表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/110

トラッティン産業博覧会①発端 3-3

 3.会議よ踊れ



 シンシマ・ケンマウはエアカーを駐車場に停めるとシルバーの瞳がTDFの本棟を見上げる。

「まさかTDFの所属になるとはねぇ」

 晴天の霹靂だった。

 三日前に所属していた第三データ処理部の部長から緊急の呼び出しがあり、部長室で内示を受けた。即異動があるとは当人も含め誰も思いもしなかっただろう。普通ならどこかに異動の情報は転がっているはずなのに、それすらない。電撃的過ぎた。トップダウンで決まったとしか思えない人事だった。

 第三データ処理部での引継ぎは済ませて来たが、TDF側からは今日に至るまで仕事に関して連絡は何もなかった。おかげでどのような仕事を任せられるのか分からないままである。

 タブレットに通知された辞令には『情報処理担当』としか記述されていない。

「栄転なのか左遷なのかも分からないし、何をやらされるのやら」

 ふんわりとしか担当が記されていないので役職が無いにせよ曖昧過ぎた。

 駐車場から正面入口に向かうと、そこにはひとりの女性が立っている。

「あれ? 秘書課のアウゼン女史?」

「よく私をご存じですね」

 軽くシンシマに会釈しながら微笑みかけてくるとウェーブのかかった艶やかな長い髪が揺れる。直接会ってみるとその美しさがかなり際立つし礼儀正しい。辺境太陽系の出身であるが、資産家の令嬢としてしっかりと淑女教育は受けてきたようである。

「それは本社で働いていて天下の秘書課メンバーを知らないとあれば潜りになりますよ。あっ俺はシンシマ・ケンマウです」

「存じております。本日付で配属ですよね。私も本日付でTDFに出向になりますフェリウス・アーク・アウゼンですよろしくお見知りおきください」

「そのフェリウスさんがなぜここに?」のっけから親しげに名前呼びしているシンシマだった。

「パーン部長秘書としての初仕事がケンマウさんをお迎えということになりましたので」

「それはお待たせしてすいません」

 短い夏季になったとはいえ時折まだ肌寒い風か吹いているバナスシティだった。

「三分ほど待ちました。少し計算が狂いましたわ」にこりと笑いかけてくる。

「それは申し訳ない」

「これがあなたのTDFでの新しい社員証になります」彼女はシンシマにカードを差し出す。「網膜や指紋声紋認証でも入棟は出来ますが、これは大切なものになりますので無くさないように。データも抜き取られないようにしてくださいね」

「分かりました」厳重だなと思いつつカードをシンシマは受け取る。

「では参りましょうか」

「どちらまで? あっ俺のことはシンシマと呼び捨てでいいですよ。これからご一緒させてもらうのですから、砕けた感じでいきましょう」

「そうですわね。お連れする場所は会議室になります」

「そこで研修? 着任挨拶と自己紹介?」

「シンシマさんであれば全員をご存じなのでは?」

「会うのは全員初めてですよ。ここに異動になったんですから社員情報とかは調べますけれどね」

「私のこともご存じのようでしたから、社内広報ではなく紳士淑女サイトで、ですか?」

「あ~それもありますね」

 本社内で自然発生的に出来てしまった噂の集まる情報サイトである。さらに酷いゴシップも集まる裏アカも存在していたりする。

「色々と噂が流れていますからね」意味を知っているのだろう彼女は微笑んだ。

「真偽のほどは自分で調べるしかないですがね」

「噂を鵜吞みしないのは美徳ですね。シンシマさんはTDFのテストに合格されたとか?」

「? そんなの受けたことがないけど……」

「部長とシュルドさんがネット上で立ち合ったとおっしゃられていましたよ」

「もしかしてあれか?」

 シンシマには思い当たるものがあった。TDFに興味を持ち情報を集めていた頃に社内間ネットワークでTDFに直接アプローチしていたことがある。

 社内報やSNSでしか他課のことを知ることが出来ない。それぞれの部署で社内向けに担当者がこんなことをやっていますと業務ことを報告したり社員の誕生日や結婚の報告を行ってきていた。TDFでもそれは行われていたが、業務内容のことも所属社員のことにも触れられていない。天気のことや時節のことなどを囁かれても参考にもならなかった。

