第4-4話 運命はあなたの手の中④
第4話の最後となります。
続きは明日のお昼頃投稿予定
「ナディアっ!」
「殿下?」
扉を勢いよく開けて駆け込んできたのは、なんとセオドールだった。
数名の従者と騎士、そしてオーレリアの侍女が遅れて部屋へと入室する。
どうして彼がここにいるのかと疑問が沸くが、それよりも今は彼女を助けるのが優先だ。
彼の力を借りようとオーレリアはセオドールに向けて手を伸ばした。
「男手をお貸しください。ナディアが急に血を吐いて倒れて、」
「彼女から離れろ!!」
ぱしん、と乾いた音のあと、手の痛みが遅れてやってきた。
呆然としているオーレリアからナディアを奪い、セオドールは大事そうに抱え込んだ。
そして、彼女の苦しみが伝染したかのように、その表情が大きく歪む。
「これは一体、どういうことだ……?」
セオドールの恐ろしく低い声が、オーレリアへと飛んでくる。
「ナディアに何をしたんだっ!」
「何もしてないわ」
「どうして彼女が血を吐いて倒れているんだ!」
オーレリアは、ぎゅっと拳を握りしめる。
状況的にオーレリアが疑われるのも無理はない。
けれど、セオドールならもう少し冷静に話を聞いてくれるものだと思っていたのに……。
「セオ、さま」
ナディアが今にも消え入りそうな声でそっとセオドールを呼んだ。
「ナディア!? 大丈夫かい?」
「セオ様、オーレリア様を、責めないで」
途切れ途切れに訴えるナディアは、苦しげな表情を浮かべながら、セオドールの制服の裾を懸命に握りしめる。
そんな彼女の手に、セオドールが優しく己の手を重ねるのが目に飛び込んできた瞬間、オーレリアは思わず叫んでいた。
「その子に触らないで!」
あ、と思った時には遅かった。
セオドールは、呆れたような顔でこちらを見つめている。
「まさか、こんな状況で嫉妬しているのか? それが彼女を害した理由はなのかい?」
「違うわ! 本当に私はなにも、」
「オーレリア・ミアンゼルム!」
オーレリアの言葉を遮り、セオドールは彼女の名前を忌々しそうに口にした。
「天聖者へ危害を加えた容疑で、君を連行する。彼女を王宮の地下牢へ連れていけ」
その場にいた者達の間に、大きなどよめきが広がっていく。
王子の婚約者が地下牢に連行されるなど、前代未聞の大事件だ。
身の潔白を訴えようとしたオーレリアは、視界の端に映った青に気を取られ、ナディアの方を見る。
彼女は、セオドールの従者達に抱えられ、今まさに部屋から運び出されようとしている最中だ。
そして、彼女の姿が見えなくなるその一瞬、瞳を開けたナディアが、にんまりと笑ったのが見えた。
「ーーえ?」
オーレリアは、思わず声を溢した。
刹那の時間であったが、ナディアは確かにこちらを見て笑っていた。
その笑顔の理由に行き当たった途端、彼女の全身に悪寒が駆け巡った。
――やられた。
二人きりになった瞬間の彼女の挑発、怪しげな小瓶、そしてタイミングよく入ってきたセオドール達……。
罠に嵌められたのだと気づいた時には、全てが遅かった。
「……拘束せずとも結構。自分で歩けますわ」
見抜けなかった以上、この場の勝負はオーレリアの負けだ。
抵抗するだけ今後の分が悪くなる。
それを認めて、オーレリアは狼狽える従者達に声をかけた。
そして、乱れた服を軽く整えてから、セオドールへと再び手を伸ばす。
「エスコートをお願いしてもよろしくて?」
「……悪いが、それは他の者に任せよう。ナディアの命に別状がないと分かるまでは、彼女の側から離れたくない」
彼女の精一杯の強がりを、セオドールは冷たく一蹴する。
彼がどんな反応を見せるのか、なんとなく予想はついていたはずだ。
オーレリアは自分に言い聞かせて、公爵令嬢の笑みを絶やさぬように努める。
「あら、そうですか。では、誰の力も借りずに参ることにいたします」
オーレリアは高らかに宣言すると、彼女を待つ地下牢に向けて、足を一歩踏み出した。
残されたカメリアの花が、ぽとりと落ちた。
お読みいただきありがとうございます。
残り5話ぐらいで完結予定です。(文字数との相談)




