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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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クリスの帰郷 13-4

 4.クインテット勢揃い



「クリス!」

 呼ばれて顔を上げると遅れてくると連絡があったカーリーがようやく現れた。

 入口で頭一つ突出していたクリスを見つけてすぐに声を掛けてきたのだ、小走りやって来るとコニーよりは勢いよくなかったが、軽くタックルされたような気がしないでもない。

 何かしただろうか?

 ソバカスで金髪の縮れ毛がトレードマークのカーリーことカーリアン・ムルシオ・ラカムは三日後には目出度く結婚式を挙げることになり、クリスを地元へと呼び寄せた張本人である。

「遅いよ~」

 モーニングしながらお茶していたが、端末を見るとマルダ時間で三時間が過ぎていていた。もうお昼が近い。

「ごめん、ごめん」手を合わせ拝むように謝ってくる。「夫の方の家との話が長引いちゃってさ」

 少しうんざりしたような表情でもあった。


 惑星マルダの歴史はそれなりにある。宇宙歴で二百年代初頭の頃である。

 そのため移住してきた開拓者たちは彼ら民族の風習や歴史を多く持ち込んでおり、それが失われることなく受け継がれている。

 コミュニティが違う者同士の結婚はそれぞれのコミュニティの新たな繋がりを生むことになり、婚儀の前後には住む家や土地の問題など話し合わなければならないことが多かった。都市部に住み仕事をするのであればあまり問題はないのだが、家業を継いだり、新たなコミュニティを作るとなると結婚前にやっておかなければならないことは多々あった。

 それこそ書類の申請など事務的作業も多かったのである。

 カーリーもだが、その夫となる人の家も農家だった。違うコミュニティだったが、どちらも家の土地は継ぐ予定はなく、新たな開拓地に出来るコミュニティへの参加を希望する予定であるらしい。

 笑って話をするカーリーに全員がそれを聞いて驚いた。

「えっ、なんでフェアンもコリーもリエンも驚いてるんかな?」

「初耳だよ」三人は呟いていた。

「そうなん?」クリスはカーリーを見る。

「みんなそろった時に言おうと思って」

 整地され用意された開墾地を耕作地や牧草地に用いるのではなく自らが未開地に入植し開拓していくのである。

 その苛烈さを幼少の頃から曾祖父などに聞かされていたので、嫌という程、彼女達は開拓の苦労を理解していた。五人ともそれぞれの理由から教会系の学園に入れられていたから、家庭の事情も知っている。それに学生時代のカーリーは運動が出来る方でも体力があった方でもなかった。

 クリスは詳しく話を聞いていくとハラハラしてくるのである。

「大丈夫なん?」

 四人はカーリー見つめていた。

「そう思うよね」カーリーは苦笑する。「あたし自身そう思っているもの。でも旦那の話を聞いているうちにやってみたくなったっていうか、引っ込み思案な自分をいい加減止めたいなって」

「えらい」

「流されたわけじゃないから」カーリーは頷く。「クリスを見ていたら、そう思えるようになったの」

「わ、私?」クリスは驚いた。何かしただろうか?

「そうだよ。流されやすかったクリスが」

「そ、そうなん?」クリスが自分自身を指差していると、リエンやコニーを見ると頷いていた。

「クリスが自分で自分の道を進もうとしてん見てっと、私も進まなくいけんと思ったんよ」

「わ、私は……」

 何も考えてはいない。冷や汗が出てくる。

 マルダから出たことが無かったから、ただ面接ついでにお上りさん的に物見遊山でティーマに行って帰ってくるつもりだったなんて、そんなこと言えない。

「クリスが勇気をくれたんよ」

 カーリーはクリスの手を取り微笑んでいた。

 冷や汗が出てくるが、晴れやかに笑いかけてくるカーリーを祝いたい気持ちに変わりはなかった。

 ただきっかけは不純なものだし、何も考えていなかったけれど、確かに変われたのかもしれない。TDFで出会った個性的な人たちによって。


 変な人たちばかりだった。部長を初めとして。

 骨格がきれいって何?

 パーンのひと言は今も鮮烈に耳に焼き付いている。

 みんな優れた人達ばかりなのに、何も取り柄のないクリスを受け入れてくれた。コンプレックスだったこの容姿も含めて。奇異な目で見られないし、普通に誘ってもらえたから、嬉しかった。

 容姿も性格も優れているのに空っぽだと自分を探し求める美女に、完璧じゃないと気が済まない世話焼きな美女。知れば知るほどみんなもコンプレックスを抱えているんだと思い自分がちっぽけに見えたし、そんな彼らだからこそもっと力になりたいと思えてくるのだ。

 新たに転属してきたオリエナも自虐的に自分自身を否定しながら、エレナに殴られても勇気を持って踏み込んでいっていた。クリスもオリエナから皮肉な言葉も投げかけられたけど、思っていたことだから怒りもわいてこなかった。不思議だ。

 コンプレックスは誰にでもあるのだから。

 気にしすぎてはダメだ。誰も傷つきたくないけれど、それでも前に進むのなら後ろを振り払ってでも進まなければならないんだと、そう気付かされたような気がしてくるのである。