 もっと深く調べようとしていると潜り込む直前で少々複雑なセキュリティにぶち当たってしまう。それを回避することに成功したつもりだったが、さらに進んでみるとその先にはゲームが待っていた。そのゲームが販売されてからTDFの新作ゲームだと知ったのは今月に入ってからのことだった。

「俺の方がみられていたのか。流石だな」

 アクセスに失敗したと思っていたが、そうではなかったらしい。

「そのようですね」

「因みにあれが成功例だとして、もし失敗していたらどうなっていたか知っていますか?」

「私も興味がありましたので伺っています。部長の話によりますと総務に通報されて人事評価に影響を与えていたそうですよ」

「あぶねぇ~」おどけて見せるが、冷や汗が出てくる。どうやら通報された者がそれなりの数いるらしい。「メンバーは凄いと思っていたけれど、想像以上だ。本当に楽しめそうだな」

 本棟の廊下を歩きながら笑顔でフェリウスに言うのだった。

 宇宙歴で三百五十九年五月二十五日、シンシマ・ケンマウはこの日、TDFに配属になる。


 シンシマがフェリウスと入室した会議室は百人が収容できる広さがある。

「会議室というよりは講堂だな」

 プレゼンテーション用の巨大モニターの目の前には十人程が座れるU字型のテーブルがあり、そこにはTDFメンバーが勢ぞろいして二人を待っているようだった。

 様々な視線がシンシマには向けられていて、歓迎されているのか、そうでないのか判断しかねていた。

 少し小柄で黒髪の男がフェリウスを迎え入れると席に座らせた。部長代理のバ―リー・リライアント・オガワであろう。仏といわれるだけあってブラウンの瞳は優しげだった。彼はシンシマを巨大モニターの前に立たせる。

 メンバー紹介である。

 U字の底に座っている少年が部長のパーン・ロス・ヘルメナスである。ディープブルーの髪と同じ色の背広を着ている。成人前の弱冠十四歳で部長になりTDFを率いている。その右隣にはシュルド・アルベイラーが、彼はS級ライセンスを持ち、その毒舌からトラブルをもたらすことも多い人物だった。左隣に座るのは部長の従姉金髪ロングのクールビューティ、フィオーレ・カティエス。完璧主義者で切れ切れな美女である。その隣に狂犬ともいわれるノルディック・ドリスデンがいる。銀髪の巨漢で怒らせれば鉄拳が飛んでくるといわれている武闘派だった。さらに隣にはセピアブロンドの髪を短くしてイメチェンした天使デュエルナ・ネルミス・ツイング嬢。暖かで穏やかな性格であり本社でもフィオーレとともに双璧といわれる美女だった。シュルド氏の隣にはフェリウス嬢が座っている。彼女は秘書課でもスケジュール調整の達人といわれていた。その隣に司会進行役でもあるオガワがいて、シンシマを紹介している。

「第三データ処理部から来ました。シンシマ・ケンマウです。仕事に役立てるよう努めていきます」

 当たり障りのない挨拶をするシンシマだった。

 お互いに腹の探り合いをしているようにも見える。

 自分自身を含め、事前に調べていた情報からも個性的なメンバーが集まっていると感じてしまうシンシマだった。

「さて、今日はこれから今後のTDFの動向を決める会議を始めることにしするよ」

 オガワは立ち上がりそう宣言する。

 フェリシアがそれに合わせてそれぞれのメンバーの前にタブレットを置いていき、席に着く。オガワがプロジェクターの脇に立つ前にパーンはセキュリティを最高レベルまで上げた。

