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テンセイシャに脅されています  作者: 桃野ヒロキ


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7/20

第4-4話 運命はあなたの手の中④

第4話の最後となります。

続きは明日のお昼頃投稿予定

「ナディアっ!」

「殿下?」


 扉を勢いよく開けて駆け込んできたのは、なんとセオドールだった。

 数名の従者と騎士、そしてオーレリアの侍女が遅れて部屋へと入室する。


 どうして彼がここにいるのかと疑問が沸くが、それよりも今は彼女を助けるのが優先だ。

 彼の力を借りようとオーレリアはセオドールに向けて手を伸ばした。


「男手をお貸しください。ナディアが急に血を吐いて倒れて、」

「彼女から離れろ!!」


 ぱしん、と乾いた音のあと、手の痛みが遅れてやってきた。

 呆然としているオーレリアからナディアを奪い、セオドールは大事そうに抱え込んだ。

 そして、彼女の苦しみが伝染したかのように、その表情が大きく歪む。


「これは一体、どういうことだ……?」


 セオドールの恐ろしく低い声が、オーレリアへと飛んでくる。


「ナディアに何をしたんだっ!」

「何もしてないわ」

「どうして彼女が血を吐いて倒れているんだ!」


 オーレリアは、ぎゅっと拳を握りしめる。

 状況的にオーレリアが疑われるのも無理はない。

 けれど、セオドールならもう少し冷静に話を聞いてくれるものだと思っていたのに……。


「セオ、さま」


 ナディアが今にも消え入りそうな声でそっとセオドールを呼んだ。


「ナディア!? 大丈夫かい?」

「セオ様、オーレリア様を、責めないで」


 途切れ途切れに訴えるナディアは、苦しげな表情を浮かべながら、セオドールの制服の裾を懸命に握りしめる。

 そんな彼女の手に、セオドールが優しく己の手を重ねるのが目に飛び込んできた瞬間、オーレリアは思わず叫んでいた。


「その子に触らないで!」


 あ、と思った時には遅かった。

 セオドールは、呆れたような顔でこちらを見つめている。


「まさか、こんな状況で嫉妬しているのか? それが彼女を害した理由はなのかい?」

「違うわ! 本当に私はなにも、」

「オーレリア・ミアンゼルム!」


 オーレリアの言葉を遮り、セオドールは彼女の名前を忌々しそうに口にした。


「天聖者へ危害を加えた容疑で、君を連行する。彼女を王宮の地下牢へ連れていけ」


 その場にいた者達の間に、大きなどよめきが広がっていく。

 王子の婚約者が地下牢に連行されるなど、前代未聞の大事件だ。

 身の潔白を訴えようとしたオーレリアは、視界の端に映った青に気を取られ、ナディアの方を見る。

 彼女は、セオドールの従者達に抱えられ、今まさに部屋から運び出されようとしている最中だ。

 そして、彼女の姿が見えなくなるその一瞬、瞳を開けたナディアが、にんまりと笑ったのが見えた。


「ーーえ?」


 オーレリアは、思わず声を溢した。

 刹那の時間であったが、ナディアは確かにこちらを見て笑っていた。

 その笑顔の理由に行き当たった途端、彼女の全身に悪寒が駆け巡った。


 ――やられた。

 二人きりになった瞬間の彼女の挑発、怪しげな小瓶、そしてタイミングよく入ってきたセオドール達……。

 罠に嵌められたのだと気づいた時には、全てが遅かった。


「……拘束せずとも結構。自分で歩けますわ」


 見抜けなかった以上、この場の勝負はオーレリアの負けだ。

 抵抗するだけ今後の分が悪くなる。

 それを認めて、オーレリアは狼狽える従者達に声をかけた。

 そして、乱れた服を軽く整えてから、セオドールへと再び手を伸ばす。


「エスコートをお願いしてもよろしくて?」

「……悪いが、それは他の者に任せよう。ナディアの命に別状がないと分かるまでは、彼女の側から離れたくない」


 彼女の精一杯の強がりを、セオドールは冷たく一蹴する。

 彼がどんな反応を見せるのか、なんとなく予想はついていたはずだ。

 オーレリアは自分に言い聞かせて、公爵令嬢の笑みを絶やさぬように努める。


「あら、そうですか。では、誰の力も借りずに参ることにいたします」


 オーレリアは高らかに宣言すると、彼女を待つ地下牢に向けて、足を一歩踏み出した。


 残されたカメリアの花が、ぽとりと落ちた。


お読みいただきありがとうございます。

残り5話ぐらいで完結予定です。(文字数との相談)

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