万フィート以上の高峰踏破を目指すようになり、十八の頂に登頂成功。八つの太陽系からそれらの証明書が発行されていた。

「すごいね。ましてや単独でだろう。それこそ大変ではないの?」

「そうですね。簡単ではありませんが、それでも頂から眺めは最高で、俗世を忘れられます」

 彼はすべての太陽系を巡り惑星の最高峰に挑むのが夢だったと語ってくれた。

 人が住む太陽系惑星は数千に及ぶが、すべての惑星の最高峰を制覇するのは難しすぎた。人の足で踏破するには準備も含め時間が掛かるからだ。挑戦者は今もいるが一生を掛けてもすべてを踏破するのは困難だとされている。各太陽系の最高峰を踏破した兵冒険家は出ていたが、各惑星となると難しいのが現状だった。

 彼はその土地土地でアルバイトをして銀河系でも困難とされた一万フィート以上の山頂に挑み単独で踏破し続けてきていたのである。

「冒険家としてスポンサーを集めることも出来たのでは?」

「そこまで極めようとは思っていなかったんです」

 あくまでも趣味だとロイスは恐縮したように言う。彼は頂から見る風景を楽しみ発信したいだけだったようだ。

「出身はハイ・ドナンでしたよね。地元では就職活動しなかったのかな?」

「自分が根無し草になったのは、家族がいないからでもあります。確かに一人になってしまってから親戚のところでお世話になっていますが、そこに縛られることもなかったので、色々と可能性も含めて考えてみようと思ったんです。八年もブランクがあったし、採用してくれるか不安でしたが」

「技術に関しては日進月歩だからね。銀河系のどこかで新しい技術やプログラムが生まれている。私自身ついていくのが大変です」

「オガワさんは管理職では?」ロイスは不思議そうに見てくる。

「今年になって現場にも復帰したんですよ。若手に交じって勉強しています」

 お互いに頑張ろうとオガワは言う。

 大学時代のロイスの成績は優秀だったし、ジプコでの試験も高得点だったので問題はなさそうだとオガワは感じている。

「幻滅させないようにします。実は来年三月に結婚予定でして」

 少し照れたように笑う。それを見て温和で自分のことも良く見ているとオガワは感じる。

「おめでとう。それで新居探しか。うちでもぜひ祝わせてもらうよ」

「彼女もジプコ本社へ就職活動している最中なんです」

「それはそれは。一緒に仕事ができるといいですね。名前を訊いても?」

「キャスティ・トウエルです。同じ部署などかなり可能性は薄いでしょうが、一緒に同じ会社に勤められるだけでも行幸かと」

 名前を聞くとオガワは端末で人事部の端末にアクセスする。

「新卒で事務職希望なんですね。成績も良い。これなら採用されそうですね。来年四月の採用になるでしょうが、TDFに採用させてもらっても大丈夫だろうか?」オガワはロイスに提案する。

「え? え?」

 ロイスの目が点になっている。オガワの人を見る目と勘が彼女もTDFに引き込むべきだと告げているのだが、彼の思考など知る由もないロイスは話についていけていない。

 先走り過ぎたと感じたオガワは苦笑しながらTDFの現状を端的に話して聞かせる。

 ロイスも慣れてくると砕けた感じになり、旅や登山の経験を交えながらウィットに富んだ会話をオガワとすることになる。

 自分の見る目が間違っていない。オガワはロイス・カインズにならトラッティンの常駐を任せられると思うのだった。

「そういえば数ある通信情報関連会社の中からジプコを選んでくれたのはどうして?」

「親戚にも相談したら、従妹がこの会社を勧めてくれたんです」

「うちの社員だろうか? 名前を伺ってもいいかな?」

「エレナ。エレナ・ホナミ・ヤジマです」

「世間は狭いね」その名を聞いてオガワは苦笑する。

「知っていますか? もしかして全社員の顔とプロフィールを覚えているとか?」

「そこまでは無理だよ。いくら人がいると思っているんだい」オガワにも限度がある。「実をいうと、次の期末に彼女もTDFに異動することになっているのですよ」

「それは驚きです!」

 いずれ分かることではあるが、オガワは彼女が起こしたトラブルについては伏せておくことにした。無用な心配をかけることになるだろうし、本人から話があった方が良いと判断してだった。

「こういう縁てあるものなんだね」

「TDFで採用されることも縁なのでしょうから、それは大切にしたいですね」



読んでくれて本当にありがとうございます。

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