「君はここまでね。他所の方々もさようなら」

 誰にも気付かれないように彼は囁くと、ネット上から覗き見しようとしているスパイをパーンはすべて排除するのだった。

 彼らはさあこれからというところで映像も音声も途切れて慌てたことであろう。

「文書を見てほしい」

 フィオーレとシュルドはサッと目を通しただけで、ディは隅から隅まできちんと読み込んでいる。ノルディックは興味がないのか一瞥しただけで終わっていた。

「あのオガワさん」フェリシアが手を上げる。「機密性の高い事案だと思うのですが、私が関わってもよろしいのでしょうか?」

「確かに社内にも公表されていない案件になります。内外に公表されるまでは守秘義務が発生するのでよろしく」

「出向だとかそういうのは関係なくてよ」フィオーレが言う。

 彼女もディも最初は出向扱いであったが、中核を担い最後まで事業に携わっていた。

「これからはフェリウス君にも手伝ってもらうことが多くなる」オガワは頷く。「TDFが何に関わり、どういうことをやろうとしているかは理解してもらいたい。特にフェリウス君にはパーン部長のスケジュール管理をしっかりと行ってもらいたい。部長達による経営会議だけでなく部長同士の折衝もありその同行もしなければならないことになる。大変だとは思うけれどよろしく頼みます」

「はい。そのために私が派遣されたと聞いています」

「パーンはね、すぐに雲隠れするのよ。子供の隠れん坊と同じよね。探し出して連絡を取るのが大変なのよ。覚悟していてね」

 フィオーレは冷ややかにパーンを見ながら言う。パーンは心外だなという顔をしていたが。

「分かりました」

 これからどれほど苦労が降りかかってくるかまだ実感していないフェリウスはきょとんとしている。

「あの~」おどけた口調でシンシマも手を上げる。「俺も会議の前にいいですか? 昨日辞令前に直々にドラウド部長に呼び出されまして、ちょっとした話をされたんですよ」

「ドラウド君か」確か専務派だったなとオガワは思う。

「移動先で新事業の話があったらすぐに私に伝えるようにって命令されましたよ」クスリとシンシマは笑う。「あいつに恩も義理もないので話をするつもりはありませんが、とりあえず知っておいてください」

 肩を竦めながらシンシマは座る。

「情報が早すぎるな」オガワは渋い顔をする。「分かった。そうなると上層部には、今回の案件は知られているとみた方が良いな」

「仕方がないでしょう。オガワさんと社長が直接会っているし、我々の方でもトラッティンの案件に関しての資料にアクセスしている」シュルドは言う。

「シンシマ君には仕事はしっかりとやってもらう。そのうえで情報は漏らさないようにお願いするよ」

「分かりました」

 あっさりしているなと思いながらも、信用してもらえているのだろう。まあTDF側でもシンシマの周辺は調べがついているからこんな会話になったのだと思うことにした。

「さて内々にではあるが、三日前に社長から直接依頼があった。その前夜にあった酒の席でのアサノ君からの話を聞き及んでいる人もいると思うが、TDF単独で太陽系トラッティンでの産業博覧会の運営を任されることになった」

 驚きもなければ、反対意見も出てこない。

 シンシマは心の中で、やっぱりあの一件かと思ったのである。トラッティン産業博覧会とルージュ万博を巡って常務と専務が対立し常務派と専務派の抗争となっていると話には聞いていた。

「万博は太陽系国家が主体となってパビリオンを作るのだが、ルージュに関してはティーマ政府から依頼を受けての参画となっている。それに対して産業博覧会は企業が主体でパビリオンを出展。いわば産業の見本市のようなものになる。トラッティンでのテーマは『未来テクノロジー』で、最先端の技術やこれからの産業発展となりうる将来の技術を展示することを求められている」

 太陽系トラッティンは辺境にあり惑星開発された当初は農耕国家だったが、現在は工業に力を注いでおり、そのための企業誘致としても産業博覧会を企画しているようだ。トラッティン政府は銀河系太陽国家に向けて大掛かりな宣伝を行っているが、お祭りではあっても万博に比べると彩に欠けている印象はあった。

