第79話 家庭訪問 in 王城
現在、特級クラスはざわめきが止まらない。
マリアは決して悪気があって、馬鹿王子と言った訳ではない。実際名を知らないし、馬鹿な行為をしてきた第二王子という情報しかないので、分かりやすく馬鹿王子と呼んでいるだけだ。
「せ……聖女様!?彼はこのヘリオルス王国の第二王子、ケンリー君です。決して馬鹿王子という名ではありませんよ!」
(よく言ってくれました!よくぞ言ってくれました!虹の聖女マリア様最高ぉ!キャッホーイ)
「そ……そうですぞ聖女様!彼は特級クラスで頑張っているケンリー君です」
(ええぞええぞ聖女様!このクソガキ!一年ほど前から急に生意気になったと思ったら、王族の威光で無理矢理このクラスに入りおって!)
学園長とジョゼフ先生が、何故か嬉しそうに見えるね?
「ケンリー君という名だったんですね。ケンリー君は特級クラスのレベルに満たないように見えますが、何か理由があるんですか?」
「「「「「!?」」」」」
思わぬマリアの追撃に固まってしまう一同だが、決してマリアは嫌味で言っている訳ではない。自分のレベルに見合わない場に身を置くという事は、時として自分自身の大怪我に繋がってしまう。
マリアは純粋に心配してそう言ったのだった。
「ふざ……けるな……聖女かなにか知らいないが……ふざけた事を言うなよ!」
マリアに対して完全に心が折れていたケンリーだったが、この場で言い返さず恥を晒すことを避けたい……そう思う気持ちが勝ったようだ。
だが、マリアはトドメの一撃を放ってしまう。
「昨日は土下座して許しを請うていたのに、まだ心を入れ替えていないのですか?あ……漏らした姿で帰ったから、ご家族に何か言われたんですね?その歳でお漏らしをしては、家族も不審に思うでしょうしね」
決して、決して嫌味でマリアは言っていない。
生徒たちの視線を一斉に受け、ケンリーはとうとう限界を迎えた。
「貴様の事は全て父上に報告してある!まさかこの学園に来るとはな!俺は今から貴様が学園にいると報告しに帰る!貴様はもう終わりだよ!王家を敵にしたこと後悔するなよ!」
そう告げ去っていくケンリーを見て、学園長のエレノアも教師のジョゼフも、そして特級クラスの生徒たちも青ざめた顔をしている。
皆はこう思っているのである。
あの王様なら、例え聖女様であっても殺してしまうかもしれない……
そんな皆の心配をよそに、クロエは生徒から借りた木剣をビュンビュン振って遊んでいる。
「聖女様……国王様の性格からすると、恐らくすぐに召喚状が届くと思われます……今すぐロートリンデンに帰った方が安全かもしれません……」
「召喚状……それはつまり王城に来いと言うことですね?」
さらにマリアは、ニッコリと微笑みながら言った。
「楽しい家庭訪問になりそうです」
その場の一同は確かに感じた。この余裕の態度は嘘なんかじゃない。本当に楽しみにしているのだと……
今日はこのまま授業見学は中止となり、マリアとクロエは学園長室で待機となったのだが、本当にその日の内に召喚状が届いた。
召喚状で指名されているのは虹の聖女のみ、後は日にちと時間が書かれている。
家庭訪問は明日か。クロエちゃんは宿でお留守番だね。
マリアは、ケンリーの父親と教育について話をする事を、とても楽しみにしていた。
───◇─◆─◇───
うーん……時間通りに来たのに、いつまで待たせるのかなぁ。
マリアは指定通りに王城へ来ていたのだが、応接室のような部屋へ通され、30分ほど待たされている。
時間は有限……今日はもう帰ろっかな!と考えていると、部屋の扉が開いた。
「失礼します!貴女が……虹の聖女様ですね?」
「はい。マリアと申します。あなたは?」
「私はヘリオルス王国第一王子、レオナルドです」
銀色の短髪が爽やかな、20代前半と思われる理知的な顔立ち……本当にあの馬鹿王子のお兄さんなの?
「それで、レオナルドさんは私に何か御用ですか?」
「……どうしてそんなに平然としていられるのです!文官たちから状況は聞きました……父上は危険な人物です……今すぐ逃げた方がいい」
息子に危険視される父親って……
「私はヘリオルス王国に、学園の講師として来ています。そして本日は、学園の生徒であるケンリー君の家庭訪問のつもりです。なぜ逃げる必要が?」
「私が言っていいことではありませんが……あの父は……国王はおかしい!自分が欲しい物があれば、どんな手を使ってでも手に入れようとする。例え不正に手を染めてでも……」
「レオナルドさんは、国王の不正の証拠を持っているのですか?」
マリアの問いに、レオナルドは頷くともなく、ただ真っすぐマリアを見ている。
これは……持ってるって意味だね。
まったく……馬鹿王子だけじゃなく、馬鹿国王も本当にいたか。
昨日エレノアさんから聞いたけど、この国って税率が七割らしい。底が抜けた馬鹿なんじゃなかろうか?
何かの緊急時に一時的にって事なら分かるけど、そうじゃないらしい。
だけど今日はケンリー君の家庭訪問で来てるしなぁ……
そんな事を考えていると、文官のような人がマリアを呼びにやって来た。
ようやく謁見が始まるらしい。
レオナルドは辛そうな顔をしながら、先に部屋を出て行った。
さぁ、いよいよ家庭訪問だ!
この日ヘリオルス王国は、歴史に刻まれる大事件が起こる事になる……




