第9話 アイザックとジークの独り言
《アイザック視点》
俺が冒険者を引退して、この街の冒険者ギルドのマスターとなってからもう八年か。
五年前に同じパーティーメンバーだったガンツが来てくれて、本当に助かっている。
あいつ娘が嫁に行って寂しそうにしてやがるから、久しぶりに酒でも誘うとするか。
ん?なんだか下が騒がしいな。
部屋を出て階段を半分ほど降り、ギルド内の様子を伺うと、買取り場で何人かが騒いでいる。
あれはジークか。見た事のない服装のお嬢ちゃんはなんだ?おいおいあのお嬢ちゃん、めちゃくちゃ強いんじゃないか?
お!ありゃオークジェネラルじゃねぇか!あいつは放っておくと、オークやハイオークをどんどん集めるから、厄介な魔獣なんだよなぁ。
野次馬たちの会話が聞こえるが…あのお嬢ちゃんがオークジェネラルを殺ったのか!まぁそれなら納得だな。
しかしあの若さでどうやってその領域まで……天才ってのはいるもんなんだなぁ。
なんだ今度は?あぁ『オーバーカース』の奴らか。あいつら評判悪いんだよなぁ。
特にグレブダの奴、いつから腐っちまったんだか……あ~あ、案の定絡み始めやがった。
うわっ……お嬢ちゃんちょっと怒ってないか?あー、お嬢ちゃん煽ってるなぁ。これはグレブダの対応次第じゃ……あ!剣なんて抜いちまったら……
ありゃ暫く動けねぇな。お嬢ちゃんはかなり手加減していたようだが……
野次馬たちの話を聞く限り、あの子は冒険者じゃないのか。
強くて可愛い女の子……うちを拠点として冒険者になってくれたら、他の奴らも気合いが入るんじゃ!?
よし!ギルドマスターらしくこの場を鎮めるとするか……
《ジーク視点》
見えなかった。
オークジェネラルを素手で倒したという目の前の美少女が、激高したグレブダが剣を抜いた瞬間、俺の目の前から消えていた……と同時にグレブダは宙を舞っていた。
俺はランクBの冒険者だ。
自慢じゃないが、一対一ならオークジェネラルにだって勝てる!が……多少は苦戦するだろうし、素手で戦えと言われたらさすがに無理だ……
正直なところ何かの間違いだろうと考えていたが、目の前の光景を見た瞬間に理解した。
この美少女の強さは、次元が違う。
ぶっちゃけ身体が震えたよ。びびった訳じゃない。たぶん俺は……憧れちまったんだと思う。
23歳のランクB冒険者のこの俺が、弟のジンより若そうなこの女の子に、憧れちまったんだ。
冒険者の憧れと言えば、規格外の強さを持つと言われる、Sランク冒険者たちだ。
でも俺はそんなSランク冒険者たちよりも、この目の前のミステリアスな美少女に心を奪われちまった。
一目惚れとかそういった浮ついた話じゃないんだ。
この子が認めてくれるくらい、いつか俺も……
ギルマスの部屋で改めて美少女……マリアちゃんと話すことになったが、やっぱり相当な実力なんだろう。
元Sランク冒険者のギルドマスターがこんな態度……見た事がないんだからな。
ジン達がマリアちゃんを教会まで送ると言って、部屋の中には俺とギルマスの二人きりとなった。
「実力者と見るや、未だに勝負したがる『バトルジャンキー』……そんな異名を持つギルマスが、マリアちゃんを素直に帰すなんてどうしたんですか?」
「……冒険者になったばかりの、可愛らしい少女に負けたとなれば、ギルドマスターとして立つ瀬がないだろう?」
「……さすがにそれは冗談ですよね?」
「簡単に負けるつもりはないが……もう一度鍛えなおしたくなったのは事実だな」
二人の男の心は、静かに再燃するのであった。