「規模と予算、現在の向こうの状況はタブレットに書かれている通りだ。参加についての意見はあるかな?」

「パーンが了承しているのでしょう?」

 代表して口を開いたのはフィオーレだった。

 特に部長からは不満は無いようだったが、部長を呼び捨てかとあきれるシンシマだった。

「TDFにいるときは呼び捨てでかまいませんよ」シンシマを見て彼は言う。「僕は気にしていませんし、ここでは最年少ですからね。ただ対外的に必要な時だけは役職でお願いします」

「了解。ようは気遣い無用と。俺はここにいる皆さんとは付き合いが浅すぎるので訊きたいけれど、本当にTDFだけでやるの? ゲーム作りとは違うと思うんだけど」

「まあやるのも面白いかと。それに出来ると踏んでいますから」

 パーンの発言に不思議と反対意見も不平不満も出なかった。

「この人数で? 企画案だけ出して外注とか?」

「一番面白ところを他人任せにするつもりはなくてよ」

 フィオーレは高笑いする。

 シュルドを見ると憮然とした表情であったが、難色を示しているわけではなさそうだった。

「人員に関しては、社長から言質を取っている。年内中に三人は異動や新採枠で補充するつもりだ」

「十人、二十人じゃなくて?」シンシマは呆れる。

「うちに馴染める人物じゃないと続かないから慎重に集めたいんだ」苦笑するオガワだった。

「俺はそのお眼鏡にかなったと?」

「そういうことです」パーンはいたずらっ子のようにニヤリと笑う。「よろしくお願いします」

「まあパーンがやれるというならいいだろう」

「実に面白い挑戦ですわ」

「このような大プロジェクトを任せられるとは、本当にすごいですね」

「来年の今頃は修羅場だな」

 それぞれの感想を口にする。

「オガワさんは、また折衝や会議中心となるだろうから、苦労掛けそうですね」

「本当だよ、シュルド君」オガワは肩を落とす。「それでだパーン。私はこれから対外的なことで出張も増えるだろう。事務に関してフェリウス君だけでは難しいだろうから、その時は妻を臨時で雇用したい」

「パートルさんをアルバイトにですか? 分かりました。その分の予算は十分にあるでしょう?」

 パーンはオガワの妻、パートルを幼少のころから知っている。彼女はかつてジプコの総務で働いており、優秀な事務屋だった。オガワの同僚であったため、それが縁で二十年ほど前に結婚し会社を辞し家庭に入っていた。

「パートルさんの都合が良ければ、いつからでも構いませんよ」

「では仕事の内容のこともあるから、明日から来てもらうことにしよう」

 オガワはこれで出張の時に事務が滞ることは無いと、ホッと胸をなでおろすのだった。


「さて参加にあたっては我々の参加テーマと展示内容をどうするかだ」

「箱は八割方出来ているようですわね」設計デザインと設計図を見ながらフィオーレは顔をしかめている。それでも絵になるのだから不思議だ。「年内には出来上がるのであれば見た目は諦めるしかありません。救いは内装がまだということですね」

 内部設計を変更する気は満々で、いばらの道を踏み抜き蹴散らしていくつもりのようであり、フィオーレは活き活きとしている。

「一応、社長からこれまでのテーマを踏襲してTDFなりにやってくれてもかまわないといわれているが」

「ご冗談を!」

 フィオーレは立ち上がると胸に手を当て、一笑に付した。その姿は絵になる気高さと気品に溢れているのである。

「『光のフューチャー、交差するロンド』とはなんですの。この陳腐なテーマは! 笑わせてくれますわね。アインズマンの考えそうなことですから表面だけド派手にして中味のない薄っぺらい内容に決まっています。そのようなものをルージュ万博に持って行くなんて社の恥ですわ」

