表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンセイシャに脅されています  作者: 桃野ヒロキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/20

第7-2話 変わらぬ愛と信頼を②

※新しいキャラが出てきます。

 薄暗い廊下を歩きながら、ナディアはセオドールの横顔をちらりと盗み見た。

 いつも柔らかな笑みを湛えている彼だが、今日ばかりはやはり表情が硬い。


 セオドール・カレンシアは、誰にでも優しく自信に満ちた理想の王子様キャラだ。しかし、その内面には劣等感が渦巻いている。

 きっかけはオーレリアに剣で叩きのめされたことだ。しかも、彼女は剣以外でも優秀で、それがセオドールをさらに惨めにさせた。

 同時に、彼女の夢を奪った負目もあった。


 あの黄金の瞳を見ていると、ドス黒い感情や劣等感、罪悪感を暴かれてしまいそうで、彼女のことが恐ろしかった。

 そんな感情に蓋をしたくて、セオドールはオーレリアをひたすら貶し、冷たく当たり続けてしまう。

 彼女が、心の奥底では彼を愛していたことにも気づかずに。


 オーレリアの遺体と対面したとき、セオドールは初めて理解することになる。 自分は彼女の強さに憧れていたのだと……。




 ――そして、彼が後悔の涙を流してくれれば恋の成就はすぐそこだ。




 ナディアは、セオドールと共に礼拝堂へと足を踏み入れた。

 中央にはすでに棺が安置されている。中にはオーレリアの遺体が横たわっているのだろう。

 命と引き換えに罪を清めたオーレリアは、観衆にさらされることなく静かに葬られる。

 彼女の最期の見送りに立ち会うことを許されたのも、限られた者達だけである。


「あ……」


 棺の傍らで、悲痛な表情を浮かべる男性を見つけ、ナディアは声を漏らした。

 くすんだ赤い髪が特徴的な彼の名前はレオンハルト・ミアンゼルム。

 オーレリアの兄であり、ナディアの攻略対象のうちの一人だ。

 この場にいる攻略対象は彼だけではない。

 シルヴァン、アシュレイ、カイル……。

 彼らはオーレリアとの接点を持つ攻略キャラだ。彼らのルートでも、彼女が何かしらの形で必ず介入してきていた。


 彼らを見ながら、ナディアは心の中でほくそ笑む。好感度上げは、抜かりなくおこなっている。

 セオドールを攻略すれば、そのすぐ後にはレオンハルトとのイベントが待ち構えている。

 そのさらに後には、魔術師シルヴァンとのイベントだ。

 今の二人の好感度から考えて、バッドエンドは無いだろう。


 冷静に分析しながらも、ナディアは悲しげな顔を作るのを忘れない。

 ゲームで見たスチルと同じ状況が整うまで、もう少しだ。



「……オーレリア」


 棺に近づいたセオドールが、婚約者の名前を呼んだ。

 死化粧を施されたオーレリア・ミアンゼルムは、それはそれは美しかった。

 その死に顔に、セオドールが永遠に囚われてしまうのではないか。そう不安になってしまうほどに。


「あなたという人は、本当に……、可愛げがないんだな」


 セオドールは神官から手渡されたマリーゴールドの花をぐしゃりと握りつぶした。


 その様子を見守りながら、ふと、ナディアは首を傾げた。

 この花は、オーレリアが好きだった花だと公式サイトで読んだ覚えがある。しかし、このシーンのセオドールは白百合を彼女に供えていた。

 それに、セオドールはずっとオーレリアのことを“君”と呼んでいたはずだ。だって、彼が“あなた”と呼びかけるのは好感度が高い人間だけなのだから。


「セオ様……」


 わずかな違和感に、ナディアの胸がざわりと騒がしくなる。

 そういえば、ナディアが毒入り紅茶を飲んだあの日、オーレリアは彼のことが好きだと認めていた。

 プライドの高い彼女は、その想いを誰にも打ち明けずに死ぬはずなのに……。


 原作を早めた影響なのかと、ナディアが頭を回し始めた時――オーレリアの美しい顔に、ぽたりと一粒の雫が落とされた。



 ナディアが慌ててセオドールを振り返れば、彼は唇を噛み締めて俯いている。そして、その瞳からガラス細工のような涙を、一粒、また一粒と流していた。


 来た――!


 ナディアの心臓が大きく跳ねる。

 何百回と見たあのシーンそっくりの美しい泣き顔に、彼女の頬が真っ赤に染まっていく。

 多少の懸念はあったが、どうやら望み通りの未来に進んでいるようだ。


 確信を得たナディアは、愛しいキャラの手にそっと自分の手を重ねた。


「セオ様。我慢しないで、思い切り泣いてください」


 セオドールの体がこちらへ向くのを待ってから、ナディアは言葉を紡ぐ。


「セオ様。私、お願いがあるんです」

「いいよ。僕にできることならなんだってしてあげる」


 セオドールは切なそうに微笑んでいる。大丈夫だ、選択肢は合っている。

 

「どうか私に、セオ様を支えさせてください。オーレリア様の代わりにはなれないけれど、もう二度と、望む未来を見誤らないように寄り添わせてください」


 ルートの確定まではすぐそこだ。

 絶対に逃したりなんてしない。

 ナディアは、彼の手を強く握り締める。


「――僕の望む未来は、ひとつだけだよ」


 涙で輝くサファイアの瞳いっぱいに、自分(ヒロイン)の姿がはっきりと映し出された。


 ハッピーエンドを確信し、思わず笑みが漏れた次の瞬間、


「え……?」


 するりと、セオドールの手が離れた。

 彼の瞳から自分が消えていく。代わりに映し出されたのは、彼の婚約者の姿だった。


「セオ様? どうしたんですか?」


 恐る恐る声をかけるが、彼の瞳はオーレリアから離れない。


「セオドール・カレンシアは、オーレリア・ミアンゼルムと共に歩む未来だけを望む」

「……は?」


 ナディアは思わず自分の耳を疑った。

 どうしてナディアではなく、彼女の名前を呼ぶのだろう?

 知らない、こんなシーンはどのルートにも存在していないはずなのに……。


「あなたの答えを、聞かせてくれないかい?」


 セオドールは、瞳を固く閉ざしたままのオーレリアへ語りかけている。

 その手が、愛おしそうに白い頬に触れた。

 彼の顔が、ゆっくりと彼女へ近づいていくのを見た瞬間、ナディアは思わず声を上げた。


「ま、待って……! ダメっ!」


 必死に手を伸ばしたが、間に合わなかった。


「さあ、もう起きる時間だよ。僕の愛しい人」


 低く甘い声が響いて、(ヒーロー)は、彼女(悪役)の唇に優しいキスを落とした。


 物語のワンシーンのような光景が、ナディアの瞳を強く灼いた。


お読みいただきありがとうございます。


感想、リアクション、気軽にお待ちしております。


面白かった、続きが気になった、と思っていただけたら、ブックマークと下の方にある[★★★★★]を押していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