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テンセイシャに脅されています  作者: 桃野ヒロキ


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第9-2話 二人の約束②

お待たせしました。

後半部分です!


 魔術師が退室した後、オーレリアは、セオドールの顔を見てほっと胸を撫で下ろした。

 肩の痛みは綺麗さっぱり消え去り、彼の顔もすっかり元通りになっている。


「オーレリア」


 セオドールに呼ばれ、彼の方を向く。


「オーレリア。あなたは――」


 そう言いかけて、セオドールは口を閉ざす。

 続きを待っていると、彼が消え入りそうな声で呟いた。


「王妃になんて、ならなくていい。自分の夢を叶えるべきだ」

「え?」


 オーレリアは思わず目を瞬かせる。


「婚約を取り消せるように、父に頼んでみるから」

「待ってください!」


 背中を向けた彼の手を、オーレリアは慌てて掴む。


「それは、どういう意味ですか?」

「時間はかかるだろうけど、あなたの夢は返すよ。必ず」

「だから待って!」


 掴んでいた手を引っ張り、彼を振り向かせる。


「一人で納得されても困ります。ちゃんと説明して」


 セオドールは困ったように眉を下げると、力無く項垂れた。


「色々と抗ってみたけど、ダメだったんだ。今は、婚約を結ぶ以外に選択肢がなくて……」

「それは、なんの話ですか?」

「どうやっても上手くいかない。君以外と婚約をしようとすると、必ず邪魔が入って……。でも、このままじゃ……」


 繋いでいた手から、彼の震えが伝わってくる。


「殿下?」

「このままじゃ、あなたが……、オーレリアが死んでしまう」


 絞り出すように吐き出されたその声は、悲痛に満ち溢れていた。

 オーレリアは、そんな彼に吸い寄せられるように、頬を優しく包み込む。もう涙は止まっているはずなのに、彼は未だ泣いているようだった。


「どうして私が死ぬのか、教えていただけませんか?」


 真摯に尋ねると、彼は戸惑いながらも静かに話し始めた。


「父上と母上が話しているのを聞いてしまったんだ。このままだと、オーレリアは断罪されて死んでしまうかもしれないって」


 その話を聞いたセオドールは、いてもたってもいられずに禁書庫に忍び込んだ。そして必死に初代王妃の手記を読み解き、両親の言葉の意味を理解した。


「未来を変えるには、あなたが僕の婚約者にならなければいい。そう思って、僕はオーレリア以外の子を婚約者に望んだ。でも、どうしてもダメなんだ」


 婚約は全て破談となった。

 病気や怪我、予期せぬ事故に災い……。まるで、オーレリア以外は許さぬといわんばかりに、婚約は悉く成立しなかった。


「初代王妃は、それを原作の強制力と表現していた。僕たちの感覚でいう、運命とか天命みたいなものだと思う」

「つまり、私はヒロインに殿下を横取りされ、無実の罪で断罪されるというわけですか……」


 オーレリアはしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがて悔しげにため息をついた。


「我ながらなんたる無様な最期なのかしら。いえ、家を守って毒を残らず飲み干した点だけは評価に値するわ」


 セオドールは微妙な表情を浮かべつつも、話を続ける。


「断罪が待ち受けているのは、あなただけじゃない。他にも運命に巻き込まれてしまう悪役たちがいる」

「悪役たちは、一体どんな悪行の数々を重ねたのですか?」

「ヒロインに嫉妬して、彼女に嫌がらせをしたり、殺そうとしたり、人攫いに頼んで奴隷に落とそうとしたり……」

「確かに、褒められた行為ではありませんね」


 オーレリアはそう言いながら、ふむ、と顎に手を当てた。


「その強制力に抗う方法はないのですか?」

「一つだけある……。でも、それは初代王妃様が考えた推測であって、確実なものじゃないんだ」

「あら、十分ではありませんか」


 不思議そうに首を傾げる彼に、オーレリアは黄金の瞳を煌めかせて言った。


「運命に挑めるなんて、まるで物語の英雄みたい! すごくワクワクするわ!」

「へ?」


 間の抜けた声を上げるセオドールに、オーレリアは嬉しそうに身を乗り出した。


「だって、王妃様は友の子孫である私を守るために手記を残してくれたのでしょう? 私が挑まずに、誰が挑むというの?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 大きな声と共に、強い力で肩を掴まれた。

 目の前に迫った彼の顔には、焦りと困惑が色濃く滲んでいる。


「この問題は王家でなんとかするから! あなたには、ただ設定通りの婚約者のふりをしてほしいだけなんだ。もし断罪が免れなくても、別の戸籍を用意して、あなたの死を偽装する。そうすれば命だけは助かるはずだ」

「私、殿方の後ろで守られる趣味はないわ」

「そういうことじゃなくて……」


 ニコニコと微笑み続けるオーレリアを前に、セオドールは天を仰ぐ。

 オーレリアは、そんな彼の顔に触れて、自分の方へと向けた。先ほどまでの笑みを消し、瞳と瞳を合わせる。


「私は嫌よ。たとえ命が助かったとしても、運命に負けるオーレリア・ミアンゼルムなんて、絶対に嫌」

「オーレリア……」

「それにね」


 オーレリアは、セオドールを剣で負かしたあの時のように、晴れやかな笑みを見せた。


「泣いている男の子を放っておく女になるのはもっと嫌」


 セオドールの瞳が大きく揺れた。

 瞬間、彼自身でも気付かぬうちに一粒の涙が頬を伝う。


「大丈夫。運命だろうが原作だろうが、必ず打ち勝って、あなたに相応しい婚約者になってみせますから」


 宣言して、オーレリアは彼から一歩離れた。ゆっくりと、手を差し伸べる。


「絶対にあなたとの未来まで辿り着いてみせるから。だからどうか、それまで待っていて」

「オーレリア……。あなたは本当に……」


 セオドールはそこまで言いかけて、かすかに残る涙を、服の裾で強引に拭い去る。

 温かな手が、少女の手を包み込むように握りしめた。


「一緒に戦ってくれる?」

「ええ。必ず勝ちましょう」


 オーレリアは笑って、セオドールの手を引いて歩き出す。


「……あなたは、もう十分に相応しいよ」


 少女の背中にかけられた小さな呟きは、二人の足音の中に消えいった。


差し込み分終了です。

残りの構成をの推敲を終わらせて、明日こそ完結目指します!


感想などお待ちしております。

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