「このプレゼンターのことを知っているの?」

「一度私のところに企画を持ってきたことがあります。あまりにも愚かすぎて門前払いしました」

「ああそれ知っている」シンシマは笑う。「企画会議に二人自慢げにプレゼンを出してきたのにどれも使い物にならないとされた商品設計の奴の一人ですよね?」

 フィオーレにいいところを見せ、あわよくばお近づきになろうと下心丸出しだったプレゼンター達の話だった。

「あれのどこに自信が持てるのか分かりません。千の穴を針で突き抜くように、欠点を洗い出して説明して差し上げましたのに」

「怖い。怖い」シンシマは身震いした。本当に全身に針を刺されるような声だったからだ。

「そういうことですから、TDFは独自色を出して出展すべきです」

「フィオにはアイディアがあるの?」パーンは訊ねる。

「私が考えるのも面白そうですわね」パーンにフィオーレは悪巧みでもするようにニヤリと笑いかける。「ですが、今回は若手にお任せするつもりよ。特にパーン、貴方が言い出したのですから責任は取りなさい。逃げることは許しませんよ」

「フィオだって若いでしょう」

「この中では年長よ」

 フィオーレは二十代後半だったが、シンシマ、ディ、ノルディックは二十代前半だった。パーンに至ってはまだローティーンである。

「私とシュルドさんは若手の支援に回りますわ。ねっ、シュルドさん?」

「お、おう」

 特に自分から言い出すつもりはなかったが、フィオーレの気迫に気圧されてしまう。

「趣味など気になっていることなんでもいいわ。気になることやりたいことをこの場で話してみなさい。出来るかどうかはこれから検討すればいいのよ。とにかくアイディアを出すことが大切です。ただしノルディックはゲーム以外でね」先生のように優しく問いかける。「なんで、ですって? 貴方はこれからもゲームのアップデートが控えているでしょう。二番煎じになりかねないことはしないように」

「そうだなぁ」外装のデザインを見ながらノルディックは連想したことを口にした。「こいつなんとなく宇宙船にもみえなくもないから、ブリッジを中に作ってみない?」

「だったら宇宙巡洋艦の艦橋に見立てるとか、フェニックスダブルセブンはどうだ?」

「ずいぶん古いのを持ち出してきたな」

「そりゃあ有名だからな。誰でも知っている方が入りやすい」

 趣味丸出しなシンシマの話題についていけるノルディックも彼らしかった。

「当時の連邦軍艦船のブリッジは身動き取り辛いくらい狭いんだぞ。それに連邦軍の許可が下りるのか?」

「『グランダー』の版権とってきているんだ。可能じゃないのか?」

「何で知っている?」

「アサノ課長に聞いた」

 シンシマはアサノ課長ともたまに飲みに行く間柄らしい。課を超えてだからシンシマ交友関係は広いとみて良い。

「それに軍関係はちょっとな。もっと穏やかに平和に行こう。フロンティア、宇宙大航海時代をやるのはどうだろう?」とノルディック。

「それこそ宇宙歴二百年代だろう」シンシマはそう言ってから、何か閃いたようだった。「いや待てよ。面白いかもしれない。銀河史では宇宙大航海時代は銀河系全図の完成を持ってフロンティア時代は終焉したと言われているけれど、それは銀河系内のことであって、銀河系外への探査計画は続いている。通信分野も同じで銀河系外へのアプローチは継続しているはずだ。巨大なコックピットをメインステージにして情報通信の未来を発信するというのはどうだ?」

