第8-2話 命は再び輝きだす②
今見たらリアクションとブクマが……!ありがとうございます!
この後20時ごろにも更新できたらと思います。
「ど、どうしてセオ様が……」
「どうして僕が乙女ゲームのことを知っているのかって?」
もう一つの呼び名を口にすれば、ナディアの目がさらに大きく開かれた。
全て教える頃には、目が飛び出してしまわないだろうか――そんなことを思いながら、セオドールはゆっくりと口を開いた。
「天聖者には二種類の意味がある。一つは魔法とは異なる特殊な体系の力を使う者のこと。そしてもう一つは、こことは異なる世界から転生してきた魂を持つ者。ナディア・レグリーノ、君は後者だ。――前世の記憶を持つ“転生者”だろう?」
「なんで知ってるのっ!?」
悲鳴のような声に、セオドールはすぅと目を細めた。
「転生者は君だけじゃない。いや、君だけじゃなかった、というべきかな」
「う、嘘……!」
「君に嘘を言って、僕になんの利点があるんだい?」
ナディアの目が、忙しなく左右に揺れ動く。その視線はやがて、オーレリアにぴたりと定まった。
「ま、まさか……」
ナディアの視線に気づいた彼女は、こてんと首を傾げ、にこりと微笑んだ。
「あら? 私だと思ってらっしゃるの? 生憎ですが、前世の記憶は持ち合わせてはおりません」
「じゃ、じゃあ一体誰が……」
「ここにはいないよ。残念ながら彼女はもう亡くなっているから」
実物を見せながら説明する方が早い――そう判断したセオドールは傍らに控えるシルヴァンを振り返った。
「シルヴァン、あれを出せるかい?」
「……持ち出し厳禁なんですけど」
そう言いながらも、彼は諦めたようにため息をついて、小さく呪文を唱える。
次の瞬間、シルファンの手に分厚い本が出現した。
「どうぞ」
受け取った本を、ナディアにも見えるように持ち上げてみせた。
高く掲げられた革表紙に、古ぼけた金の文字が刻まれている。
「それはなに?」
「王宮が管理しているカレンシア建国記の原典だよ。この巻には、初代王妃の手記も残されているんだ。その内容は限られた者達だけが知っている」
「初代、王妃?」
ナディアはピンときていない様子だった。
そんな彼女に、セオドールはたった一つの真実を告げる。
「転生者は……初代王妃だよ」
「え?」
理解するのを諦めたのか、彼女はついにポカンと口を開けた。
セオドールは本の表紙を静かに捲る。色褪せて掠れた文字を目で追いながら、静かに語り始めた。
「初代王妃は、こことは異なる世界にある日本という国から転生してきた。ただし、彼女が転生したのはゲームの原作が始まる数百年も前の時代。カレンシア王国すら、まだ存在していない時代にね」
「王妃が……、転生者?」
「そう。彼女も君と同様、カレンシアクロニクルに造詣が深い人間だったらしい。だから、ここがその世界であることに気づき――、遠い子孫たちに待ち受ける運命を悟った」
セオドールは、ゆっくりとオーレリアへ視線を向けた。
彼女は静かに微笑みを湛えていた。
「彼女は、初代ミアンゼルム公爵と旧くからの友人だった。このまま原作通りの事が進めば、友の血を引くオーレリアは断罪される。それを黙って見過ごすことは、彼女にはできなかった。だから、一つの決心をした」
「それって、つまり……」
ナディアの呟きが途中で途切れた。何かを理解してしまった彼女は、ふらりとよろめいた。
「彼女は全て書き残してくれたよ。原作のストーリー、攻略対象となる人物達、そして、ヒロインと交わされるであろうセリフの数々まで。一文字も残すことなく、全てをね」
ぱたん、と、本を閉じる音が礼拝堂に響いた。
そして、一歩、また一歩とナディアに近づく。彼女の瞳が戸惑うように揺れる。
細い顎を掬い上げ、甘やかな笑みを浮かべれば、ナディアの頬がたちまち赤く染まった。
少女らしい純粋で可愛らしい反応なのだろう。
けれど、セオドールの心には何も響かない。
「ねぇ、ナディア」
囁くように問いかける。
「僕の演技はどうだった?」
「え……?」
呆然とする彼女を見下ろし、セオドールは笑みを深めた。
「ヒロインのナディア・レグリーノを溺愛し、悪役令嬢オーレリア・ミアンゼルムを疎む第一王子……。セオドール・カレンシアの演技は、気に入ってもらえたかい?」
瞬間、ナディアの顔から血の気が引いた。
ひゅ、と喉が引き攣る音が聞こえてきたが、セオドールは笑みを浮かべ続けている。
「僕たちはね、原作で起きる出来事を忠実に再現していただけ。君が選ぶ選択肢に沿ってね」
「なん、で、そんなこと」
震える声が、途切れ途切れに紡がれる。
「理由は簡単だよ」
セオドールは偽物の笑顔を打ち消して、冷徹な眼差しでナディアを見据えた。
「自分の大切な人を守るため。ただそれだけだ」
次話で完結する予定だったのですが、あと1話(もしかしたら2話)だけ差し込ませてください。(差し込み分は執筆済みです)
本日、完結までアップする予定でしたが、最終話の構成の見直しをさせていただけたらと思います。
そちらが終わり次第アップします!(明日までには仕上げられたらと……)
申し訳ありませんが、完結までもう少しお時間ください。よろしくお願いします。




