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たたかう聖女さま  作者: 桜花オルガ


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第83話 ご挨拶

「と言う訳で、教師の皆さん、生徒の皆さんの中で、希望される方達の講師をすることになった、虹の聖女マリアと申します」


(((((ど、どういう訳で!?)))))



 マリアは学園の広場に集められた全教師・全生徒たちの前で自己紹介をしていた。


 教師達はもちろんだが、ヘリオルス王国始まって以来の大事件を起こしたマリアの噂は、全生徒もすでに把握している。


 初めは何かの冗談だと思っていた者達も、あのケンリーの変貌ぶりを見て、噂は事実だと思い始めていた。



「まず初めにお伝えしますが、私は細かく剣技や魔法の指導をするつもりはありません。学園とは、学び・考える場だと私は思います。一から十まで全て教わっては、学園を卒業した後の伸びが鈍化してしまうでしょう」



 マリアは話を真剣に聞く生徒たちを見て、言葉を続ける。



「この学園の教師は皆さん一流です。そして生徒の皆さんも優秀です。一を学んだら、自ら……または皆で考え、二や三を得てください。そして失敗を恐れないでください。ある答えを求め失敗した先に、また違った答えがある事もあります。皆さんは可能性の塊だという事を忘れないでください」



 マリアの横で、クロエは感動の涙を流している。



「明日から毎日二時間、私の授業の時間を用意して頂きました。希望者は遠慮なく参加してくださいね。それと私の実力が分からないと、判断できないと言う方もいると思います。何かデモンストレーションをしようと思いますが、リクエストがある方はいますか?」



 ざわざわとする中、即座に挙手する者がいる。エミリーだ。



「はい、ではエミリーちゃんどうぞ」


「お姉さまは……あ!マリア先生は、すごい大きさの上級火魔法、『グランドインフェルノ』を使えると聞いた事がありますわ!私はそれを見てみたいですわ!」


「分かりました。それでは……」



 マリアはスッと右手を掲げると、空中に激しく燃え盛る特大火球が顕現する。


 それは通常の『グランドインフェルノ』より、何倍も大きいサイズだった。



 その尋常ではない大火球に、『グランドインフェルノ』を見た事がある教師陣、そして一部の生徒たちは大口を開けて空を見上げていた。


 さらに全ての教師と、エミリーを除く全生徒は、全く同じことを思っていた。



(((((か、完全無詠唱!?)))))



 マリアはもう良いだろうと、大火球を引っ込める。



 そして一人の生徒が、若干震える手を上げた。



「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」


「はい。お名前を伺ってもよろしいですか?」


「特級クラスのサイラスです」


「サイラス君ですね。質問をどうぞ」


「マリア先生は完全無詠唱で魔法を行使しました……僕たちが使う詠唱魔法は、不完全なのでしょうか?」


「ん~、そう捉える事も出来ますが、それで言うと私の完全無詠唱魔法も、不完全だと言えますね。ただ私は敢えて詠唱していないです」


「敢えてとは……それはどうしてですか?」


「詠唱までしてしまうと、さらに威力が増してしまうからです」



(((((あそこから更に威力が増すの!?)))))



 そう。マリアが詠唱しないのは、ただ恥ずかしいからと言った理由だけではない。一人で魔法の実験をしている中で判明した事実なのだ。


 全ての魔法で試した訳ではないが、詠唱をすると概ね1.2倍~1.5倍ほど、効果や威力が増す。



「では次は剣技の方をお見せしますね」



(((((剣も使えるのぉぉお!?)))))



 マリアの前に用意されたのは、上半身だけのマネキンに着せられた鉄製の鎧だ。


 学園側から借りた木剣の使い心地を、確かめるように何度かビュンビュンと揮うと、鎧に向けて横薙ぎ一閃!


 まるで初めから斬れていたかのように、鎧は胴から真っ二つに切断された。



(((((木剣で鉄って斬れるのぉぉお!?)))))



 クロエが良い笑顔でパチパチパチと拍手をしている。



「では次は格闘術を--」


「いえいえマリア様!もう十分マリア様の実力は、皆さんに伝わったかと思いますよ!」



 あら、学園長のエレノアさんから止められてしまった。



「その……生徒だけじゃなく、教師陣も若干引いているので……」



 あ……最初にしっかりと実力を見てもらおうと考えたけど、ちょっとやり過ぎてしまっただろうか。


 でもポッと出の聖女から講義を受けるなんて、そんなの嫌だと思う生徒もいるはずだし、私の実力が伝わったならとりあえず良いだろう。


 ん?ちょっと!エミリーちゃんまで引いてるのはどうして!?


 さすがにクロエちゃん程の耐性はなかったか……ここは少し空気を変えよう。



「ええ皆さん、私の隣にいるこの子は、メイドのクロエちゃんです。クロエちゃんも私と少し魔法の訓練をした経験があります」



 突然紹介されたクロエは、恥ずかしそうにペコリとお辞儀をした。


 でもそこで終わらないのがクロエである。


 クロエはしっかりと、マリアの意図を読み取っていた。



 スゥーっと息を吸い込んだクロエは、魔法を行使する。



『アクアライド!』



 集まった教師や生徒の前で、見た事もない魔法を無詠唱で行使し、楽しそうに動き回るまだ幼いメイド。


 その姿を見て、マリアの目論見通りその場の空気は一変した。



 特に生徒たちは、各国の貴族家の者たちが多い。貴族にとってメイドとは、ただただ家の雑務をこなす従者に過ぎない。だが目の前で一人のメイドが、全く理解できない魔法技術を披露し、無邪気な笑顔で動き回っている。


 悔しい気持ちもあるが、それ以上に全員思うことがあった。



(((((楽しそぉぉぉおお!!)))))



「むぅ、さらに上達してますわねクロエ!」



 エミリーを除いてはだが。



 そしてこの日、生徒たちは家族や国にまたもや手紙を送った。



≪本当に!絶対に!何があっても!虹の聖女マリア様を怒らせてはならない≫




 全ての手紙に、この一文が添えられていた。

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