【第2話】 回転の中身
郵便受けの隙間が、かすかに開いた。
そこから覗く、暗い室内の闇――そして、白い何か。
一瞬、それが人の眼球の白目に見えて、背筋が凍る。
「……すみません、あの、本当に困ってるんですけど……」
声はかすれ、喉の奥で引っかかった。
だが、返事はない。
代わりに、郵便受けがゆっくりと閉じられる音がした。
――パタン。
外廊下には、俺と洗濯機の音だけが残された。
ゴウン……ゴウン……ゴウン……
中で何かが重く、そして柔らかくぶつかっている。
服じゃない。タオルでもない。
もっと、形のはっきりした……人間の関節のような硬さと、肉の鈍い弾力。
嫌な想像が頭をよぎる。
いや、考えるな。考えたら、もう二度と近づけない。
俺は、仕事用の安物スニーカーで通路を踏み鳴らし、階段を降りた。
だが、一階まで降りても――
音は止まらなかった。
***
夜。
眠れずに天井を見つめていると、不意に音が変わった。
ゴウン、ゴウン……から、ガタッ、ガタッ、と荒くなり、急に静かになる。
――回転が止まった?
時計は午前三時。
やっと静かになった……そう思った瞬間、
コン、コン、コン――と、今度は壁越しに規則正しい叩き音が響きはじめた。
しかもそれは、まるで俺の部屋の中から聞こえてくるようで――。