表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/110

トラッティン産業博覧会①発端 3-2

 2.拒否したい案件



 翌日、出社してすぐにオガワは本社の社長であるイードゥン・イザンから直接呼出しを受ける。

 商品開発課アサノ課長の話は酒の席での冗談ではなかったようである。

 本社ビルを訪れる前に部長のパーンと今後の方針を話し合ってきたが、オガワの気は重くなる一方だった。

 本来TDF部長であるパーンが社長と直接話し合うべきなのだが、パーン・ロス・ヘルメナスはオガワの方がうまく話を纏められるし、交渉の席では子供だと舐められるだろうからと言ってオガワに全権委任してしまう。

「まあ、面倒な話にはかかわりあいたくないよな」

 子供云々は関係ない。イザンはオガワ同様古くからパーンを知っている。うまく逃げられたと思うオガワだった

 アサノ課長の話では『常務派』『専務派』と派閥抗争も今回の一件には関係してきているらしい。『社長派』はどうしたと言いたくもなる。

「現段階で手が空いていて使える部署が常務か専務の勢力だったんだろうな。他所も色々と仕事を抱えているだろうし」

 社長のイザンとは同期入社で有り、標準年でも同い年だった。性格は真逆だったが、仲が良かったので、よく仕事帰りに飲みに行き愚痴をこぼし合ったものである。

 彼もまたオガワと同じで技術職だったが、会長の命で同時期に営業部門へと移っていった。生半可な仕事には容赦がなく妥協を許さなかった彼は『鬼のイザン』と呼ばれたほどの辣腕を振るい、鬼気迫る勢いで会社躍進の旗手を務めてきた。

 それもあって現会長が社長職を退いた時に社長に抜擢されたのである。

「切羽詰まっているとみるべきかな」

 直々の呼び出しといい、派閥からの突き上げもあるのだろうとオガワは推測する。

 彼は秘書のシェロンヌに案内され社長室に入る。

「久しぶりだな。こうして会うのも、バーリー」

「そうだな」

 執務机から立ち上がってくるイザンとオガワは握手する。鬼が相好を崩し語り掛けオガワの肩を叩く。そのまま隣の応接室へ移るとソファに対面で座る。砕けた会話であるとアピールしたいらしい。