 そう思えたのは最近だったけれど……。

 秘書の募集に応募してみた頃は何も考えていなかった。ただ単に興味からでしかない。


「それでも逃げ出してきたら、叱ってもいいから助けてね」

 カーリーは笑っていた。その笑顔が印象的だった。

「人生から逃げたんじゃなければ助けるよ」

 リエンは笑った。当然だとクリスも頷く。

「当分皆に会えなくなると思うから、こうして会えたの嬉しいんよ」

「当然じゃん」

「クリスも忙しいのに遠くから来てくれてありがと」

「絶対に行くって決めてたよ。こうしてゆっくり話が出来るとは思わなかったけれど」

 クリスは泣きそうになっていた。

「感謝だね」


 結婚するまでも大変だし、結婚してからも波瀾万丈であったりするようだ。

 婚約に至るまでTDFでちょっとした騒動を起こしたホーカルとアリエーは連れ立って月に一回はホーカルの実家に行って結婚の話を進めているが、時間が無くてなかなか結婚までたどり着けないと二人はともにぼやいていた。

 ホーカルの家の作法や儀式を覚えるのがしんどいらしい。細かくて。

 さらに言えばアリエーの実家も風習がホーカルの地元とはかなり違うので、両方の惑星で結婚式を挙げるようであるが、その折衝はまだ行われていないという。

 すぐにでも一緒になればいいだろうにと思えるけれど、風習や生活習慣の壁は大きいようだ。

 オガワさんは会社がまだ大きくなかった頃に社内恋愛だったらしいし、ペリシアさんはシュルドさんからのプロポーズは予想外であったらしく、結婚後も大変だったという。けれど詳しい話は誰も教えてはくれなかった。カインズ夫妻もだし、色々とドラマはあるTDFの面々ではあるけれど、アドバイスが及ばない世界でもあった。

 愛だけでは何ともできないものがいまだ存在しているようで、頑張れとしか言えないのがもどかしい。

 自分も初恋や異性への憧れはあったけれど、今は何となく無縁の世界であるような気がしている。カーリーの結婚は祝福すべきことではあってもだ。


「それよっか、クリス久しぶり。心配してたんよ」

「あんがと。元気、元気」クリスはカーリーに笑い掛ける。

「こいつ幸せ太りしているよ」リエンの言葉にコニーも頷く。

「えっ、なになにクリスに恋人出来たん? だから帰ってこなかったん? その中にクリスの好きな人がいるん?」

 タブレットから展開していたTDFメンバーの写真を指差しながら問い掛けてきた。

「恋人なんかおらんて」

 慌てて否定している。


 シンシマは趣味も豊富で話術も長けていて、話題と会話の中心人物だ。誰とでも打ち解けられるし情報通なところが強みだった。

 クルスは普通に見えるが女好きで女性であれば誰彼かまわず口説き落としにかかる。

 彼の話からすると恋人がいるにもかかわらずである。遠距離恋愛中らしいが、逐一自分の今日の一日を報告しているらしい。あまりの明け透さに驚愕してしまうし、付き合っているという彼女の心境が知りたくなってしまう程だった。彼女がいてもナンパしまくっているのだから。

 どういう神経なのであろう?

 レイストは弟分だったし、ノルディックにはディとテーセがいたから恋愛の対象外である。見た目も悪くないがトモカネはディに一直線。

 よく飲みにも行っているけれど、今のTDFで恋愛の対象になる男性はTDFにはいなかった。


「じゃあさ。なんでそんなに体形が改善されたのよ?」

「ペリシアさんのおかげだと思う」

「社員食堂の人だっけ?」

「出会った頃、私のこの体形を見て心配されたからさ。毎日栄養面で気を遣っていくれるんよ」

「毎日? 休みの日も?」

「TDFの社員寮が職場の中にあるから。それで土日の分だけでなく夜食まで準備してくれていて」

「状況が良く分からん」

 クリスは施設の写真を見せながら四人に本棟にある寮と社食を説明することになった。

「寮暮らしなのは分かったけんど、それって仕事と休みの境界線が曖昧になって心も身体も休まらないじゃ?」カーリーが心配してくるし、他の三人も同様だった。

「まあ、確かに忙しいと、部屋に戻らないこともあるかな」

「やっぱ超ブラックじゃん。大丈夫なん?」

「ちゃんとフィオーレが全員の健康にも気を配ってくれているから」だから大丈夫だとクリスは笑った。「それにアリエーがちゃんと身体を動かすようにって、指導してくれているから、昔出来なかった懸垂も出来るようになったよ」

 フェアンが目を丸くしていた。運動はあまり褒められたものではなかったからなぁ。

「まあ、今のクリスの顔付や目を見ていれば健康そのものだって分かるけど」

「話を聞く限りどんな職場なんか想像もつかんな」

「見せてあげたいけれど、企業秘密なところもあるから、無理かなぁ。でも、いくらでもTDFの人達の自慢は出来るよ」

 クリスは嬉しそうに、胸を張って言うのだった。

「環境が変わっていい方向になったんだね」

 カーリーに言われて、クリスは可愛らしい笑顔で頷いている。

「そいじゃけん、この後どうするん?」コニーが訊ねてきた。

「場所変えよっか」フェアンが言う。

「そんだね」リエンも同意し。「クリスはどこか行きたいところとかリクエストあるん?」

「じゃあさ、支社の近くにあったレストランに行きたいんよ。いいけ?」

 久しぶりだったから食べたいと思っていたクリスだった。

「じゃあ、いこう」

 カーリーが手を引き店の外へと行く。リエンが会計を済ませると五人仲良く通りを歩いていくのだった。彼女達の会話が絶えることはなかった。


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