「コックピットの先は遥かなる宇宙?」

 ディは素敵だと言わんばかりに顔を輝かす。

「系外探査。面白いわね」

 フィオーレは自分のタブレットを別に取り出すとペンを使い何かを書き始める。

「何をしているの?」フィオのタブレットをディは覗き込もうとする。

「イメージか浮かんだから絵にしているのよ」

「フィオーレはゲームステージも何か浮かぶとイメージを描いていたからな。神が下りてきたんだろう」

「それ、初めて聞いた時には人の肩に何か憑りついたのではと思ってしまったわ」

 笑みを漏らしながらノルディックと話をするディを見て、まだ彼女の性格を理解できていないので何かとんでもない勘違いを言われたとシンシマは驚き呆れてしまう。

 あっという間に一枚のイメージを描きあげ、巨大モニターに映し出す。

 水彩画で描かれたイメージは巨大なコックピットの先に宇宙の深淵と大小さまざまな銀河系が見える。天体の万華鏡のようだった。

「巨大なスクリーンを映し出して航行しているように見せるのか、予算が足りるかな?」

「そこは我々の腕の見せ所ですわ」

 それを見ながら全員で話をしていると、パーンがポツリと呟いた。

「音を届けたい」

「音? 音楽か?」

 パーンはノルディックの問いかけに首を横に振る。

「音楽も大切だけれど、音。深淵にも聞こえないだけで音はある。ノイズも言葉もすべてを届けたい」

「だいぶ抽象的なところもあるが、パビリオン内を様々な音で満たすのもいいな」

「パビリオン内に様々なサイバー空間を作るとか」とシンシマ。

「あら、それもいいわね」フィオーレは再びペンを取る。「イメージは大切よ」

「予算内で収まるように頼むよ」心配そうにオガワはフィオーレを見る。

「足りないのでしたらTDFの予算やゲームの収益も注ぎ込みますか」

 部長の言葉にオガワは呆れるやら嬉しいやらである。どこまで本気なのか分からないが、パーンがそう言うと、全員が勝手気ままにアイディアを出し始めるのだった。

 特にシンシマとノルディック、フィオーレはノリが良かった。

「音楽は曲調だけでその場の雰囲気を盛り上げるし使えるんだ!」ノルディックは興が乗ったのか曲を口ずさみながら身振り手振りを交え説明し始める。「夕日には物悲しく。春の日差しには暖かい曲。勇猛果敢な曲は気分を盛り上げる」

「なあ、ノルディック」

「なんだよ」

「お前、音痴だな」

「うるせぇよ。分かっているよ、シンシマそんなの!」

 ノルディックは耳まで真っ赤だった。

「それにお前、ユリウス・ドリスデンのファンだろう」

「な、なんで分かる?」

「今の曲『クリスティン』だろ? 俺はアレンジ版を含めて全部のCDとライブ映像を持っているんだ。分かるぞ。彼女の曲はいいよな」

「私もファンですが、よくあのような調子の外れた音からそれが分かりますわね」

 フィオーレの言葉にディも頷く。

「俺は耳が良いし、吹奏楽もやっていたから、楽器も得意だぜ」

 多趣味多芸で、広く何でもこなし、それなりに出来るのがシンシマの強みでもあった。

「その音感でよくあんな曲をゲームに使うことが出来たよな」

「まあ秘密だ。色々と伝手があるんだよ」

「でもユリウス・ドリスデンのように心振るわせる歌や音楽はいいわよね」

「届けたいね。言葉や音を」

 フィオーレとフェリウスの言葉にパーンは頷いた。

 それを聞いたディは何かに気付いたように手を合わせる。

「銀河通信」

 嬉しさに声まで輝いて響いてくる。

 彼女はこうも付け加えた。

「銀河の人々に私達の愛を言葉と音ともに伝えるの。そして来場するすべての人々からも愛を受け取りたいわ」

 瞳は宇宙を、その果ての見果てぬものまでも見ているようだった。

 シンシマは凄い感性だと呆れながらもうらやましいと思った。気恥ずかしくて言えない言葉を素直に『愛』やその想いを口にできることが。

 そこに天使と呼ばれる所以を感じるのである。

「ディらしいわ」すっかり親目線でフィオーレはディを見ていた。「パーン。TDFの参加テーマはこれでいいわね」

「はい。『銀河通信』で行きましょう」

 それから議論は時間を忘れかけるほど続いていく。昼食を忘れそうになりフェリウスに指摘され休憩をとると、パーンは彼の考える音楽システムの構築を言い出した。話し合いはさらに白熱していき夕方にまで及び、トラッティン産業博覧会参加の概要が決まっていく。

 タイムオーバーとなり継続審議となる事案もあったが。

 音楽システムの構築はシンシマとパーンが中心となりその補助をオガワが担当し、内装設計と総合プロデュースはフィオーレ、映像と音楽のプログラムにはディとノルディックがメインで、状況に応じてシュルドとフィオーレがパーンとともに手伝うことで役割分担も決まるのであった。

 会社や太陽系トラッティン政府、関係する業者への企画書や設計が翌日から始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