トラッティン産業博覧会①発端 3-7
7.集いつつある人々
長距離の大型宇宙旅客船の船内時間は銀河標準時で統一され運用されている。
今は深夜であり、人々の動きは少ない。
「こんな時にもお仕事ですか?」
オガワは船内に持ち込んだタブレットを見つめながら考え込んでいる。
「フィオーレもだろう?」
「淑女の嗜みですわ」フィオーレは不敵に笑いかけてくる。「今は何を?」
「新規採用者から候補を選んでいる」
「それは楽しみですね。オガワさんのお眼鏡にかなうのですから」
「期待にそえるようするよ。まあ実際に面接して話をしてみないと分からないが、二名まで絞れた」
「どちらも?」
「そうできればいいが、TDFは発足間もないから枠は一人になるかもしれない」
「それこそ社長に直訴すればいいのですわ」
「人事部にも掛け合っているが、新採を欲しがる部署は多いからどうなるかな」オガワは肩を竦める。「とりあえず七月にもう一人回してもらえることにはなったよ」
「パーンと折り合いがつけばいいですね」
「それがTDFの基準でもあるからね。ただまあ大丈夫だろう。シュルド君とパーンのテストにクリアしたみたいだから」
「頼もしいですわね。シンシマともうまく付き合えていますから」
「新規採用者の候補はこの二人だな」
ロイス・カインズとオリエナ・ヒルデルナのデータをフィオーレに転送する。
「このカインズさんは私よりも年配ですか。転職ではないのですね」
「ああ登山が趣味とあるが大学の修士課程を終えた後、就職しないで銀河系中の山に登っていたようだね」
カインズは統率力と実行力があるとオガワは見ている。トラッティンにも派遣できる人材だと考えていた。ヒルデルナは通信分野で活躍が見込める能力がありそうだ。
両名とも欲しいが、特にヒルデルナはラインオペレーター部門も狙っているようで争奪戦が始まっていた。力関係では向こうが上、持って行かれそうな気配もしている。
一度相手に譲ってから引き抜きを掛けるからめ手も必要かと考えているオガワだった。
「あとは本社総務部門から労務に詳しい担当者を引っ張ってくる予定だよ。もちろんプログラムも組める」
「労務?」
「君もノルディックもパーンも残業が多すぎ。総務の給与担当からは目をつけられているんだよ」
「あらおかしいですわね」
とぼけたようにフィオーレは笑う。
「隠すのは良くないよ。組合からも目をつけられている」
「私もノルディックも組合に所属していませんが?」
「パーンも含め君たちは組合でも有名なんだよ。これは君たちを守る意味もある」
「分かりました。うまくやりますわ」
データの改ざんを考えているようだった。
「そういう問題ではないんだが……」
オガワは組合と総務部労担から守るため、総務のホーカル・ジェイスキンに声を掛けスカウトしている最中だった。
「それとTDF希望が一人いる」
「誰ですの、そのような剛の者は?」
「エレナ・ホナミ・ヤジマ君だよ。知っている? ディの同僚だそうだが」
「私の聞いたところによりますと」社内の情報はシンシマに負けないくらい入っている。「ノルディックの女性版ですね。ディを守るナイトであるとか」
社外でディを守るために大太刀周りをして、銀河保安局のお世話になったことが何度かあるとオガワも聞いていた。
「そのようだね。能力的には問題ないし、本人の希望とディの推薦もあるから九月の人事異動で来てもらうことになりそうだよ」
パーンだけでなくノルディックを見て平静を保っていられるか疑問であるとフィオーレは思った。彼女も勝気で突っかかってきそうな娘である。初見から何か起きる予感がしてくるフィオーレだった。
「それよりもオガワさん。マイスロクの件はどうなっていますの?」
「ああ、すまない。手間取っている」
彼女がスカウトを希望しているマイスロク・レイノルズはデータ処理部門のエースである。データ統括もやっていて本人が希望していたとしてもなかなか手放してはくれそうになかった。
「全く生意気ですわね。探りを入れた方がいいかしら」
「禍根を残すようなことは止めてくれよ」
「では必ずTDFに招聘してくださいよ。彼がいてくれたら無敵ですから」
「何と戦うつもりなんだい?」
「決まっていますわ。アマデウスです」
「向こうは銀河系でも最大級のコングロマリットだよ」
「確かにそうですが、産業博覧会のパビリオンの期待度ではトップを走っています。我々は彼らの上を行くのです。負けるつもりはありませんわよ」
フィオーレは闘志を燃やす。
やるからにはトップを目指すのだ。彼女は宣伝や市場調査を行い低迷しているジプコの期待度と認知度を上げようと方策を練っていく。
社に戻ってもオガワにもフィオーレにも休息の時はまだまだ訪れそうにはない。
彼らTDFのトラッティン産業博覧会での戦いは始まったばかりなのである。
〈第四話へ続く〉
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