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テンセイシャに脅されています  作者: 桃野ヒロキ


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第11-1話 結ばれた想いの名は①

最終話前半です。

「テディ」


 愛しい人の名前を呼べば、彼は少々困り顔でこちらを振り返った。


「その愛称はやめてくれと言っているのに……」


 オーレリアとセオドールは、二人が初めて出会った王宮の庭園にいた。


「愛称呼びが嫌でしたら、改めますわ」

「嫌なわけではないよ。ただ、テディというのは少し子どもっぽい響きがするから」


 言いながら、セオドールは恥ずかしそうに頬を掻いた。


「テディという響きは好きよ。とっても愛らしいもの」

「愛らしいよりも、格好いいほうがいい……」


 小さくボソリと囁く彼の姿こそ、オーレリアは愛らしくて仕方ない。しかし、それを伝えれば、彼はきっとまた拗ねてしまうだろう。

 オーレリアは、溢れてしまいそうになる笑みを噛み殺し、わざとらしく咳払いをした。


「さて、セオドール殿下」


 背筋をより一層伸ばし、改めて彼の名を呼ぶ。


 断罪され、毒を飲み干したオーレリアが息を吹き返し、ナディアは連行された。

 運命を騙し続けて辿り着いた“今”。二人が原作通りの関係性を演じる必要はもうない。


「私、まだあなたの婚約者には相応しくないかしら?」


 彼は驚いたように目を丸くする。しあし、その表情はすぐに真剣なものへと変わった。


「原作の流れに沿うために、オーレリア・ミアンゼルムは断罪された。あなたの死亡届が受理されているのは知っているよね?」

「ええ。それに伴って、私と殿下の婚約が無効となっていることも承知しておりますわ」


 オーレリア・ミアンゼルムは、戸籍の上ではまだ死んでいる。

 それはつまり、オーレリア・ミアンゼルムとセオドール・カレンシアの婚約は無効になったと言ってもいいだろう。


 セオドールは、オーレリアからすっと顔を逸らす。唇を噛み締め、何かを考えているようだった。

 オーレリアは黙って彼の言葉を待つ。


「これで、あなたに夢を返せるね」

「夢?」

「ああ。約束しただろう? 時間がかかるかもしれないが、あなたの夢を必ず返すと」

「言われてみれば、そうでしたね……」


 そのあたりのことはすっかり頭から抜け落ちていた。

 そういえば原作から抜け出した後のことを、全く話し合っていない。

 どうしたものかと思案していると、彼の手がかすかに震えることに気がついた。


「テディ?」

「……怖いんだ」


 その手を優しく包み込んで、オーレリアは彼の顔を覗き込む。


「なにが怖いのか、私に教えていただけませんか?」

「……オーレリアを、失うのが怖い」


 今にも消え入りそうな声が落ちる。


「それは、婚約の話? それとも、私の命の話?」

「僕があなたの傍にいたら、何かまた恐ろしい出来事がオーレリアに降りかかるような気がして……。僕は、それが怖くてたまらない」

「私は、あなたの隣に、私以外の誰かが立っているのを考えると怖くてたまらないわ」


 ナディアがサファイアのブローチを見せつけてきた時、腹の底から湧き上がるドス黒い感情を、オーレリアは確かに感じた。

 ストーリーの展開は分かっていたから、好感度に合わせた贈り物をセオドールと共に選んだけれど……。

 彼の瞳の色を身につけるナディアが妬ましくて、羨ましかった。

 装飾品を贈り合えるような日が来たらと、期待と不安で胸が重くなり、自分の弱さに呆れた。

 もし、セオドールから全てを聞いていなければ、オーレリアは孤独と寂しさに耐えきれず、原作のように悪役令嬢に成り果ていたかもしれない。


「ねえ、私はやっぱり相応しくない?」


 オーレリアは再び問いかける。


「相応しい、か……。うん、そうだね。相応しくない」


 セオドールが、切なそうにオーレリアを見つめた。


「僕が、あなたに相応しくない」


 その悲しげな声に、オーレリアの胸が締め付けられる。


「夢を奪い、命を奪うような男が、どうしてオーレリアに相応しいと言えるんだ」

「それは原作のセオドールであって、あなたじゃないわ」


 決して同じではない。むしろ原作なんかと比べないでほしい。

 そんな思いを込めて強い声で否定するが、彼の顔は晴れない。


「ねえ、テディ。今の私は夢を奪われたとは思っていないのよ」


 婚約者に相応しくないと泣かれたときは、本当に頭に来てぶん殴ってしまったけれど。

 でも、彼が打ち明けてくれた本心を知った時、気づけば夢なんてどうでもよくなっていた。


「私が騎士になりたかったのは、大切な人を守れるような強い人間になりたかったから。お飾りの称号が欲しいわけではないわ」


 彼の瞳は、未だ不安に揺れている。その姿が、迷子のような顔を浮かべていたあの日の彼と重なった。

 オーレリアの死を恐れて涙を流す彼を見て、思ったことがある。

 誰かのために涙を流せるような、そんな優しい王様の作る国は、どんな景色だろうと。

 きっとそこでは、オーレリアがかつて憧れた理想の騎士は退屈で欠伸しているに違いない。


「あの日、私のために泣いてくれた男の子を、私は守りたいの。これからもずっと」


 セオドールの瞳から、透き通った涙がこぼれて、きらりと煌めく。

 オーレリアは、温かな涙を指の先でそっと拭う。そして、真っ直ぐに彼をみつめながら、口を開く。




「セオドール。あなたが好き」

次で完結となります。

最後までよろしくお願いします。

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