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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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トラッティン産業博覧会①発端 3-1 

 1.それは酒の席でする話なのか?



 宇宙歴三百五十九年四月三日付けで出向扱いから正式にTDFの所属になったデュエルナ・ネルミス・ツイングとフィオーレ・カティエス両名の歓迎会が同年五月十日に行われている。

 彼女達の異動はやっかみも含め様々な噂になっていた。

 ジプコ本社では双璧と呼ばれる美女が同時に同じ部署へと異動するのである。その能力と美貌からも二人を狙っていた部署は多かったと思われる。

 本社上層部では『仏のオガワ』ことバーリー・リライアント・オガワの手腕と人脈ゆえに実現したものだと考えられていた。実際にその後もTDFはオガワの人事総務部門での人脈が無ければ新規採用や社内での優秀な人材引き抜きはあり得なかったと言われているほどだったからだ。しかし一般社員には会長の道楽息子が無理矢理引き抜いたと信じられていて、噂となっているのだった。

 ディとフィオーレの歓迎会は、二日前に銀河系ネットでのダウンロード版の販売が始まったTDFが総力を挙げて作り上げたシューティングゲーム『宇宙鋼神グランダー3』の完成と合わせての祝宴となり、盛大な慰労会でもあった。そのため流通と宣伝に協力してくれた商品開発課課長タクオ・ダリル・アサノにも声を掛けてあった。

 アサノ課長は少し遅れての参加になったが喜んで駆けつけている。

 本当は歓迎会と慰労会だけでなくパーン部長の辞めていった秘書たちの送別会としても企画されていたが、声を掛けた七人が七人とも誰一人として参加を表明しなかった。

 パーンについて行けず、自ら申し出てそれまでの部署へと戻っていたのだから仕方がないかとオガワはため息をつくのである。彼女達のフォローはしていたがパーンには『秘書潰し』という有り難くない二つ名が付いてしまっているのだった。また部長秘書の存在が空白となってしまいオガワは総務部秘書課に至急助けてもらいたいと要請を出してはいたが聞き入れられず、仕方なく本社内で新たな募集を掛けていた。

 一次会の祝宴は盛況のまま進み、彼らはそのまま会場を移し二次会へと流れていく。

 アサノを交えた七名の二次会の会場はフィオーレが選び予約していた和風の落ち着いたレストランだった。

 畳敷きの部屋にディは正座しながら物珍しそうに部屋と調度品を見回している。

 彼女はこうして大勢の人が集まって飲み会に誘われたことがないようで、珍しく感じたのであろう。楽しそうだったが、ノルディック・ドリスデンやフィオーレからすれば彼女は本当に過保護に育てられた箱入り娘過ぎた。見張っていないと何をしでかすか分からない気すらしてくる。

 オガワは気が緩みいつも以上に飲んでいる。『酒は飲んだら飲まれるな』と言いながら盃を掲げていた。パーンはトイレに行っており、ノルディックを両脇から挟むようにディとフィオーレがこれからのゲーム展開を話していて、年長組であるオガワとシュルド・アルベイラーはアサノと酒を飲み交わし談笑している。

