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【第3話】 こちら側へ
コン、コン、コン――。
壁の奥から続く、その規則的な叩き音。
それは、洗濯機の回転音よりもずっと近く、そして重かった。
……いや、壁の奥じゃない。
枕元の、壁際。
そこから聞こえている。
息を殺し、耳を澄ます。
音はゆっくりと、俺の頭の位置へ向かって移動してきている。
コン、コン、コン――。
背中に汗が張り付き、息を吸うのもためらわれる。
このままでは、音の“正体”が、俺の真横に来てしまう。
意を決して、ベッドから飛び起きた。
電気をつける。
……何もいない。
しかし、その瞬間、背後からゴトリ、と何かが床に落ちた音がした。
振り向く。
そこには――湿った、灰色の布のかたまり。
いや、違う。
布ではない。
それは、人の腕だった。
洗濯機で長く回されすぎたせいか、皮膚はふやけ、指は折れ曲がり、袖口には見覚えのある作業服のタグが付いている。
「……なんだよ、これ……」
足が震え、声が裏返る。
その時、外廊下から聞こえてきた。
再び回り始めた、洗濯機の音――。
ゴウン……ゴウン……ゴウン……
まるで「まだ中身は残ってる」と告げるように。