第4-3話 運命はあなたの手の中③
ほんの少しですが血の表現が出ます!
苦手な方ご注意ください
オーレリアの言葉に、ナディアはゆっくりと俯いた。
「……バグかな? それとも他にも転生者がいるってこと? でも原作に大きなズレはなかったし……」
「あの、大丈夫……?」
聞こえるか聞こえないかの声で、ぶつぶつとなにかを呟き始めたナディアに、オーレリアは戸惑う。
もしや、なにか新たな未来を視ているのだろうかと、彼女の様子を慎重に伺う。
呟きがぴたりと止まったかと思えば、ナディアはオーレリアを見据え、高らかに宣言した。
「オーレリア様。私、生まれる前からセオ様のことが好きなんです」
「生まれるずっと前……?」
困惑するオーレリアは、ナディアの言葉を繰り返した。
ナディアは大きく頷いて肯定すると、突如として語り出した。
「完全に一目惚れでした。オーレリア様よりも、私の方が彼のことをよーく知ってます。私はセオ様が好きで、セオ様の存在するこの世界が好き。セオ様のボイスもキャラデザも性格も、全てが本当に本当に大好きで堪らない」
「……ごめんなさい。何を言ってらっしゃるの?」
ナディアの口ぶりからして、彼女はセオドールと出会うより以前から、彼を認知し、すでに好意を寄せていたようだ。
意味が理解できない単語まで出てきて、オーレリアはただただナディアを訝しげに見つめることしかできない。
オーレリアに戸惑いに気がついたのか、ナディアはこちらを見ると、嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ、ごめんなさい。何を言っているか分からないですよね。私は大好きなセオ様を攻略して、あの人のお嫁さんになりたいんです」
「……は?」
オーレリアは思わず耳を疑った。
彼女は今、オーレリアの前で彼の妻になりたいと言ったのだろうか。
「あなたが殿下の花嫁? ありえないわ」
「いいえ、あり得るんですよ。だって、オーレリア様は毒を飲んで死んでしまうから」
「詳しい未来は分からないのではなかったの?」
ナディアは未来の詳しいことは分からないと散々言っていたはずだ。
しかし、今はそれを翻してオーレリアの死因をあっさりと教える。
「原作からあまり流れを変えたくなかったんですよね。そうそう、オーレリア様は無実の罪で捕まって、自らの潔白を証明するために死んでしまう予定になっています」
「予定になっていますって……」
「私が望むルートは一つ。この世界の大好きなキャラ達に愛されながら生きること。その未来を、どうしても確定させたいんです」
ナディアの言葉から本気が伝わってきて、オーレリアは思わず息を呑んだ。
彼女の瞳には、果たしてどんな未来が見えているのだろうか。
「ねえ、オーレリア様。あなたに未来を差し上げますから、代わりにセオ様をください」
「彼を物扱いするのはやめて。心底不愉快よ」
オーレリアの眉がぴくりと動く。
セオドールは誰の物でもないし、オーレリアの未来だって、まだなにも決まってはいないはずだ。
勝手に天秤に乗せて遊ぶような口ぶりのナディアに、オーレリアははっきりとした嫌悪感を覚える。
「私が死ぬという程度の未来では退けないわ。セオドール・カレンシアの婚約者の座は、そんな軽いものじゃないの」
ナディアは彼の花嫁になることを望んでいたが、それはつまり、未来の王妃になるということだ。
その席は、愛や恋だけで務まる場所ではない。
行き着く先が、セオドールや国民達の悲惨な結末ならまだしも、オーレリアだけが死ぬというのなら、その程度で降りることは許されない。
「私から婚約破棄をすることはありません。絶対に」
天聖者ではないオーレリアは、ナディアのように未来の景色を覗きみることは叶わない。
彼女の黄金の瞳が映すのは、今のこの瞬間だけだ。
だからこそ、オーレリアはまだ見ぬ未来に怯えることも喜ぶこともしない。
「……ふーん。せっかくだから助けてあげようと思ったけど、まあいいや。別にそっちがどうなろうと、私の未来は決まっているし」
そう言うナディアの手には小瓶が握られていた。
蓋を外し、中に入っていた液体を紅茶に入れて混ぜ始める。
「それはなに?」
オーレリアが尋ねるが、ナディアは微笑んだまま答えない。
自作自演で下剤を盛って、再びセオドールに泣きつくつもりだろうか。
このまま紅茶を取り上げてもいいが、取り合いになって制服に染みが残ったり、火傷を負われるのも面倒だ。
「この世界では、私がヒロインで、オーレリア様は負けるだけの悪役。そういう運命なんです」
「運命は自分の手で捻じ曲げてこそ人生の醍醐味というものじゃないかしら?」
ナディアの言葉にそう返せば、彼女は小馬鹿にしたような顔でティーカップを手に取った。
そのまま紅茶に口をつけると、一気に飲み干した。
ナディアは空っぽのティーカップを逆さにし、じんわりと満面の笑顔を浮かべていく。
「残念ですけど、運命はもう決まってしまいました」
「何を言って、」
ナディアの体が大きく揺らいだのは、その時だった。
部屋の床に倒れ込み、大きく咳き込んだかと思いきや、そのまま真っ赤な血を吐いた。
「なっ……!」
オーレリアが急いで回り込み、ナディアを抱え起こしたその時、部屋の外が急に騒がしくなった。
侍女が戻ってきたのだろうか?
顔をあげれば部屋に入っていたのは意外な人物だった。
次回で第4話終了。読んでいただきありがとうございます。