 しばらくしてアサノはオガワに酌をしながら申し訳なさそうに頭を下げる。

「TDFにちょっとした仕事の依頼があるのですが」

「ちょっとしただ?」

 胡坐をかきながらシュルドはきつい目線を向けている。酔ってはいるが頭の片隅では嫌な予感がしていた。アサノの態度と口調がおかしい。

 気が付いていないオガワは軽い気持ちでアサノとグラスを合わせ訊ねる。

「こんな席でかい?」

「ちょっとだよ、シュルド」

 そういうアサノの顔にシュルドはアイアンクローを仕掛ける。

「いたいっ、痛いって」何でこんなに握力があるんだとアサノはもがきその手から逃れようとする。

「前置きはいい。もったいぶらずさっさと話せ」シュルドは手を放すと言い放つ。

「分かった。分かったって」アサノは正座して居住まいを正す。「TDFにトラッティン産業博覧会パビリオンの企画と設計を頼みます」

「はあっ? 何言ってんだアサノ!」

「ジプコとしてパビリオンの設計と運営を、なにとぞお願いします」

 土下座してアサノは言う。

「社名をかけた事業をTDFが担えっていうのか?」

 シュルドは呆れたし、オガワは片隅に残っていた理性がそのセリフに反応してしまう。何かが狂っている。おかしいと。

「そうです」

「なんでこんな酒の席で?」とオガワ。

「一次会に遅れてきたのはそのせいか?」

 オガワとシュルドはアサノを問い詰める。

「早く知らせた方がいいかなと」アサノは言うが白々しすぎた。「イザン社長に帰り際に緊急に呼び出され相談されて、そのとき社長と二人で考えたんだよ」

「いや、お前が社長に進言したんだろう?」

「まあそうともいう」そっぽを向くアサノ。

「どうやったら、そんな提案が出来るんだよ。TDFの事情は分かっているだろう?」

 アサノの課では手に負えず丸投げされたとオガワは感じてしまう。

「分かっていても一年かからずにゲームを発売して見せたその機動力と手腕は見事としか言いようがないし、どこの派閥にも属さないのも魅力だ」

「面倒なことに巻き込まないでほしいな……」オガワは頭を抱える。

「そんなに切羽詰まっているのかよ!」

 シュルドは顔を寄せアサノを睨みつける。

「常務が勝手に太陽系ルージュでの万国博覧会への参加を決定し、トラッティンでの企画をルージュに持って行ってしまったんだよ」

「だからってTDFに持ち込む話ではないだろう?」

「有るんだよ。こうなってくると常務派でも専務派でもない部門の力が必要なんだよ」

「社内の派閥抗争に巻き込むな!」

 シュルドは呆れてしまうし、オガワもだった。

「うちはゲームを作るのがやっとなんだよ?」オガワは言う。

「それでもこれだけの機動力と開発能力がある部署は他に無いんだよ。常務も専務も辺境のトラッティンよりも中央のルージュの方を優先しようとしている」

 アサノは言い訳がましく二人に言う。

「イザンはトラッティンを切り捨てたくはないんだな」

 オガワはイザン社長とは同期であり、懇意な仲だった。盃を開けると腕組みしている。

「それにトラッティンでのパビリオンの設計も済み建設も始まっている」

「完成間際の間違いだろう」

「企画に沿って設計されていたパビリオンに柔軟に対応できるとしたらTDFしかいないんだよ」

「穴埋めとしてのTDFだろう。なんかあったら切り捨てるつもりで選んだんだろう」

「そんなことは無い」アサノはそれは無いと言い切る。

「無理だよねぇ」

 オガワはさらに注がれたお猪口の酒を飲み干しながら言う。

「そこを何とか」アサノは頭を下げていた。「もう新たな企画を考えてくれて、任せられるところがないんですよ」

「期待してくれるのは、本社で名を売りたいTDFにとって願ったり叶ったりではあるが、これは無茶振りもいいところだよ」

「すいません。あとはイザン社長から直接依頼があるでしょうから、その時に社長にご意見してください。俺としては期待してお待ちしています」

 広報宣伝部門は請け負うとアサノは頭を下げ、その場をすぐに離れる。シュルドのアイアンクローが顔面にさく裂しそうだったので、逃げるようにフィオーレの元へと擦り寄っていくのだった。

 彼女に近寄って行くとお尻に手を出し触ろうとするアサノだったが、手がお尻に触れそうになる刹那、フィオーレはアサノの手首をつかみ捩じり上げる。

「や、優しくしてほしいな」

 片手で手首の関節を決め、締め上げられ、悶絶しそうになるアサノだった。

「このようなスケベ親父に掛ける情けなどありませんわ」

「本当に痛いんだって」残った方の手で畳を叩く。

「ノルディック」彼女はノルディックに笑みを浮かべる。「あなたはこんなセクハラ上司にならないようにしてくださいね。ディが悲しみますわよ」

「グダグダに酔わないようにするけど、アサノ課長と一緒くたにしないでほしい」

 アサノは酒好き女好きで有名だった。他の部署であっても噂が流れてくるほどに。

「男なんて気が大きくなると、こうして私にすり寄ってきますから、油断がなりません」

「なんか済まないな」ノルディックは代わりに謝ってしまう。

「ディがいないところでよかったですわ」

「俺だってタイミングはちゃんと計っているよ」

 アサノが痛みを感じながらも楽しげにもう一方の空いていた手で胸を触ろうとする

「私のことを舐めていらっしゃるのかしら? 制裁が必要ですわね」

 フィオーレは手首から親指へと握りなおすと、悲鳴が上がるほどアサノの関節を締め上げる。

 懲りないなと思いながらノルディックはアサノの様子を見ているのだった。



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