 シェロンヌはお茶を出した後退出していくと、盗聴できないように防止フィールドを張っているのが分かる。

 さあ戦闘開始だ。

 頭の中でゴングが鳴ると、オガワは吐息を漏らす。

「先日発売されたゲームも好調のようじゃないか」

 そんなオガワの気持ちを知ってか知らずか、イザンは笑顔で語り掛けてきた。

「おかげさまでな。開発チームが頑張ってくれたよ」

 本当にいいメンバーに恵まれた。フィオーレ、ディ、ノルディックが頑張ってくれたおかげで納期に間に合わせることが出来たのである。

「そうツンケンするな。私とお前の仲だろう。仏のオガワの名が泣くぞ」

 酒の席でのような気軽さだった。

 イザンは仕事のことであれば鬼にもなれるし、判断は見余らないのはオガワにも分かり切っていたことである。

「ゲームコンテンツでも他社のアプリに負けないものは作れたと思う」

「ゲーム用の新しいプラットフォームを作ってくれたんだってな。コンテンツ管理の奴らが喜んでいたぞ」

「よく見ているな」

「末端で何が起きているか知らなくては評価すらできないからな」

「それはありがたいな。頑張ったメンバーを誉めてやってくれ」

「ああ、分かっているよ。優秀な面子を見込んで頼みがある」

 悪巧みをするような目と口調でイザンは、オガワにTDFへのトラッティン産業博覧会パビリオンの運営を任せると言って来たのである。

「TDF単独でか?」念を押して訊ねるオガワだった。

 本来なら百人規模のプロジェクトチームであってもおかしくない。

「他との合同では動きがとりづらいだろう」

「話はアサノ君から聞いていたが、何故、TDFなんだ?」おかしいだろう。「それに部長はパーンだ」

「彼とはなかなか連絡がつかなくてな」

「すまないな。また秘書が辞めたんだよ。スケジュール調整がうまくいっていない」

「大変そうだな」

「大変だよ。会議のことや折衝はすべて私のところに回ってくるんだからな」

「『仏のオガワ』だからな。お前の方が話をつけやすいんだろう」

「私は部長代理で技術職だ」

「オガワが実質トップだと思っている奴もいるんじゃないか」

「勘弁してくれ。ようやく現場に復帰できたと思ったのに」

「それは会長に文句を言えよ」イザンは笑った。「現場復帰なんて私は諦めているから、うらやましい限りだ。ゲームの製作にも参加したんだろう?」

「少しだけだ。大半は対外折衝だったよ。こうして私に厄介事を持ち込むイザンも同罪だ。普通に仕事をさせてくれ。私はもっと現場で仕事がしたいんだ」

「ご愁傷様。それでだ。話を戻すが、そのパーンに何とか連絡が付いたと思えば、お前に一任すると言って来たんだ。オガワの了承が得られればいいらしい。だからお前を呼んだ」

「はあ~~っ。パーンに全権委任されてここには来ていたが、本当に丸投げだな」

『断っていただいても問題ありませんが、オガワさんが出来ると判断したのならTDFは大丈夫です。何でもやれます』

 そう言ってパーンはオガワを送り出している。

 TDFメンバーの今後がオガワの双肩に重く圧し掛かってくるようだった。総務や人事部にいた頃でもここまで胃にくることは無かった。

「お前、待遇は変わっていないんだろう? なら信頼されているんだよ。やはり実質トップはオガワとみるべきなのかな」

「トップはパーンだ。交渉や折衝は私の方が慣れているし、未成年では相手が舐めてかかって来るし交渉打ち切りもあるからな」

「まあパーンの本質を見抜けなければそうなるか。それにTDFではお前が年長者だからだろう。所員には頼られているんだろう?」

「分かっているよ。それでなんでTDFなんだ?」

「すまない。頼れるところが、お前とパーンしかいなかった」

「そんなに酷いのか?」

「常務が一方的にトラッティンとルージュの話を進めたせいで、トラッティンプロジェクトチーム全員が太陽系ルージュ万博に持っていかれた。本来参画予定だった専務派も諦めていなくてな、突き上げがきつくなってきた」

 常務が無理やりルージュに子飼いをねじ込んできたので、弾き出された専務が取り戻そうとして足の引っ張り合いらしい。

「トラッティンの産業博覧会まで一年ちょっとしかないのにか?」

「専務は火中の栗は拾いたくないらしい。トラッティンで成功すれば手柄にもなるはずなんだが、箱がほぼ出来ていて制約があることが気に食わないようだ」

「時間も無いしアイディアも無しか」

「あいつらは猶予もないのに揉めているんだよ。このままいけばトラッティン側と揉めることは確実だ。違約金を支払うことになるかもしれない」

「火種をこっちに回してくるなよ」

「TDFは発足して間もないし、どこの派閥にも属していない。それに機動力もある。あの短期間でゲーム企画を纏め納期に間に合わせたと、アサノ君が褒めていたぞ」

「それでもうちでは無理だ。規模が違いすぎる。」オガワは言う。「他の課でチームを組んで進めた方が良い」

 それがオガワの当初からの見解だった。

「私はトラッティンを切り捨てたくないんだ」オガワにイザンは訴えかける。「ルージュは銀河系でも第三位のGDPを持つ太陽系国家だ。それを優先したくなるのも分かるが、トラッティンは辺境であってもこれから伸びしろのある太陽系国家なんだ」

