トラッティン産業博覧会⑤細光 14-6
6.コリーは楽し仕事をする
嫌な顔も否定もせずに話を聞いてくれることが嬉しいのだろう。ミリーは物凄く楽し気にクリスとパーンにイメージを語っている。
「なんなら、カティエスさんやツイングさん、またはファムカさんに神を演じてもらうのもいいかもしれません。ツイングさんなら天使、ファムカさんなら巫女もいいと思います」
「彼女たちにピッタリのイメージですね」
「部長さんでもいいですよ。パーンパイプときいて牧神を連想しましたから」
「それは勘弁です。目立ちたくありませんから」
「あんなにTDFのメンバーが目立っていて、前面に出ているのに?」
「顔見せは皆に任せていますから」
「それは残念です」ミリーは笑った。「まだまだミリーにはアイディアがありますよ。CGによる先導役がいてパレードが観客をパビリオンへ誘うというのもいいのではと」
「ハーメルンの笛吹きのようですね」
クリスはそう連想してしまう。
「拉致や誘拐はいけませんよね。もっと穏やかに行きましょう」
実際のハーメルンの話はホラーでしかない。
「え、え~と」クリスは考え込んでしまう。
「同じ童話であればブレーメンの音楽隊の方がいいのでは? 音楽のアイディアはありますか?」
「TDFではすでにメンバーでバンドを組んでいますから、オリジナル曲の提供は可能ですよ」
「すてきです」ミリーは飛び上がるように全身で喜びを示す。「でしたらアリエー・ファムカさんにはやっぱり巫女をやってもらうのもいいかもしれません。すでに顔見世しているので問題ありませんよね。日替わりで天使なデュエルナ・ツイングさんに観客を導いてもらうのもいいですね」
「それであれば、今、妹テーセもいるのですから、姉妹で出てもらうのもいいですね」
いいのかなぁ。
クリスは当人達抜きに勝手に話が進んで行くのが、徐々に気になってくる。彼女らならパーンが持ち掛ければやってくれそうな気がするけれど……。
「本当ですか? テーセ・ツイングさんですよね。イメージが広がります。様々な演出が出来そうです」
「フィオーレが話を聞いたら喜びそうですよ」
「そうであれば嬉しくなってきます。フィォーレ・カティエスさんに認めてもらえるのであればなおさらです」
「十分、ミリーを認めていますよ。プログラム的にもフィオーレなら妥協しないでしょうからね」
「予算的に大丈夫ですか?」
キャスティとともに経理も見ているクリスは心配そうに訊ねる。
「その辺りもフィオーレが考えてくれるでしょうし、予算のことは考えないでアイディアを出してもらえると嬉しいですね」
パーンは部長として、その辺りはカバーする気でいるようだ。
それにTDFのメンバーのポテンシャルも示したいのだろう。
「ミリーの言葉を否定してくれないのは感謝します」
今までの幼かった態度は消えている。大人びた表情でミリーは真っ直ぐにパーンを見つめながら笑みを浮かべ、お礼を言う。
「僕としては、何物にも縛られないアイディアと発想が重要だと考えています。ミリーの考えるイメージを大切にしてください」
「来てよかった」ミリーは嬉しそうに微笑んだ。「ミリーはもっとアピールしなければと思っていました」
「ミリーの言葉を聞けば僕は理解できますよ。真剣にトラッティンのことを考えて言ってくれていることがね」
「嬉しいな。そう言われたことが無かったのでミリーは感謝に堪えませんよ。パーン」
「僕としては得難い人材をここに得たと思っていますから」
「拝んじゃいますよ」ミリーは破顔した。「ミリーはプログラムも出来ますし、総務や経理もこなせます。ミリーはTDFの活動と活躍を見て、ここで仕事をしたいと思っていましたから、お役立ちできますよ」
「それは願ったり叶ったりです。僕は様々な才能ある人たちと仕事が出来ればと思っていますからね」真摯に応えた後にパーンは破顔一笑するのである。「ミリーもそう思ってもらえればうれしいです」
「ミリーにも才能はありますか?」
ミリーはそう言いながら社員証を端末にかざすと、彼女のパーソナルデータが、パーンとクリスの名前に表示される。
C級プログラミングライセンスの他にも簿記や経理のライセンスも持っていることを示しているので、それを見たクリスは目を丸くする。
「ずいぶんと資格を持っているのですね」
通信技師や電波観測師、ラインオペレーターの資格まで、多岐にわたりTDFの仕事ならどこもこなせるし補助できそうにみえてくる。能力云々よりも資格を取るだけでも大変な試験があったりするのであるから、クリスはミリーの見た目とのギャップに驚くばかりである。
TDFメンバーの個々のスペックは高かったが、ミリーもそれに負けていない。
「持っていれば役に立つと教えられたので、大学にいる間に取れる資格は取ったつもりです」
「それも活かせるようにしたいですね。フィオーレは歓迎してくれるでしょうね」
「それなら嬉しいです。ミリーがお得だと知ってもらえれば、なおさらですよ」
自分のアピールを欠かさないミリーだった。
「先ほどのアイディアだけでもお釣りが来ますよ。よろしくお願いします」
「ミリーは合格ですか?」
「ええ。異動できるようにオガワさんに話しておきます」
「やったぁ!」ミリーは飛び跳ねた。「もっとアピールしなければならないと思っていたから、嬉しいです」
「その他のアイディアを聞かせてもらっていいですか?」
パーンは楽しそうにミリーに訊ねた。
「これからのCM戦略です」ミリーは二人を覗き込むように微笑む。「重要ですよね?」
