第74話 魔法ポーチの件だけど
クロードさんの娘であるエミリーちゃんが、他国の学園へと旅立って数日が経った。
エミリーちゃん寮生活になるみたいだけど、ホームシックにならないか心配だね。
「え?私宛に大量の書簡ですか?」
なんだろう……あれだけ強く念押ししておいたし、お見合いの類ではないと思うけど……
「うむ。貴族家が抱える、騎士団の指南役としての願いがチラホラだが……ほとんどが貴族の息子に、剣術や魔法を教えて欲しいと……」
「貴族の息子……ですか。それって……」
「んむ……まぁ剣も魔法も建前……自分の息子と引き合わせるための、口実だろうね」
そうきたか……確かにこの頼み方では、お見合いではないしなぁ……でも会わせてしまえば、どうとでもなると思っているのだろうか?ならないよ?
とりあえずクロードさんが全部断ってくれるらしいけど、本当に迷惑をかけてしまい申し訳ないなぁ。
リサさんの件もあって、私にすごく恩を感じてくれてるようだけど、だからと言ってこんなつまらない事の対応は、させたくないんだよねぇ。
まぁ基礎化粧品の効果もあって、さらに綺麗になったリサさんに大はしゃぎだから良いか……こりゃ新たな命の誕生も近いかもしれないね。
さ!今日はお仕事の話があるんだった!クロエちゃんにはお留守番してもらって、私はそろそろ出掛けないと!
───◇─◆─◇───
オーレン冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋にマリアとラナー、ギルドマスターのアイザックの三人が集合していた。
「今日は例の件の報告をしたいんだが……その前にマリアよ!お前のところのメイド!あの子の魔法はなんだ!?俺もそうだが、冒険者連中も知らないような魔法を、どうしてあんな幼いメイドが使える!?」
ああ……クロエちゃん、『アクアライド』を使いながら買い物とかしてるって言ってたね……
「あれは私が創ったオリジナル魔法です。クロエちゃんが頑張って習得したんですよ」
「マリア様のオリジナル魔法!?さすが虹の聖女様!そしてクロエちゃんも素晴らしいですね!」
「おいおい……あんな高度な魔法を使うメイドなんてなぁ……いや、まぁ良い。例の魔法ポーチの件なんだが……全員賛成で採用となった!これからよろしく頼む!」
おお!心配はしてなかったけど、無事に可決されて本当に良かった!教会側はすでに了承してくれているし、これで本格的に動き出せるね!
「ではさっそく冒険者達に、聖女商会から依頼を出しますね。依頼はワイバーンの討伐と回収。ワイバーンは通常種で問題ありません。背面と尻尾の皮をなるべく傷つけないように。それ以外の素材はギルドで買取りをお願いします」
「ワイバーンだな!ランクB冒険者以上で依頼をかけよう。数はどの程度いる?」
「数は多ければ多いほど良いので、しばらくは常駐依頼として下さい。報酬はアイザックさんが決めた額を、聖女商会からお支払いしますよ。ちなみにすでに製作済の魔法ポーチを持って来てるので、置いていきますね」
マリアはその場で魔法ポーチを70個ほど納品し、ラナーは教皇様に開始の旨を記した書簡を送ると、大喜びで帰って行った。
マリアも帰ろうと思ったのだが、久しぶりに会う面子に声を掛けられる。
「ひっ久しぶりだなマリア……さま」
「ん?様なんて付けなくて良いですよ?」
久しぶりに会ったのは、冒険者パーティー『自由の翼』の面々であった。
「いや、だってよ……マリアが聖女様だなんて知らなかったしよ……」
ジンがモジモジとしてる姿を見て他の三人、コルト、プレセア、マキナがくすくすと笑っている。
「では私もジンと呼ばせてもらいますので、ジンも私をマリアとお呼びください」
「お、おう」
「そういえばマリアちゃん、私達ランクDに昇格したの!もう少しで一人前の冒険者として認められるわ!」
マキナが嬉しそうに報告してくる。
『自由の翼』の皆は、マリアがソウラリアの世界に来て、初めて出会った人達だ。お金の価値などを教えてもらった恩もある。
「それはおめでとう御座います!そうですね……皆さんがランクCになったら、何かお祝いの品を贈らせて下さい。だからそれまで死んだりしたら駄目ですよ」
マリアは冗談めかしながら言ったが、生きる目的は一つでも多い方が良い。目的や目標があるだけで、何も無いよりも毎日の活力が雲泥の差だ。
それに冒険者は、常に命の危険と隣り合わせの仕事。最後の最後まで生を諦めない事が、活路を開く鍵になる事もあるだろう。
マリアは『自由の翼』の面々としばし談笑し、冒険者ギルドを後にした。
───◇─◆─◇───
「お店と他のお客さんが困らない量を、全て売って下さい」
「いつもすまないねぇ。聖女様がたくさん買ってくれる姿が宣伝になって、他のお客もたくさん来てくれて大繁盛だよ」
私は自分に必要だと思う物を買ってるだけだけど、それが宣伝にもなってるなんてね。
……宣伝か……あれが出来れば面白いかもしれないなぁ……
街の露天で爆買いしていたマリアは、新たな魔道具の構想を始めていた。