「それをないがしろにしたくないか。イザンらしい読みだな」

 社長の先見性は営業部時代から実証済みであった。

「常務も専務も見る目がないんだよ どちらも同等に扱うべきなんだ」

「専務には任せられないのか?」

「ルージュの企画をみたが、あれをトラッティンでやらせたくない」

「そんなに酷いのか?」

「煮詰めもしないで出してきた企画内容が薄っぺらいし、どこでもやりそうなものだったよ」

「万博や産業博覧会で同じことをやるのもここまで成長した企業としてはどうかと思うが、ルージュと同じ規模の企画をトラッティンでも同時進行でやれないのか?」

「常務は自分の手柄にしたがっているからな。それは断られたよ」

 常務の思惑は専務に火中の栗となっている産業博覧会を任せて、失敗させ求心力を削ぐ魂胆であった。

「うちは人手が足りなさすぎるんだぞ。常務は百人規模のチームを組んでいたはずだ」

「だがTDFにはそれを補える人材がいるだろう。S級二人を独占なんてありえないし、他もAランクだろう?」

「結果としてそうなっただけだ。シュルド君もカティエス君も能力に見合う扱いは受けず持て余されていたからな」

「それを活かせるのがTDFだったんだろう。お前とパーンの采配が当たったということだ」イザンはニヤリと笑う「だからこそのTDFに任せたい」

「持ち上げてくれるのはありがたいが、お前のカードは無いのか?」

「本当に済まない。使える最後のカードがTDFなんだ」

 イザンは頭を下げてきた。鬼のイザンとしては珍しすぎた。

 TDFの成功はフィオーレの市場を見抜く能力にもあっただろうし、ノルディックが丁寧に企画を作りゲーム用のプログラムを製作してきたからである。

「命令でないだけましか」オガワはため息を漏らす。「この件を受けるとして条件がある」

「なんだ? 最大限かなえよう。予算か?」

「人だよ、人! TDFは人員が少ない。これだけの規模の企画をやろうというんだ。もっと人手が欲しい」オガワは珍しく声を荒げていた。

「どうしろというんだ?」

「異動と新採の優先権が欲しい」

「オガワだけで人事部門に手を回せそうだが?」

「私だけではなくて、社長の言質が欲しいんだよ。今回の件から確実に人材を抑えたい」

「分かった。人事部には話をしておこう」

「それともうひとつある。秘書課から人員を派遣してもらいたい。なんなら異動してTDFにひとり欲しい」

「秘書課課長が同意しないだろうが……分かった。何とか話をつけよう。そんなに酷いのか?」

「一年もかからずに七人も辞めたことから分かるだろう。これからもっと部長のスケジュール管理が必要になってくるんだ。部長だけでなくカティエス君の工程管理にもついてこられる人材が欲しいんだよ」

「そこまでなのか? 確かに『秘書潰し』の異名は聞いたことがあったが」

「パーンは行動が読めないし、秘書の前からすぐに姿をくらませるんだよ。ついていけなくなってしまうんだ。だからこそ有能な秘書課の人員が欲しい。それにフィオーレはキレキレの物凄いタイトな工程表を突き付けてくるんだよ」

「分かった。すぐに欲しい人材がいるのなら人事部に私からも言っておこう。ただ秘書課はなぁ。お前が秘書をやるのは?」

「私は現場復帰したいんだ。それに今回の件を引き受けるとなると、私がトラッティン政府と直接折衝に当たることになるだろう。パーンのことまで見ていられなくなるんだよ」

「そうだったな。すまない」

「それにパビリオンの企画内容も変更になる可能性は高い」とオガワ。

「無理にそこまでしなくても当初の企画を踏襲してもらってもいいんだぞ。時間的にも大変だろう?」

「うちの連中が、残りカスで満足すると思うか? 独自企画を考えて産業博覧会に参加するに決まっている」

「頼もしい限りだな。それは任せる」

「それでだ。早速欲しい人材がいる」

 オガワは社員のプロフィールをイザンに見せる。

「さっそくか? 分かった。データ処理部の部長と人事部には話を入れておく」

 イザンは両部長に連絡をすぐに入れてくれた。

 それが終わるとイザンとオガワは話を詰めていく。

「正式な発表はしばらく後になる」

「常務と専務を納得させるのに時間が掛かりそうか……」

 頷くイザンを見て、横槍や妨害が入りそうだとオガワは頭を抱えることになる。

 会談は二時間にも及び、その後二人で遅めの昼食をとるとオガワはTDFに戻る。

「さて、これが地獄の門となるか天国の扉になるかだな」

 本社ビルを出て見上げた空はやけに青かったと思うオガワだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