第77話 あるある
マリアとクロエは、無事にヘリオルス王国へと入国していた。
「マリア様ぁー!私オーガを討伐しちゃいましたよー!」
「うんうん。移動中で回収は出来なかったけど、間違いなく討伐していたね」
ヘリオルス王国の少し手前で、二人は超爆速の『アクアライド』を使用したまま、オーガの群れに突っ込んでいた。
そしてクロエは見事一体のオーガにクリーンヒット……マリアは見ていた。粉々に砕け散るオーガの姿を……
クロエちゃんが喜んでるし、まぁ良いか。
しかしさすがは大国の王都!ロートリンデンの王都より更に大きいね!しかも獣人やエルフとかの人種もたくさん歩いてる!
でも……なんだろう?こんなに人が多くて栄えているのに、どの人達も余り笑顔がない気がする。
ああ、事前に色々と調べたけど、国からの圧政の影響なのかもしれないね。自分では何も成し遂げてすらいないのに、王族や貴族に生まれたってだけで偉そうにする気持ちが、私には全く分からないなぁ。恨みしか買わないと思うのだけど……
マリアとクロエが、学園が用意してくれた宿屋へ向かっていると、偉そうにする者がマリアの前に表れてしまった。
「おい!止まれそこの女二人!」
あからさまに偉そうな身なりの少年……18歳くらいだろうか?周りにいる鎧を着込んだ四人は護衛かな?うーん……無視!
マリアとクロエは顔を見合わせ、何事も無かったように通り過ぎた。
「……おい貴様ら!俺を無視するとはいい度胸だ!だが一度は無礼を許そう。お前ら二人とも俺の女にしてやる!喜ぶが良いぞ!」
「……お断りします」
マリアはピタリと立ち止まり、刺すような冷たい目つきで言い放った。
「……俺は一度は許すと言ったんだ……二度は無い!おいお前ら、この女達を取り押さえろ!多少怪我しても構わん!」
少年が命じると、護衛の一人がクロエを捕えようと腕を伸ばした。
が……
その腕がクロエに届くことはなかった。
替わりにその護衛の悲痛な叫び声が周囲へと届く。
あらぬ方向へと捻じ曲がった腕の男が、呻き声をあげながらのたうち回っている。
「な……なんだ!?何が起こった……おいお前ら!早くその女を捕えろ!」
少年がそう叫んだ直後、残りの護衛三人の男達は腕、あるいは脚を考えられない方向へ曲げられ、地面に伏せることとなる。
その様子を青ざめた顔で見る偉そうな少年。
そしてマリアは口を開いた。
「命令しか出来ない臆病者さんは、かかってこないんですか?」
その言葉を聞き、恐怖に飲み込まれそうになっていた少年は、恐怖を怒りで塗り替えた。自分より身分が低いこの小娘に、身の程を教えてやると。
少年は腰の剣をすらりと抜いた。
「ふ……ふふふふ……このヘリオルス王国第二王子たる俺に逆らうとは……見ろ!今から貴様を八つ裂きにするこの剣は、ミスリルで出来た国宝だ!生意気な自分を恨むんだな!」
おや?こいつがエミリーちゃんに分からされた馬鹿王子か。これは丁度いいね。にしても剣を握る手がガタガタと震えているけど、まだ人を斬った事がないのかな?
マリアは小さく溜息を吐きつつ、『次元収納』からナナイロを取り出した。
「なっ!?なんだその剣は!どこから出した!?」
「ピーピーうるさいですね……ミスリルの剣が自慢の国宝なんですか?馬鹿に持たせるくらいなら、その剣は終わらせてあげましょう」
マリアは目にも止まらぬ速度でナナイロを揮うと、『次元収納』に収めた。
そして馬鹿王子の持つミスリルの剣は、刀身が根本から切り落とされ、見るも無残な姿へと変貌していた。
「私のオリハルコンの剣の勝ちですね」
「オリ……オリハルコンだと!?馬鹿な……くそ!おいお前ら起きろ!」
おや?もう終わりかな?
「貴様……覚えておけよ!ただじゃあ済まさないからな!」
!?
馬鹿王子の捨て台詞を聞いたマリアは、途端に機嫌が良くなった。
それはなぜか……
マリアの大好物となった、あるあるが起きたからである。
この「覚えておけよ」の言葉が、マリアの入れてはいけないスイッチを入れてしまった。
「ちょっと待って下さい」
マリアは満面の笑顔で、その場から去ろうとする馬鹿王子と護衛達を呼び止める。
「覚えておけよ、ただじゃ済まさない、そう言いましたね?という事は今後あなた方は、私達の不利益になる行動を取るおつもりでしょう?そんな面倒は嫌ですし、今この場で、徹底的に痛い目を見てもらう事に決めました。命までは取りませんので安心して下さい」
「な……何を言っているんだお前は……」
女神のような笑顔で、冷徹極まりない言葉を吐く少女に、馬鹿王子と護衛達の顔が恐怖に歪んだ。
マリアは折った。
心を?いや違う。
馬鹿王子や護衛達の腕、足、指、あらゆる体の骨を折った。
そして『ヒール』で完全に骨折を治すと、また折る。
男達の叫び声が響く中、その行為は何度も何度も、何度も何度も何度も繰り返された。
マリアは背中で感じていた。街の住人たちから馬鹿王子へ向けられる、殺気のこもった視線を。中には刃物を握りしめている者もいる。
だがそういった人達の殺気は、目の前でマリアが行う凄惨な光景を見て、徐々に薄れていった。
うん……そろそろ良いかな。
マリアが、馬鹿王子の命の危機が去ったと判断した時、馬鹿王子と護衛たちは糞尿を垂れ流しながら震え、地面に頭を擦り付けていた。
「さぁ、『ヒール』で怪我は治癒しましたので、もう行っていいですよ」
立ち去る馬鹿王子たちを見送りながら、しまった!クロエちゃんの前でやり過ぎた!と思いつつマリアが振り返ると……
笑顔で拍手をしているクロエの姿があった。
クロエちゃん……私にちょっと甘くないか?




