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たたかう聖女さま  作者: 桜花オルガ


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第86話 恋は儚く

『ヒール』が投げられるという、衝撃の現場に居合わせた者達は、瞬き一つせずその光景を眺めている。



「皆さん驚いたかもしれませんが、これが強すぎる『思い込み』と『イメージ』の弊害、落とし穴です。良いですか皆さん?魔法はもっと自由なものなんです。ですが大多数の人達は『ヒール』を『イメージ』した時に、怪我人に触れるくらい近寄って使うものだと、強く『思い込み』過ぎてしまっているんです。魔法は難しく考え過ぎず、もっと自由な発想を大切にしましょう」



 マリアがとても良い笑顔で話すが、余りの出来事で誰も口を開けずにいる。


 そして学園長のエレノアは、自分がとんでもない事をしでかしてしまったと思っていた。


 マリアの凄さは巷の噂や、最初の全体挨拶の時に理解していたつもりであったが、大間違いであったと。余りにも超越している。聖女だから特別……なんて安い言葉では片付けられない、超規格外の唯一無二の存在。暴君と呼ばれた前ヘリオルス王を屈服させ、たった一人で王城を……権力を破壊し尽くす力……こんな凄すぎる聖女様、気軽に学園へ呼んじゃ駄目だったぁぁあああ!!不敬罪……もしかして不敬罪になっちゃうぅぅう!?と思っているのである。



 ん?学園長が苦しそうに悶えているけど、怪我はしてなかったよね?内臓にダメージでもあったのかな?



 学園長エレノアの考えは、ただの杞憂である。


 先日マリアは学園長に言ったが、学園の講師を受けたのは本当にもののついでだし、もし嫌であれば普通に断るだけの話だ。


 むしろ今は、クロエに生徒たちと一緒に授業を受けさせる事ができ、マリアは感謝すらしている。



 嗚咽を漏らしている学園長を除き、教師や生徒たちは徐々に再起動を始め、やがて学園内は大歓声に包まれた。


 自分達のこれまでの世界が、一気に変わったのだ。


 これまでの常識が良い意味で壊れた事に、学園の者達は歓喜した。




      ───◇─◆─◇───




 クロエが授業に参加するようになってから、マリア達は学園長に許可をもらい、昼食は学生用の食堂を利用している。


 今日はマリア・クロエ・エミリーの三人で、ランチタイムを楽しんでいた。



「マリア様ぁー!なんか視線が気になりますねー」


「我慢なさいなクロエ。皆マリア先生と食事をしたいけど、恐れ多くて近寄れないから、遠巻きに見ているしか出来ないのですわ」


「そうなの?私は別に気にしないから、一緒のテーブルで食べればいいのにね。それにしてもさすが大陸一の学園だね。豪華なランチだし、栄養バランスもよく考えられてるよ。エミリーちゃん夕食は寮で出るんでしょ?寮もこんな感じなの?」


「そうですわね。昼食に比べると野菜が多めだと思いますわ。ただマリア先生の授業が開始された頃から、さらに輪をかけて豪華な夕食を出されるようになりましたの。不思議ですわ」


「皆まだまだ成長期だからね。そういった部分を学園側が、配慮してくれたのかもしれないね」


「良い学園ですね~」



 三人とも、エミリーの夕食が豪華になった理由を知らなかった……



 少し離れたテーブルで、ケンリーとサイラスが食事をしているのが目に入る。


 ん?ケンリー君も私達のテーブルをチラチラと見ているね。遠慮せずこっちに来れば良いのに……あれ?ケンリー君が見てるのって……エミリーちゃん?あぁ、そういう事だったんだね。エミリーちゃんに()()()()()()も、ケンリー君が報復しなかった理由が分かったよ。



 マリアはケンリーへ向け、ちょいちょいと手招きする。


 それに気が付いたケンリーは、ビクッと体を揺らし、ガタガタと音を立てながら急いでマリアのもとまでやって来た。



「お呼びでしょうかマリア先生!!」


「ケンリー君も私達と同じテーブルで食べませんか?」


「え……いえ!自分にはまだ、マリア先生と食事を共にする栄誉は勿体ないです!!」


「私の事は気にしなくて良いですよ。だってケンリー君、エミリーちゃんの事が好きなんでしょう?」



 マリアはぶっこんだ。



 地球で『超規格外』と評されているマリアであるが、全てにおいて完璧超人である訳ではない。マリアは少し……いや、けっこうデリカシーが無いのだ。


 ケンリーは顔を耳まで真っ赤にし、直立不動となってしまっている。


 あれ?照れてるのかな?私もクロエちゃんやエミリーちゃんの事は好きだし、そんなに照れる事だろうか?


 エミリーちゃんはまだ10才だけど、こっちの世界の貴族は、そのくらいで婚約者が決まったりもするらしいし、別に恋愛対象として見てもおかしくないだろうしね。



 だがそんなケンリーを、冷たい目で睨み付けながらエミリーが呟く。



「……気持ち悪い」



 ケンリーの恋はマリアの()采配により、あっけなく砕け散ってしまった。


 今度は魂が抜け落ちたような顔で立ち尽くすケンリーを、サイラスが自分たちのテーブルへ連れ帰って行った。



「マリア様ぁー!さすがですっ!相手に告白される前に断る!悪い芽は早めに摘んでおくって事ですねー!」


「まぁ!?そうでしたのマリア先生!確かに二人きりの時より、こういった場の方が私も気楽でしたわ!なんて素晴らしい配慮!さすがはマリア先生ですわ!!」



 いや……そういう訳じゃ……


 うん……ケンリー君、なんかごめん。





 マリアの称号に『恋愛クラッシャー』が追加された……訳ではない。

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