「そうですね」パーンとクリスは頷く。
クリスはフィオーレが、アサノ課長と何度も打ち合わせをしているのを見ている。
少し肌寒く感じる『電算室』が熱を帯びていく感じがするし、ミリーが喋っているので、地下から晴れた日射しの下に出たような気にさえなってくる。
「ミリーのキャッチコピーはこうです」ミリーは楽しそうだった。「皆さんへ『ピクニックに行きませんか』と」こう言いたいんですよ。
まるで何かを演じているように両腕を広げて、身体を回転させている。それに合わせるように空色のポニーテールが風になびくように流れる。
青空の下にいるような感覚にすらなってくるくらい、ミリーの言葉には力があった。
「ピクニックですか?」
神樹とそこに広がる草原からイメージは何となく掴めたが、それでもクリスは理解できず訊ねた。
「難しく考えないでください。宇宙と神樹へと導く手段なのです」ミリーは謎々の答えを告げるようにクリスにウィンクする。「気軽に仮想空間を体験できるのがパビリオンのコンセプトだと感じました。そうであれば日常の延長の様にパビリオンに来ていただけるようにしたい。入場者には気軽に屋内で自然や宇宙の深淵について感じてもらいたくて、そのイメージをミリーは伝えたいんです」
「ほえ~」素に戻ってクリスは声を上げながらミリーを見つめる。
イメージと口調や仕草にギャップがありすぎるのである。
見た目は子供のようなのに、ミリーが発する言葉は壮大なイメージを伴っていて実年齢以上に大人びて感じてしまう。とらえどころがないと言ってもいいだろう。
ミリーはどこまでTDFのコンセプトを理解してくれているのだろうか、クリスは驚きと共にミリーの姿勢が嬉しく感じられてくるのである。
「休日に草原で家族がピクニックをしているんです。イメージしてください。彼らはどのように過ごしているでしょう? もちろん大樹の元で、ですよ。一家は木漏れ日を感じながら子供二人がお母さんの作ってくれたサンドイッチを頬張っているシーンから神樹へとカメラがパンしていきます。さらにはその先にある宇宙の深淵へとイメージか飛び星々の海を小川のせせらぎの様に流れてくの」口調がいつの間にか子供染みているのがクリスには不思議だった。「カメラは星々の海から長い旅をした果てにブラックホールに引き込まれるようにそこへとやっていくんです」遊園地のアトラクションにでも乗っているような気分にさせられる。「星々を飲み込もうとするブラックホールへと突入し、一瞬で星々が消えた暗黒の中から突然、今度は光がさしてその先にはホワイトホールが開けて、新たな世界を見せていくのです。大自然やわたしたちのテクノロジーが展開していき、過去から未来へと時間が流れていきます。みんなの笑顔とともに」
見えますか? と、ミリーはクリスとパーンに訊ねる。答えを求めていたわけではないので、ミリーのイメージはさらに先へと進んで行った。
「漆黒の闇から突然声がする。『そこは未来』」その言葉の口調はまた変化し大人びている。」ミリーは手品の仕掛けを見せるように話をする。「再び世界が開け、視界が開けると神樹と草原が再び広がるのです。パビリオンが二つの世界を繋げ、『銀河通信』が成し遂げられた瞬間です」
「えっ?」クリスには唐突過ぎた。
「それが未来なのか過去なのかは映像を見た人の感覚次第ですが、ミリーは時間を超えて人がつながる瞬間だと考えています。どうです? クリスは楽しくないですか?」
ミリーは無邪気な笑みを浮かべながらそう言うのだった。
「ええと……」ミリー言われてようやくパビリオンが意図するところへと追いつくこが出来るような気がした。「どんなに遠く離れていても、つながることは出来るということでいいでしょうか?」
「それも答えのひとつです」ミリーは言う。「ミリーはもっと別のことも考えていましたから」
「どのようなものでしょうか?」パーンは躊躇なく訊ねている。
「精神的にも繋がれるように、距離や深淵は関係なく人々は言葉交わすことができるのだとミリーは感じています。TDFのやろうとしていることを考えますとね」
「いいてずね」パーンは拍手する。
彼には音楽とともにシーンが見えているようである。
「ご清聴ありがとうございます」
ミリーはピエロか手品師のような仕草で挨拶していたので、舞台を終えた役者のようにクリスには見えてしまう。
「それでコンテを切って下さいね」
「ホントにいいの?」
ミリーは嬉しそうにパーンに訊ねた。
「それこそ、予算など気にせずにミリーのイメージを僕らに伝えて下さい。きっとミリーのイメージ通りに、プログラム班が仕上げてくれますから」
「パーン」呆れたようにクリスは言う。
「何でしょう?」パーンはクリスを見上げる。
「プログラム班から絶対に苦情が来ますよ」予算だけでなく時間的にも。
「それでもフィオーレはやってくれますよ」
「信頼しすぎです。それでなくともプログラム班は過重労働になっている-とホーカルは嘆いていますから」
「それはホーカルやフィオが何とかしてくれます」
「分かりました」クリスは大きなため息をつく。「報告はしておきのす。覚悟していてくださいね」
「何とかなると思っていますよ」
「すてきですね」ミリーは声を上げて笑い出した。部長と秘書の会話を聞いていると、なぜかそのやり取りがおかしかったのである。
「それはどうも、ミリーもTDFで進むべき道を見つけてくださいね」
パーンはそう言って、ミリーを歓迎するのだった。
これはミュウリエイ・パティスがTDFに所属することになる瞬間であった。




