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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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クリスの帰郷 13-5

 5.不意の再会



 五人がミドルとハイスクールを過ごした教会系のスクールは男女が同じ学園内で学んでいたが、実際には男女で学舎はそれぞれ別で交わることは少ない。

 交流は学園の行事、学祭や体育大会など全校レベルの祭り事のみで、あとは学舎の間にある食堂や講堂での全体集合での接点のみだった。

 寮生活でもそれだけに女性のみの空間で寄宿舎暮らしもあって、恋心なども生まれることはあまり多くない。学園卒業後付き合いだしたカップルもいたし。結婚まで行く人たちもいたのであったが、それらは珍しい縁ではとクリスは思って来た。

 不思議なこともあるものだと思っていたが。

 確かにクリスにも好きだと思える先輩がいた。学祭の実行委員会で一緒になった二つ上の先輩だった。

 その当時で百八十センチを超えていたクリスよりも二十センチ近く小さかったが実行力があり委員長として後輩を引っ張って行ってくれいたのでほんのちょっとの出会いではあったが憧れていた。

 なぜか学園の話でクリスはそんなことを思い出している。

「私らの間でクリスって出世頭だよね」

「そうだね」コニーが同意する。

 彼女は地元の小さな会社に就職したが一年経たないうちに辞めて実家の農園の手伝いをしている。フェアンは一度転職しているが、リエンは職替えをしていない。農園を手伝っているカーリーを除けば地元の中小企業だった。

「銀河系レベルの大企業の支社にクリスは就職したからね」

「たまたまだよ」クリスは慌てて否定している。

 受かる気がしていなかったけれど、なぜか一次受験で合格して、面接でも問題なく採用されていたので当時は驚いた。

「それでもこうして本社の秘書なんてしているだけん、出世しているよ」フェアンも同意している。

「一番とっぽいのにさっさと就職決めてっけんな」

「進学も少なかったし、実家に戻るか地元の小さな会社ばかりだもんね」

「私だって思っていなかったよ」

 事務職に採用されたときには五人に祝ってもらっていた。

 さらに言えばそこに先輩もいるとは思わなかった。

 クリスが『クインテット』の面々を案内したのはジプコのマルダ支社にほど近いレストランだった。ホテルと併設していて観光客相手に地元料理を中心に提供してくれる気取らない店だった。料金も手頃でサラリーマンでも利用できたのでクリスは週に何度か利用していたお気に入りの店である。

 カーリーと話をしていてすぐにこの店を思い出していた。

 店内は民族的なもので飾られていて、とても落ち着いた雰囲気である。

 レストランに足を踏み入れた途端、肉汁と香ばしい香辛料の臭いが鼻に付き、懐かしさがこみあげてくる。

 ランチ時間ではあったが、並ぶことなくすぐに入店できた。

 地元の牛や山羊の肉を中心に野菜も地産地消で利用した観光客向けではあったが、実家の味に飢えていた頃のクリスにとってはこの上ない実家の味を彷彿とさせられた店だったのである。

「へえ、ホテルの店じゃけん利用したことなかったけんど、いい雰囲気やね」

 同じオフィス街ある中小企業にいるリエンとフェアンは利用したことがないらしく、感じのいい店だとクリスの感覚を誉めてくれていた。

「だべ」先輩に連れてきてもらった店だけどクリスは嬉しくなっていた。「ここさ、肉料理がいいんよ」

「午後に気合れるんか?」

「そうそう。頑張れるようにね」クリスは率先して扉を開いて入店していくのだった。「美味しいんだから」

「来たことないから、楽しみだ」

 奥の席へと案内され、それぞれメニューを見ているとクリスは遠慮がちにウェイトレスから声を掛けられた。

「あの~、ジプコの社員の方ですよね?」

「は、はい」

 ウェイトレスと目が合う。何度も注文を取ってもらったので声には聞き覚えがあった。

「ああ、やっぱり、雰囲気が変わられていたので違っていたらどうしようと思ったけれど」

 ふんわりとした笑みを初めて見た気がする。

「最近、姿が見えなかったので、心配していたのですよ」

「えっ、ああすいません。転勤しまして、半年ぶりの里帰りだったので、久しぶりにこの店の料理を味わいたくて友人と来てみたのです」

「そうだったのですね。病気とかでなくてよかったです」

「でも、よく覚えていらっしゃいましたね」クリスは思わず訊ねてしまう。

 確かに良く通ったけれど、記憶を探ってみても店の人とは挨拶程度のやり取りしかしたことが無い。

「こいつ、こげん体格じゃけん。目立つんよね」リエンが突っ込む。

「そうですね」よく背中を丸め俯いていたのを覚えている。周囲を気にしているのか目を合わせないようにしているようだった。

「言ってやってもいいんよ? よくあたしらの前でも背中をまるめていたから」

「逆に目立つんて言っていいんけん。話聞かん」

 リエンとフェアンの突っ込みにウェイトレスは愛想笑いするだけだった。

 クリスは顔から火が出る思いだった。

「でも大らかな笑顔で美味しそうに食べてくれているとシェフが言っていましたし、会計では美味しかったと微笑んでくれていました。それが嬉しくて印象に残っていましたよ」

「そ、そうですか……」照れてしまう。

「それがクリスの良いところじゃけんな」カーリーが言ってくれた。

「今日はいつものAランチですか?」

 クリスの好みを分かっているのかそう訊ねてくる。

「今日は祝い事なので、シェフのスペシャルでお願いします」

 初めて目を見てウェイトレスに注文出来たような気がした。


 料理に舌鼓を打っている間も会話は途切れなかった。

 クリスの他、リエンとフェアンは実家に戻りたくなかったため地元企業に就職して都市で暮らし働いていた。コニーもだったが、彼女は肌に合わんと半年も持たずに離職して実家に戻ってしまっている。今も文句を言いながらも実家の牧場を手伝っていた。

 カーリーは最初から決めていたのか、就職はしないで実家に戻り手伝いをしている。

 コニーとカーリーの実家も首都サウスドラウデンにそれなり近かったため、週末以外にも時間が合えば誰かの家かアパートメントで夜通し語り合ったりしていたのである。

 学園での思い出から、今の状況や愚痴、将来の展望など話はその時の流れであるが、色々と変化に富んできらびやかになることも多々あり、学生時代に戻れて懐かしくもあり楽しかった。どこにこれだけ話すことがあるのかと思えるほど他愛のないことを延々と口にし続けている。

 この五人はやはり波長があったのだろうか?

 離れていても、どれほど時間が空いていても自然と会話が繫がり気まずくなることにはならなかった。

 半年間、通信のみだったクリスは距離があったため、歓迎されないのではと気に病んでいたので、ホッと胸を撫で下ろしていた。


 レストランの雰囲気も当然だったけれど味も変わっていない。

 五人は食後のコーヒーを飲みながら話し込んでいた時だった。

「クリスじゃないっけ?」

 突如クリスに呼びかける男性の声がした。

 クインテット全員声の方に目を向ける。

「イグリトさん?」

 クリスがジプコ・マルダ支店に勤めていた頃の営業部門の人だった。総務の仕事でもよく関わりがあり話もしていた。

 その後ろには同じく営業で、学園では憧れていたテミッド先輩もいて少し焦ってしまう。確かに支社の近所だけれどこんなところで遭遇するとは思っていなかったのだ。

 明日以降支社にはかならず挨拶に行こうとしていたけれど、こんなところで会えるとは思ってもいなかった。

「やっぱりクリスだ」イグリトはテミッドを見てから言う。「ずいぶん雰囲気が変わったよな」

「そ、そうですか」

 その言葉通り変われているのか、クリスには良く分からない。自分のことだからだろう。

「テミッドが言わなければ声も掛けずに通り過ぎるところだったぜ」

「えっ、そんなに?」

 クリスは目を丸くしていた。

「ずいぶん丸くなったよな」イグリトはテミッドを見てからかうように言う。「なっ?

「そうだな」明後日の方向を見ながら頭を掻きながらテミッドは言った。「綺麗になったよ」

「そ、そうなん?」褒められて嬉しいが、テミッドに言われて逆に驚いてしまう。

「本社に行ったんよな。どうしたん? バカンスけ?」イグリトは訊ねてくる。

「そんなもんです」隣のカーリーの肩を引き寄せてクリスは言う。「彼女が結婚するんでお祝いのために帰郷しました」

「そうけ。ずいぶんあか抜けたなや」

「そう見えますか? 秘書やってますけん、そう見えるのは嬉しいんだな」

「見えるよな」テミッドを見てイグリトは改めて言う。「こんなん成長するなら俺も最初から声掛けしていればよかったんやな」

「えっ?」

 何を言われているのかクリスには良く分からなかった。

「いい女になったってことだがや」

「な、何いってますねん」クリスは冗談だと思いながら笑って答えていた。内心焦りまくっていたが。「休暇中には支社に顔出しますけん。その時にはゆっくり話しましょ」

「今でよかばってんな」

 そう言ったとたんイグリトの後頭部をテミッドは殴りつけていた。

「痛てぇよ。なんだら?」

「彼女達が仲良く話をしているのに邪魔してん、俺らが悪くなか?」

「あっああ、そうじゃな」イグリトは理解した。「支社に来るん、楽しみにしてるけんな」

 そういいながらイグリットはテミッドに腕を引っ張られながら店内を後にする。

「なんぞ、あのいい人は?」

 カーリーが食いついてきた。

「支社の営業の人でんな。新採頃はお世話になってたんよ」

「テミッドって、わっしらが一年の頃に学祭の委員長をしてたん人よね?」

「そ、そや。新採で挨拶に行ったら、一緒の会社で驚いたんよ」

「運命じゃん」リエンはニヤニヤしながらクリスの顔を見ていた。

 リエンにはあの頃から先輩に憧れていたのを見透かされていた。

「そ、そんなことなかよ。ジプコ目指したのは偶然じゃけん信じてよ」

「知ってんよ」フェアンは言う。

「それでもイグリトて先輩、いい感じじゃん?」コニーがからかってくる。

「あの人は話しうまいけん、営業成績トップクラスじゃったんよ」

「総務と営業じゃ、ずいぶん垣根もあるじゃん?」

「支社は二十人ほどの規模じゃけんオフィスも広くなかけん、交流はそれなりにあったんよ」

「満更でもなか様子じゃのう」

「そ、そう?」

「クリス。鈍感過ぎだよ」

「そげんかな? 私は自分の仕事をこなすだけで手一杯だからさ」

「それだって、鈍感過ぎ」

「ええっ、私の容姿だよ? 揶揄われることあっても、そげんことある訳なかよ」

「テミッド先輩は全然揶揄うことなかったけんな」

「だから、勝手に私が憧れていただけで……」

「ええやん、ええやん」

 カーリーを含め全員がクリスを揶揄ってきていた。

「だぁからぁ~」顔を真っ赤にして大きな体躯を縮こまらせているクリスだった。

 何とか話題を変えようとしても、なかなか追撃の手を緩めてはくれない。

 その後の酒の席でも揶揄われ続けた。

 花嫁カーリーを含めた五人の酒宴は場所を変え、最後はリエンのアパートメントで深夜まで続いた。


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